レグルスさんのヒーローアカデミア   作:いる科

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レグルスさんかっけー!!


ヴィラン殺し編
1.『無欲』のレグルス


「違う。この子は、死んでない……これがこの子の、異能……!! 生まれた瞬間から、発現していたのか……」

 

 ──悲鳴と轟音の入り交じる戦場の中で、ただ、あなたの顔と声だけが温かかったのを今でも覚えている。

 

「自由に生きるんだ、■■。AFOのような悪に、決して侵されることのないように」

 

 ──それでも。

 あなたがくれたはずの名前を、僕は思い出すことが出来ないまま。

 幾星霜を、過ごしてきた。

 

 

 

 ※※※※※※※※

 

 ヒーロー殺しステインは、内に秘めた思想を叶えるため、不適格な偽の英雄を今日も排除しようとしていた。

 

「や、やめっ……!!」

 

 個性『凝血』で動けなくなったこのヒーローに、もはや抗う術はない。

 

「だれか、たすけ……」

 

「ヒーローが、助けを求めるなど言語道断……!!」

 

 弱き者がヒーローを騙る、この社会をまた一つ、修正する。

 そうしてステインが突き出した刃はしかし、喉元に突き刺さることなく、何者かに跳ね除けられた。

 

「待ちなよ、ステイン」

 

「……!」

 

 そこには、青年がいた。

 何の特徴もない青年だった。

 中肉中背を絵に描いた様な身体つきに、長くも短くもなければ奇天烈に整えられたわけでもない白髪。

 

 特徴を強いて言えば、端整な人形のように顔が整っているくらいのもので。

 しかしそれすらも、人が彼に抱く印象を限りなく薄くしてしまう、引き算の美であった。

 

 通常であれば考えられない状況だ。

 卓越した達人であるステインの刃を止めることは、ヒーローでも難しい。

 それをこのような、どこにでもいそうな平凡な青年が止めた。

 だが、ステインは驚かない。

 何故なら、ステインは青年を知っていたからだ。

 

「邪魔をするな、『敵殺し』……!!」

 

 凄むステインを真正面から捉えた少年は、何かが癪に触ったのか、酷く顔を歪ませる。

 

「あのさぁ……。顔と顔を合わせたらまず名乗って挨拶。これ人としての常識でしょ? いきなり邪魔をするな、って何様のつもりなわけ? この社会の大多数の人間が当たり前の配慮を当たり前に持っているから、僕たちは社会の恩恵に(あずか)って緩やかな平和を享受することが出来るんだ。君は今それを踏み躙っているんだよ? 有り得ないよね、それは。仕方ないから一度だけチャンスをあげるよ。まずは自分の精神の構造に重大な欠陥があることを認めるところからだ。ここで待っていてあげるから、やってみよう。寛大な僕に感謝することだね」

 

「『敵殺し』……先に邪魔をしたのは貴様だ……」

 

「はぁ…………。邪魔? 邪魔って? 僕はそこの人に助けて、って言われたから助けてあげただけ。善意から来た善意による善なる行動だよ。この社会に対する奉仕の精神だ。僕の力はちっぽけで、僕一人を守るのが精一杯で、僕の存在を、権利を保証してくれるこの社会に対する恩返しをするにはあまりに無力だけれど、そんな中でも誠意を見せることが重要だと思っているんだ。それにステイン、僕のことは『無欲』のレグルスと呼んで欲しいね。そんな俗っぽい二つ名で呼ぶなんて、僕を軽く見てるんじゃないの? だって、僕はちゃんと君を二つ名じゃなくて敵名で呼んでるよね。それは、君がそう呼んで欲しいと思ってるんじゃないかな? っていう僕の配慮から来てるんだよ。押し付けがましいかもしれないけど、今僕の権利を主張するために敢えて言わせてもらうと、こんな風に互いを配慮し合うことがコミュニケーションの入口なんだよね。つまり君は僕を軽く見ていて、コミュニケーションをする気がないんだ。軽く見るってことは、僕のこれまでの人生を、生きてきた道を、未来を生きる権利を冒涜するってことだ。こんなに無欲で理性的な僕に対して……。不躾な態度をとる君にすら挽回の機会を用意したこの僕に対して、そんな所業をするなんて。僕のちっぽけな私財を、大切なものを傷つけるなんて。やっぱり君は敵だ。どうしようもないヴィランだ。今すぐ、ここで死ぬべきだ」

 

「御免」

 

「のわァッ!?」

 

 至極不愉快そうにまくし立てる、『敵殺し』『無欲』のレグルスに、ステインは無言でナイフを放ち、斬りかかる。

 話し合いは不要だった。

 

 レグルスは、表でも裏でも有名なヴィランだった。

 ヴィランしか狙わず、ヒーローや民を率先して助けるダークヒーロー。

 しかし、狙ったヴィランは必ず惨殺する。

 

 世間からの彼への評価は二分される。

 曰く、ヒーローに出来ないことをして犯罪を抑止してくれるもう一人の平和の象徴。

 曰く、自分のやりたいことだけをしている独善的で身勝手なヴィラン。

 

 このヒーロー社会において、レグルスという男を評価するのはとても難しい。

 だが少なくとも、ステインにとっては後者だった。

 ステインの掲げるヒーロー像には、この男は当てはまらない。

 何故なら、人々に恐怖を与えているからだ。

 たとえばレグルスは、遠くの小国で起こった戦争をたった一人で終結させたことがある。

 その戦争に関わった上層部の人間全てを、皆殺しにして。

 

 ……だが。

 

「──あの、さァっ……」

 

 その噂は、流石に尾ひれのついた陰謀論の類であると、ステインは思っていた。

 そのような所業は、かのオールマイトでもなければ不可能のように思われたからだ。

 

「君には慎みってものがないわけ? 僕は譲歩したよね。したんだ。したんだよ。もしかしたら君は気づいていないかもしれないから、改めて説明してあげようか。僕は、いきなり君に危害を加えるような真似は決してしてない。状況からして明らかに君が加害者だけど、ヒーローの彼と何があったのか僕はまだ何も知らないから、理性的な判断としてまず諍いを止めたんだ。先入観だけで物事を判断しないように、君の権利を侵害しないように、慎重にことを進めているんだ。死ぬべきだ、というのは僕の主観による君への評価であってこの場の結論じゃない。平和で平等な話し合いの末に、僕のとるべき行動を、君たちと一緒に判断するつもりだったんだ。だから君に攻撃はしなかったんだ。なのになんだ、君は。いきなりナイフを投げてくるなんて、あまつさえ斬りかかってくるなんて本当に頭がおかしいとしか思えない。蛮族。蛮族だよ君は。僕は君のような人間が大嫌いだ」

 

「何故、効いていない」

 

 確かに、ステインには感触があった。斬った感触が。命を奪った感触が。

 レグルスも情けない悲鳴をあげていた。

 確実に当たっていた。避けられてはいないし、そんな素振りもなかった。

 だというのに、当の本人は何事でもないかのように、無傷のまま。

 正論らしい言葉を並べ立ててステインを責めている。

 

「何故って、答えるわけないよね? 僕は僕の権利によって僕の個性を黙秘しているんだ。個性を知られたくないと思っているんだよ。だってこれは僕の僕による僕だけの僕が持って生まれた『個性』だから。大切にしたいんだよね。インターネットで調べたって出てこないんだから、それくらいの事は察して欲しいな。ていうか、常識に照らし合わせて考えればわかるでしょ、それくらい。つまり考えてないんだ。君は僕のことを分かろうとする努力を放棄している。思いやりの欠片もない、人として最悪の行動だ。精神的な暴力だ。まったく、君はさっき知り合ったばかりの人に身長とか体重とか聞いちゃうわけ? それとも君は僕のプライバシーを侵害してまで、僕の個性が知りたいっていうのかな。それってあんまりだよね。酷すぎる。君の身に余る『強欲』だ。そして、いつだって『強欲』は人の身を滅ぼすんだ。君を心配して言っているんだよ」

 

「……貴様は、そうではないと?」

 

「はぁ……それって質問? 質問をするならまず相手に対する配慮が必要だよね。だって質問を行った時点で、その相手の時間を少なからず奪うことになるんだ。それを認識していないからそういう高圧的な態度になるんでしょ? 相手が尽くしていることを認識すらしないなんて、本当にどうかしてるよ。でも仕方ない、君のレベルに合わせて答えてあげよう。──そうだよ? 僕は『無欲』なんだ。本当はこんな争いだってしたくない。生きとし生ける善人たちが、互いを支え合って、互いを思いあって、平々凡々とただただひたすら穏やかで安寧とした日々を享受できればそれが最善だ。身に余る財は人を滅ぼすと僕は思っているから、それ以上は望んじゃいない。何より、この日々が当たり前に存在していることに感謝せずにはいられないから、これ以上を欲するなんて事は考えられないんだ。ヒーロー達が命を張って支えている、この暮らしにね。だから、それを奪おうなんて『強欲』は、悪は、決して許せないんだよ。感謝されるべき『無欲』な彼らが、君みたいなゴミクズに命を奪われるなんてことはあってはならない。これが僕の意見だけど──」

 

「ロックヘッド。君は、どうしたい?」

 

 レグルスが問うた相手は、先まで襲われていたヒーローだった。

 石頭ヒーローロックヘッド。

 ビルボードチャートでは250位程度のマイナーヒーロー。

 

「え……なんで、俺の名前……」

 

「そりゃあ、僕が大のヒーロー好きだからだよ。ファンなんだよね。君たちのように善いことをした人に、人を助ける人に、僕のちっぽけな力でも、少しだけでも報いたいから僕はここにいるんだ。さあ、答えたよ。君の権利は尊重した。勿論、僕の質問する権利も尊重してくれるよね?」

 

 ロックヘッドは、レグルスの言葉を思い返す。

 ──君は、どうしたい?

 ロックヘッドには、レグルスが天使に見えた。

 己を助けてくれる、ヒーローに見えた。

 ロックヘッドには、レグルスが悪魔に見えた。

 この者に縋っては、己の矜恃の全てを捨ててしまう気がした。

 混濁した頭で、必死に言葉を紡ぐ。

 

「…………そいつを……『英雄殺し』を、たおして、くれ」

 

 生への執着は、手放しがたく。

 

「それが君の結論だね。じゃあ、安心して眠っていていいよ。──これから君の権利は、尊重される」

 

 

 

報告書

xxxx/xx/xx hh:mm

 

▲▲県●●市x丁目にて、『石頭ヒーロー』ロックヘッド氏(以後敬称略)と『英雄殺し』ステインが交戦。

ロックヘッドの通信が途絶したため、同事務所の他ヒーローが救援に向かったところ、気絶しているロックヘッドを確認、保護。

裂傷、切傷が複数あり、その全てが『英雄殺し』ステインによる犯行であると判明。

 

──同場所にて、『英雄殺し』ステインの惨殺死体が発見される。

左腹部を丸ごと喪失しており、出血多量による死亡と推定される。

意識を回復したロックヘッドの証言により、『無欲』のレグルスによる殺害と判明。

 

補遺:『無欲』についての情報入手を目的としたロックヘッドへのインタビュー記録。

 

──。

 

 俺は……間違ってた。

 ヴィランに、助けを求めちまった。

 結果がどうなるのか……薄々、分かってたんだ。

 俺は……命惜しさに……。

 

 『英雄殺し』の言う通りだったんだ。大事なとき、いざってとき俺は、きっと自分が可愛くなって何もできやしない。

 俺は、あの時あの場所で、奴に助けを求めちゃいけなかった。

 違う。どうしようもなかったわけじゃねえ。

 チャンスはあったんだ。奴はヴィランだが、話の出来そうな奴だった。

 わざわざ俺に、意思を聞いてきたぐらいだ。

 あの時俺は……お前たちをここで纏めて捕まえる……そう、答えなきゃいけなかったんだ。

 

 俺には……ヒーローの資格が、ない。

 俺は、最低の人殺しだ。

 

 

 

 ……え? 奴の個性が何かって?

 ……分からない。いや違う、見てないわけじゃない。

 何が起こっていたのか、分からないんだ。

 でも、そうだな……。にわかには信じ難いが、結果として起こった事だけをまとめるなら、あいつの個性は――。

 

 

 

 ――『無敵』って事になる。

 




レグルスさんイメージ絵
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