『善行ポイント』という言葉を、皆も聞いたことがあるだろう。
『善行ポイント』を沢山貯めたモノは、チートを貰って異世界転生をすることができるのだ!
思いつきで書いた短編です。
皆様の暇つぶしになれれば幸いです。
m(_ _)m
チュートリアルが終わらないッ!
『善行ポイント』という言葉は誰だって聞いたことがあるだろう。
現世で積み重ねた
こんな事は幼稚園児的にも常識だった。だから、彼は幼稚園生の頃から『善行ポイント』を集めることに苦心した。努めて善良で、極めてイイ子で在ろうとした。
仲間外れなんて許さなかったし、臭いと虐められていた子にも優しくした。
その子は本当に臭くてとても大変だったけれど、『善行ポイント』を大量に集めて異世界転生した先で、異世界美少女たちに囲まれた異世界ハーレムを作るためだと思えば辛くはなかった。
「りんねくんは、どうしてわたしにやさしくしてくれるの?」
「塵も積もれば山となるからだよ、草子《そうこ》ちゃん」
幼稚園児の頃からそんな事を数多く聞かれたが、聞かれるたびに彼はほくそ笑んでいた。
『善行ポイント』は常識なのに、周りの人たちは幼稚園児の頃から集めていなかったのだ。
どうやら彼の他に開幕スタートダッシュを完璧に決めた子は居なかったらしい。
―――やれやれだぜ。
―――遊びたい盛りなのは分かるが、未来を考えて行動しなきゃ駄目なんだぜ。
周りの子たちを内心で小馬鹿にしながら、彼はいつだってニコニコと笑っていた。
「クサ子となんて一緒に帰ってやんねー!だって、臭いの移るもんな!」
「クサ子!くせーからッ、あっち行けよ!」
「クサ子に触ると臭くなるぞお!」
小学生に成っても『善行ポイント』を集め始めない同級生たちに首を傾げつつ、彼は『善行ポイント』集めに邁進する。
「草子ちゃん。一緒に帰ろうか。手、繋ぎたいの?別に良いよ」
「…輪廻君は、どうして私に優しくしてくれるの?」
「草子ちゃんはそれ聞くの好きだねえ。深い意味は無いよ。ただ誰も草子ちゃん(に関する『善行ポイント』)が要らないなら、僕が貰っちゃおうと思ってるだけだからね」
「………り、輪廻君は、その、私の事が…欲しいの?」
「うん!(草子ちゃんに関する『善行ポイント』が)欲しいよ!」
草子ちゃんは実に良い『善行ポイント』の稼ぎ先だった。
しかし、彼女は小学校5年生になる春に転校してしまった。
残念極まると彼は落ち込んだ。
「輪廻君!私、ずっと輪君の事、忘れないから!私はずっと輪廻君の、も、ものだから!輪廻君も絶対、私の事を忘れないでね!」
「うん!絶対に(何時かまた『善行ポイント』集めに使えるかも知れないし)忘れないよ!」
「ゼッタイニ、ヤクソクダヨ」
別れ際に何故か寒気を感じたけど、そんな事を気にしては居られない。
草子ちゃんという稼ぎ先を失った彼は新しい稼ぎ先を見つける為に、街中を走り回ったりしていた。
そうしたら、数人の中学生に苛められてるいる他校の小学生たちを見つけたりした。
「こ、此処は俺らが先に遊んでた場所だぞ!それにボール遊びはあっちの広場じゃなきゃ駄目だって書いてあるじゃんか!」
「うるせえ!ガキは黙ってな!」
「きゃあ!?」
「輝!おい、輝になにすんだよ!」
「小学生が中学生に口答えすんな!俺たちは此処でドッチボールするんだよ!」
彼が『善行ポイント』集めに最適なイベントの発生を見過ごす筈もなく、殴られて涙目になっている子を背に中学生たちの前に立ちはだかると嬉々として笑いながらに言った。
「そこまでだ!僕の眼が黒い内は弱い者イジメなんて許さないぞ!」
「誰だお前は!」
「通りすがりの努めて善良で極めてイイ子だ!さあ!殴るなら僕を殴れ!」
「言ったな!小学生の癖に生意気な奴め!」
「殴ったね!親父にも(『善行ポイント』的に考えて勿論)殴られたことないのに!」
「お前がやれって言ったんだぞ!おりゃ!」
「二度も殴った!これは(『善行ポイント』的に考えても許されるので)やり返すしかないぞ!くらえ!
「ぐええ!?」
「たッ、たっくんが吹き飛んだああ!?」
「僕は誰かを助ける(ことで得られる『善行ポイント』の)為に摩訶不思議拳法を習っているからね!決して傷つけることなく吹き飛ぶだけの摩訶不思議拳法を喰らえ!」
「ぎゃああ!?」
「まーくんも吹き飛んだああ!?」
こう言った出来事が多々あるので、彼は彼以外の子があまり『善行ポイント』を重要視していないことに、小学生の高学年になる頃には気が付いていた。
しかし、其処で周りに流されて『善行ポイント』を蔑ろにする彼ではなかった。
『善行ポイント』を軽視する子たちを反面教師として、彼は今日も『善行ポイント』集めに邁進する。
「な、なあ、輪廻。俺もお前が習っている格闘技をさ、オレも習いたいんだけどさ。いいかな?」
「いいんじゃないかな。月謝も安いし、もし親御さんの説得が必要なら手を貸すよ」
「確かに…父ちゃんはオレみたいな女の子が、格闘なんかって言うかもだけど、いいのか?」
「いいよ。僕も輝とは他校だから、あんまり会えないし、(『善行ポイント』の為にも)もっと一緒にいたいと思っていたんだ」
「へッ!?い、一緒に居たいとか、変なこと言うなよなッ!」
「輝は僕とは一緒に居たくないの?嫌なら、(『善行ポイント』が下がるから)諦めるけど…」
「い、嫌じゃない!嫌なんて言ってないだろ!な、なんなんだよ。悲しそうな顔するなよ。…そんなに俺と一緒がいいのかよ」
「うん!輝はトラブルをよく起こすから、(『善行ポイント』的に美味しいし)僕が付いていないとね!」
「じゃあ、ずっと傍に、居ろよ?」
「勿論(『善行ポイント』フィーバー)だよ!」
「ヤクソクダカラナ」
こうして輝という『善行ポイント』の稼ぎ先を手に入れた彼は其処から自分の学校だけでなく、輝を介して他校のトラブルにも首を突っ込み解決する事で『善行ポイント』を集めて行った。
輝を含めて他校の子たちには、イベントを奪ってしまって申し訳ないという気持ちが少しだけあったが、これも全ては転生先で神アイテムとチート能力を手に入れて異世界美少女ハーレムを築く為だ。仕方がないと彼は割り切ることにした。
此の世は弱肉強食なのだ。
小学生時代、彼は『善行ポイント』全一の自負があった。
それは草子ちゃんと輝という絶好の『善行ポイント』の稼ぎ先に出会えたことが大きかった。しかし、勿論、此処で歩みを止めてはいけない。今はまだ眠れる獅子であろう他の子たちが、中学生に成ったなら『善行ポイント』集めに本腰を入れてくることが容易に想像できるからだ。
中学生になった彼は気を引き締めて『ボランティア部』に入部した。
『ボランティア部』。
『善行ポイント』集めにこれ程まで最適な部活動は他にあるだろうか。
いや、無いと断言できた。
そして、入部を果たしたからと言って気は抜けない。部員数五名という小さな部活ではあるが、この『ボランティア部』に入部しているのは彼と同じく『善行ポイント』の重要性に気が付いている猛者ばかりだからだ。
先輩も同級生もそれを決して口にすることは無く隠している様子だけれど、彼にはわかっていた。
大体、『善行ポイント』を集める理由以外で『ボランティア部』なんて部活に入部する奴がいる訳がない。
そんな奴は気が触れている。
そんな意識高い系クラブの中で特に『善行ポイント』を積み上げることに覚悟がガンギマリなのが部長だった。眼鏡の下の部長の目は、常に『善行ポイント』を狙う獣の目だったと彼は言う。
「部長はどうしてボランティア部に入ったんですか?」
「人の役に立つことがしたいのよ。偽善だって言われることもあるけど、誰かの役に立ちたいって気持ちは本物つもりよ」
「偽物なんかじゃないですよ!部長は本気で(『善行ポイント』の為に)頑張ってるじゃないですか!だから、ボランティア部(なんていうつまらない部活)に入ったんじゃないですか!その(『善行ポイント』に対する)覚悟は本物ですよ!」
「ふふ、君は本当にうれしい事をいってくれるわね。他の部員も、私の事を少し苦手に思っているのに、君は私と一緒にいて疲れないのかしら」
「勿論、(部長一人に『善行ポイント』を独り占めにされる訳にはいかないので)部長を一人にはしませんよ!何処へ立って付いて行きます!部長(の『善行ポイント』に対する獣染みた執着心)は僕の目標ですから!」
「…私が何処へ行っても、一緒について来てくれるのね?」
「はい!ずっと一緒に(『善行ポイント』の為に)頑張りましょう!」
「ヤクソクヨ?」
寒気すら感じる覚悟を隣から感じつつ、それを良い刺激として彼は『ボランティア部』の活動を通して得られる『善行ポイント』集めに邁進する。
ボランティア部での活動で得られた一番の成果は、インターナショナル『善行ポイント』だろう。
こればかりはどれだけ努力をしていても機会が無ければ得ることは出来なかった。
市内で行われた国際的イベントにボランティアで参加した時、彼は外国人の子が迷子になっているのを見つけた。周りの大人たちも気が付いている様だったが、日本語が通じなそうという理由で遠巻きに見ているだけだった。
日本語しか離せない彼だが、『善行ポイント』の為に臆することなく向かって行った。
「こんにちわ!迷子ですか?」
「■■■」
「英語ですらない言語!?しかし、僕は(善行ポイントの為に)臆しません。えー、僕はボランティアの人間です。迷子なら、迷子センターにお連れしますよ。わかります?ロスト・チャイルド・センターです!」
「■■、◆◆?」
「んー、通じているのでしょうか?こういう時、部長が居ればいいのですがねえ。あの人、十か国語話せますし。しかしッ、貴女との出会い(という絶好の『善行ポイント』イベント)を部長に奪われるのは癪ですし、努力しましょう。とりあえず、ついて来てくれませんか?」
「■◆■◆!■◆!?」
「大丈夫!心配しないでください!僕は努めて善良な極めてイイ奴です!えっと、何て言ったらいいのかな…。とりあえず、友好的な言葉を、世界共通語の英語で、その!アイ・ラブ・ユーです!………あれ、ラブ・アンド・ピースでしたっけ?」
「■◆!?…lloveyou?」
「英語なら通じましたね!なら、アイ・ラブ・ユーでいいです!ともかく僕と一緒にいてください!」
「………year」
インターナショナル『善行ポイント』を取得できる特殊イベントで彼が出会った彼女の名前は、アイラと言った。
アイラは南方にある島国のウッチャコッチャ国の偉い人の娘だったらしい。迷子の彼女を両親の元に送り届けたら、とても感謝されて金一封を渡された。
封筒の分厚さに息を呑んだが、彼は『善行ポイント』の事を考えてそれを受け取らなかった。
「僕は(『善行ポイント』の為に)当然の事をしただけです。それは受け取れません」
するとアイラの両親と、感心された。
そして、日本にいる間、アイラの遊び相手になってくれないかと頼まれた。
彼は『善行ポイント』の為に二つ返事で即答した。
ボランティア部の部長は彼にアイラに関する『善行ポイント』を独り占めされるのが不満なのか、少し不機嫌になっていたが、此の世は弱肉強食だった。
彼は嬉々としてアイラとの時間を過ごした。
アイラは頭がよく彼と居るだけで日本語をどんどんと覚えて行った。
「リンネ。リンネはとてもユウカン。ウッチャコッチでも、リッパなセンシ、なれる」
「当然です。僕は人助け(で得られる『善行ポイント』)の為に身体を鍛えていますからね」
「チガう。アイラがイうのは、ココロのツよさ。ウッチャコッチャでは、ソレをトウトぶ。…フアンなアイラのテ、リンネだけが、ヒいてくれた」
「困っている人が居れば(『善行ポイント』チャンスだから)、見過ごせませんよ」
「リンネは、ダレにでもヤサしい。でも…アイラだけのセンシ、ナラナイか?」
「それは(『善行ポイント』効率が悪いので)出来ません。しかし、アイラが困っていれば何時だって飛んでいきますよ」
「ホントウか?」
「本当です。僕はアイラが(特殊イベントは貴重なので)大好きですからね」
「…lloveyouカ?」
「はい!アイ・ラブ・ユーです!」
「じゃあ、いつか、ゼッタイにアイラのモノにシテヤルゾ」
夏休みの終わりにアイラは名残惜しそうに日本を去って行った。
出来るだけ早くに異世界転生を果たすと決めている彼がウッチャコッチャ国に行くことなんてないだろうから、アイラと会うことは二度と無いだろう。
インターナショナル善行ポイントを授けてくれたアイラとの出会いに今生限りの感謝を感じながら、彼は笑顔でアイラの乗った飛行機を見送ったのだった。
そうして過ぎた長い日々。彼は遂に高校入学の時を迎えた
それは彼がずっと決めていた。
異世界転生をする日だ。
満月の夜。都内の夜景を望む高層ビルの屋上。
胸ポケットにしっかりとスマホをしまい込む行為は心臓に最も近い位置にスマホを置いて転生を果たす事で、異世界へ持ち込むことは出来ないだろうかという浅ましい考えだったが、多分、無理だろうと諦めてもいた。
現世のモノを異世界に持ち込む行為は異世界転生ではなく異世界転移の特権だからだ。
彼が異世界に持ち込むモノは精神というかけがえのないものだけだ。
屋上の縁へと一歩を踏み出す。彼の人生は最高潮を迎えようとしている。
それなのに、彼の飛び降り自殺を止めようとする声が背後から聞こえてくる。
彼はその声に振り返りながら、笑顔で答えた。
「善行ポイントも異世界転生も存在しないなんて、冗談は止めてくださいよ。来世という希望が無いなら、誰が今生を生きていられるというのです。この世界の人々は苦しむために生きているとでも言うつもりですか?」
そんな言葉を吐き捨てて、彼は希望に満ちたら来世を生きるためにビルの上から飛び降りるのだった。
日下部 草子ちゃん。
小学生低学年時代、虐められていた所を彼に助けられたメインヒロイン。
に成るはずだった少女。
日向 輝。
小学生高学年時代、彼に助けられたライバルヒロイン。
に成るはずだった少女。
春日井 冬美。
彼の中学時代の部活の先輩。サブヒロイン。
に成るはずだった少女。
アイラ・エライ・ウッチャコッチャ。
南国の島国の王族。サブヒロイン。
に成るはずだった少女。
彼。
学園ハーレムモノの主人公になるはずだった少年。
彼に『善行ポイント』の存在を教えたのは両親。
”イイ子で居ないと、駄目ぞ?神様は全部見ているんだからな”。