「皆、戦闘の準備だ!」
「やだー! 汗でメイクが落ちちゃう! 直さないと!」
「あらやだ、こんなところに枝毛があるわ」
「あったかくてきもちいいなあ。ここでおひるねしたいなあ」
「お前ら、いい加減戦え!!」
ドラゴンクエストⅢを元にした二次創作小説です。リメイク版で遊び人を入れているうちに昔書いたものを思い出し、この小説をサルベージしました。
短編なので続きません。続きもありますが、他作品もあるため今のところ載せる予定はないです。
「メラ!!」
ぼんっっ!!
火花が炸裂し、広々とした平原に轟音が響き渡る。
その音とともに、今まで彼らの目の前にいた一匹のおおがらすが地に伏した。
「すっごぉぉい!! 一撃であのカラス倒しちゃったよ!!」
緊迫した状況に似合わず、甲高い声を上げたのは、つややかな金髪を揺らしながらはしゃぐバニーガール姿の少女。白く透けた肌に、大きな菫色の瞳。その上実年齢よりも幼く見えるその顔に似合わず、バニースーツの魅力を最大限に生かせるほどのプロポーション。
そんな誰が見ても見惚れそうな少女を心底嫌そうな顔で睨んでいるのが、先ほど魔法を使っておおがらすを倒した一人の少年でだった。
年のころは16。黒い髪で少し目は鋭いが精悍な顔立ち。背は平均身長よりもやや高いぐらいだろうか。じっとしていれば数多の女性が振り返る容貌だろうが、今は近くの女性が顔を背けんばかりの恐ろしい形相をしている。
「あれ? どうしたのエスト? そんな怖い顔しちゃって」
「……誰のせいだと思ってるんだ」
エストと呼ばれた少年が、静かな口調で答える。精一杯の皮肉と悪意を込めて。しかし言われた本人はきょとんとしている。
「えー? 誰? 誰? ……あ、もしかしてデュシスとノルデじゃないの?」
そういってバニーガールの少女は後ろにいた二人に向かって振り向く。一人は同じくバニーガールの格好をした女性……ではなく、誰がどう見ても筋肉隆々の大男。もう一人はやや小太りな若い男である。二人も彼女と同じくきょとんとしている。
「ぼく、エストのめいわくになること、なにもやってないよ?」
男の一人、ノルデが間延びした声で答える。顔を独特のセンスでメイクしており、ピエロのような服を着ている、なんともおめでたい出で立ちをした男である。
「それよりエスト、そんな怖い顔をして、せっかくの美形が台無しじゃない。オトコはスマイルよ、スマイル」
誰がどう聞いても山賊か悪の総帥にしか判別できない声を出すのはもう一人のバニーガール姿の男、デュシス。その立派な体躯に合った顔つきは、バニースーツの代わりに眼帯とぼろきれをまとえば山賊以外の何者でもない。
ちなみに今は赤茶系の長い髪の毛(おそらくヘアピースだろう)に、ピンクパールのピアス、メイクはもちろんのこと、指先や足先にまでおしゃれを行き届かせている。
「やっだぁ、エストがスマイルだなんて、想像できな~い」
「だめだよ、メル。エストにしつれいだよ」
きゃたきゃた笑うメルを、のんびりした口調で制すノルデ。そんなのどかな雰囲気が、エストの機嫌をいっそう悪くしているということに、2人は気づいていない。そしてデュシスが口を出したとき、エストの堪忍袋の緒は切れた。
「どうしたのエスト? さっきから無言で。女のコを振り向かせるならそんな顔は……」
「お前ら他人事みたいに言うなぁぁぁっっっ!!!」
言うなぁぁっっ! 言うなぁぁ……! いうなぁぁ……。
誰もいない平原に、エストの怒声がこだました。
「お前らと旅をしてから3日、誰か一人でも魔物との戦いに参加したか!? してないよな!! 暇さえあれば寝るわお手玉はするわ勝手に逃げるわはしゃぐわ転ぶわ自画自賛するわで自分勝手なことばかりやりやがって!! 今だってさんざんオレの髪の毛弄繰り回して戦闘の邪魔ばかりしただろうが!! それでもまだお前ら自分のせいじゃないといえるのか!!??」
今までの鬱憤をいっぺんに吐き出すかのように、一気にまくし立てるエスト。最後には顔を真っ赤にしながら叫んでいた。
「大丈夫? エスト。顔が赤いよ、高血圧?」
メルの一声に、エストの顔から一気に血の気が引いた。
「きっと『かるしうむ』がふそくしてるんだよ。つぎのむらについたらぼくぎゅうにゅうがのみたいな」
「ダメよエスト! そんな顔をしたらますます女のコにモテなくなるじゃない! オトコってのはもっとおおらかでいて女のコが苦しんでいるときにはやさしく声をかける、そんな包容力が必要なのよ!?」
「やかましい!!! こんなに怒りっぽくなったのも元はといえばおまえらのせいじゃないか!!」
話をさかのぼること5日前。つまりエストと3人が初めて出会った日の2日前である。
エスト16歳の誕生日。それは王様に旅立ちの許可をやっともらえる日でもあった。
早々に挨拶をし、さあアリアハンを出ようと勇み足で王の間から退出しようと歩き出したとき、あわてたように王様が呼び止めた。
「これ、エストよ。ルイーダの酒場には寄らないのか? そこにいけばおぬしの戦力となる仲間が多く集まっているのだぞ?」
エストは振り向いてこう言った。
「私の旅はこの世界を闇へと貶める『魔王バラモス』を倒す危険な旅。そんないつ命を落とすかわからない戦いに仲間を巻き込むわけには行きません。できれば私ひとりの手でこの暗黒の時代を終わらせたいのです」
その言葉に王様は感銘を受けた。
「そうか。ならばわしは何も言うまい。そなたの人を想うやさしき心の叫び、しかと耳に届いたぞ。さあ行け、この世界を救う勇者、エストよ!!」
だが実のところ、エストが仲間を入れたがらない理由はほかにあった。
単純に腕に自信があったというのも在るが、それ以上に、見知らぬ人と係わり合いになるのが嫌だったからだ。生まれてからこの日まで、毎日欠かさず武術や魔法の鍛錬をしてきたエストにとって、人生の中で他人と交わった経験は一般人に比べて格段に少ない。
なので他人とコミュニケーションをとるよりも、自身の腕を磨く方が面倒くさくなくてすむと考えたゆえでの判断だった。
そんな人嫌いの勇者がそんな理由で旅に出るなんて、王様や町の人々が聞いたら驚くどころかあきれるだろう。だが本人は真剣なのである。
ともあれ、国の期待を一身に背負った勇者は、仲間の集まるルイーダの酒場には寄らず、単身アリアハンの国を出た。
だがしかし、ここでエストにとっては予想外、おそらく他の人間が考えれば予想通りと思える事態が起きた。
最初はスライムやおおがらすなど、比較的弱い魔物たちがエストを襲ってきた。エストはその魔物の群れを難なく一掃し、剣を振っているうちに次第に戦闘にも慣れてきた。
やがて日が暮れ、アリアハンからもだいぶ離れてきたので、この辺で野宿をすることにした。
だが剣術や魔法の鍛錬しかしていないエストの頭の中には、野宿の心得などと言う知識はまったくといっていいほどなかったのである。
結果、熟睡しているところをいっかくうさぎに襲われ、あわや瀕死という大ダメージを受けたのだ。
身も心もボロボロになって、エストは身を隠すようにアリアハンに戻った。そして家には帰らず町の宿屋に泊まって、傷を癒し身体を休めた。だがその晩はいろいろなことを考えていたので、十分に休むことはできなかったらしい。
翌日、考え抜いた末心を入れ替えたエストは、ルイーダの酒場へと足を運んだ。
店内はがらんとして、カウンターにいる酒場の店主らしい女性しか人の姿はなかった。おそらくこの女の人がルイーダなのだろう。
「仲間を探しているんだが……」
「いらっしゃい。……あらやだ、エストじゃない!! ……ここに集まっていた旅人たちなら、昨日いっせいにこの国を出たわよ」
「!? なんだと!?」
話によると、この酒場に来ていたほとんどの旅人が、勇者の仲間になることを志望していたらしく、勇者が一人でアリアハンを出たといううわさを聞いて、みないっせいに自分の国へと帰っていったらしい。
それを聞いたエストは、呆然とした。
まさか本当に一人で旅に出ることになるとは、思いもしなかっただろう。王様の前で言っていた言葉が今では恨めしく思える。
エストがショックで立ちすくんでいるのを哀れに感じたんだろうか、どこからともなくルイーダが数枚の書類をエストに差し出した。
「けど何人かはまだこの街に燻っているはずよ。ほら、これがその子達の名簿」
その名簿を見てエストは再び固まった。名簿に乗っている人全員が遊び人だったのだ。
遊び人とは、その人生すべてを遊びに費やし、時には命をかけてでも遊びつくすという、いわば遊びのプロフェッショナルとも言うべき職業である。もちろん魔物との戦闘ではまったく役に立たず、むしろ戦っている人たちの邪魔にしかならない。
そんなある意味疫病神とも言うべき存在を、仲間にしろと言うのか。エストはそうした場合の未来を想定して、思わずめまいを起こした。
「……こんな奴らしかいないのか?」
「ええ、そうよ。まあどっちにしろ全員、今までこの店で飲み食いしたツケがたまってるからね。それを返済するために今もここでバイトとして雇ってるってことなんだけど」
……今度こそエストはその場に卒倒した。よく見ると名簿の左上に、この店の請求書の控えがクリップで留めてあった。
「あれ? なんか床に人が転がってるけど、いったいどうしたのぉ?」
「さあねえ……。とりあえずしばらくそっとしてあげな。……そうそう、この子、あの『勇者』なんだけど」
ぴくりと、3人の表情がわずかに変わる。
「あんたたちをぜひ仲間にしたいってさ」
「え、ほんとう?」
「あらやだ、このコあたし好みの美少年じゃな~~い!! 寝顔も超カワイイvv」
「あ~~~っ!! デュシスってば、最初に見つけたのはあたしなんだからね!!」
三者三様に言う遊び人たちの言葉を、すでに気がついていたエストは迂闊にも聞いていた。
(何を好き勝手なことを……。それにオレはそんなこと一言も言った覚えないぞ!)
と心の中で訴えたが、当然当の3人(+ルイーダ)には聞こえるはずもなかった。
そしてエストが起きたときには、いつのまにか遊び人3人がエストの仲間に入っていた。
「ちょっとまて!! なんで本人の了承もなしに勝手に決めるんだ!! だれもお前らを入れていいとは言ってないだろ!!」
エストの怒声に、3人のうちの一人、ノルデが涙目になる。
「ぼく……、なかまにいれてもらえないの?」
涙を一粒流しながら、しゅんとした表情でエストを見つめる。その様子を見て、エストは困惑した。
「あーあ、泣かしたー!! ノルちゃん、かわいそぉ~!」
「かわいそうなのはこっちだ!! 何が悲しくて役立たずの遊び人なんか……」
はっ、と、あわてて口をふさぐ。しまったという顔で、エストは3人を見返した。
(オレはなんてバカなんだ。いくら遊び人が本当に役立たずだからって、本人の前で面と向かって言うなんて……)
気づいたときにはもう遅い。すでにノルデの目には涙が溢れ出していた。
「ひどーい!ノルちゃんもうボロ泣きだよ?!」
「そうよ! いくら美少年だからって言っていいことと悪いことがあるわ!!」
「まったくだわ。あなた人にやさしくしたことないんじゃない?」
言われた3人だけでなく、ルイーダまでもが非難の声を上げる。だがエストも4人の言葉によってしっかり心にダメージを受けてたりする。
「ご、ごめん……。あまり人と話す機会がなかったから、接し方がよくわからなくて……」
「それじゃあこの先大人になって困るわね。だったらすぐにでもこの子達を仲間に入れなさい」
「は!?」
ルイーダのいきなりの提案に、謙虚になったエストが瞬時にして素に戻った。
「ちょうどこの子達のツケも今日で全額払えるし、あなたたちもいいわよね?」
『はーい』
3人綺麗に返事がハモる。その後、営業スマイルとも言うべき極上の笑顔で、エストに自己紹介をする3人。
「私はメリディエス。長いからメルって呼んでねvv 趣味は女王様ごっこと化粧直し。特技は早口言葉なら誰にも負けないよ! よろしくね!」
「ぼくはノルデ。しゅみはねることとたべること、かな? とくぎは『にどね』と『ねころがること』と『ひるね』すること。よろしくね」
「あたしはデュシス。見たらわかるけど、本当は男なのv はじめはいろいろ戸惑うこととかあるかもしれないけど、まああんまり気にしないで。よろしくねvv」
「……………………オレはエストだ」
「ふ~~ん、エストかあ。ねえ、趣味は?」
「趣味? ……そんなもの、ない」
「えー? じゃあ、ぼくがエストのしゅみをつくってあげるよ」
そういっておもむろに懐から何かを取り出すノルデ。
「じゃーん。ぼくとおなじ『まくら』だよー。これでエストもぼくとおなじしゅみだね。あ、『まくら』はまだまだ『よび』があるからきにしないでいいからね」
「いや、それよりもオレはお前と同じ趣味を作る気はない……」
「んじゃあさっ、あたしの『女王様ごっこ』に付き合ってよ!! もちろんエストはあたしの下で……」
「何言ってるのよっ!! ここは年長者であるアタシの趣味を採用するのが筋ってもんでしょ!! それじゃあエスト、今からネイルアートの手ほどきを教えてあげるワvv」
もうなんだかわからない。エストは未だかつて無い見知らぬ人間たちとの会話に、全くついていけなかった。
―――オレは、本当にこいつらをつれて魔王を倒すのか?
3人の奇妙な遊び人に囲まれているエストの頭の中は、もはや不安の渦で溺死寸前になっていた。
アリアハンを出てから3日。3人はずっとエストにまとわりついて、どうでもいい話を自分から話し続けている。
最初は和気藹々と話したりもしていたが、次第に3人のうっとうしさにイライラが募ってきた。
「ねえねぇ、エストって友達いないの? なんならあたしが紹介してあげようか?」
「……余計なお世話だ」
「どうしたのよエスト。さっきから無愛想な顔して。せっかくメルが紹介してくれるって言ってるのに」
「けどエストなら、じっとしているだけでおんなのこがよってきそうだよ」
「グフフvv アタシだったらどんなに離れていても5秒でエストのそばに寄れる自信があるワvv」
「……」
「あれ? エスト髪がぼさぼさだよ。あたしがクシで梳かしてあげようか?」
「やめなさいよメル。アナタが他人にクシを向けると凶器になるから」
「えー、ひどーい」
「……どうしたの、エスト?」
「……お前ら、今がどういう状況かわかってるのか?」
「えーとね。いまは、くもひとつないいいてんきだよね。あったかくてぼく、ねむくなりそう……」
「寝るな!! 今は戦闘中だ!! つーか少しは戦え!!」
ちっちっちっ、とエストの前に出て指を振るデュシス。
「やあねえエスト。戦うだなんて。あたしたちのこと何も知らないのね。遊びこそがあたしたち遊び人の戦い方なのよ。つまり今すでにあたしたちはエストとともに戦っているってわ・けvv」
「昼寝してお手玉して鏡を見ることのどこが戦いなんだよ!! それでどうやって魔物を倒すって言うん……」
エストの言葉も終わらぬうちに、やおらふぁさっ、と髪をかきあげるメル。
「それはぁ、い・ろ・じ・か・けvv」
「………………!」
エストの中の何かが切れた。
「メラ!!!」
ぼんっっ!!
それはエストの今までのストレスが一気に爆発したかのような凄まじい爆炎だった。
「すっごぉぉい!! 一撃であのカラス倒しちゃったよ!!」
メルの甲高い声がエストの脳髄に響く。魔物を倒したという嬉しさよりも、早くこいつらと別れて新しい仲間を探したいという願望のほうが脳の大半を占めていた。
(こいつら……。役立たず以上の役立たずだ!)
この先の暗い未来を想像して、頭を抱えるエスト。
こうして勇者エストと3人の遊び人の、割と波乱万丈な旅はここから始まったのだった。
実際スーファミ版で遊び人三人でプレイしたことがありますが、バハラタでカンダタが倒せず普通に三人賢者に転職させた思い出があります。
十数年前に書いたものなのでノリが古いかもしれません(汗)
ちなみに作者の別作品のモデルになってるキャラがおり、実はこっちが先です。