――わたしにとってダンテスという少年は、仕方のない子だった。
「いいか? お前はオレの奴隷で、オレはお前のご主人様だ。分かったら返事をしろ!」
「…………」
「くそ、今日も駄目か。ならこれでどうだ!」
「………………え……?」
「お、おおおっ! ふはははは、ついに反応したか!」
わたしが気が付いた時、そこにいたのは妙に得意気な顔でこちらを見る銀髪の男の子だった。
「5日もかかるとは思わなかったが、もはや過ぎたことだ。これでようやくプランが進められるんだからな!」
何言ってんだコイツ。そう思った私の喉は何故か音を発することはなかった。
不審に思って手を当てようとして、ようやくわたしは自身の身の変化に意識が向いた。
「あぇ……なぇあ……?」
思っていたよりもずっと小さい手。それがわたしのものだと分かってから、以前のわたしとは何もかもが違っている事を認識した。
それは髪の色であり、年齢であり、肉体であり、生であり、世界だった。今のコレが夢でないのなら、もはや生まれ変わり位しか思いつかない。それほどの変化にわたしは衝撃を隠せないでいた。
「さて、それでは今日もお前を抱いて寝るとしよう。ユリカはその為にオレが買った奴隷なんだからな」
「っ!?」
そんなわたしを更なる驚愕の事実が襲う。転生したら奴隷だったという、どん底にも程があるスタート。けれど文句すら言えないままにこの少年のされるがままとなり、そして――
「…………これ、抱き枕だ」
本当にぎゅっと抱き締められて終わる日々が続くことになった。なんなの、この仕打ちは。
最初の数日は何も分からない不安と恐怖で眠れなかったり震えたりしたが、やはり人は慣れる生き物であるらしい。ダンテスという少年が来る夜中以外はベッドでゴロゴロしてるだけだったのも救いではあったのかもしれない。ぬくぬくでよかった。
「久しぶりかも、こんなにゆっくり出来るなんて」
その果てには思い出せた前世と今の境遇を比べられるまでになっていた。
思えば仕事と趣味に奔走していた前世。満足も不満もそれなりにあった人生だが、思い返してみるとこうしてゴロゴロ出来ていたのは何時の頃までだったか。灰色の社会人生活を思うだけで、今の抱き枕生活を悪くないと感じられる気すらした。
「くそ……、今日も駄目か……!」
「ご、ご主人様?」
そうしてようやくわたしは他人の事、すなわちわたしの主人であるダンテスに意識を割けるようになった。ここ数日は焦りや苛立ちを隠せずにいる、そんな年相応な彼の顔を見た。
「……どうしたユリカ。オレの顔に何かついているか?」
「……ううん。なんでもない」
その顔には見覚えがあった。何モノにもなれない事を嘆く、若い人間の顔だと知っていた。
ダンテスは所謂皇子さまという奴らしい。
今のわたしみたいな小さな子を奴隷と称して抱き枕にしたり、時折来る大人を何故かスマホの催眠アプリっぽい何かで撃退したりするが、一応は皇子さまらしい。
なら王様になる将来が決まっているのかと言われれば、それもまた違うとのこと。彼には2人の兄がいて、今はその優秀な長男の方が後継者に相応しいとされているらしい。憤慨しながらダンテスがそう教えてくれたので多分そう。
「足りない……まだ足りないと言うのか?! 剣も魔法も頭脳も何もかも、あの兄の足元にも及ばないだなんて……!」
「…………」
彼はそんな現状を認められず、私を抱きながらも足掻いていた。けれどそれを見るわたしの目は、きっと冷めたものだった気がしている。
この身体になってから光が灯せないのもあるけれど、それ以上にわたしの内を占めていたのが達観だったからだ。
詳しく聞けばダンテスと兄2人にはそれなりの年の差がある。更には本人も認めている通りの実力差があるのだろう。それを覆そうというのなら、並大抵の事では届かない。
「ダンテス様。やはりあのお二方と同じ内容をこなすには無理があります。貴方様にはまだ早いのですよ」
「うるさい! オレも皇子なら出来るはずなんだ。追いつけるはずなんだ! だからつべこべ言わずに明日もこなすぞ、いいな?!」
「いいえ、それには貴方様といえど従えません。明日からはまた別の課題を――」
「《いいから言うことをきけぇ!》」
そう言ってスマホを突きつけ、諭しに来たのだろう男性を追い返す日が何度かあった。
端から見ていただけのわたしにはどちらが正しいのかは分からない。けれどその男性にあったのは優しさとも、憐憫とも取れる笑みだった。
そんな出来事から推察できるのは、ダンテスが何かしらの無理を通そうとしている事だ。しかし彼はその理を超える方法を見つけられる様な天才ではなかった。だからダンテスの停滞と苦悩は何もおかしくない。
だからわたしにとってもその光景は珍しくなくて仕方のない事だと、そう思っていた。
「……オレはやれる、やれるんだ……!」
けれども彼の漏らす弱音を日々聞かされていれば、心の1つくらいは揺れ動く。それ位にはわたしは人間だったらしい。
別に彼に好意を抱いているわけではない。むしろ抱かれているのはわたしの方だし。
けれども前世の記憶から来る年長者としての意識が、彼を嫌いだと感じさせなかった。
だってダンテスはまだ子供だ。例え今のわたしの方が幼く見られていたとしても、一人で悩み迷う彼の姿は身寄りのいない子供のそれに見えてしまったから。
「だからわたしとしては、もう少し位はこのままで面倒を見てあげても良いかなって思わないでもないんだ。抱かれるだけで済んでいるのならって前提ではあるけどね」
ダンテスを救いたいわけではない。彼を正しい方向に導けなくとも、わたし一人くらいは彼の側に立ってあげてもいいと思った。
「……仕方ない子ね、全く」
一応はわたしに食と住を与えてくれた義理として、その分くらいはもう少しだけ返してあげる為に、わたしは彼に触れる事を選んだのだ――。
☆
「……ご主人様、さむいの?」
「…………え?」
自室のベッドに腰を下ろしていたオレ、ダンテスはその問いかけに首を持ち上げた。
そこにいたのはオレの奴隷である金髪の幼女ことユリカだ。その接近に気付いていなかったオレは、遅れてそう反応するのが精々だった。
「わたしを抱きしめれば、さむくなくなる?」
「いや、別にオレは寒くなんて……」
己を抱けとばかりに腕を広げてくるユリカ。その気遣い自体は嬉しいが、今回のはそれで解決するような問題じゃない。
オレの身体に触れてきた手を外そうとして、逆にまた触れられてしまった。感じる熱が、また増えていた。
「だってその顔は、さむい時のだから。誰もいなくて震えるわたしと、おなじ顔だから」
「……お前にも、そう見えるのか?」
こくりと頷くユリカの目に光はない。けれどその瞳に映るオレの姿がそうであるというのなら、きっと見間違いではないのだろう。
「ならそれは勘違いだぞユリカ。今のオレは寒くなんてない。そう、今はちょっと考え事をしていただけだ。お前が心配する事なぞ何もないんだ」
「そう、なの?」
首を傾げるユリカに対して、けれどもオレはその強がりを通そうとする。
それは言ってしまえばただの意地だ。けれどこの場で明確にオレの下にいるユリカにだけは、弱気な所を見られたくないと思ってしまった。
「当たり前だろう? オレはお前の主人なんだからな。主が従者にそんな情けない姿を見せるわけがないだろう」
「……なら、いい」
そんな一心で紡いだオレの言葉を信じたのか、ゆっくりとオレから手を離すユリカ。
しかしどことなく納得していないような気がしたから、オレはユリカに尋ねてしまっていた。
「なぁユリカ。お前は今までの話を聞いていたか?」
「……うん。よく、わかんないけど」
申し訳なさげに言うが、ユリカはオレよりも更に幼い少女だ。王女かどうかは知らんが、完璧に理解しているという事はないだろう。
「なら一つだけ聞かせろ。お前は、オレに抱かれて良かったよな?」
だから代わりに聞いたのは、そんな質問だった。
我ながら意地の悪い問いだ。プランが破綻している末に救いを見出さんとする、愚かな確認だ。
けれどそんなオレの我儘に、ユリカは――
「…………………………………………わるく、なかったよ」
めっちゃ時間をかけた上でそう答えた。ちょっとヒヤッとした。
「そうか、悪くはなかったか。その言葉は本当なんだな?」
「一つだけじゃ、ないの?」
「あ、ああそうだな。自分で言った事を曲げてしまうのは良くない事だ。よし、今のは無しにしよう、うん」
ジト目でオレの疑いを咎めてくるユリカ。なんか今日は調子の狂う事ばかりだが、それでもオレは正しい事が出来る男だ。ここは素直に引き下がろう。
「そうだ、オレは間違ってなどいないんだ。これまでも、これからも、絶対にそうであるはずなんだ」
そうして一歩下がった気分になったからか、オレは冷静さを取り戻す事に成功していた。
プランが間違っていた? なら修正すればいいだけの事。そもそもその為の確認だったはずだろう。
オレに何がある? 未来の王であるオレがいる、ただそれだけで十分なはずだろう。オレにも力とやらがあるし、例のスマホだってある。立ち止まる理由の方がむしろ見つからない。
それにオレにはユリカだっている。オレに絶対忠実の、オレだけの奴隷であるユリカがだ。
ならオレがすべき事は――
「そんなオレが王になれないなど、あっていいはずがない!」
声を上げる。怒りを燃やす。一度冷めた身と心に再び熱を入れる為に。
王になる理由も、動き出すきっかけも、この一言で事足りるという事をオレはようやく思い出したのだ。
「――なら、これからどうするかは決まったのか?」
そんなオレとユリカのやり取りを黙って見ていた謎メイド、サシハラリオが口を開いた。
コイツがオレに突きつけた現状、ユリカを抱いて世継ぎを作る事で王になるプランが崩れかかっている事実は変わっていない。その上でどうするかという問いに対して、オレの答えは単純だ。
「いいや? 全く決まっていない。お前が言った通り、ユリカと世継ぎを作るのは早すぎたという事以外はさっぱりだ!」
「案外潔いんだな、アンタ……」
先ほどのユリカと同じ目を向けてくるサシハラリオ。元はと言えばお前が指摘した所為でもあると思うんだが。
「だからサシハラリオ、この先もオレのプランに付き合え! そういう取引だったはずだからな!」
「いいだろう。俺も自分の言った事を曲げるつもりはないからな」
「おい、取引をしているからって別にオレとお前は対等ではないからな? あくまでオレは皇子でお前はメイドであることを忘れるなよ?」
「悪い、そもそも忘れる記憶がなくてうっかりしていた」
相変わらずコイツは礼儀のれの字も知らないようだ。だがプランの為の取引相手であることは揺らがない。ある程度は寛容に見るべきと見て、オレは文句を胸にしまった。
「ならひとまずはその子をどうするかだな。もう周囲には知られているのか?」
「いいや、ユリカの存在はプランの根幹に関わる情報だからな。限られた人間にしか知られていないはずだ」
「いいえご主人様♡ もうこの城の半数は知っていると思います♡」
「よしもうダメだな。諦めよう」
「待て。色々と待て」
秒で話の腰を折る妹と即座に投げ出そうとするメイドにオレは待ったをかける。言いなり状態と記憶なし状態の癖にどうしてオレの思う通りにならないんだ。
「えーと、お姫様。具体的にはどういう感じ?」
「はいっ♡
「どうしてそんな噂が広まっているんだ!? オレが話したのなんて精々スレヴィアと掃除のメイドと執事のアイツとだいっ……くらいのはずだぞ?!」
「なるほど、アンタに秘密を話すべきでない事は分かったな」
どうして噂になっているかはさっぱり分からないが、厳しい状況であることは間違いないようだ。
しかし今回は取引相手であるサシハラリオと他二人がいる。きっとこれだけいれば突破口はあると、オレはそんな余裕を抱いていた。
「だがまだ半数、しかも噂なのだろう? ならどうにかする方法があるはずだ!」
「なら女癖が悪いだけで仕事は真面目、みたいなイメージに持っていければ何とかなるかもな」
「お、女癖だと……? くっ、仕方がないか」
サシハラリオの提案に一瞬怯みかけるが、事ここに至っては受け入れるしかないのだろう。僅かに下唇を噛むオレだった。
「でもユリカ様は王女ですよね♡ そんな方を手籠めにしていると知られてはマズいと思いますけど♡」
「おいちょっと待て。アンタ、それは本当か?」
「そ、それはコイツらがそう言っているだけだ! オレは認めていない!」
そんなオレとサシハラリオの会話にまたも差し込んできた妹によって、一番最初の話題がまた浮上してきてしまった。或いは、ここを避けては通る事は出来ないと言うことか。
「うーん? その辺の真偽は俺にはよく分からんが、本当なら隠し通すのは難しい、のか?」
「多分そうですね♡ そもそも私たちがここに来たのもその為ですし♡」
「ならどうしろと言うんだ。ユリカが奪われるのを黙って待てというのか?!」
「そもそもアナタのじゃないですから!」
そして言いなりであってもウサギ女が出しゃばって来てまたあの時の二の舞になろうとしていた。
けれどももしかしたらと視線を送ると、顎に手を当てていた謎メイドと目が合った。
「じゃあやっぱり隠し通すよりはカバーストーリーをでっち上げよう。それで変な勘繰りをされる前に先制するしかないだろ」
「カバーストーリー、だと?」
「ああ、アンタがどこかの王女さまと一緒にいてもおかしくない理由だな。だからその為にもまず一つ提案させてくれ」
そしてゆらりと動いたメイドの指先がこちらに向く。
まるでこの着地点をずっと探していたかのような調子で、サシハラリオはそう告げた。
「このお姫様を正気に戻せ。その上でアンタの共犯者にしてしまえば、きっとこの状況も何とか出来るはずだ」
☆
結局のところ、ユリカのことがもう噂になっている時点で完全に隠しきるのは難しいという話だ。
その当人が何をしたって逆効果になってしまうのなら、第三者を立てるしかないというのがサシハラリオの作戦だった。
「言い出した俺が聞くのも何なんだけど、お姫様はそれでいいのか? コイツの言いなりになっているとは言え、玉座を譲るような形になるけども」
「ご主人様の命ですし異論はありません♡ 元々そこまでの興味もないですし♡」
「ああうん、前からお前はそんな気がしてた」
相変わらず本心なのか建前なのか判断がつかないが、ひとまずスレヴィアも反対はしないらしい。なので謎メイドの言葉に従って力を使うことにした。
「よし、オレが手を叩いたら正気に戻るんだ。しかしそのままオレのプランへの協力はするんだぞ、いいな?」
「はい♡ 全てはご主人様の仰せのままに♡」
「ところで何で言いなり状態を解く合図がこれなんだ? 何か意味があったりするのか?」
「いや、催眠を解くと言ったらこれかなって。ほら、お姫様も頷いてるし」
何故そこで共通認識があるのはか分からないが、特に不都合はなかったのでとっとと実行しよう。
パン、と一度だけオレは手を叩く。その瞬間、スレヴィアの瞳に光が戻った。
「…………ん、ダンテス? 私は一体何を……」
「別に何もないぞ、お姫様。ちょっとコイツから相談を受けていた所でうたた寝をしてただけだ。きっとお疲れだったんだろう」
「サーシャ? ……なるほど、そういうことですか」
言いなり状態から復帰したスレヴィアはメイドを見るなり、ぱたぱたと自分の顔や首元に手を当てていた。別にスレヴィアの身には何もしていないはずだが、気になることでもあったのだろうか。
「またお見苦しい所を見せてしまったようですね、ごめんなさい」
「ホントに見苦し……いや何でもない。気にするな」
先ほどまでの痴態を思い出してつい本音が出かけてしまった。今はもう正気に戻っているんだから掘り返す必要はないだろう。
「それで、ユリカ様をどうするかという話でしたか。確認ですが、この方に何かしているわけではないんですよね?」
「あ、ああもちろんだ。特に噂になるような事は何もしていない。それを証明してもらおうと思ってお前を呼んだんだからな」
正気に戻ってはいるが、その直前にした命令はちゃんと覚えているらしい。最初に来た時と違ってユリカを連れ出そうという気はないようだ。こういう力の使い方もあるんだな……。
「しかしユリカ様が王女である事は遅かれ早かれ知られてしまうでしょうね。なら今の王国の状況も利用してしまうことにしましょう」
「今の王国って、どういう事ですか殿下!」
「簡単な話です。内乱で荒れる王国から秘密裏に脱出させて保護した、という形にするのですよ」
「なるほど、保護か……」
スレヴィアの提案に、思わずオレは感歎の唸りをあげていた。
オレがユリカと共にいるのは変わらない。しかし保護という名目がつくだけでその印象は随分と変わるだろう。しかも一緒にいるだけでその大義名分を果たせるというオマケつきだ。グッドアイデアと言う他ない。
「ただしこの言い訳が通じるのは王国の内乱が終わるまでです。それまでにまた別の理由を考えておいてくださいね?」
「分かっている。それくらいはこちらで考えるから、お前は一旦それで噂を何とかしてくれ」
「しょうがないですね。引き受けることにしましょう」
やれやれと言わんばかりのスレヴィアだが、そもそもあの妹がオレの頼みを受け入れる時点で影響下にあるのは間違いない。これでオレがロリコンであるという不本意な噂は何とかなりそうだ。
「そうだな、なら王国の内乱がひと段落するまでに正式に婚約者として認めさせてもいいかもしれないな。まぁその辺りはぼちぼち詰めていくとするか……」
「っ!?」
「では話は纏まりましたね。私たちはそろそろお暇しようと思いますが、ニトさんはどうしますか?」
「私はユリカ様と一緒にいます!!!!」
「だそうです。なのでダンテス、彼女の事もお願いしますね」
「は? いやいやちょっと待て! 結局このウサギ女はユリカの何なんだ!?」
立ち上がって退出しようとするスレヴィアがしれっとウサギ女を置いていこうとしたので慌てて異議を申し立てる。ちょっと目を見開いていたユリカを再び抱き締めるウサギ女は、頑として離れることを拒むように言った。
「私はユリカ様の従者です! 例えご主人様の命令であっても、そこだけは譲れません!」
「コイツはコイツでオレの言いなりじゃないよなさっきから。くそ、どうしたものか……」
「別に一緒にいてもいいんじゃないのか? 王女と従者がセットの方が説得力があるし、色々と面倒もみて貰えるだろ」
「(コクコク)」
「ほら、ユリカ様もそう望んでますし! いいですよねご主人様!」
サシハラリオの助け舟に全力で乗っかったのはユリカもだった。正直ウサギ女がいるとうるさくなりそうで嫌だったのだが、ユリカの事を考えると微妙に断りづらかった。
「くそ、分かった分かった! ならウサギ女も残ってプランの手伝いをするんだ、いいな?」
「それがユリカ様の幸せに繋がるのなら幾らでも!」
「よかったなアンタ。金髪幼女と活発バニーガールで両手に花だぞ」
「何を言ってるのかよく分からんが絶対褒めてない事だけは分かったからな」
余計な事を言ったであろう謎メイドも、スレヴィアに続いて立ち上がっていた。
最初にこの部屋にやってきた時はどうなるかと思ったが、気づけばプランの確認どころか協力者と共犯者を得る結果に終わっていたのだ。これも皇子であるオレの力によるものかもしれない。
或いは、唯一オレの言いなりにならなかったサシハラリオがいたからか――
「おい待てサシハラリオ。次会う時はどうすればいいんだ? またあのうるさいメイドに戻っていたら目も当てられないぞ?」
「ああそうだな、けどどうするか――」
「それはこちらで
「お、おう。分かった」
謎メイドの言葉を遮ってまで圧を強めてくるスレヴィア。オレとしては相談が出来ればそれでいいんだが、なんか怖いのでまた個人で話をしにいくとしよう。
「ユリカ様、なにかありましたら気にせず呼んでくださいね。では行きましょうか」
「お、おう。じゃあな皇子さま、また会えたらその時はよろしくなー」
そう言いながらスレヴィアに連れられて、メイドは部屋から姿を消していった。なんか様子がおかしかった気もするが、きっとオレの勘違いだろう。
「ふう、やっと静かになったな。こんな時間だが、もうひと眠りするか……」
少し人気の減った部屋の窓から見える空はまだ暗い。何なら一時期は大浴場に行こうとしていたくらいだが、もうその必要もないだろう。なら朝までもう少しゆっくりしてもいいはずだ。
「え、大浴場に行くんですよね? さっきそう言ってたじゃないですか」
「いや、それはあのメイドが言っていただけだろ。もう帰ったから無理にいかなくたって――」
「いいえ駄目です! 今のユリカ様を見てください、全然よくないじゃないですか!」
「……わたしも、はいりたい」
「ぐっ、そういえばユリカは最初から割と乗り気だったな……!」
ハイライトのない瞳を輝かせるという器用な真似をしながら訴えてくるユリカ。日頃身体を拭いてやるだけではやはり駄目だったのだろうか。
「しかし保護という形にするなら、風呂に入れてやる方が都合がいいか……」
あの時は抱くのに必要というメイドの言葉を信じた故だったが、今はまた意味合いが変わってくる事にオレは気づいた。そうして考えを纏め終わると、ゆっくりとベッドから腰を上げる。
「ならとっとと済ませるぞ。ウサギ女はユリカと一緒にオレの身体も綺麗にするんだ、いいな?」
「洗うだけでいいんですね、それなら楽勝です!」
賛同したウサギ女も連れて、オレはユリカを風呂へ連れていく事にした。廊下を歩けるだけの服を着せ、ユリカの小さな手を取る。こちらを見上げてきた彼女が口を開いた。
「……ご主人様と外にでるの、はじめてかも」
「そういえばそうだったか。まぁ保護という形になるのなら、もう少し外に出してもいいかもしれんな」
「ほんとう? わたし、であるいていいの?」
「なんだ、そんなに外に興味があったのか。なら今日以外に散歩でもするかな……」
思い出すのはオレに抱かれて悪くないと言った時のユリカだ。もう急いで抱く必要がなくなった以上、扱い方もこうやって変えていくべきなのだろうか。或いは王国の内乱が終わった時に、ユリカとウサギ女を解放するのも案外――
「…………いや、ユリカはオレの奴隷だ。ならオレがいいと思う事をすればいいか」
一瞬浮かんだそんな考えを、頭を振って否定する。
保護のカタチになった以上は一旦認めるしかないが、それでもユリカが王女かどうかは関係ない。
一度奴隷にしたのなら、オレはその責任を取らなければならない。なら最終的に王になる事で、その正しさを証明するべきだろう。
「そうだ、最後にはそれが正しかったと言えるようにする。それだけの事だな」
それ以外にオレが幸せになる方法はないのだから、これは仕方のない事だ。
けれど目が覚めたような感覚のある今なら、もっと広い視野で物事を見られる気がした。
☆
「さて、私たちも部屋に戻ってやることをやってしまいましょうか」
「えっと、お姫様? どうしてそんなに急いで俺の背中を押すんだ? というか部屋で何をやるかまだ聞いてないんだが?」
「大丈夫ですよ。以前した約束事も兼ねて
「その約束も俺は知らな……いやなんでまだ♡が付いてるんだって瞳にもあるぅ!?」
「まだ夜はおわっていませんからね、
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次回は姫様のターン。