メガネって女子力高くない?   作:わかなつ

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時間かかりすぎ


チャームポイントに

 

 犬吠埼風は病院の廊下を歩いていた。

 あの日、妹の犬吠埼樹の夢がこの世界の仕組みによって叶わぬものにされたと思ってから、その大本である大赦を潰そうと駆け出したところを勇者部、当の妹にも止められた。

 その後、自分と同様に世界への恨みを募らせた東郷が単独で暴走し、神樹様を破壊しようとしていたところも阻止し、残りのバーテックス達や太陽もなんとか退けることに成功した。

 それからただの神の気まぐれか、失われて以来もう二度戻ることはないと考えていた片目も見えるようになり、それは他の勇者部や妹も同様だった。

 ただ、結城友奈だけは自分たちとは異なり身体機能のほとんどを失ったままだった。

 それでも、それすらも彼女ははねのけて、つい先日に目を覚ました。

 ようやく全てが元通りとなりめでたしめでたし……とまではいかないのが少々つらいところ。

 まだ目を覚ましただけで、歩いたりなど普段通りの日常生活に戻るためにはリハビリが必要というらしい。

 時間はかかるようだが、今度こそ本当に無事に帰ってくることができた。

 そして今は、その報告を受けてお見舞いに来たところで、一度席を外したというわけだ。

 飲み物の一つでも買ってこようかと自販機まで向かっているところ……ふと、一つの病室の前で足を止める。

 表札に記されている苗字を見て、なぜが強く惹かれてしまったのだ。

 どこか覚えがあるような、けれどその名前の人物の顔は思い浮かばない。

 そのまま導かれるように病室を軽くノックをすると、「どうぞ」と返事が返ってきたので、ゆっくりと扉を開ける。

 部屋に入ると、一人の女性が病院のベッドで体を起こしてこちらを待っていた。

 その顔を見ても、やはり思い当たる節はない。

 対して向こうは犬吠埼のことを知っているようで、目が合うと優しく微笑みを向けてくれる。

 

「あなたが犬吠埼風ちゃんね」

「……どうして名前を」

「あら、ここの病院は大赦持ちなのよ。そして、私はあなたたちがこんな目にあうことになった元凶の一人……といえるかもしれないわね」

「大赦の関係者……」

 

 それなら話は分かる。

 勇者として選ばれた自分たちの顔や名前も把握しているだろう。

 犬吠埼自身が名前に憶えがあるような気がするのも、大赦関係のことでどこかで見かけたのかもしれない。

 とりあえずそこはそれで納得するとして、聞き逃せないことがあった。

 

「元凶って」

「あら、私はシステムの開発者なのよ?身内のやり取りを覗き見るなんて造作もないこと。そもそも、小学校までは一緒だったし」

 

 なんでもないことのように、さらりと言いのけて見せる女性。

 犬吠埼は困惑していた。

 あのシステムを作ったということは、この人がいなければ自分たちはこのような目に合わなかったということ。

 

「あれ、怒らないんだ?」

 

 しかしその言葉を聞いて掴みかかるどころか、怒りに表情を変えることもしない犬吠埼にそうたずねる女性。

 犬吠埼に思うところがないわけではないが、ここと努めて冷静になるように。

 

「あんなシステムを構築するのにたった一人で出来るわけがですよね。だから、あなた一人がいなかったところで変わらないと思います」

 

 そう答える。

 犬吠埼も分かっているのだ。

 確かにこの勇者というもののせいで自分たちは大きな苦労を経験した。

 だが、それも元は誰かを救おうと思ってのことであり、大赦も、目の前のシステムを作った人も、自身と同じような思いで活動してきたのだから。

 誰が悪いというものではないのだと。

 

「なんか、思っていたよりも風ちゃんが大人で驚いちゃった」

 

 先程の口ぶりからして幼少期のことを知っているらしいが、一体どの目線なのかと少しだけ引っかかる。

 と、女性は頭を下げた。

 

「うちの弟ともども、ご迷惑をおかけしたみたいで」

「……それは」

 

 女性が言う弟とはいったい誰なのか。

 その前の小学校も一緒だったという発言と、大赦の関係者であり、勇者システムの開発に関わったということを考えれば、恐らくあの日喧嘩別れとなった幼馴染の少年に思い至る。

 あれ以来、怒涛の展開で息を吐く間もなかった上に、気まずさも重なって全く連絡を取っていないままだった。

 端末を回収したりなどの大赦からの指示はあったのだが、それも実行は別の人であったり、指定の場所に置いておくようにするなど、直接的な関わりはことごとく避けられているように感じた。

 いや、それも全て言い訳で、やろうと思えばコンタクトを取ることも出来ただろう。

 例えば結城友奈が植物状態のようになって入院してから、再びもとに戻ってくるまでの期間など。

 やらなくてはいけないことなど、演劇の準備くらいのものだった。

 犬吠埼風の中でも、やはりブレーキがかかっているのだ。

 誰が悪いというものではないというのは分かっても、あの時点で少年が自分に嘘をついて真実をひた隠しにしていたということは事実なのだから、相互の信頼だと思っていたものが一方的だったのか。

 裏切られたという気持ちは変わらない。

 そんな複雑な内心が表に出ていたようで、犬吠埼が口元をゆがめていることに気づいた女性は姿勢を正して口を開いた。

 

「ちょっと、お話しましょうか」

 

 そうしてから、病院のベッドの横に置かれた椅子を手で示した。

 犬吠埼は促されるままにその椅子を引いて自分の位置に持ってくるとそこに腰を掛ける。

 そして、その言葉を待っていたのかのように、ずいと前のめりになる。

 

「アタシも、聞きたいことがあります。まずは、彼が……弟さんが、どうして男子であるのにもかかわらず神樹様に干渉できるのか」

 

 聞きたいのはその部分。

 彼や大赦が勇者というものや満開の後遺症について説明しなかった理由は分かる。

 最初の東郷のようにただでさえ命を懸けて戦うことに恐れを抱くだろうに、さらにこれを知れば戦いを前にした時に足踏みするものが出てくることとなり、世界を守ることが叶わない。

 彼に関しても、行動のほとんどは上に命令されてのものなのだから。

 だから、そもそもなぜ彼がこれに関わることになったのかというところだ。

 乃木園子が言っていたように、勇者たりえる資格を持つのは純粋な少女のみ。

 大赦にも男性はいるのだが、それは運営などの組織運営の部分を行っているだけ。

 神樹の力を引き出すことができるのが少女であるのであれば、恐らくシステムの開発も同じような制限があるのではないかと考えてのことだ。

 女性は少し考えるような仕草を見せてから。

 

「色々と要因はあるんだけど…………。まず、関わるのが早かったからね」

 

 人差し指を立てる。

 

「ほら、幼少期だった男子と女子の区別って薄いじゃない?身体とか……特に第二次性徴前とか、その時点で儀式を行ったことで、男子であるにも関わらず、神樹様に魅入られた、てとこ」

 

 続けて中指を立てる。

 

「次に、神樹様のほんの一端に過ぎなかったから。私たちはシステムの開発だけで、あなたたち勇者のように、神樹の力を直接行使するわけじゃないの。神の世界が見えること、力を上手く出力するための設計図を描いたにすぎない。だから負担が軽かったのかな」

 

 そして薬指を立てる。

 

「あとはあなた達の満開と同じで、身体を生贄に捧げたから」

 

 生贄。

 自分たちの満開を使用することで身体機能の一部を喪失したことのことだ。

 より大きな力を得るためには対価が必要だということであり、それがあの少年にも及んだというわけだ。

 

「ちなみに、私も代償を支払うことになってこんなになっちゃったってわけなの。そこまで神に気に入られてなかったみたいだから、大分大きめのもの持ってかれちゃって、一時は半身が全く動かなくなってたんだけど」

 

 内容とは相反して、目の前の女性はあっけらかんとそんなことを告げる。

 

「でも、あなたたちのおかげで今はこうして元気に体を動かせるくらいまでは戻ってきたの。まだ一人で歩くとかまではいかないけど、両手はしっかりものを持てるくらいにはね」

 

 そういってサイドテーブルに置かれているお手玉を手にとっては起用に回して見せる。

 システムの開発者が、大赦の息がかかるこの病院にいるのは、そういうことがあってのこと。

 女性のことは分かった。

 だが、少年の方に関しては別だ。

 

「そんなの、彼はなにも奪われていないように見えてました」

 

 そこだ。

 少年に関しては、妹のように声も失っていないし、東郷のように聴覚や足を失ってもいない。

 至って健康体で、部活動も運動部に所属するくらいには体を十分に動かすような日々を過ごしているように見えた。

 

「弟は大きく分けて2つかな。1つは風ちゃんと同じだよ」

 

 その言葉を受けて、犬吠埼は咄嗟についこの間まで自らの視界を遮っていた部分に手をつく。

 

「視力……眼鏡」

「そ。風ちゃんは覚えているか分からないけど、弟は昔は眼鏡してなかったんだよ」

 

 そういわれてみれば、中学に上がってから久しぶりに少年と出会ったときに、女性の言う通りの違和感を感じていた。

 犬吠埼自身のように片目の視力をごっそり失ったのではなく、両目をそれぞれ少しだけ失った。

 だからあの厚めのメガネをしてカバーしていたのだ。

 

「あと一つは?」

「それはもう気づいているんじゃない?なんでここの病室に入ってきたの?」

 

 はっきりとしない含みのある言い方で、逆に犬吠埼に尋ねる。

 犬吠埼は頭の中でつい数分前の光景を掘り起こしてみる。

 なぜこの病室にと言われても、ふと表札が目に入っただけで、そこからはただの気まぐれとしか表し様がない。

 どうにも言語化できずにいると、見かねた女性はまた口を開く。

 

「私の名前は?」

「外川……外川(とかわ)と、表の札にそう書いてありました。そしてあの人は、外川 石(せき)。…………あれ、なんで今……」

 

 犬吠埼は非常に困惑した。

 数秒前まではっきりしなかったその文字が、名前が明確な輪郭を持ち始めたことに。

 そこから、これまでの記憶の内の靄がかかっていたような部分が、一気に晴れるように色を取り戻し始める。

 

「そういうこと。名前もそうなんだけど、正確には周囲の記憶とか存在感かな?あの子、なんか影が薄くて周囲から気にされなかったり、活躍したかと思えば別の人に注目を取られたりとかしてなかった?この世界から否定される代わりに、性別も超えてわずかに神のほんの一片に触れる権利を得た」

「アタシ、なんで今まで……」

 

 思えば、野球の大会では地味な上に別の人が直後にホームランを打たれてそのまま注目を持っていかれていた。

 最初の樹海化においても、傍から見れば姿を消したように映っていたはずなのに、先生の協力もあったとはいえそこまで追及されなかった。

 自分以外の勇者部からは、彼についての言及は全くなかった。

 大赦の秘密に踏み込まれないように自分とだけを介してやり取りをしていたと思っていたが、それでも本部からきた三好の口からも話題に上がらないのは不自然かもしれなかった。

 

「やっぱり、それなりに心当たりがあるみたいなのね。それでも違和感がないように感じさせる、強制力が働いたの」

 

 そしてなによりも

 

「石……名前を…………なんで」

 

 幼少期に確かに覚えたはずのその名前までも捨てて、神の領域に足を踏み入れていた幼馴染の存在。

 世界の誰からも忘れ去られかけていた幼馴染の名前を、忘れ去っていた自分への不甲斐なさや情けなさを、いろいろな感情がごちゃ混ぜになって溢れてくる。

 

「ごめんね。あのバカは捻くれてるから、こういう方法しか考えつかなかったみたいで」

 

 ずっと俯いたままの犬吠埼の手が、優しく包み込まれる。

 女性はやや体をベッドから乗り出すような形で、言葉を投げかけている。

 それでも、顔を上げることも出来ずに肩を震わせているだけ。 

 

「本当にバカよね。自分に矛先を向けることであなたを救える気でいたみたいで」

 

 見かねた女性は手を離すとそのままその手を犬吠埼の片口に回して、体ごと自らの方へ引き寄せる。

 近くなった耳元へ、確かに届けるように語り掛ける。

 

「こっちがこんなことをいうのはおかしな話だとは思うけど、あなたさえよければ、あの子のところへ行ってあげて。そして許してあげて」

 

 そう残すと、再び肩へ手を当ててゆっくりと引き離す。

 二人の目が合う。

 姉からしも、色々と言いたいこと、伝えたいことを挙げればきりがないだろう。

 それでも、これはその立場からでは意味がないのだ。

 

「これはあなたにしかできないことだから」

 

 今、その中に渦巻くものは本人に直接会って、顔を合わせてぶつけなければいけないもの。

 ここで頭を落としていてもなにも意味がない。

 もうあれ以来に話すことを足踏みさせていた躊躇はない。

 それ以上の気持ちがあるから。

 

 犬吠埼は肩にかけられた手を優しくどかすと、椅子から立ち上がり一つ礼をしてから、踵を返して病室から駆け出した。

 

────────

 

 波が押し寄せては砂をさらって逃げていく。

 そんな光景を横目に俺は歩いていた。

 あれからはや数週間。

 あの日の自分などはまるで意味をなさなかったかのように、勇者に選ばれた少女たちは互いに助け合って世界を救うどころか自らのことを犠牲にすることなく、勝ち取って見せた。

 大赦のとしても後始末しなくてはいけないことがあったのだが、この位置での業務ははこちらから退いた。

 あんなこともあれば、向こうは大変顔も見たくもない人間の一人になっただろうからだ。

 だがそうしてみてどうだろうか。

 彼女たちのおかげもあってすっかり時間を持て余すようになってしまった。

 端的に言えば暇だ。

 本当の意味でなにもかもを肩から降ろして、すっかり無価値になってしまったものだから、こうして気楽に何も考えずに散歩ができる。

 それもこれも、彼女たちのおかげあってのものだ。

 首を横に回すと、青い水平線が視界の端から端を橋渡している。

 しかしここの海岸線は防波堤がかけられているので、下半分は石の壁で隠されて砂浜まではほとんどうかがい知ることはできない。

 ギリギリ波打ち際の白波が立つ部分が見える程度だ。

 これではせっかくの解放感が台無しということで、ざらざらとしたコンクリートの壁に手を掛けると、力を入れて体を持ち上げ、足もかけるとその上に立つ。

 そのまま、なにも遮るものが無くなった おかげで湿気と潮の香りが混じる海風と景色を味わいつつ、建てられた塀の上を歩く。

 足を踏み出すたびにアリたちが逃げ出す。

 波が打ち返す音とは反対側から、どこかの学校のジャージ姿のどこかの部活の生徒たちが隊列を組んで走る声。

 ……そういえば、今日は部活だったか。

 お勤めが一段落した今、もう戻ってもいいわけで、運動でもしていれば少しは気がまぎれたかもしれない。

 ……いや、結果的には丸く収まったように見えるかもしれないが、自分は伝えるべきことを伝えなかった。

 そこにどんな事情があろうと、彼女を裏切ったことに変わりはない。

 そんな人間にチームプレイをする資格などない。

 

「……平和だ」

「いた!」

 

 海を正面にしてそうつぶやくと、その声も波の音も突き抜けて背後から別の声が耳に届く。

 すっかり聞きなれた声。

 その声の発信源の正体をを俺は知っているのだが、まさか来るわけがないと思っていたのに。

 振り返ると予想通りの幼馴染がこちらへ駆けてきていた。

 まさかと身構えるが、こちらが塀の上にいることも構わず、逃がすまいと真っ直ぐにコンクリートの壁を上っては跳びかかってくる。

 

「まっ……」

 

 塀の上にいるということは、背後には何もなく、このまま落下することになる。

 止める間も無く、そのまま犬吠埼の体重を体に受けて倒れ込む。

 浮遊感。

 咄嗟に腕を回して抱きかかえて、なんとか相手の体が地面側に行かないようにするしかできなかった。

 

「うっ……!」

 

 背中に衝撃を感じるものの、そこまで高さがないことと砂浜であったことが幸いして、大したダメージはなさそう。

 すぐに怪我がないか確認しようと犬吠埼を引き離そうとするのだが、首に手を回されたまま力を弱めるそぶりも見せない。

 

「ちょっとこのままだと首締まっちゃうから、一旦放してもらえないかなと」

「いや。逃がさないから」

 

 随分と強情なことだが、この感じだと怪我の心配はなさそう。

 一安心したところで、このままではこの現場を誰かに目撃でもされればあらぬ誤解を生みかねないので、どうにかして拘束から抜け出そうと試みる。

 

「まって」

 

 首元の回していた手を砂についたので、体を縮めては隙間を作って横に転がってやろうかとしたところで、丁度目と目がかち合う。

 今は目の前の少女のおかげもあって、あの鬱陶しいガラスを介さずにいる。

 久々に本当の意味で直接顔を合わせるとなると、気まずさがどうしても大きく、顔をそらさずにはいられない。

 だが、彼女はそれを許さない。

 片手で顔を押さえつけては再び強制的に視線を合わされる。

 

「……今更なんだよ」

「分かってるくせに」

「なんのことだかさっぱりだね」

 

 体を引きずって逃げ出せないかと画策するが、足もロックされていてなかなか厳しい。

 こちらの小細工もお構いなしに、犬吠埼は言葉を続ける。

 

「全部聞いたの。石のお姉さんに」

 

 ああ、それでか。

 余計なことをと思いつつも、一々説明する面倒な手間が省けたのはいいか。

 

「だからと言ってだと思わない?どんな背景があろうとも、信頼を裏切る行為をした事実は変わらないんだからさ」

「もういいの!私が許した!」

「犬吠埼だけじゃないだろ」

「……じゃあ、今度の文化祭。勇者部の演劇を見に来なさい。その時に土下座でもなんでもすればいいのよ」

「それだけで済むものかよ」

「あたしも一緒に頭を下げるから」

 

 いくら何でも、風まで頭を下げる必要は無かろうに。

 秘密を作っていたことや、勇者については既に当人たちで解決しているのだから、こちらのミスの所在は風にはない。

 許したとはいえ、そこまでする義理があるのか。

 

「それは、お互い様だから。アタシだって、あなたのことを忘れていたんだもの。名前も存在も消えかけて、そんな孤独の中にいたっていうのに」

 

 瞳の奥を見透かすように、なにも言葉を発していないのにそう言葉を続けて答える。

 

 そうか。

 自分だけ勝手に嫌われれて、勝手にそのまま忘れてくれればいいと思っていた。

 自分の中の風のように、もう風の中での自分はそこまで大きくなっていたのか。

 本当はそっちが良かったのに。

 互いに互いへ負い目があって、ここまで勇者部も騙してきたんだと。

 

「共犯だな」

「……そうね」

 

 また、その目に真正面から見つめられる。

 自分よりも少し小さな体に気づいて、腕を回す。

 

「ごめん……本当に……」

「わかったから」

「よかった……生きてて」

 

────────

 

 とあるうどん屋で、二人の大学生がテーブルを突き合わせていた。

 二人が仲たがいを修復してからも一悶着ありつつ、それも勇者達は乗り越え、やがて神の力に頼らない世界までたどり着いた。

 今は勇者たちはそれぞれの道へ進んでいる。

 

「まさか風が大学までいくとはね」

 

 青年が半ばからかう様にそう口にする。

 

「なにそれ。あたしが馬鹿だって言いたいの?」

 

 当然、相手はその発言に不満をあらわにする。

 

「いや、成績に関してはそんなに問題じゃなかっただろ。もともとはそこそこよかったし、中学の時はそれどころじゃなかっただけで」

 

 一見言葉面だけを見れば険悪に思えるかもしれないが、実際の二人の表情ややり取りの調子を見ていれば、すぐにそれは間違いであることに気づくだろう。

 いつものように互いに軽口をたたき合っては、目の前に置かれたどんぶりの中にある面をすする。

 

「あなたこそ、あのきざったらしいメガネはやめたのね」

 

 仕返しとばかりに、かつての記憶をいじり始める。

 

「姉貴から聞いたと思うんだけど、本来、勇者システムをいじくるには霊的回路を扱う必要があってな。それにも神樹から認められた人間でなきゃいけないところなんだ。それもほとんど女子だけなんだがな。俺の場合は、視力と引き換えになってたってだけ。けど、すべて返ってきたからもう必要なくなったんだよ」

「……ふーん。それって」

「あなた方おかげですよ。本当に頭が上がりませんよ」

「そう思うなら、ここもあなたもちでいい?」

「おい、共犯って言っていたのはなんだったんだ。他の勇者部のメンツならともかく、ここは対等だと思ってたのに」

「しかたないなあ」

 

 妙に上機嫌にそういうと引き下がる。

 青年はその様子に首をかしげながら、残る丼の中身をすする。

 と、また仕返しとばかりに口を開く。

 

「逆に、風はメガネかけるようになってさあ。ぶっちゃけ、そこまで視力悪くないくせに」

「そんなの、決まってるじゃない」

 

 手をフレーム部分に持っていくと位置を直し、自信満々に言った。

 

「だって、メガネって女子力高くない?」

 

 




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