水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
精霊の力を借りる魔法。
契約している精霊、もしくは契約している精霊の配下の力を大量の魔力やなにかと引き換えで使うことが出来る……精霊魔法の奥義である。
強い精霊ほどいくつかの能力を持っている。ルカリムであれば「記憶の共有」や伯父上がやっていたような「身体強化と回復力を強化」もその一端だ。
…………この魔法、便利そうであるため習得したのだが、望む結果を得られたかと言えばNOだ。
魔法を使おうにも精霊なりの謎の条件を満たさなかったり、使いたい魔法との適性が合わないと使えない。伯父上の身体強化は私には使えなかった。
通常なら一人一柱、精霊と契約もしくは加護を与えられることも稀。でもシャルルかシャルルの大精霊の加護の魔法によって水の精霊に好かれている私にはたくさんの精霊がいて、選択肢がある。
ルカリム、リヴァイアス、オルカス、それとその他の多くの精霊。
なら使える魔法も多いかと思いきやそうでもなかった。
ルカリムはなんとなく「まだあなたには早い」とでも言われてるようでルカリムシステムと観賞用の金魚みたいな眷属っぽい精霊を出すしか出来なかった。リヴァイアスはやってみても出来なかった。リヴァイアスには協力する気はなさそうだった。
他のたくさんいる精霊は魔導書にも名前が書かれている個体もいたし、なにかの権能を使うのも出来なくはなさそうだけど……リヴァイアスの力だけでも大人状態から戻れなかった私にはちょっとと躊躇った。
使えば少なくともその精霊との縁は深まる。
クラーケンっぽい強そうなのもいるけど……もしも骨が軟体になって戻れなかったら超怖いし使えない。
そもそもこの「精霊の力を使う」「身に降ろす魔法」はかなり危険で、それこそ大家の長でもなかなか出来るものではない。精霊とその借りる権能次第では使ってしまえば後遺症が残ることもある。ただ例外もあってルカリムシステムのようなリスクのほぼ無い使い方もある。
使えるようにならないと、いざという時に怖い。
ルカリムシステムは相手の記憶に引っ張られる。これはまだ軽い方で、火の精霊の場合だと使用後に体が消し炭になることもあるそうだ。良くて大火傷という。
それで練習して……ノーリスク・スーパーリターンで使えたのがオルカスだ。なにせ魔力を注げばそれだけで出来る。ある意味場合によってはスーパーリスク・ノーリターンにもなりうるが、後遺症も残らず身体的には全く問題のない奥の手である。
オルカス側に協力する意思があるし、何といってもオルカスが得意なのは「分身」だ。
最初は「いいじゃんこの権能」と思ったよ。
水の魔導書によるとオルカスの分身魔法は私の「記憶」と「知性」を持った、私の姿の分身が出来る。当初の目論見が上手く行けば……政務が一瞬で終わるはずだった。
しかし…………問題は「体の主人格がオルカスである」ことだ。
書類仕事を頼んでも出来るといえば出来るはずだけど、経済に関わることじゃないとやらないし、逃げる。なんなら動くものを追いかけるか私を追いかける方を優先する。
そして私の分身は出していた間、その分身が何をしていたか私にはわからない。オルカス同士はなんか理解してるっぽいけど私には共有されないから出している間に何をしでかしていたかわからない。少なくとも厨房は酷いことになっていた。
リヴァイアス領で練習のために出した時は気に入らない商人をぶん殴っていたり、浜辺で遊んでたり、書類を窓から投げて綺麗だなと楽しんだり、ニャールルを捕獲して胸毛に顔を埋めたり、兵士たちをボコボコにして「訓練してやった、褒めてー」などと私の脇腹に突っ込んできたりと……私の「書類全部まかせよう計画」はむしろ悪化した。
正面から抱きついても止められるとわかっているのか、それとも私の思考を読み取っているのか……私が対応できないスピードで鋭くサイドステップを挟んで脇腹に突っ込んでくる辺り、目的のために本気過ぎる。肋骨は逝った。最後は戦利品のように私を巡ってオルカス同士で取り合いと追いかけっこをしてたからな。
私の魔力で私の分身体を作り、それをオルカスが操縦する。そんな魔法。
しかもオルカスはこれまでのオルカスと縁を持った歴代の水の魔法使いの技能が使えるようで、槍術や投擲術は私には出来ないレベルでこなすし、多分身体能力は私を超えている。アモスやジュリオン、ドゥッガだって軽々といなして頭を撫でていたレベルだ。三人は真っ赤になっていた。
だからこそ貴族院のお呼び出しなんて余裕だった。
敵に対してオルカスは容赦しないし、魔力が有り余ってる状態だった。騎士が攻撃してきても結構な人数のオルカスが出せる。実は詠唱も殆どいらないけど人の目があったから仰々しく使っただけ……あれ多分何人分かの詠唱が混じっていると思う。
まぁ結果として自分の身を護るよりもガリアス君や失踪者を探すのに使ったけど。
オルカスは闇の迷宮でも自由に泳いでいたことがあったし、私の分身体でも普通に活動ができると考えたけど……そうじゃなくても人海戦術で王宮の捜索が可能なはずだった。
…………この魔法には致命的な欠点がある。
まず、オルカスは私が制御できるわけではなく、自由に活動する。そのため確実に私で遊ぶ。無邪気に肋骨に突っ込んできて困る。
そして分身体の「服装」や「体格」だ。
初めはリヴァイアス領で練習していた私と同じ、大人モードの私と全員同じ姿だった。
しかし、練習を重ねるに連れ、分身体に個性が出てきた。
オルカスは私の体や服装を自由に作れるようで、子供モードの私や大人モードの私、それに様々なドレス、リヴァイアスに飾ってあった水の滴るスク水のような服装で自由に行動しやがる。
猫耳や猫尻尾がついていたり、ジュリオンとおそろいにするためにか大きくなったり翼や角があったりする個体もいる。あと私の記憶から作ってるのだろうこちらの世界にはないジャージ姿の私や着物の私に……なぜか戦国時代っぽい鎧甲冑の私、この間見た弟のタンクトップの私もいる。
エール先生や賭場時代の親分さんことドゥッガとお揃いな服装ぐらいならまだ良いけどさ。何が楽しいのか奴隷時代のローガンのような服装の個体もいる。
本人に聞くと「面白いからー!」らしい。やめて……特にスク水で走り回ってる個体。マジでやめて。
使ううちにどんどん増える私の分身体のバリエーション。
前世の中世ヨーロッパみたいな巻き髪フリムに、知ってるゲームのコスプレしてるフリム、ヒョウ柄のおばちゃんスタイルフリム、割烹着のフリム……。
いや、リヴァイアス領で練習していた最初の頃は「ドレスがちょっと変わってたかな」ってぐらいだったのにどんどんバリエーションが豊かになっている。…………多分オルカスにとっては「娘ができた母親が娘を着飾るのが楽しい」もしくは「人形遊び」みたいなものなんだろうなぁ。
――――よって第一に私のメンタルがきつい。
そしてこの魔法、解除まで時間がある。
普通の魔法であれば使用中の魔法は使用をやめれば終わりだが、この魔法は違う。
私の分身体は「私が注いだ分の魔力が尽きる」か「オルカスが大ダメージを受ける」か「オルカスが楽しんだ」後に終わる。
任せた仕事が終わっても彼ら分身体は中々消えない。
――――つまり第二に私の体力がきつい。
オルカスの奥義を使ってすぐ――――まずは抱きつかれ、舐められ、撫でて撫でられ、玩具みたいにブンブンされた。
「オルカス……」
「なにー?」
「あ、おかしおいしー」
「じゅりおんかわいーね」
「じゅりおんかわいー」
「お、パキスだ。イガグリみたいな頭だねー」
「ローガンのモヒカン、意外と気持ちいいよ」
「エールせんせーの胸やーらかい!」
「水だ!」
「おうよ!」
「お菓子おかわりー、スイパラでお願いしまーす」
「いっけぇー!」
私の姿で好き勝手にしている分身体ことオルカス達。
既にこの魔法を使ったことを後悔している。
貴族院の何人かは特別な精霊魔法を使ったことがわかったのか即座に平伏し、オルカスによってボコられていた。踏み潰しに行くオルカスの素早いことよ。私には立場があるけど精霊様であるオルカスには私にはできないことをやってくれる。いいぞ、もっとだ!
「私の思ってることわかりますよね?お願いできますか?」
一応私の知識を持っている分身体はだいたいお願いを聞いてくれる。
でも経済に直接かかわらない書類仕事のように、やりたくなければ逃げることもある。
「おうよ!」
「やだ、お菓子食べる!」
「やるぜやるぜー!」
「まずこいつ討ち取った!」
「ぶげぁっ!?」
「じゃああっしも失礼しまして……おるぁ!」
あ、貴族院の貴族に追加の被害者が出た。
そっちよりも居なくなっている失踪者をどうにかしてもらいたい。
「あ、ピュリちゃんだ、かわいー!!」
「ほんとだかわいー!」
「やりもーらい!」
「じゃあ私この剣!おら!よこせよ!」
「精霊様それは家宝――――「くれ!」
「…………はい」
「いいこいいこ!」
「フリムのが可愛いよ!!」
「どのフリムさ!」
「リ、リヴァイアス侯!どうにかしてもらえませんか?!」
マイコハンさんからお声がかかった。
「無理です。彼女らは私の分身体を操縦するオルカス様です」
ピュリちゃんに膝枕して頭を撫でている私の姿のオルカスは見ていて和む。周りの個体が酷すぎて他の個体は見たくない。……騎士からなんか強奪してる個体もいるな。
本体である私は……人形のように遊ばれている。
しばらく貴族院のおっさん共をしばいたり私で遊んでいたオルカスだが、彼女らには一応私の知識も思考もある。ちゃんと闇の迷宮に向かって行ってくれた。
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闇の迷宮でオルカスが何をしていたか全くわからないけど……寝ているガリアス君や他の何人かを抱っこして戻ってきた。何故か外出していたはずのシャルルも一緒に。
「臭いのいたー」
「何体かぶっ殺したー」
「フリム・イーはやられたー」
「フリム・ビーもー!」
「あれは自爆、フリム・イーは自分からトゲに突っ込んだ。フリム・ビーはビーム撃って反動で死んだ。クソ雑魚個体は不甲斐なし」
「でも救助優先だよねー、褒めてー!」
「「「「褒めてー!!」」」」
群がられた。今日はいつ解けるんだろうか、この魔法。
結構な魔力使ったし、いつ消えるかはわからないけど、みんなめっちゃ自由。
なぜかこの魔法で得してる人もいる。リュビリーナだ。いつの間にか捕獲されて連れてこられたようで何人かに可愛がられて……女性としてしちゃだめな顔になっちゃってる。
事件は解決したと言っていいだろう。
しかし、原因は全くわからなかったし、犯人もわからなかった。
少し腑に落ちない部分もあったけど……まぁ被害がなくて何よりだ。加害者をどうこうするよりも被害者を助けることが優先なのは理解するし、オルカス達は良くやってくれた。
「フリム、これどうにか出来ないのか?」
「出来ないです」
シャルルにも聞かれた。
肩車でシャルルの肩に乗ったデカい王冠をかぶった子供フリムの分身体が、腕を組んでめっちゃふんぞり返っている。
色々不敬だしやめて欲しいけど、誰にも止められないので諦めてもらいたい。あと寝ているガリアス君たちの顔に落書きしてるのも……仕方ないはずだ。
フリムは政務を終わらせるための魔法を使った!