レグルスさんのヒーローアカデミア   作:いる科

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12.爆発的センス

「どうする、どうするどうするどうするどうする──ッ!!? 跳ぶのはダメだ、ここからじゃ助走も満足にできないし、きっと届かない──。今までの僕じゃダメだ……っ、発想を変えないと……!!」

 

 発想を、変える。

 解釈を、広げる。

 緑谷 出久の手札は、OFA常時増強5%と、瞬間増強の二種だった。

 

 ──本当に、そうだろうか?

 

 一つの気づきを経て、緑谷は己を叱咤する。

 

「馬鹿か僕は。いや、馬鹿だ僕は……!!」

 

 一体いつから──何も失わずに勝つ方法ばかり、考えるようになっていたのか。

 

 ──所変わって、先頭。

 

『喜べお前ら好みの展開だマスメディア!! 先頭は1-A 爆豪 勝己!! だが轟も負けてねえぞお!?』

 

 轟と爆豪は互いを牽制し合いながらも、確実にゴールに向けて前進している。

 最早、真っ先に先頭争いから脱落した緑谷のことを考える余裕は何処にもない。

 

「どけやァッ!! 宣戦布告の相手を間違えてんじゃねえよ──ッ!!」

 

「どんどん調子上げて来やがる……こいつ……ッ!!」

 

 一触即発のその刹那に、吹き抜ける一陣の風。

 背後から襲い来るその気配に、轟は気がつかなかった。

 

「SMAAAAASHッ!!」

 

 ──有り得ない体勢、有り得ない角度で緑谷が襲来したのだ。

 

『なんだァァァァ!? 緑谷、後ろ向いたままぶっ飛んでんぞお!!?』

 

「う、ぎぎぎぎっ……!!」

 

 発想を、変える。

 解釈を、広げる。

 緑谷 出久の手札は、OFA常時増強5%と、瞬間増強の二種だった。

 

 ──違う。もっと、出せる。

 ──体を犠牲にすれば、いくらでも。

 

 いつの間にか検討からさえ外してしまっていた、許容値を超えたOFAの発現。

 後ろを振り向き、助走さえ許されない窮屈な足場から──軽く上へ跳躍し、指を鳴らす。

 鳴らした指の風圧で、前方の二人を追い抜かす──!!

 

 強い勢いで飛びすぎれば、待っているのは自爆だ。

 一位を取るため、肌感で設定した出力は──40%。

 これでも、着地時の裂傷は免れないだろう。

 ──だがその時には既に、緑谷はゴールテープを潜っている。

 

 緑谷に必要なのは、アイデアではなかった。

 緑谷に必要なのは──覚悟だった。

 そして、覚悟は決まっていた。

 

『……アイツ、また指犠牲にしやがったな。制御出来るようになったと思った矢先にこれか』

 

 プレゼントマイクの実況、イレイザーヘッドの嘆息が会場に響く中で、轟が見たものは──天性の才──圧倒的なセンス。

 

「舐めんな、クソデク……ッ!!」

 

「かっちゃ、ん……!!?」

 

 轟のすぐ横を通過した緑谷の投げ出された腕を、爆豪は右の大振りで掴むと──もう片方の腕で勢いを相殺しつつ、しなやかに重心を移動させ、体勢を整える。

 如何に爆豪の強力な個性でも、OFAの40%の威力には大きく劣る。

 だが──爆豪の狙いは、完全な相殺ではなかった。

 強い遠心力を伴い、OFAによって発生した推進力は、たった今変換される。

 爆豪は前方にぶっ飛ばされながら、地面に緑谷を叩きつけたのだ。

 

「が、はっ……!!?」

 

「いい発射台だ、クソナードォッ!!!」

 

『爆豪、緑谷を利用して前に大きく躍り出たァァ!! しかも緑谷これは動けないぞ大丈夫かァァ!!?』

 

『爆豪はセンスの塊だが……今のはただの反応じゃないな。緑谷をずっと警戒してたんだろう。轟との差が出たのはその一点に尽きる』

 

『激情家と見せかけてクレバーかよ!! 渋いぜ爆豪!!』

 

 イレイザーヘッドの解説は、的を射ている。

 爆豪は轟との牽制にリソースを費やしながらも、後方確認を怠っていなかった。

 ──否。見ずにはいられなかったのだ。

 

 ──いつも。いつも。

 懲りずに、何回でも追いかけてくるその不気味な幼馴染の力を、計略を、策謀を。

 爆豪だけが、確かな脅威として警戒していた。

 

「二度と負けねーンだよ、俺ァ……!!」

 

「く、そっ……!!!! ちくしょぉおおおおおッ!!!!」

 

「ちっ……!!」

 

 緑谷の咆哮、轟の舌打ちを背に──。

 

「これがッ!! 完膚無きまでの勝利だァァッ!!!!」

 

『さぁさぁ最初の選手がついにゴールインっ!!! 熾烈な一着争いを制したのはこいつだ!! さァ、お前ら目に焼き付けろ!? ひとまず有言実行──一位宣言マン、爆豪 勝己の、その存在を!!!』

 

 雄英体育祭第一種目『障害物競走』──。

 一位、爆豪 勝己。

 二位、轟 焦凍。

 

 ──。

 

 ──三位、緑谷 出久。

 

 

 

 ※※※※※※※※

 

 ──やられた。

 

 指の怪我をリカバリーガールに治癒して貰いながら、緑谷は悔しさを噛み締める。

 

 会心の一撃を、跳ね返されてしまった。

 爆豪の一撃を軽んじていたわけではない。

 あの時、あの瞬間──。

 緑谷は体が強ばり、痛みに気を取られ、優れた体勢で己を打ち出すことが出来なかった。

 

 どうすれば、勝てていたのか──。

 

「ありがとうございます、リカバリーガール」

 

「若いからって、あんま無茶するんじゃないよ」

 

「はい」

 

 予選通過、上位四十二名。

 緑谷が自省する間もなく、勝負は第二種目『騎馬戦』へと移行される。

 

「──切り替えないと」

 

 緑谷が会場へ合流した後、ミッドナイトによって明かされたルールは至極単純だ。

 第一種目の成績に応じてポイントが割り振られ、それをハチマキという形で首から上に装着。騎馬戦で奪い合う。

 ポイントを失ったり、騎馬が崩れたりしてもアウトのルールはないため、制限時間中であれば無限にチャンスがある。

 

 更に──現一位の爆豪に与えられた得点は、破格の1000万ポイント。

 

「──ハッ。アガるじゃねえか」

 

 本当に大したクソ度胸だ、と緑谷は素直に尊敬する。

 幼馴染の凄さは、緑谷にとってはいつだって鮮烈だ。

 ──だからこそ、超えなくてはならない。

 

「ポイントの散らばり方の把握……立ち位置の管理……考えることが多いぞ、これ……!!」

 

 チーム決めの交渉タイムは15分。

 

「緑谷、俺と組もうぜ」

 

「爆豪〜!!」

 

「えー緑谷、私と組も?」

 

「轟ー!! 俺らなら電気と氷結と炎で最強じゃね?」

 

 『障害物競走』で圧倒的なパフォーマンスを見せた爆豪、轟、緑谷にA組の生徒たちが群がっていく。

 

「これは──良い競技ですね。個人の戦闘能力云々じゃない。ヒーローとして必要な多くの技術が試されてる」

 

 観客席。感心したように零すホークスに、レグルスが頷いた。

 

「そうだねホークス。チーム全体の方針と戦略、それに合った戦術、戦術の実現に求められる個性。チームを作り上げる側は逆算して考えて、人を採らなくちゃならないし、売り込む側も明確なビジョンを示す必要がある。サイドキックとしての提携やチームアップの要請が、現実としては近いかな──。つまり、求められるのは個人と個人のコミュニケーションによって齎される、全体の調和だ。互いの権利の尊重が勝利を生む──素晴らしい競技だ」

 

「っすねー」

 

 ホークスとレグルスの分析は正しい。

 雄英体育祭の競技は、エンターテインメントとしての見た目の華やかさも勿論、生徒たちに経験を積ませる実利も兼ね備えている。

 

 ──緑谷が把握している個性は、クラスの者に限られる。

 その中で選択する、最適のチームメイトは──。

 

 

 

 ※※※※※※※※

 

 誘いを飯田に断られてしまうなど、紆余曲折を経て、緑谷のチームは決まった。

 

 前騎馬──緑谷 出久。

 OFAフルカウルによる機動力と火力で前方を支える。

 

 右騎馬──麗日 お茶子。

 個性で騎馬を軽くし、機動力を底上げする。

 

 左騎馬──耳郎 響香。

 四方の警戒と、音波による指向性中距離攻撃担当。情報収集能力とリーチの長さが、多種多様な戦略を可能にする。

 

 騎手──峰田 実。

 もぎもぎによる設置罠担当。体が小さく、麗日の負担を最低限に抑えられる点も高評価。腕のリーチがない事は欠点だが、機動力と戦術で補う。

 

 どんな状況にも臨機応変に対応できる、バランス重視で考え抜かれた人選。

 無論、目指すのは第二種目を突破すること

だけではない。

 

「よし──行こうッ!! 1000万を取りに行くよ……!!」

 

「おー!!」

 

「いい意気込みじゃん、緑谷」

 

「オイラ達充分ポイントあんだから逃げ切り目指そうぜ!? な!?」

 

 峰田の訴えは誰にも届かず、空へ虚しく響く。

 プルス・ウルトラ。

 ──雄英生徒たるもの、見据えるは常に頂の景色だ。

 

 

 

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