江戸幕府が母なる大地を征服して、はや二世紀。地球を追われた動物たちは地球の周りに浮かぶ数百基のスペースコロニー、その円筒の内壁を新たな故郷とした。その動物たちの楽園で動物たちは子を産み、増え、そして…地に満ちていった。
皇暦2668年、人里から最も遠い狐たちのコロニーは、権狐を名乗り徳川幕府に悪戯を挑んできた。この半年ほどの戦いで徳川幕府の総人口の半数を死に至らしめた。人類は権狐の悪戯に戦慄した。
権狐によるコロニー落としはあまねく人類の故郷、地球を壊滅させた。地球にいた兵十はただ一人、狐に導かれるように輝くピンクのもやを通り抜け、幕府の亡命政権のあるサイド中山に辿り着いたのだった。
鐘の鳴る音が響き渡る。今月の葬式の出る合図だった。鐘の音を聞きながら、兵十は鰻を食べたいと言っていた母を思い出す。母は権狐のせいで死んだ。だが、自分は狐に救われた。兵十はそのことに未だ折り合いがつけられずにいた。
十日ほど経ったある日。つい、酒の勢いで中山へ辿り着いた経緯を話してしまった。加助は言う。
「そりゃあ、神さまのしわざだぞ。」
「どういうこった?」
兵十は思わず聞き返した。
「権狐は悪い狐だろ。すると同じ狐の悪事だから、気の毒に思った稲荷神さまがおめえが生きるように遣わせたんだよ。」
加助の言葉には不思議と心に染み込んでくるような魅力があった。
あくる日、街から煙が上っていた。権狐のしわざだ。兵十は猟師として銃が必要だった。新兵衛の鍛冶屋へと向かう。
「こんなものを作っていたのか… そりゃあ、新兵衛がハマるわけだ。」
鍛冶屋にあったのは全長二メートルはあろう巨大な銃だった。兵十は宇宙服にバックパックを背負い、種子島ビームカノンと銘打たれた銃を手に取る。入り口が崩れ、瓦礫に埋まった。引き金を引くと、銃口から出たビームが瓦礫を溶かし、隙間を開ける。
外に出るとピンクのもやと共に出てきた権狐の大軍が中山の城を攻めていた。
「権狐! 殺してやる!」
兵十は構えた種子島ビームカノンで逃げ惑う権狐を次々と鴨撃ちにしていく。ガスの向こうに攻め入り、高揚のまま最後の権狐を撃ち抜いたとき、倒れる狐の見覚えのある模様に兵十はとうとう気づいてしまった。
「権、お前だったのか…!」
それはコロニー落としで自らを救った狐だった。そう、コロニーを落としたのは権狐ではなかったのだ。全ては政敵を粛清するためのマッチポンプ。自らが幕府に踊らされ、人々を救おうとした無辜の狐たちを虐殺してしまったことに兵十は初めて気づいたのだ。
兵十は種子島ビームカノンをばたりと取り落とした。家族の最期が脳裏を駆け抜ける。兵一から兵九まで皆死んだ。これでは何のために死んだのか、兵十は自問自答する。目を瞑り、暫く考え込んだ兵十は倒幕を決意した。種子島ビームカノンを手に取り、歩き出す。
覚悟を決めた兵十を見送るように、権はゆっくりとうなづいた。兵十が最後に振り向くと権にもう息はなかった。
満身創痍の兵十は残った片腕で種子島ビームカノンを構え、バックパックからガスを噴射し、城に突撃する。砲撃が兵十を撃ち抜くと同時に将軍の居城を青い線条が直撃した。腕と共に真空を漂う種子島ビームカノンからは、青いプラズマがまだ筒口から細く出ていた。