取り敢えず続き書くかは未定なので短編として投稿します。他のネタは幾つか思い付いてはありますが、面白いかは書かないと分からないので。
あの世。またの名を地獄と呼ばれる場所には、生前の行いによって悪人と見なされた人物達が、生前の罪を償う刑が存在する。
血の池を泳ぐ刑罰。
針の山を登る刑罰。
大釜で茹でられる刑罰
舌を抜かれる刑罰。
話を聞くだけでもあまりの辛さに顔を歪めたくなるものだが、そんな地獄の中に悪人で無くとも罪を償う刑罰が存在した。
それは、あの世とこの世の境とされている三途の川で行われ、親より先に無くなった子どものみが河原で石を積み上げるの刑罰。その刑罰を受ける場所を人々は『賽の河原』と呼んだ。
「オラオラ、速く積め積め!」
頭から二本の角を生やし、マグマのように真っ赤な肌と申し訳程度に腰に布を巻いている鬼は、賽の河原で石を積み上げている幼い子ども達を威嚇するかのように棍棒を振り回しながら大声で怒鳴り上げる。
「もうすこし。あとすこし……!」
「おっ、あと少しで完成するのか」
「うん!」
多くの子どもが鬼の声に萎縮する中、一人の幼い少女は永遠に成長しなくなった未熟な身体を一生懸命に動かし、石の塔を完成間近まで作成していく。
少女は僅か6歳で信号無視の車に跳ねられて死亡した。
右、左、右と安全を確認した少女に、この死因に関する過失は存在しない。本来ならば天国行きであったが、親より先に無くなるのはこの地獄では罪と見なされる。例えどれだけ幼くとも。例えどれだけ優しい心を持つ少女だろうとも。
そんな少女は生前と同じ姿で石を積み上げる。
地獄に来た人物は死後直後の姿で罪を償うのが基本である。まだまだ成長期であった身体は今以上に成長はせず、いくら時間が立とうともその小さく未熟な身体で罪を償わなければならない。
「クハハ」
その少女の頑張りと思いを、鬼はニヤニヤと何かを企むような顔をしながら見守る。
もしこの少女が大人、もっと言えばある程度身体も精神も成長した中学生程度の年齢だったならば、その笑顔に違和感を覚えただろう。しかし悪意に疎い少女は何も気付かない。
「じゃあ……あらよっと!」
鬼がたった今完成しそうだった石の塔を崩そうと企んでいた事に。
少女が頑張って積み上げていた石の塔を、鬼はゴルフをするかのように金棒を振って少女の思いも、先ほどまで目の前にあった完成間近の石の塔も何もかも全てを無に返す。
「ああっ!」
「おっと。石が倒れちゃったなぁ~。可哀想に」
「うっ、ううっ……! あくま! おに! ひとでなし! でぶ! さでぃすと!」
「クハハ、何とでも言いやがれ。文字通り俺は鬼だからな」
「じゃあはげ!」
「誰がハゲだ!」
鬼はわざとらしそうに石の塔があった場所に金棒を突き立て、悲しみで涙で顔を濡らす少女の顔を眺める。
意外にも自身に口答えしてくる強気の少女とやり取りしながら、鬼は内心「中々骨のある奴が来た」とニヤリと笑う。
しかし鬼は決して少女に手を伸ばさない。鬼自身に少女を助ける気が無いのも理由の一つであるが、一番の理由がそれこそが賽の河原のルールだからである。
賽の河原のルールは主に三つ。
一つ。この場に居る罪人は親より先に亡くなった子ども。
一つ。子どもな親の供養の為に河原の石を積み上げる。
一つ。その石の塔は完成間近に地獄の鬼によって崩される。
このルールが覆る事は殆ど無い。
ごく稀に鬼に崩される前に石の塔を完成され供養を終わらせる子どもも存在するが、その確率は宝くじで一等が当たるよりも低い。
そして子どもどれだけ情に訴えようとも、我が儘や駄々を捏ねても鬼は積み上げている石を崩す。鬼からすれば石の塔を完成させないのが仕事であり、それをこなせないのはサボりと同義なのだから。
「相変わらず容赦ないですね先輩」
「先輩じゃなくて『鬼セン』と呼んでくれよ後輩」
「先輩が私を『鬼コウ』と呼んでくれたら考えます」
先程、完成間近だった石を崩した鬼───鬼センへと話しかけにきた人物が居た。
その相手は鬼センと同じ鬼であった。
青色の肌を隠すかのようにスーツとネクタイで見た目をピシッと整え、額から一本の角を生やしている鬼───鬼コウは先程の光景を見ていたのにも関わらず顔色一つ変えずに淡々と話を続ける。
「いつも同じ事を繰り返してますが、先輩はここの勤務に飽きないんですか?」
「まぁそういう仕事だからな。なんだ、お前はこういうの嫌いか?」
「いえ。特には」
「ははっ、そうかそうか」
この場に子どもを助ける大人は存在しない。
子どもの積み上げた石を崩した鬼センも、たった今現れた鬼コウも子どもに手を差し伸べる存在ではなく、子どもが差し伸ばした手を振り払う存在である。
しかし彼らを責める事は出来ない。
再度繰り返すがそれが地獄のルールなのだから。罪人は刑罰を与える。彼らはそのルールに従い、慈悲も同情も与えず淡々と仕事をこなしているだけなのだから。
「それより先輩。今日も新しい罪人が賽の河原に来ています」
「おおっ! 今日はどんな奴が来たんだ?」
そして彼らの元にまた一人、罪人が訪れた。
鬼センはニヤニヤと、クリスマスプレゼントが待ちきれない子どものような高揚感が抑えきれない中、鬼コウは淡々と無表情で手に持っているカルテを捲る。
「それは」
「ふむ。ここが我が罪を償う場所か」
「おっと噂をすればなんとやらですね」
どんな人物が賽の河原に来たのか。それを答える前に、例の罪人がやってきた。
鬼コウはクルッと後ろを振り返り、罪人の横に立ち執事のような立ち振舞いで罪人を鬼センに紹介した。
「我はエルフ。1000歳の子どもだ」
「先輩。今日から石を積み上げる罪人のエルフさんです」
「うんごめんちょっと待て」
鬼センは頭を抱えた。
今鬼コウはなんと言ったのか。鬼センはひたすらに頭の中で聞いた言葉を繰り返すが、聞き間違えで無いのを理解する。それに例え聞き間違えたとしても、何かの単語を「エルフ」や「1000歳」と間違えるなんてそうそう無いだろう。
仕事の疲れで幻聴が聞こえたのだと無理矢理納得し、鬼センは目を閉じて深呼吸する。
この賽の河原に訪れる罪人の定義は「子ども」であるが、ごく稀に善人で尚且つ親が存命の大人───親から見れば子ども───が賽の河原に訪れる事はある。しかしそれにしても、エルフがこの賽の河原になんて来るのは初めてである。
鬼センは心を落ち着かせて改めて目の前の人物を見る。
耳が尖っている。エルフの特徴である。
若々しい見た目に反して貫禄がある。エルフの特徴である。
なんか自然を活用したような格好をしている。エルフの特徴である。
弓と矢を持っている。エルフの特徴である。
「見間違えじゃねぇだと!?」
「はいそうですね」
「おい後輩? なんか違うんだけど? 俺の知ってる子どもじゃなくない?」
「いえ、合っていますよ。エルフと言う種族は基本的に長生きですし、目の前のエルフさんの親はこの前1800歳の誕生日を迎えたばかりですし」
「そういう問題じゃねぇんだけど!?」
鬼センは鬼コウは自身の近くに呼んで、エルフに聞かれないよう小さな声で喋る。
エルフとは人間のそれとは比べ物にならないほどの長寿である。正確な寿命は明らかではないが、少なくとも人間の10倍……数字で言えば1000歳は生きると言われている。
なので年齢四桁のエルフが賽の河原に訪れても不思議ではない。不思議ではないのだが、鬼センが担当するこの場にエルフが訪れるのが初めてすぎて少しパニックになっていた。
エルフも寿命が長いだけで子どもと言う概念は存在するのだから、この場に居てもおかしい部分は存在しない。それどころか鬼センの反応が過剰だと思われそうであるが、そもそもこの場にエルフが居る事そのものが異常である。
鬼センの持ち場である、賽の河原第444支部に来る子どもは日本人限定である。
他の支部ではエルフのような異世界種を取り扱っているが、少なくともこの場はそうではない。支部の運営が変わって日本人以外もこの支部に来るようになったとも聞いていない。
我々の感覚で言えば、ハンバーガー屋で肉とバンズだけの簡素なハンバーガーを頼んだら、スパゲッティーが出されたような状態である。そんな事をされたら自分自身が店や注文を間違えたと考えてしまうのも無理は無いだろう。
「なんでエルフが賽の河原に居るんだよ。閻魔様が配属先間違えたか?」
「いえ、配属先は合っています」
「じゃあなんでだよ」
「営業が片っ端から死人を集めたからですね。それが他の支部も閻魔様も混乱していまして、一時的な処置として担当種以外の死人が振り分けられる事になりました」
「ちょっと営業殴ってきていいか?」
「後にしてください」
鬼センは営業が脳内で「ごめんごちゃい。オイラの勝手を許してクレメンス」と、ふざけた謝罪をしているのが勝手に再生され、罪人を置いて営業を殴りにいこうとしたが、鬼コウに羽交い締めにされて無理矢理止められる。
「忙しい所すまない鬼殿。我は今から何をすれば良い」
「え? あ、あー……石を積み上げるんだ。ほら、彼処に川があるだろ?」
「承知した。それでは罪を償わせてもらう」
「お、おう。頑張れよー」
怒涛の展開に鬼センは混乱しながらも、エルフの問いに賽の河原を指差して何をすべきか説明する。そして気合いを入れるエルフに手を振って送っていく。
「じゃねぇよ!」
「どうしました先輩」
そしてエルフに向かって振った手を鬼センはもう片方の手で叩いた。
鬼コウは鬼センの不可解な行動に疑問を抱きながらも、まぁ仕事に疲れたから頭がパーになったのかと失礼な事を考える。
「どうしましたじゃないんだが!? 俺今罪人応援しちゃったんだけど。動揺のあまり頑張れなんて言っちゃったんだけど!?」
「良かったですね」
「喧嘩売ってるのか!?」
罪人が罪を償うのを邪魔する鬼が、罪人が罪を償うのを応援するなんてあり得ない事だ。しかし鬼センは動揺のあまり自身の胸にある微かな善性が前に出てしまったのである。
「それより先輩。そろそろエルフが石を積み上げそうですが」
「え?」
鬼コウの指摘に鬼センはエルフが石を積み上げている方向に目を向ける。
すると周りの子どもよりも圧倒的に身体も頭も成長しているからか、どれが積み上げやすい石か。どの石が積み上げやすいかを一瞬で判断したエルフは、周りの子どものように一切疲労せず、呼気をするかのように石の塔を完成間近まで積み上げていた。
「ちょっと行ってくる!」
「頑張ってください」
「煽りかお前」
自分が先程エルフに「頑張れ」と言った事に対する煽りなのかと、鬼コウを睨むが一切怯まず無表情を貫くので鬼センは軽く舌打ちをして、鬼コウに背中を見せてエルフへと向かう。
「おいエルフ」
「む。鬼殿か」
「石が積み上げるまであと少しだな」
「あぁ。これで我の罪が無くなるとはニワカには信じがたいがな」
「安心しな。積み上げればちゃんと罪は無くなるさ。積み上げれば……なっ!」
鬼センは先程までのストレスを発散させるかのように、エルフが積み上げていた石を金棒で全て崩す。石が河原を跳ねる音が響く中、鬼センは一番遠くまでぶっ飛んだ石を視線を向ける。
「あぁ、倒れちゃったなぁ~ほら、もう一回頑張れよ」
「…………」
チラリと、無言を貫いているエルフの反応を鬼センは待つ。
例えエルフだろうとも、賽の河原で受ける刑罰は他の子どもと変わらない。積み上げても積み上げても崩され続け、石の塔が完成しない状態は続いていくのだ。
最初は反抗的だった子どもも次第に心が折れ、いつしか弱音すら吐かずにただひたすらに涙を溜めるだけの存在となる。
鬼センは目の前のエルフの反応を予想する。反抗心を剥き出しにして自身に噛みついてくるのか、完成間近のジェンガ倒れたように絶望するのか、体格に見合わないような大声で泣き喚くのか。
「なんだエルフ。もしかして落胆したか? 悪いがここはそういう場所なんだ。恨むなら、生前で罪を犯した自分自身を───」
「なるほど。つまり我が罪を償うにはまだ速いと言うのか。感謝する、鬼殿」
「は?」
しかし、鬼センの予想は全て外れた。
エルフは鬼センの行動を、自身の罪を償うにはこんな積み方では駄目であると。この程度で罪が消える訳では無いと言葉で無く行動で示したのだと勘違いした。
「時間はまだある。ではまた石を積み上げるとしよう」
「ぐ、ぐぬぬ」
子どもだからと賽の河原に案内されたようだが、精神は人間の大人以上に成長しているのだから、一回程度では何とも反応しないのだと。鬼センは表情を悔しそうにしながら自身が納得する答えを導く。
それと同時にだが所詮エルフだろうとも、邪魔し続ければいつしか痺れを切らして何かしら反応するだろうと。鬼センはこのエルフが最終的にどんな反応を示すか想像しながら、邪魔を続けた。
「ほらよ!」
2回。3回。4回。5回……
「まだまだ!」
20回。30回。40回。50回……
「エルフ。お前はまだ罪を償えねぇよ!」
200回。300回。400回。500回……
「いい加減、諦めろ!」
2000回。3000回。4000回。5000回……
「はぁ、はぁ……はぁ」
「やはり我の罪は重いな。未だに積み上がらないとは」
そうして数にして凡そ1万回。
エルフが石を積み上げる。鬼センが金棒で崩す。エルフが石を積み上げる。鬼センが金棒で崩す。エルフが石を積み上げる。鬼センが金棒で崩す。エルフが……。
この光景が繰り広げられ、鬼センは肩で石をしているがエルフは何も変わらなかった。それどころか自身の罪とより向き合っており、命令に忠実に従うロボットのように石を積み上げるのを止めなかった。
「なぁ後輩。アイツなんかおかしいんだけど」
「エルフは長寿種ですからね。時間の感覚が人間のそれと違うので、いくら積み直そうとも時間があると思っているので苦では無いのでしょう」
「え、長寿種こわっ」
長生きしている分、大抵の事態には動じない精神を手に入れたエルフは、鬼センがいくら邪魔をしようとも自身の罪が原因だからと、むしろ苦どころか自身を戒めていた。
その事実を知り鬼センはエルフに恐怖する。
これまで鬼センが見てきた子どもの中に一度たりとも何も反応を示さなかった相手は居ない。無口だろうとも静かに涙を流し、温厚な性格だろうとも終わらない刑罰に嫌気が差し、誰もがその地獄に絶望していた。この場にエルフが現れるまで。
「なぁ後輩。あのエルフ、他の支部に回せないか? さすがにアレの相手するのは疲れるんだが」
「難しいですね。急激な罪人増加により何処も人手不足ですし、他の賽の河原では異世界種の容姿に子どもが驚いて、石を積み上げる所の話では無いようですし」
鬼センの提案に鬼コウは眼鏡をクイッと上げて、出来ないと遠回しに伝える。
エルフの容姿は耳が少し特徴的だが、基本的には人間のそれと変わりは無い。しかし中には人間の容姿とあまりにもかけ離れており、見るだけで正気を失うような種族も存在する。
そんな種族が子どもが驚き、刑罰を行う所の話ではない支部も存在する以上、他の支部に「相手するのが面倒な奴が居るから引き取って」と話しても、それどころじゃないからと門前払いされるだろう。
「じゃあ釜湯で地獄とか他の地獄には送れないのか? 一応は子どもとは言え、年齢四桁なんだろ?」
「いえ、それが……」
子どもとして賽の河原に居るが、年齢は四桁の長寿なのだから、その辺りを付いて法の抜け穴を通るように無理矢理にでも他の地獄に送れないのか。
そう提案する鬼センだったが、鬼コウはその提案に言い澱む。
何か変な事を言ってしまったかと、鬼センは自身を発言を思い返すが特に変な事は言っていない。
無理矢理すぎる案なのは自覚しているが、もし無理なら最初に「厳しいです」や「無理です」と断っているだろう。ならば何故か。鬼センは嫌な予感がしながらも、鬼コウの言葉を待った。
「他の地獄も似たような状態で引き取り手が用意出来なくてですね」
「えっと、つまり?」
「これから様々な異世界種の子どもがこの支部で訪れ、刑罰を行います」
鬼コウから告げられた言葉に鬼センはフリーズする。
これから様々な異世界種の子どもがこの支部で刑罰を行う。要は先程のエルフのように癖が強かったり、子どもと言うのを憚られるような年齢の相手がこの場に増える事を差し示しているのだ。
「…………後輩。俺、仕事休んで良い?」
「地獄に有給はありませんよ。次の休みまで待ってください」
「めっちゃブラック!」
「地獄ですから」
鬼センは今後の第444支部の未来を考え、深く溜め息をつくのであった。
No.001
種族:エルフ
年齢:1000歳
性別:男性
特徴:堅苦しい口調。耳が尖っている。
生前はある村で長を勤めていた。
しかし村人の一部が反乱を起こし、村人同士で傷付けあうべきでないと、死後の世界に持っていけるようにと、お気に入りの弓矢を持って反乱者達の前に行き、自身の首一つで反乱を納めた。
もっと自身に村を統括する力があれば。信頼を勝ち取っていれば反乱も起きなかったと、自身の力不足を死亡直前まで嘆いていた。