レグルスさんのヒーローアカデミア   作:いる科

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レグルスの過去などの関係で、ここから原作にない独自設定や独自解釈が多くなってくるのでご容赦ください。
原作設定を破壊しないよう尽力いたしますが、齟齬などあった場合には教えていただければ幸いです。



7.炎熱と剛翼

 だだっ広い演習場の中、隅で忙しなく働いているのは、マスメディア業界の看板を背負う者達だ。

 それは、これから行われる戦闘が全国に中継されることを示している。

 

「エンデヴァーさん、あいつ何者なんですか? 俺あんま詳しく知らされてないんすけど」

 

 軽薄に振る舞うのは、早すぎる男と称されるウィングヒーロー、ホークスだ。

 無論、実際には奥にいる白い男──『無欲』のレグルスについて、十分すぎるほどの情報をホークスは与えられている。

 かといって、エンデヴァーの情報網を探ろうといった昏い魂胆もない。

 単に、エンデヴァーと軽く雑談がしたいだけだった。

 

「……ヴィランだ。それ以外に何か必要か?」

 

 ホークスとは対照的に、エンデヴァーは重苦しい威圧感を纏っていた。

 ああこれは不機嫌なやつだな──と、ホークスは瞬時に察しながらも、めげずに会話を展開する。

 

「そりゃぁ、まぁ。それくらいは知ってますが……ただのヴィランにしては、やけに高待遇だなーと」

 

 この演習場自体、借りるのは容易なことではない。都内でも最も知名度があり、収容人数も多く、最新設備による頑強な環境が、あらゆる負荷を演習場内に閉じ込める。

 ──人一人をヒーローに仕立て上げるために、ここまでする必要があるのか。

 レグルスについての情報を多く知っているホークスでさえ、そう思わざるをえなかった。

 

「俺は認めん。最大最悪の連続殺人犯が、ヒーローになろうなどと……認められるものか」

 

「まぁ、そこは世論次第ってことで。そのためのコレでしょう?」

 

「……茶番に付き合う気はない」

 

「それは、俺だってそうですよ。やるからには全力で行きます。人殺してるって話だし、手加減する理由もないんで……まぁ要するにウィンウィンって事ですよ。こっちが勝てば最悪の殺人犯を刑務所にぶち込める。あっちが勝てば、アンタッチャブルとしてヒーロー認定……簡単な話でしょう?」

 

「それが、気に入らんのだ」

 

 エンデヴァーは、ヴィラン一人にトップヒーロー二人を挑ませるこの構図が心底気に入らないのだ。

 オールマイトを追いかけ、己の限界を知り、ナンバー2の座を手にした今。

 己よりも上がまだいる、と言外に示された屈辱は、筆舌に尽くし難い。

 

「……なるほど。確かに、二人がかりっていうのは舐められてる感じはしますね。じゃあ──結果で、示すしかないですね、マイヒーロー」

 

「……ヒーローとはいつ如何なるときでも、そういう仕事だ」

 

 エンデヴァーが目を閉じ、瞑想に入ったことで会話は切り上げられた。

 負ける訳にはいかない。

 最後に立っているのは、ヒーローでなくてはならない。

 エンデヴァーは、僅かに露出しかけた己の弱さを。

 得体の知れない敵に抱いた恐怖を、静かに打ち消した。

 ──己が胸に怒れる矜恃を、力に変えて。

 

 ホークスは肩を竦め、奥で退屈そうに振る舞うレグルスを見遣る。

 

「まあ、やってる事は大差ない気もするな」

 

 公安直属のヒーローとして、ホークスは多くの犯罪者を闇に葬ってきた。

 レグルスは子供の万引き──窃盗犯でさえ躊躇なく手にかけていることから、程度の違いは勿論ある。

 あるにせよ、殺人を犯しているという観点では、同類の必要悪であることに違いはなかった。

 事実として、レグルスの滞在する街の犯罪率は極端に下がるのだ。

 命の危機は、人の足を竦ませるには十分すぎる。

 

 無論、必要に駆られてやっているだけの事で、ホークスは殺人に肯定的ではない。

 自ら率先してやっているレグルスとは、そこに明確な思想の違いがある。

 だとしても。

 

「あなたとは、しっかり話してみたいんだ」

 

 ホークスは、レグルスの見据える景色を知りたかった。

 

 

 

 ※※※※※※※※

 

 遡ること、数週間前。校長室にて。

 根津は持ち前の五感で待ち人が来たことを察知し、今しがた片付けていた書類を隅に避けた。

 物事には、大抵優先順位があるのだ。

 

「呼び出してすまないね。オールマイトと話してたんだろう?」 

 

 根津の腰の低い物言いに、気を良くした待ち人は雲よりも軽いその口を開いた。

 

「いいよ。君が僕に対して礼を尽くしているし、何より今の彼とこれ以上話しても、得られるものは何もなさそうだしね。理想が高いことはいいことだけど、僕には僕のやり方があるんだ。それを、僕が彼にそうしているのと同じように、尊重して欲しいってだけなのにさぁ。いや、もうその事はいい。それより──そう。君。君だよ! ほんと、雄英の職員リストを見て君が校長だと知った時には笑いが止まらなかったな!! あの時君を獣だと罵っていた時代錯誤の馬鹿どもは、今頃大いに反省しているに違いないねぇ!!」

 

「HAHAHA!! そいつは最高のシチュエーションだ! 頭に思い描くだけでも酒がススむね!! ……ああ、本当に、懐かしい。その姿。昔と何も変わらない。君がヴィランとして報道され始めたあの日からずっと、私は君と話がしたかったのさ」

 

 根津は、生徒を危険に晒すようなリスクは決して容認しない。

 そんな彼が、ヴィランが雄英に居座るという重大な事態を容認したことには、明確なひとつの理由があった。

 それは──。

 

「友人として、ね」

 

 根津が、レグルスと古い友人であったからだ。

 かつて雄英高校で共に教鞭を執った、仲間だったからだ。

 たとえ殺人に手を染め、ヴィランに堕ちたとしても。

 道を違えたとしても、根津はレグルスのレグルスらしい所を、貫いている筋を、かつて尊敬さえしたその意志を知っていた。

 

「聞くだけ聞いてあげよう。ああ、でもそうだ。先に一つ言うことがあった。大丈夫、そんなに警戒しなくていい、ちょっとした前提の共有みたいなものだから。勘違いしないで欲しいんだけど、君や雄英に対して配慮しているのはね、元同僚のよしみなんかじゃない。あの時の僕は既に過去だ。過去のしがらみに囚われて、今生きる時間の選択を間違うなんて、考えなしの阿呆のやることだよ。僕は断じて、そうじゃない。わかって欲しいのは、長くて退屈な発化の話でも、我慢して傾聴するだけの器は元より持ち合わせているって事さ。君の話す権利を侵害するような真似は、僕には出来ないんだよ。それに、今は火急の用事もない。むしろ、僕の立場を明確にするために君たちが忙しなく動いている間、暇で暇で仕方がないんだよねぇ!」

 

 ──早く話を終わらせて、事態を収拾しろ。

 酷く婉曲的に表現されたその本音を、個性の発現した唯一の動物──根津 発化の強化された脳みそは、正確に読み取った。

 

「全く。今となっては、私のことを下の名前で呼ぶのは君だけだぜ……スバル。少し雑談をしたい私の気持ちも汲み取ってほしいものだ。40年ぶりの再会なんだから。……昔のことを思い出さずにはいられないのさ」

 

 根津は、あの頃は自分も若かったと感慨に耽った。

 それほどに、当時からレグルスは同じ姿で、面倒な性格にも変わりがない。

 レグルスが根津と共に教師を勤めていたのは、八木俊典が生徒として在籍していた三年のみだったが──実に濃密な三年間だった。

 

「……? すばる……? あぁ、そんなふうに名乗ってた時期もあったかな。そうか、教師の時だったか。でも、その名前は偽名だよ。捨てた名だ。価値のない名だ。今の僕を表すことはできない。今の僕に対して、過去の僕の表象を押しつけるってことは、過去から今への僕の変遷を、生き方を、道程を、否定するってことだ。それは僕の権利の侵害だ。今すぐに撤回しろ。価値のない過去を掘り返すんじゃない。それとも、僕の数十年の足跡を否定するつもりなのか?」

 

「あー……うん。撤回、撤回するよ。すまなかったね。……本当に、相変わらずなのさ。君は」

 

「それで? さっさと本題に入って欲しいな。他人の時間を無為に費やすことがどれだけ酷い行いか分かるだろ?」

 

「さっき暇って言ってたのにその言い草……。……じゃあ本題。私たちはヴィランの活性化に備えて、君のその力を借りたい。君は、緑谷 出久を育てたい。互いの欲しいものが一致しているなら、簡単な話さ。──君にはまた、雄英の教師になってもらうのさ!! HAHAHAHA!!!」

 

「なるほど……? それはいい提案だよ発化。実際、ヴィラン扱いされるのもそろそろ面倒になってきたんだよね。社会の判断だから、世の理がそう決めたことだから、僕一人の為に世の中の形を変える訳にはいかないから、従っているけどね。僕は理性的で善良な市民だから、より大勢の決定に反意を示すつもりはないさ」

 

「そこは端的に、気に食わないから助かる、って言っていいんだぜ」

 

 と、簡単に言ってはいるが。

 レグルスをヒーローに仕立て上げ、雄英に迎える事にはそれなりの関門がある。

 USJで生徒を守った輝かしい実績は、存分に活用するとして。

 他に、国の上層部を、そして国民を納得させるために何が必要か。

 根津は持てる知識とアイデア、そして大人の汚い力を総動員して──。

 

 そして数週間後。

 事態は、レグルスとトップヒーローの戦いを中継する、前代未聞の形に着地したのだった。

 

「どこからでもかかって来なよ、ヒーロー。僕は君たちを尊敬しているんだ。ホークス、エンデヴァー。これ程光栄な機会はないね」

 

「何を勘違いしているか知らんが。……ヴィランと交わす言葉はない……っ!!」

 

 ──溜めて、点で放つ。

 エンデヴァーの奥義、赫灼熱拳がレグルスのみぞおちに直撃する。

 

「のわぁぁああっ!!?」

 

 轟々と燃え盛る炎熱の閃光に伴うレグルスの情けない悲鳴が、戦闘開始の合図となった。

 この頂上決戦は後に、レグルスの異常性を全国に知らしめるものとして。

 歴史に、確かな足跡を残すことになる。

 

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