レグルスさんのヒーローアカデミア   作:いる科

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体育祭の種目中はレグルスさん活躍しませんねー……。
でもでも、直接戦闘はありませんが、ちゃんと緑谷とかに絡んで来るのでお楽しみに!


13.激動の十秒

 緑谷が狙うは、当然1000万Ptだ。

 オールマイトに、自分が来たのだと知らしめる指令を貰い、今ここにたっている。

 ナンセンス界では他の追従を許さない節があるものの、その意味がわからない緑谷ではなかった。

 

「轟と爆豪やり合ってる! 漁夫狙ってんのが三チーム! でもそいつらも牽制し合ってて動けてない! 緑谷、ウチらはどうする!?」

 

「ありがとう、耳郎さん!! で、どうするかだけど──」

 

 耳郎の卓越した情報収集能力によって、状況把握は出来ている。

 

「ブツブツブツブツ──考えろ、考えろ。僕が轟くんなら、かっちゃんならどう動く……? 周囲にたくさんのチーム、一網打尽にできる方法があるとするなら轟くんの氷結と、あと──ブツブツ、ブツ──もし、それが立て続けに来たなら、防ぐ方法は……!!」

 

 轟のチームは、飯田、八百万、上鳴と非常に攻撃的な編成だ。

 ならば、恐らくはこのタイミングで──。

 

「──跳ぶ!! 体勢気を付けて!!」

 

「えっ、なんで!?」

 

「ちょ、オイラまだ心の準備が──あぁぁ!?」

 

 緑谷は皆を連れて跳躍した。

 麗日によって、騎馬全体の重量は麗日と麗日の衣服のみとなっており、そこにOFAフルカウルを合わせた機動力は、まさに韋駄天。

 

「いけ、上鳴」

 

 ──緑谷の警告と、轟の号令はほぼ同時だった。

 

「オーケー、しっかり防げよ!!」

 

「ぬわぁぁぁあ!?」

 

「し、痺れるっ……動けねえ!!」

 

 直後、轟チーム、上鳴の放電が会場を襲い、続けて起こった轟の氷結によって、周囲の騎馬は一網打尽にされてしまった。

 

『なんだ何が起こった何をした轟チームゥ!! 一網打尽だ、一気にポイント奪取!!』

 

『上鳴の放電で確実に動きを止めてから凍らせた……流石というか、障害物競走で結構な数に避けられたのを省みてるな』

 

『ナイス解説! イレイザーヘッド!!』

 

 ──跳んで避けた緑谷チームと、飛びつつ黒影によって防いだ爆豪チームを除いて。

 

「一応貰ってく。──このまま1000万に行くぞ」

 

「ラジャー!」

 

 轟が周囲の警戒を解き、爆豪の方へ視線を移したその瞬間、暗躍していた敵意が轟を襲った。

 

「A組はさぁ──単純すぎない?」

 

 ポイントハチマキが増え、管理の難しくなったその隙を、物間が的確に突く。

 

「一番油断するのは敵やっつけた瞬間、だろ? ダメダメ、バトルロイヤルなんだから。勝手にゴールした気になってるんじゃないよ」

 

「……っ!!」

 

 ポイントを取り返すため、轟は八百万の作った伝導棒を使ってすぐに氷結を発する。

 だが、その攻撃は──。

 

「へぇ、いい個性だね!! でもさ──どうしてこっちは、使わないのかな?」

 

 物間の発した熱によって、容易く解かされてしまった。

 

「──!!?」

 

「ま、それなら僕が使うだけさ」

 

 轟はその個性に、衝撃を受ける。

 熱。炎。憎い父と同じ──。自分と同じ──炎の個性。

 

「こっちも使わせてもらうよ!!」

 

 轟に出来た致命的な隙を、物間は更に『黒影』によって追撃する。

 

「……っ、甘いですわ!! ──コピー、ですのね。別チームの常闇さんのものまで……一体、いつ……!」

 

 だが、その攻撃は八百万によって『創造』された装甲で防がれた。

 まさに、一進一退の攻防。

 

「轟さん、しっかりしてくださいまし!! 通過できる分のポイントは残っています!! 体勢を立て直せばまだ勝機は──」

 

「あ、あぁ……悪ィ。次は、油断しねぇ……」

 

 一方、その頃。

 アクシデントに見舞われた轟チームを欠き、タイマン決戦となった緑谷チームと爆豪チームは──。

 

「オイラのもぎもぎ踏めやァ──!!!!」

 

 緑谷の指示で的確に配置された『もぎもぎ』。

 だが、爆豪チームは発目のサポートアイテムによる飛翔を爆豪の個性で増幅しているため、地雷は単体では意味をなさない。

 だが、それでいい。

 ──飛ばすことが、目的なのだから。

 ──これが、一手目。

 

「ブツブツ……十秒……九秒、十二秒……多分あのジェットパックはバスターヒーローエアジェットを参考にしたものだ……よく出来てる、凄いな……!! でも、騎馬の重量で随分無理してるんじゃないか……? 着地までのインターバルが、きっと本来よりずっと短い……!! それをかっちゃんの個性でサポートしてるんだ。それでも、平均して十秒は宙にいる……!! なら、今着地するなら──ここだ!! 耳郎さん!!」

 

「オーケー!! パナせばいいんだね!!」

 

 耳郎の音波によって着地狩りを狙う緑谷チーム。

 

「──っ、舐めんな耳ッ!!」

 

「じ、ろ、う!! 雑なあだ名つけないでよねっ!!」

 

 爆豪は超人的な反応によって前方を爆破し──耳郎の攻撃は相殺された。

 だが、それでいい。体勢は崩した。

 ──これで、二手目。

 

「──OFAフルカウル、10%──!! 皆掴まって!!」

 

 緑谷は隙を逃すまいと突進する──が。

 そこは『硬化』の切島が抑える。

 爆豪に売り込んだ、ブレない馬の体現。

 1000万は必ず、守りきる──その決意が、漢気が、切島の防御力を支えていた。

 

「かたい……!! 皆ごめん、押し切れない!!」

 

「すっげぇパワー……!! でも負けるか! 漢のド根性ォ!!」

 

 前騎馬同士が抑え合う展開。

 ──これで三手目。

 今なら、必ずあの策が通る──と、間髪入れずに緑谷は指示をとばした。

 

「峰田くん!!」

 

「うおおおお食らえや新必殺『グレープラッシュ』!!」

 

「し、しまった!! 踏ん張ってッから避けれねェぞ、爆豪!!」

 

 身動きの取れない切島達に、峰田による、足元を狙った攻撃が刺さる。

 ──これで、四手目。

 相手を受けに回らせて、それを読み切り凌駕する──。

 このとき、緑谷の戦術は的確に機能していた。

 

「あぁ、私のベイビーが!!?」

 

 発目のサポートアイテム──機動力を峰田が封じ、防御の要である切島は、緑谷が抑えている。

 後は増え続ける『もぎもぎ』の拘束と耳郎の音波攻撃で、じっくりと詰めるだけ。

 

「ブツブツブツブツ……!! 切島くんの『硬化』……! 凄い個性だけど、やっぱり硬くし続けるためには気を張ってなきゃいけないんだ……!! 持久戦に持ち込めば──ッ!!」

 

「ぐっ……!!?」

 

 緑谷と切島の膠着状態も、個性の相性から、徐々に緑谷が優位になる。

 後ろに控えている常闇──『黒影』による中距離攻撃には気をつけなければならない。

 だが、警戒さえしていれば、速度も威力も、耳郎の音波で充分に相殺できる。

 

 だが。

 緑谷の緻密な計略に対して、爆豪は──。

 

「黙ってろ、足元ァ捨てる!! お前らそれ脱いどけ!! デクテメェ、調子乗ってんじゃねえぞ、クソがっ!!」

 

 雑な指示と同時に、爆豪は自ら飛び出した。

 

「緩むよなァ──攻めてる時、上手くいってる時ほどよぉッ!!」

 

 爆豪の指摘通り、緑谷は気が緩んでいた。

 1000万を目前にして、張り詰めていた緊張が無自覚に緩み──そして、対処が遅れた。

 

 ──間に合わない。

 

 何より、対切島に全力を費やしている今、対応は他に任せるしかない。

 

「──耳郎さん!!」

 

「了解ッ!!」

 

 爆豪の接近に、遅れて耳郎が攻撃する。

 本来であれば、あと二歩分は先に攻撃できていたはずだった。

 ──その二歩分が、致命傷を生む。

 

「耳、テメェのそれは──向いてる方向にしか出せねェんだろ」

 

「しまっ……!!?」

 

 耳郎の音波は、本来であれば爆豪の軌道に直撃していたであろう。

 だがそれは、フェイントだった。

 爆破で慣性を消し逆方向に回り込む──トリッキーな動作で耳郎を翻弄した爆豪は、そのまま峰田の元へと、ハチマキを取るため加速する。

 

「うわああああこっち来んなよぉおお!!!」

 

「死ねェ!!」

 

 ヤケクソで『もぎもぎ』を投げる峰田だったが、全て爆風で散らされてしまい、時間稼ぎにすらならない。

 爆豪の一手によって、緑谷の積み上げてきた計略が無に帰した。

 そこにあるのは、無情な地力の差。

 ──それでも、諦める訳にはいかない。

 

「させないっ……!!」

 

「がァっ!?」

 

 緑谷は『硬化』の弱くなってきた切島に一発入れると、そのまま爆豪の方へ振り向く。

 指は犠牲になるが、風圧によって爆豪の体勢を崩せば、ハチマキは奪われずに済む。

 峰田への影響が心配だが、峰田の靴底は『もぎもぎ』によって緑谷にしっかりと張りついている。

 ある程度の衝撃──リスクを無視して、緑谷は爆豪に指を向けた。

 ──だが爆豪もそれを警戒し、緑谷の方へ体を向けている。

 

「来いやクソナードッ!! 真正面からぶっ潰してやらァッ!!」

 

「うる、せぇええええッ!!!!」

 

 似合わぬ罵倒を叫びながら緑谷が、指を弾こうとしたその瞬間。

 爆豪が、掌に全力を込め、バチバチと火花を鳴らしたその瞬間。

 

 ──幼馴染二人。

 互いが、互いに積み上げてきたその激情を解放しようとした、その刹那──。

 

 ──閃光が、宙を駆け抜けた。

 

「レシプロバーストッ!!」

 

「──は?」

 

 爆豪は、頭が真っ白になった。

 何をされたのかが、分からない。

 遅れて、自身が攻撃されたのだと理解する。

 それ程の速さ。人の捉えられる限界を、遥かに超えて──飯田 天哉は駆けた。

 そして、飯田の期待に轟は応えてみせた。

 飯田のスピードに限界まで食らいつき、その恵まれた身体センスで、爆豪の頭にかけられたハチマキを掠めとったのだ。

 ──轟本人にしてみれば、たまたま取れただけだったが。

 裏の事情などなんでもいい。

 取れたというその事実が、何よりも大きい。

 

『そろそろ時間だカウント行くぜエディバディセイヘイ!! 10!!』

 

 試合の終了まで、十秒。

 そのカウントダウンによる焦燥が脳を刺激し、焦燥によって対峙するそれぞれの時間の感覚は、限りなく引き伸ばされる。

 いわゆる所の──ラストスパートだ。

 

「『黒影』!! その男を絶対に落とすな!!」

 

『あいよ!!』

 

 飯田の突進によって体勢を崩した爆豪は、『黒影』により回収され、騎馬へと戻る。

 

「チッ……!!」

 

「おい爆豪、大丈夫か!?」

 

「うるせぇ!! さっさと取り返すぞクソが!!」

 

 爆豪の状態と試合の状況。

 その二点を同時に心配する切島に、爆豪は答える余裕がなかった。

 そこに、常闇が待ったをかける。

 

「修羅の形相……!! だが──取られたのは1000万ではない。そうだな?」

 

「ンなもん頭にいつまでも巻くかよ。取られたのはてめぇが盗んでたザコポイントだ」

 

「マジかよ流石だな爆豪!!」

 

「うるせェクソ髪。このくらい当然だろうが」

 

「切島な。お前の髪型も似たようなもんだろ……」

 

 轟の氷結の際、常闇はそれに乗じて幾らかのポイントを掠めとっていた。

 爆豪は万が一の保険に、それを頭につけかえていたのだ。

 切島の不安は晴れたが、常闇の言いたいことは状況の共有の、その先にあった。

 

「であれば、守りに徹するのも戦略だ。爆豪。強みだった発目の機動力は失われている……戦略もなしに突っ込むなど愚の骨頂」

 

「改善の余地アリですね!!」

 

「ざけんな!! 俺が目指すのは完膚なきまでの勝利なんだよ……ッ!!」

 

「あくまで攻めるか──了解した」

 

 ──一方、上空にて轟。

 ハチマキを取れたのはいいが、レシプロの速度による風圧で、満足に身動きが取れない。

 轟は持ち前の判断力で的確に指示を飛ばす。

 

「八百万! クッションを作れるか!?」

 

「今作ってますの! 着地に合わせて出力しますわ!!」

 

「なら絶縁体で作れ! 着地と同時に上鳴は──」

 

「いいよそこまで言ってくれりゃ分かる!!」

 

「ああ。とにかく、着地の隙さえカバー出来りゃタイムアップ、後はこいつで──っ!?」

 

 取ったハチマキを確認した轟に、思考の空白が出来る。

 その理由は──。

 

「おいどうした轟?」

 

「1000万じゃねえ……!! あいつ、入れ替えてやがった!!」

 

「…………ッ」

 

「なんですって……!?」

 

「そんなのってアリかよ……!!」

 

 これだけのリスクを犯して、取ったポイントは雀の涙。

 これまでに取ったポイントの合計から、事実としては、勝ち抜けが確定しているが──。

 チームのショック──特に、この事態を招いた飯田と、轟の精神ダメージは大きく、全てを冷静に考えられるほどの余裕はない。

 

 幸運だったのは、着地のカバーを担うのが八百万と上鳴だったことだ。

 着地のショックは八百万によって抑えられ、上鳴の放電があれば、着地狩りは出来ない。

 人選の幸運もさることながら、先んじて指示をとばした轟の、ファインプレーだった。

 

 ──だが。

 指示役の頭の回転が止まること。

 目まぐるしく変わる戦況に、リアルタイムで戦術をアップデート出来なくなること。

 そのことがどれだけの影響を及ぼすか──まだ誰も、気づけていなかった。

 

 すなわち、着地前について、思考が割かれていないということ。

 着地の隙を突いてくるに違いない、という確信。

 否、思い込み。

 すなわち、隙。

 ──その隙を見逃す、緑谷ではなかった。

 

「緑谷考案新必殺──ミネタビーズッ!!」

 

「しまっ……!!?」

 

 峰田の、棒状に繋げられた『もぎもぎ』が──轟の疎かになった手から、ハチマキを掠め取っていく。

 

「名前はどうかと思うけどナイスだよ、峰田くん……ッ!!」

 

 的確かつ、独創的な味方の使い方。

 惜しむらくは、緑谷が、1000万のハチマキを轟が持っていたそれだと勘違いしてしまった点だろうか。

 ──そして。

 飯田のレシプロから始まった、激動の十秒が──。

 

「あれ、これ……1000万じゃねえぞ緑谷!?」

 

「え、嘘……!? 入れ替えられてたってことか……!!」

 

「待てや半分野郎、デクッ!!」

 

「──ダメだ爆豪、放電が来る!!」

 

「八百万、上鳴、とにかく着地だ!!」

 

「了解っ!!」

 

「ちくしょうがァ!!」

 

『──タイムアップ!!』

 

 ──終わりを告げた。

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