「ただ今よりこの東京第一演習場で行われますのは、なんとあの『ヴィラン殺し』レグルスと、トップヒーロー、ナンバー2の呼び声高い、フレイムヒーローエンデヴァーと、速すぎる男、ウィングヒーローホークスとの戦いです!!」
あまりに強烈なタイトルと、ヴィラン殺しがヒーローに喧嘩を売るという構図。
エンデヴァーとホークスという、オールマイトを除けば最も豪華な人選。
特に、インターネットでの反響が非常に大きく、
『ヴィラン殺しが捕まったら犯罪率上がるくない? 犯罪しない人からしたら無害どころか有益なんだし、捕まって欲しいと思ってる人全員ヴィラン予備軍でしょw』
『法律上ヴィランなんだから、法治国家に例外は許されません。何のためのヒーロー免許かよく考えてから発言してください』
『#政府の陰謀
#騙されないで
#治陀辞任しろ
ヴィラン殺しレグルスは元々日本政府所属の人間で、依頼を受けてヴィランを殺害していました。これは全て治陀総理の元、政府によって画策された壮大な茶番です。これを許せば、ヴィラン殺しレグルスは政府に利用されたまま、その命を落とすことになるでしょう。私たちは真実に気づけないヒーロー脳の人々をすくうため、日々波動によって視た"真実"を発信しています。詳細はプロフィール記載のwebサイトから』
『出ました陰謀論者www んなわけねーだろカス、救いようなくてウケるわ』
『なんでヴィラン殺しって今まで捕まってなかったんや?』
『そら強いからや 個性無敵らしいで』
『ほえー、サンガツ。無敵とかえぐすぎやん なら尚更ヒーローになればいいのに、頭悪いんやろな笑』
『ヴィラン殺しの顔初めて見たけど、顔良すぎて死ぬwww どちゃくそタイプすぎて横転。私も殺されたいから軽犯罪しようかな……』
『不謹慎すぎて胸糞悪いわ 実際に亡くなった人の家族の気持ちとか考えられんのかなこういう奴』
『ヴィラン殺しが勝つと思う方はいいね、エンデヴァーとホークスが勝つと思う方はRTお願いします!』
『ヴィラン殺しって雄英助けたんでしょ? 実質ヒーローじゃん何があかんの』
『マジで強いんだから、殺しやめてヒーローになってくれればいいのにな、知らんけど』
『エンデヴァー舐めてんじゃねえぞヴィラン殺し!! 痛い目見ろや!!』
『これヴィラン殺し視点負けたらクッソ恥ずかしいやろ』
ヴィラン殺しに同調する者。許されないと糾弾する者。
便乗して数字を稼ぐ者。ありもしない嘘をつき、混乱を招こうとする者。
──波紋が波紋を呼び、レグルスの名はついにはSNSのトレンド1位を独占し、番組の視聴率は60%をマークしていた。
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『赫灼熱拳ジェットバーン』。
エンデヴァーの奥義の一つであるその技をノーガードで食らい、気持ちよくぶっ飛ばされたレグルスを眺めながら、ホークスはエンデヴァーに確認をとる。
「エンデヴァーさん、感触どーです?」
「分からんな。やった手応えは間違いなくあるが、『無敵』の噂が本当ならば効いていないだろう」
「そこは、『無敵』じゃない、って本人が言ってたらしいですけど。その発言信用するかどうかはともかくとして、個性のからくりを解かなきゃ何も始まんないっすね」
「同感だ。なにか気づいたことがあれば言え。長期戦は奴の有利になる」
「熱、篭っちゃいますもんね」
エンデヴァーは端的に要求を述べ、炎を噴射して飛び出す。
この戦いにおける、エンデヴァーとホークスの勝利条件は、レグルスを1時間以内に戦闘不能にすることだ。
戦闘から情報を集め、個性のルールを看破し、攻略しなくてはならない。
レグルスは、この戦いの直前にあった簡単な答弁で、『二人には手を出さない』と約束している。
この有利すぎる条件で勝てないというのなら、何のためのヒーローか。
エンデヴァーの向かう先には、無傷のレグルスが顔を歪めて立っていた。
否。立っていたという表現は語弊がある。
何故ならレグルスは、さも当然かのように宙を歩いていたのだから。
「あの、さぁっ!! 確かに僕は先手を譲ったさ。でもそれは君たちへの礼儀であって、礼は互いに尽くし合うからこそ意味のあるものだよねぇ!? それを一方的に利用しておいて、話し合いの土俵にも立たないなんてどうかしてるよね!? 僕の権利の重篤な侵害だよ、エンデヴァー!」
「ヴィランに権利などあるものか。俺は俺のやるべきを果たすだけだ──『赫灼熱拳ヘルスパイダー』!!」
エンデヴァーの五指から放たれた熱線が、レグルスを襲う。
本来であれば、人体などいとも容易く焼き切れる高熱の斬撃だが──そうは、ならなかった。
代わりに、エンデヴァーによって緻密に制御された熱線はレグルスに絡みつき、まるでイレイザーの捕縛布のように拘束した。
「ぐへぇぁっ!!? ──ああ、もうっ、学ッ、習、しなよ!! 効かないんだってさぁ!! それとも頭が足りてないのかな、それじゃあ折角の火力も残念だよねぇ!!」
激昂するレグルスの神経を逆撫でするように、ホークスは死角から攻め入った。
「なぁっ!?」
凄まじい速度で二刀流の風切羽を振り抜くも、レグルスには傷一つない。
「認識されてなくてもやっぱダメか」
「ならば攻め方を変える!!」
「了解です。力お貸ししますよエンデヴァーさん!」
エンデヴァーはそのまま、ホークスの『剛翼』によるアシスト──推進力を得て、レグルスに抱きついた。
「はぁああ!? ちょっと、あのさァ!! 僕は確かに君のことを尊敬してるとは言ったけど、それはヒーローとしてって事で、オッサンと抱擁を交わす趣味なんてないんだけどなぁ!? 加齢臭嗅がされるこっちの身にもなってみなよ、人をイラつかせる天才かな君は!! コケにしやがって!」
「すまんがじっくりお付き合い頂こう!! うおおおおお゛っ……!! ── 『プロミネンスバーン』ッ!!!!」
エンデヴァーの策略は、まったく、シンプルな発想だった。
瞬間的な火力が効かないのならば、持続させる。
イレイザーのように、個性にインターバルがあるのならば、これで突破できるはずだ。
「ああ、そういうこと? くだらない策謀だな。そんな幼稚園児でも思いつくような弱点がこの僕にあると思うのか? あるならそもそもこんな戦い引き受けないんだよね。ちょっと考えれば分かる事だよねぇ!? 腐っても二番手なんだろ、僕を失望させるんじゃない!」
だが、通じない。
レグルスは拘束を容易く引きちぎり、エンデヴァーの首を掴むと、そのまま地面へと投げ捨てた。
「これくらいなら、手を出した内には入らないだろう? 正当防衛だ、僕の権利だ」
「ぐっ……!!」
「大丈夫ですかエンデヴァーさん!!」
レグルスの癇癪によって乱暴に投げ出されたエンデヴァーを、地に落ちる前にホークスが回収する。
「問題ない。──ホークス。なにか、気づいたことはあるか?」
ホークスは思考を張り巡らせる。
エンデヴァーのサポートをしながら、レグルスを360度観察したその生のデータから、一つでも多く弱点を洗い出す。
「そうですね……騎士道精神、ってほど高尚なものじゃないはずですけど……攻撃を避ける気は全くないみたいですね。気がないっていうのは違うか……? そう……まるで──まるで、個性のせいなのか、避けるって発想が元からないみたいでした」
「そのようだな。腹立たしいことこの上ない」
「でもまさか、燃やし続けても意味がないなんて。それじゃあ呼吸さえも必要ないってことに──」
赫灼熱拳の奥義、『プロミネンス・バーン』はまさに最強の必殺技だ。
発散される熱の総量もさることながら、燃焼によって、空気中の莫大な量の酸素が消費されることの意味合いは甚だ大きい。
エンデヴァー自身、『プロミネンス・バーン』を使用する際には呼吸を止めていなければならないのだ。
だが、レグルスはどうだ。
燃やされながら、炎の中で流暢に喋っていたではないか。
他の個性による自身への影響を消すだとか、見えないバリアで攻撃を防いでいるだとか、そういう次元のモノではない。
もっと、恐るべき強大なナニカ──。
その時。ホークスに電流走る。
だが、それを言うべきか、ホークスは迷った。
確証は何もない。
「なにか気づいた顔だなホークス。言ってみろ」
逡巡するホークスの背中を押したのは、エンデヴァーだった。
今は確証のない、価値の薄い思いつきだとしても、全て言葉にして共有するべき状況だ。
「……エンデヴァーさん。抱きついた時、彼の体温はどうでしたか!?」
「体温だと?」
聞き返すエンデヴァーに、ホークスは言葉を重ねる。
「熱かったですか? 冷たかったですか? それとも──」
「……いや。そうか……大して気にもならなかったが、よく考えてみればおかしい。熱くも冷たくもなく……まるで、物のようだった。およそ人の感触ではない」
「……やっぱり。そもそも、本来なら熱くなきゃおかしいんだ。エンデヴァーさんの炎をまともに食らいながら、寸分の狂いもなく常温であり続けるなんて有り得ない。エンデヴァーさん、よく聞いてください。もしかしたら、彼は──」
続けてホークスは、にわかには信じられないことを言った。
「──彼は、今、生きていないのかもしれません」
ホークスの意図を察しかねたエンデヴァーが、眉をひそめる。
「……何を言っている? 奴はピンピンしているぞ」
「違います、エンデヴァーさん。仮説ですが……これは、広義での生命活動を行っていないという意味です……つまり、彼の時間は止まっているのかもしれない」
「……時間が止まっている、だと?」
「もうこんなの、俺の想像の話……飛躍した、概念的な話になっちゃいますけど……。世界でたった一人時間の止まったまま、つまり、外界からのあらゆる影響を受けない状態になっている、としたら辻褄が合うんです。宙に浮いている理由も、エンデヴァーさんの熱を受けて平気な理由も、呼吸を阻害されて平気な理由も……今まで報告されてきた『ヴィラン殺し』の逸話にも、それで全て説明がつくんですよ」
ようやく、エンデヴァーはホークスの言わんとする所を理解した。
「……であれば、どうする? お前の仮説を真と置くとして、奴の弱点はなんだ。見当たるようには思えんぞ」
「そこまでは、まだ分かりません。ただ……あんな悲鳴をあげてたんだ。人生ずっと無敵でいられているなら、あんな反応になるはずがない。それに……そうだ! 仮説を証明する方法を今思いつきました。……エンデヴァーさん──彼の心臓が鼓動しているか、確認してください……!!」
「了解した」
エンデヴァーとホークスは、レグルスの個性を至極正しく分析していた。
特にホークスのアイデアは、賞賛に値するものだ。
だが、駆け出したエンデヴァーに、レグルスは告げた。
「──楽しい話し合いは終わったかい? 僕を一人孤独にして、酷い人達だよ本当。よし、もうやめだ。やめにしよう。これ以上は時間の浪費だ。僕にも、君たちにも、もっと他にするべきことがある」
「…………は?」
レグルスは、手をひらひらと振って、降参を宣言した。
──まるで意味が、わからなかった。