一位:爆豪チーム
爆豪 勝己
切島 鋭児郎
常闇 踏陰
発目 明
二位:緑谷チーム
緑谷 出久
耳郎 響香
麗日 お茶子
峰田 実
三位:轟チーム
轟 焦凍
飯田 天哉
上鳴 電気
八百万 百
四位:心操チーム
心操 人使
庄田 二連撃
渡我 被身子
尾白 猿夫
以上が雄英体育祭、第二種目のリザルトだ。
操られ、意識のない状態であったことから出場を自粛した尾白と庄田に代わって、五位の物間 寧人と円場 硬成が繰り上がる。
渡我は棄権した二名とは異なり、そのまま出場する形だ。
よって第三種目のガチバトルトーナメント第一回戦は、以下の組み合わせとなった。
緑谷vs渡我
心操vs峰田
轟vs物間
飯田vs発目
常闇vs八百万
上鳴vs耳郎
円場vs切島
麗日vs爆豪
緑谷と因縁のある相手──轟 焦凍と当たるのは、第三回戦。
下馬評通りに進めば、決勝で爆豪と当たることになる。
一回戦の渡我、二回戦の心操も、決して楽に勝てる相手ではないだろう。
「……超えて、行かなきゃ」
轟と宣戦布告を互いにしたことで昂りきった気持ちを改めるために、休憩室で休む緑谷だったが──。
考えれば考えるほどに、気は昂るばかりだ。
──できることが増えて、結果もついてきた。
それでも一位には一歩届かず、爆豪や轟相手に敗北しながらここまで来ている。
次は、負けたらそこで終わりのトーナメント。
「……絶対に、勝つんだ……!!」
精神状態はリラックスとは程遠く、スイッチは入ったまま切れない。
今は何も考えずに休むべき場面と頭では分かっていても、自身の心の状態を思うがままに操る術など、緑谷は知らなかった。
──そこに、話しかける人影が一つ。
「やあ、久しぶりだね──出久」
それは、緑谷が今一番を争うほど、話したい相手──レグルスだった。
「──! レオニスさん!?」
「まだ僕をそう呼んでくれるのかな、嬉しいね。でも、レグルスでいいよ。今はその名でヒーローになったわけだしね。ああ、そうだ。その後の経過が順調そうで良かったよ。何せ、教えたことといえば個性の引き出し方、扱い方だけ。君のことだから大丈夫だろうと心配はしていなかったけど、ここまで成長しているとは思わなかったというのが実の所だ。作戦には一貫性があるし、反応も速い。客席でも君に好意的な意見を持つヒーローが沢山居た。鼻が高いね。つまり、君は僕の想像を超えてきた。僕は今満たされている。君の努力による成果が、現在進行形で更新されていく君の道程が、僕を幸福にしている。これは、素晴らしいことだ。もちろん、僕のために出久が頑張っているだなんて驕っちゃいないけど、気持ちとして伝えたかった。これは伝えるというコミュニケーションにおける権利の行使、僕の私財の開示だ。これからも応援しているよ、出久」
「は……はい! レグルス……! あ、あの……聞きたいことが、山ほどあるんです」
ヒーロー名で呼ぶ際には敬称をつけないのが習わしだ。
レグルスが己をヒーローと強調したことから、緑谷は慣習に従って敬称を外したが──どうやら、正解だったらしい。
レグルスは満足そうに頷くと、緑谷の問いかけに対する返答を始めた。
「いいよ。君には権利がある。僕という人間を正確な情報によって知り、慎重に判断する権利がある。それを行使すると宣言するのであれば、幾らでも付き合おうじゃないか」
レグルスの好意的な返しを受けて、緑谷は逡巡した。
正直なところを言えば、断られるか、あるいははぐらかされると思っていた。
だがレグルスは、緑谷に誠実であろうとしている。
少なくとも緑谷の目からは、レグルスは真っ直ぐに見えた。
──どうするべきか。
第三種目の始まる前の貴重な時間を、この事に使うことが果たして、正解なのか。
余計なことを考えず、今は体育祭に集中すべきではないのか。
緑谷が葛藤の末に選んだ答えは──レグルスとの対話だった。
今は、たとえ一人になって瞑想をしたとしても、心を安らげることなど出来ないだろう。
それならば、抱えた問題や疑問、ノイズを一つでも多く少なくした方が賢明だ。
──緑谷は、そう判断した。
「──お願いします。……あの。オールマイトとは、どのような関係だったんですか?」
真っ先に聞くのは、やはりオールマイトの事だった。
古くからの付き合いだというのなら、本人の口から是非とも話を聞きたい。
後継者として──何より、生粋のオールマイトオタクとして。
「君には信じ難いかもしれないけど──世間で発表されている通りだよ。僕は彼の、俊典の師匠だ。俊典っていうのはオールマイトの本名ね。八木 俊典。それと──うん、君に対してはもう少し正確に表現するべきかな。僕は彼の師匠で、師匠のうちの一人だ」
「師匠のうちの一人……」
「オールマイトには僕と後二人、師匠がいたって事さ。OFAの、はち──いや、七代目継承者志村奈々と、その友人だったヒーロー、グラントリノだ。俊典を後継者に推薦したのは僕だけど、その後彼らとは方針を違えてしまってね。事実上、オールマイトを育て上げたのは彼らってわけだ。僕にも事情があって、志村奈々の事は認められないけど、その先達としての手腕だけは評価せざるを得ないかな」
「……方針……?」
「そうだね、これだけじゃ抽象的すぎて何も話してないのと同じだ。君が疑問に思うのも、継承者として全てを知りたいと思うのも当然の事だ。まったく、俊典は教育者としては落第に近いな。君に大切なことを何も話していないなんて」
「お、オールマイトにもきっと色々な考えが──」
レグルスのことを、緑谷は尊敬している。感謝もしている。
それでも、オールマイトのことを侮辱される事だけは許しがたく、口を出さずにはいられない。
レグルスはそれを気にも留めず、言葉を重ねる。
「昔話をしようか。──緑谷 出久。……君に僕が期待する理由も、助力を尽くす理由も──それを聞けば理解できるだろうさ」
「…………はい。お願いします」
──OFAの秘密が、紐解かれる。
※※※※※※※※
「──弟子に、してください」
それが、レグルスの知る八木 俊典という男との、初めての交流だ。
交流という名で額面を飾るにしては、あまりに一方的。
見定めるように無言を貫くレグルスと、言葉を紡ぎ、懇願する八木。
照りつける太陽の下、白と金の髪色の対比が映える。
「──弟子に、してください」
歳にしては体が出来上がっていて、体格が良いこと以外、何も取り柄のない男だった。
戦うための技を、何一つ身につけているようには見えない。
だからこそ、百戦錬磨のレグルスに教えを乞うているのだろう。
「──弟子に、してください」
否。執念があった。
レグルスを真正面から射抜く男の目は、今生きとし生ける誰よりも、綺麗に光っているように見えた。
「君は、どうして戦いたいんだい? 他にやれること、やるべきことなんて幾らでもあるよね。自分に向いていないことを、何故わざわざ選ぶのか理解し難い。人はそれを愚か、と呼ぶんだ。そこを僕に納得させてくれるかな。おっと、薄情だなんて思うなよ。これでも僕は君に譲歩しているんだから。君は、僕が貴重な僕の時間を割いて話を聞いてあげてるってことを、骨身に染みて感謝しながら、慎重に言葉を選ぶべきだ」
目の前の男は──最低限の条件を、クリアしている。
後は、精神だ。
膨れ上がったOFAの力を受け継ぐに値するかどうか──。
「許せないんです。──奪った者が得をする世の中が。──奪われた人の悲しみが憎悪に変換される……この螺旋が」
「──」
レグルスにしては珍しく、返す言葉はなかった。
男の言葉に、聞き入っていた。
「皆が笑って暮らせる世の中にしたいです。その為には、象徴が必要です」
その憧憬は。
目指す姿は、驚く程に──己の描く理想の英雄と一致していたから。
自分には出来ない事だとかつて突きつけられ、それに値する人間を見つける為だけに歳を重ねてきた。
「私が、平和の象徴になります。無個性には──役割がないから」
──報われた。
現れたのだ。今レグルスに必要だった、最後のピースが。
「……君に、会わせたい馬鹿がいる。話はそれからだ」
───。
──。
レグルスがここまで話し終えると、緑谷はおずおずと手を挙げて質問をした。
「ごめんなさい、レグルス。あの……元々、気になってたことではあるんですけど、先に聞いておきたくて、でも忘れてたっていうか、今思い出したっていうか」
「何?」
話を遮られて不機嫌そうに眉根を寄せるレグルスに、緑谷はこの人だけは絶対に怒らせてはいけないのだ、と再確認した。
質問をすること自体は許されたようだったので、緑谷は懸命に言葉を選ぶ。
「レグルスって、どう見てもそんなに年老いてるように見えないっていうか……つまり個性で体の老化を止めてるんですよね? 戦ってる時の『無敵』も、自分の体の時間を止めているから……」
「うん、そうだよ」
「でも、相澤先生──イレイザーヘッドが言ってました。『抹消』でも消せなかった、って。それは何でですか?」
「消えるよ」
「……え?」
レグルスは、そのまま緑谷を指差して、
「君を見れば、ね」
自らの知られてはならない秘密を、容易く暴露するのだった。
※※※※※※※※
──『停止』は原則として、触れたものの時間を止める個性だ。
──自身に適用することはできない。
だが。
だが、たとえば。
己の身から個性が離れたとして。
他者の体の中に、その個性があったとして。
その個性から見た自身、とは。
──一体、誰になるのだろうか。