レグルスさんのヒーローアカデミア   作:いる科

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リゼロのアニメの続き、楽しみですね!
久しぶりの更新なので文体などが若干変わってしまっているかもしれません。
大目に見てやってください。


16.愛の告白

「好きです」

 

「──え??」

 

『あァン!!?』

 

 雄英体育祭も大詰め。

 レクリエーションが終わり、最終種目のガチバトルトーナメントが始まった。

 だが、その第一回戦で緑谷出久を待っていたのは──あまりに場違いな、愛の告白であった。

 実況席のプレゼントマイクも、口をあんぐりと開けて放心している。

 

「好きです、出久くん」

 

 個性こそタイマンには向いていないが、軽やかな身のこなしは脅威に値する。

 ──そう分析し、驕ることなくあらゆる戦術パターンを予想、対策していた緑谷だったが。

 

「え、あ、え……あえ!!?」

 

 混乱と焦燥、そして緑谷は顔を真っ赤にして顔を背けた。

 

 ──まさかの、致命傷である。

 

 女子とまともに会話することでさえ、緑谷には難易度の高いミッションだというのに、愛の告白などまともに受けられるはずもなかった。

 

 緑谷の予想だにしなかった、『自身に恋をする女子』という脅威が──そこにあった。

 

 

 どうする、緑谷出久。

 頑張れ、緑谷出久──!!

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 もう、耐えられない。苦しい。

 あなたになりたい。

 あなたになって、あなたの全てを知って、感じたい。

 一緒になりたい。殺したい。二人一緒に死んで、血を混ぜ合わせられたら、どれだけ素敵なことだろう。

 

 こんな思考を少しでもしていることが白い悪魔にバレたら、きっと殺されてしまう。

 雄英にいれば、ここで暮らしていれば、自分にもフツウというものが分かるかもしれないと希望を抱いていた。

 

 もしいつか。

 いつかその時がきたら──かつての渡我被身子は笑い話にできる。

 

 だが、現実はどうだろう。

 緑谷 出久への恋は募る一方で、血を吸いたくて、殺したくてたまらない。

 もっとボロボロになって、体の中身を全て見せて欲しい。

 

 ──わかっている。こんな事を思うのはフツウではない。

 フツウの事は何も理解できないが、自分がフツウでない自覚だけはあった。

 

 もう、良い。

 こんなにも苦しいのなら、どうしようもないのなら──いっそ。

 

 いっそ彼に全てを打ち明けて、恋の気持ちを伝えて──死んでしまおう。

 そうすればきっと、きっと──シアワセになれる。

 

「好きです」

 

 ──白い死神が見ている。

 

「好きです、出久くん」

 

 死ぬことは、分かっていてもこんなにも怖いことなのか。

 それでも──そうだとしても。

 生きる苦しみよりもマシだと、もう渡我は思ってしまった。

 この死への歩みは、誰にも止められない。

 

「好きになって、ごめんなさい。ごめんね、出久くん。あなたの血が好きなの。全部見たくなるの。血を吸いたいの。全部全部一緒になりたくて、たまらないの」

 

「え……?」

 

 緑谷の困惑は、当然の反応だ。

 それでもいい。それでも。

 

 いっそ、自分の全てを否定してくれたら。

 

「ごめんね、出久くん。私、ヴィランなの。根っこが、性根が、ヴィランなの。あなたになりたいの!! あなたを、傷つけたいの……!!!!」

 

 

 そうしたら──楽になれる。

 

 

 目を瞑って、思い出に浸る。

 人生思えば、色々なことがあった。

 辛いことが沢山あったけれど、嫌なことばかりではなかった。

 

 優しくなった父と母は、トガの心の病気に親身に接してくれた。

 思えば──この恐怖だけは、フツウの感情なのかもしれなかった。

 

 それならば、この死は、フツウへの反逆だ。

 死への──フツウの恐れを振り切ってしまったのだから、やはり自分はフツウではないのだ。

 

 

 どうしようもなく──。

 

 

「……渡我さんは、ヴィランなんかじゃないよ」

 

「…………え?」

 

「えっと……血がみたい、とか、そういうのは僕にはよく分からないけど、でも」

 

 

 ──嫌だ。

 

 

「僕は、君のことを知りたいと思ったよ」

 

 

 ──嫌だ。

 

 

「こういうとき……なんて言ったらいいか、分かんないけど。気持ちを打ち明けてくれて、本当に嬉しい」

 

 

それ以上は、やめて。

 

 

「誰かになりたいっていうの、僕も少しはわかるよ。だって僕は、オールマイトに憧れて、ここまで来ちゃったから」

 

 

 ──希望を、持たせないで。

 

 

「……絶対、渡我さんはヴィランなんかじゃないよ。だって────」

 

 

 彼の手が、頬に触れる。

 温かくて優しい、男の子の大きな手。

 いつまでも、こうして居られたら。

 

 こうして、居られたら──。

 

 

「君はこんなにも苦しんで、泣いているじゃないか」

 

 

 緑谷出久は、私の期待を裏切った。

 否定してくれればよかった。

 あの日の、父と母のように。

 

 そうすれば、全てを諦めて、恐怖を捨てて死ぬことが出来たのに。

 

 これでは──。

 

 

「……どうして?」

 

「…………えっと」

 

 

 これでは。生きたいと、思ってしまう。

 どうして。なぜ。

 どうして、今になって。

 

「どうして? わたし、いま、あなたを傷つけるって、言った……!! おかあさんは、わたしがそういうとぶつの。おとうさんは、にんげんじゃない、っていうの……!! いずく、くんはっ……!! どうして、やさしくするのっ……!!」

 

「──君が、僕に優しくしてくれたからだよ」

 

 嘘だ。そんな覚えはない。

 渡我被身子は、一度たりとも緑谷に対して、フツウの感情を持ったことなどない。

 フツウじゃないものは、フツウなものに対して害でしかないとわかっている。

 だからこそ──ヒーローと、ヴィランなのだ。

 

「傷つけたいと思ったなら、どうして傷つけなかったのかなって、思ったんだ。──分かる、なんて言えないけど、君がそれで苦しんでるって……僕のために苦しんでるのかな、なんて……」

 

「ちが、う……ただ、わたし、は。トガは。こわくて……」

 

「それでも、僕は渡我さんの中に優しさがあるって思ったんだ。だから……時間をかけて、君のことをゆっくり教えて欲しい」

 

 ──ああ。

 

 渡我被身子の中で──何かが、決定的に変わった音がした。

 この人のために、この愛しい人のために何かがしたい。

 何をしてあげられるのだろう、と。

 

(これ、は……何……?)

 

 この感情の名前を、渡我は知らない。

 今までのものとは違う。

 ただ、緑谷になりたいだけではない。

 

 彼の顔が前よりもずっと、くっきりと見える気がする。

 それは、きっと──彼が渡我被身子という存在を見つめて、この世にあるものとして接してくれたから。

 

 

 あるいは──この気持ちを、愛と呼ぶのだろうか。

 

「それと血だけど、僕で良かったら全然あげるからね……!! 吸い尽くされたら死んじゃうからダメだけど、渡我さんのためなら、ちょっとくらい……!!」

 

 腕を捲ろうとする緑谷を、渡我は慌ててとめた。

 それこそ、数刻前の自分であれば喜んで飛びついていたであろう提案に──渡我は首を横に振った。

 

「だ、ダメです!! や、やっぱり、撤回、します。わからないです。わからないですけど、トガ、もう、出久くんを傷つけたいって、思ってないかも、しれないのです」

 

「……そ、そうなの?」

 

「でも、それもきっと。出久くんのおかげ……なのです」

 

「…………そっか」

 

 

 死への恐怖が、フツウへの嫌悪が、理解されないカナシミが──温かい幸福に、塗り変わっていく。

 

 恋とは、愛とは。

 本当は──こんなにもシアワセなものだったのか。

 

 勘違いしていた。

 相手から全てを貰いたいと願うことが、恋なのだと思っていた。

 

 違った。

 

 欲しいと思う気持ちと同じくらい──あげたいと思えるこの気持ちが、きっと。

 

 渡我被身子を、幸せへと導いてくれる。

 

「えっと、渡我さん。それじゃあ……今は戦おう!! その中で、君のこと、もっと教えて欲しい!!」

 

「……うん」

 

 本当のことを言えば、渡我は舞台を降りて、勝利を譲る気でいたのだが──。

 それが彼のためにならないということを、彼の真っ直ぐな瞳を見て理解した。

 

 そこには、人の気持ちが分かる喜びがあった。

 

「じゃあ……行くよ!!」

 

 結論から言えば──渡我被身子は数秒の攻防の末に、敗北した。

 身のこなしのかろやかな彼女も、身体強化の個性とシンプルなタイマンとなってしまえば、この差を埋めることはできない。

 逃亡・奇襲などの搦手こそが、彼女の真骨頂であった。

 

 だが──敗北してなお、渡我被身子の心境はこれまでにないほど穏やかで、幸福に満ちていた。

 

(トガ、血なんて吸わなくても──少しだけ、出久くんになれた気がしました。とってもやさしくて──相手のために、みんなのために。傷だらけになりながら、がんばるの)

 

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