そんな俺は…
「伊喜利さん……残念ながら──―」
「──―なんで────」
目に前の医者が深刻そうな顔で言葉を紡ぐ。そして母さんが講義のような声を上げる。ただ、今の俺にはすべてが理解できなかった。視界が揺らぐ。それ以上の言葉を脳が拒絶する。
「ですが決して────―」
聴いているはずなのに言葉が耳から零れ落ちる。実感のわかない言葉の羅列。目の前の医者と看護師の深刻そうな顔。すすり泣く母さん。すべてにおいて現実味がない。夢だと思いたかった。だが肩に置かれた母さんの手の感触が、聞こえる泣き声が夢だということを否定している。実感が湧かない。湧くわけがない。だが母さんの叫び声によって理解をすることはできた。
「たった一年なんて!」
あぁ。どうやら俺はあと一年しか生きられないらしい。
それから泣き続ける母さんを何とかなだめ病院から帰ることになった。かなり錯乱しており足元がふらついているため俺が肩を貸しながら歩くことにはなったが。
「ねぇ」
「……なに?」
帰り道の途中。母さんがより俺に体重をかけ話しかけてくる。
「拓斗はさ……」
そう言い口を噤む。何を言おうとしたのだろう。催促するように母さんの顔を見る。その顔に俺はどことなく違和感を感じた。いつも通りの顔だ。年の割には若いいつも通りの。いつもと違う点といえば目は赤くはれており……。
「そっか」
小さく、小さく納得したような声が出る。今の母さんの顔には目にクマがある。小さなしわがある。母さんの性格からして必死に隠すはずの老いた証。昔は見ることのなかったそれら。
一人思考を続ける俺を置いて母さんは意を決したような顔で
「学校……また行く?」
その言葉は何回も聞いてきた。だが今までとは決定的に違うのは俺が拒否したら母さんは引き下がるだろう。そんな意思が伝わるこちらを気遣った声色。いじめられたわけでもなく突然引きこもった俺を未だに優しく気遣う声。そんな優しい問いに対し俺がだした答えは実にヘタレたものだった。
「ちょっと……ちょっとだけ考えさせて」
「……分かった。夜に父さんも交えて話そうね」
家に帰るまでそれ以上話すことはなかった。昔よく通った道。久々に見る公園はかつての遊具が無くなっており簡素なものとなっていた。蘇ってくる幼い頃の記憶を一人回想する。かつての暖かな会話が一切ない帰り道。
母さんは黙ったまま。俺は久々の会話で何も話すことが無い。気まずい沈黙の中、肩にかかる重さが深くなった気がした。
誰かこんな感じの書いて