ヴィルシーナ、どうか悪い男に捕まってくれ   作:宇宮 祐樹

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お待たせしました。URCに寄稿する話書いてたら遅れました。すいません。
あとこの小説が先日ランキングで結構いいところまで行ってたらしいです。ありがとうございます。
まだプロットは所々フラフラですけど、とりあえず完結までなんとかやろうとは思ってるので頑張ります。気長にお付き合いしていただけると嬉しいです。
以上です。


06

■

 

 ジェンティルドンナのデビュー戦が終わってから、二週間くらいが経ったころ。

 

「うーん……」

 

 いつも通りメニューを進める私たちを眺めながら、トレーナーは今日も唸っていた。

 私たちのトレーニングになにか思うところがあるのか、ここ最近はずっとあんな調子。

 普段のへらへらとした態度が演技かと思えるほどトレーニングの時は急に真面目になるのは、初めて彼に走りを見てもらった時から分かっていたし、それにもだいぶ慣れてきたころだけど。

 付き合いの浅い私でも分かるほど、ここ最近の彼はどうにも様子が変だった。

 

「どうかされたんですか?」

 

 それが目に余る――とまでは言わないけれど、私たちのトレーニングに影響が出ても困るから。

 一通りメニューを終わらせたあとの休憩時間中、タブレットとにらめっこする彼にそう声をかけると、彼は一瞬だけ我に返ったような反応を見せてから、私の方に向き直った。

 

「え? ……ああ、ごめんね。ちょっと自分の中で考えたいことがあってさ」

「私たちのことですか?」

「ま、そんな感じかな。あ、いや、別に悪いこと言おうって話じゃないから、安心して。伝えたいことを言語化するのにちょっと時間がかかっちゃってさ。もしかして、不安にさせちゃった?」

「……そうですね。トレーナーの貴方にそういう振る舞いをされると、こちらも不安になります」

「ごめんごめん。でも、本当に悪い話じゃないから安心してよ」

 

 あはは、なんて申し訳なさそうに笑って、それからトレーナーが話を続けた。

 

「僕っていわゆる感覚派でね。数字とかデータとか、そういうのあんまり得意じゃないんだ」

「そうでしょうね」

「あれ、気づいてた?」

「少なくとも貴方が数字やデータと素直に向き合えるような人だとは思っていないので」

「さすがシーナちゃん。僕のことよく見てるね」

 

 いつもみたく調子に乗り始めた彼を無視していると、そのまま話が続いた。

 

「簡単に言うと、もう少しトレーニングを詰め込んでもいいんじゃないか、って思ってね。ジュニア級のうちは定石通り、公式戦に耐えられる身体づくりというか、基礎を中心にやっっていくつもりだったんだけど……僕の感覚的に、二人なら今の時点でもう少し進んだ、それこそクラシック級のやり方にしようかって考えてるの」

「それは……担当トレーナーの貴方からそうやって評価されるのは嬉しいことですけれど、さすがに急ぎ過ぎだとも思います。この前のデビュー戦だって、かなり早い段階で出走しましたよね? 私は無事に済んだからいいものの、ジェンティルさんの方は緊張してものすごい空回りしたじゃありませんか」

「そうだね、確かにそこは僕の反省点だ。だから今回もちょっと悩んでてねー……」

 

 うんうんと一人で悩みだした彼に気づいたのか、一人でクールダウンをしていたジェンティルドンナも私たちの会話に加わってきて。

 

「あら、今日も唸ってますわね、この人。何かありまして?」

「私たちのトレーニングに疑問があるみたいですよ。この人の感覚的には、それこそ今日のような基礎トレーニングからもう少し踏み込んだところまで進めたいみたいなんですけれど……デビュー戦もそうやって先を急いだ結果、貴女が小学生でもしないような驚きのミスをしてしまったことを気に病んでいるみたいで」

「最近やたらと鋭利な毒を吐くようになりましたわね、貴女」

 

 そこに関しては訂正も言及する気もないから、無視。

 

「正直、可能な限り詰めていきたいところはあるんだけどね。二人ともティアラ路線に行くならっていうのもあるし、何より君たちがどこまで行けるのか見てみたい、っていう僕の興味もある。でも、だからって既存の定石を崩して僕の感覚で二人を振り回すのはちょっと躊躇いがあるかな」

「そこは私も同じ意見です。ジェンティルさんに関しては知りませんけど、まだ私と貴方は知り合ってからふた月も経っていなんですから。お互いの感覚のすれ違いが起きる可能性だって、十分にあるんじゃないですか?」

「そうだね。それこそドンナちゃんのデビュー戦は、単なる勘違いで済んだからよかったけど……最悪、身体の故障に繋がることだってある。君たちを潰すような真似はしたくない、ってのが本音かな」

「随分と弱気ですわね。あんな風に私たちを口説いたのなら、それ相応の覚悟を以て接するべきではなくて?」

「それだけ君たちのことが大事なんだよ。僕だって、ただ君たちを可愛がるだけで終わりたくない」

 

 いつもみたいに調子のいいセリフだったけれど、その時だけは声にどこか重みがあるような気がした。

 やっぱり、レースというか私たちのトレーニングに対する態度は真摯なのよね、この人。

 

「ま、アプローチの方法は色々あるからね。例えば身体じゃなくて頭の方を鍛えるとかでもいい」

「頭……作戦や戦術とか、そういった話ですか?」

「そうそう。もっと言うと使える手札を増やす、あるいは手札の強さをもっと高めるって感じかな。私見だけどシーナちゃんは前者、ドンナちゃんは後者の方が合ってそうだよね。今はまだ経験や実力が追いついていないから再現はできないだろうけど、今のうちに頭に入れておけば後々使える手札になるかもしれない」

「手札の強さ、ね……」

 

 彼の言葉に、ジェンティルドンナが考え込むような素振りを見せた。

 トレーナーの考えは理解できる。ジェンティルドンナの持つ、圧倒的なパワー。それが彼女を彼女たらしめる優れた武器であり、それに見合う優れた使い手になることで初めて彼女は完全なものになる――というのは、ジェンティルドンナのデビュー戦の時にもしていた話だ。

 それが、さっき彼が言っていた手札の強さをもっと高めると言うこと。

 なら、彼が言っていた手札を増やすというのは、つまり。

 

「……私にはどんな場面にも対応できる総合力が必要、ということですか?」

「うん。正確にはオールラウンダーになれってことじゃなくて、どんな状況でも自分が有利な方にレースを持っていく、っていう意味の総合力かな。ま、それができたら正直どんな子でも強いんだけど……特にシーナちゃんは、その作戦を成功させたときのリターンが大きいって僕は考えててね」

 

 きっと脳内で適切な言語化をせず、考えをそのまま話しているのだろう。私じゃなくてタブレット端末の方に目をやりながら、彼がまくしたてるように言葉を続けた。

 

「てかさー、かなりマイル専門だと思うんだよね、シーナちゃんって。記録だとマイルと中距離でいいタイム出てるから両方とも適性自体はあるんだろうけど、実際に積んでるエンジンはマイル向きって感じ?」

「エンジン?」

「走り方のクセって言えばいいのかな。小回りが利いて加速もそこそこ、何よりノってる時の最高速度はドンナちゃんよりも上だと思ってる。あと走りの正確性……フォームの維持やペース配分とかもドンナちゃんより一枚上手。だけど、今のシーナちゃんだと、最高速度まで保(も)たない。原因は色々あるけど、一番はそもそもの体力かな」

「最高速度に耐えられる身体づくり……それが、私の当面の課題ですか」

「いや、それに関しては無視してもいいよ。もちろん基礎的な体力は必要だけど、他の距離まで走れるレベルの体力は現段階だと求めてない。そこに時間を割くんだったら、元から向いてそうなマイルでもっと強く出られるようにした方がいい。だから身体じゃなくて頭、つまり手札を増やすって話に繋がるんだけど」

 

 私とジェンティルドンナの相槌なんて待たないまま、彼が話を進めていく。

 

「個人的にマイルって距離は戦略のウェイトがだいぶ大きいって思っててね。たとえばフィジカルのゴリ押しだって通用するし、あるいはちょっとした機転で戦局がガラっと変わることだってある。シーナちゃんには将来的に、そうしたマイルにおける戦略を完璧にしてほしいんだよ。マイルなら自分無敵ですけど? って言えるようになってほしい。その第一歩として、そもそもの戦略を知識として身に着けた方がいいかな、って」

「つまり、今の私に必要なのは身体的なトレーニングじゃなくて、座学だと?」

「いや、それよりももう少し手前の段階かな。要するに考えを変えるっていうか、広い視野を持つことだね。漠然として難しい話だけど、今のドンナちゃんにお熱なシーナちゃんには必要なことだよ」

「それは……。まあ、認めますけれど」

「別にそれを止めさせるつもりはないよ。ただ、もっと周りを見渡してみてもいいんじゃないかな。もしかすると、思いもよらないところにドンナちゃんを崩すためのヒントがポロっと落ちてるかもしれない」

 

 彼の言いたいことは理解できる。私にとっても重要な話だし、何より私だけでは到達しにくい考えだし。こうした話は自分だけで考え込んでいてもあまり意味は無いから、彼みたいな第三者からハッキリと言われた方が私としても納得できる。

 ……だからって何も、こんな目の前に本人がいるところでそんな話をしなくても……。

 なんて多少の気まずさを感じながら、ふとジェンティルドンナの方に視線を流すと。

 

「悪くない方針ですわね。では、今後もそのようにヴィルシーナさんの指導をお願いしますわ」

「どうして貴女が満足してるんですか……」

 

 私よりも先に口を開いたジェンティルドンナに、思わずそんな言葉が漏れた。

 

「でも、私もそれで構いません。指導に関してなら、ある程度の信頼はあるので」

「それならよかった。ああ、もちろん今後シーナちゃんが他の距離いきたいってなったら話は別ね。僕もそれに合わせたトレーニングメニューとか考えるし、シーナちゃんが満足するまで付き合うよ」

「ありがとうございます」

 

 そこでようやく、トレーナーが手元のタブレットから視線を外す。

 

「長々と話しちゃったけど、とりあえずシーナちゃんに対する現状の所感はそんな感じかな」

「参考にしてみます。ありがとうございました」

「いやいや、これが僕の仕事だからね。あと今はメンタルの話が主だったけど、もちろんフィジカルの方もちゃんと鍛えないとね。特にエンジンに見合ったハンドルの切り方とか、今後もう少し考えないといけないだろうし」

「わかりました」

 

 トレーナーとの話は一度、そこで終わる。

 釈然としないけど、トレーニングの話になるとやっぱり頼りになるのよね、この人。

 良くも悪くも私たちのことはよく見てくれているから、ジュニア級の現状でも将来的な目標をある程度提示してくれているし。その上で、私とジェンティルドンナそれぞれの課題も既に見つけている。さすがに改善点はまだ明確じゃないけど、それでも彼の頭の中には漠然としたアイデアは浮かんでいるのだろう。

 変に持ち上げるつもりはないけど、目立った粗も無いから否定もしづらい。だから素直に彼の言うことを受け入れるしかないし、それが最善だと頭で理解できるのが本当にどうしようもないというか、何と言うか。

 普段からこんな風に真面目にしてくれれば、私も素直に彼のことは尊敬できるのだけれど。

 ……ところで。

 

「一つ、今までの話と全く関係のないことを聞きますけど」

「どうしたの?」

「貴方って車とか好きなんですか?」

「別に? 特に乗り物に興味なんかないけど」

 

 私の質問に、きょとんと眼を丸くしたトレーナーがそう答える。

 

「……この人の言葉遣いに理由を求めるのは、控えておいた方がよろしくてよ」

「そうですね。自分のことを恥ずかしげもなく感覚派と自称するだけはあります」

「え、僕ってそんな変なこと言ってた?」

 

 こてん、と首を傾げるトレーナーに嘆息を吐いてから、私たちはトレーニングに戻った。

 

■

 

 その日の夜。

 

「おい、面白そうなボドゲ見つけたからやるぞ」

 

 入浴と歯磨きも済ませて、そろそろ消灯時間も近いから寝る準備も済ませたところで。

 突然、部屋の扉をノックもせずに開けたゴルシさんが、そんなことを言ってきた。

 

「……タルマエさん。電気、消しましょうか」

「そうだね。おやすみなさい、ヴィルシーナさん」

「無視すんなって! お~~い!!」

 

 そうやって叫びながらゴルシさんがどたどたと部屋に入り込んできて、部屋の明かりを消そうとするタルマエさんの腕を遮る。

 

「まったく……今日は何の用なのよ……」

「だから面白そうなボドゲ見つけたから、お前ら誘いに来たんだって」

「そう言ってこの前ものすごい分厚いルールブック読ませてきたじゃありませんか」

「アレな。文字細かすぎて家電の説明書かと思ったわ」

 

 そうやって一人で笑う彼女に、タルマエさんと私が呆れたように息を吐いた。

 ……別に、ゴルシさんが私たちの部屋に突撃して来るのは、これが初めてじゃない。

 確かいちばん最初は、タルマエさんと同室になったことが決まったから、顔合わせも兼ねて一緒に食事をした際に偶然、通りがかったゴルシさんが私たちに声をかけてきたところからだったと思う。

 それからずっと、何かあるたびに彼女は私たちにの部屋を訪ねるようになってきた。それも結構な頻度で。それこそ最近だと、ジェンティルドンナのデビュー戦の後にもこんな風に私たちの部屋に騒ぎに来ていたし。

 私たち以外にも構ってくれる人はいるでしょうに、どうしてわざわざここに……。

 

「それで、今度はどんなゲームを?」

「巨大災害獣・ヴォルケーノザウルス」

「貴女の考えた最強の怪獣じゃなくて、ゲームの名前を教えていただけませんか?」

「いや、ホントにこういう名前のボドゲなんだって。ほらこれルールブック」

 

 ゴルシさんが差し出したルールブックを、先にタルマエさんが受け取ってから。

 

「ちょっと面白そうですね?」

「タルマエさんも毎回、どうして地味に乗り気なの……」

「あはは……。やっぱり実際に読んでみると、何だかんだ興味が惹かれちゃって」

「よっしゃ、早速やるぞ。アタシ防衛軍側な」

「せめて私にもルールを教えなさい!」

 

 そうしてルールブックへと目を通すこと、十数分。

 

「つまり一人は街を襲う怪獣側、それ以外が街を守る防衛軍側に別れて戦うゲームね?」

「そうそう。怪獣側は街をぶっ壊したら、防衛側は怪獣をぶっ倒すか制限時間まで街を守れば勝ち」

「誘ってもらって言うのも何だけれど、こういうゲームはもっと賑やかな方とやった方がいいんじゃないかしら」

「んなツレないこと言うなって。せっかくの同期じゃねーかよ」

「……ああ。そういえば、そうでしたね」

 

 ゴルシさんは私たちよりも少し前に、タルマエさんは私たちよりも少し後にデビュー戦を済ませて、無事にシリーズへの参入を果たしている。学年だと彼女だけ二つ上だけど、同期の集いと言われれば確かにその通りだ。

 ただ、ゴルシさんの口から同期だからという言葉が出てきたのは意外だった。良くも悪くも彼女はそういった、何かしらの括りをあまり気にしない、むしろふんわりと避けるような性格だと思っていたから。

 まあ、ただ私たちを言いくるめるためだけに使っただけかもしれないけど。

 

「だから仲良くやろうぜー、って話だよ。な、タルマエ?」

「でも私たち、全員路線違うじゃないですか。それこそ私なんてダート路線ですよ?」

「いや、同じ路線でバチバチやりあう奴らと仲良しこよし出来るかって」

「……まあ、確かに?」

 

 首を傾げるタルマエさんをよそに、ゴルシさんがゲームの駒とカードを床に広げていく。ここまで許してしまったら、ワンゲーム終わるまでもう何をしても無駄なのは、今までの経験でさんざん理解させられていた。

 この数分で何度目か分からない溜息を吐いてから、タルマエさんの方へ視線を渡す。

 

「ヴィルシーナさんはどっちの役職にする?」

「……タルマエさんが先に決めていいわ。私はどちらでも構いませんから」

「じゃあ防衛軍側で」

 

 よりにもよって怪獣側になっちゃったじゃない……。

 

「じゃあ始めっか。先行は巨大災害獣ヴィルシーナからな」

「違います」

 

 十分後。

 

「……ん? あれ? えっ、これ私もう負けてない?」

「今更気づいたのかよオメー」

 

 ゲームの制限時間までは、あと三ターン。

 それまでに街の破壊、つまりいくつかある拠点のマスを、最低でもあと一か所攻撃しないといけない。

 でも、残った拠点のマスはどれも到着するまでにそもそも三ターン必要な場所にある。

 だから防衛基地のマスを攻撃して追加でターンを獲得する必要があるけど、防衛基地には既に防衛軍側の戦車だったり爆撃機だったりが待機していて、そっちに進むとこちらの体力が無くなって負けてしまう。

 体力の回復手段は発電所のマスを攻撃することだけど、そもそも発電所のマスは少なくて三ターン以内に移動できる範囲内には存在しない。ターンを譲渡することで回復もできるけど、残りターン的に不可能。

 

 ……………………。

 やっぱりもう負けてるわよね、これ?

 

「い、いつの間に……。どうすればいいのよこの状況」

「まだ何とかなんじゃねーの? 怪獣側もなんか使えるだろ、破壊光線とか」

「撃ったら一ターンまるまる動けなくなっちゃうんです。使うにしても、とりあえず防衛基地を攻撃してターンを獲得しないといけないから……そうね。こっちに進むしかないわ」

「すいませんヴィルシーナさん。ミサイル、発射します。爆発してください」

「タルマエさん?」

 

 ミサイル、着弾。

 巨大災害獣ヴィルシーナ、あえなく撃沈。

 

「負けた……」

「面白いくらい誘導乗ってきたな、コイツ」

「こんなに上手くいくと思いませんでした」

 

 無惨に床を転がる怪獣のコマを見つめる私に、ゴルシさんとタルマエさんがそんな言葉を浴びせてくる。

 

「というかこのゲーム、防衛側が有利すぎる気がするんですけど……!」

「いや破壊光線使えって。あれリソース無しで無限に撃てるんだから」

「でも、破壊光線は一ターン消費するんですよ。このゲーム合計で十ターンしかなくて、そのうえで拠点を三つ破壊しないといけないんですから。それに大体、拠点を攻撃するのに破壊光線なんて使わなくても……」

「? ……ああ、そうか。アレだぞお前。これ多分、先に基地取ってターン増やした方がいいぞ」

「え?」

「こっち側でやってみた感じ、明らかに基地のマス周りが手薄でしたもんね。確かに色々と配置はできますけど、再配置まではちょっと時間かかりますから。それに基地さえ攻撃できればターンの損失も実質なくなりますし」

「た……確かに……」

 

 やけに序盤から防衛基地のマスに戦車やら爆撃機やらが待機してると思ったけど……。

 

「勝利条件しか見えてなかったのが敗因だったな。もっとちゃんと周り見ねーとダメだぜシーナちゃん」

「……そうですね。貴女からも言われると、さすがに反省するわ」

「? どういう意味?」

「今日、全く同じことをトレーナーから言われたの。もっと視野を広げた方がいい、って」

「あー確かにオメー死ぬほどボドゲ弱いもんな」

「うるさいわね……」

 

 だったら私じゃなくてもっと他の人を誘いなさいよ……!

 

「でも、ゴルシさんやトレーナーさんの言うこともちょっと分かるかも。ヴィルシーナさんを見てると、たまに「あれ?」ってなる時あるから……。目標に向かってひたすら頑張れるところはすごく尊敬してるんだけど、その頑張りが行きすぎちゃって、全然違うところに着地しちゃうっていうか」

「た、タルマエさんまで……!」

「そこら辺、割とタルマエは要領いいよなー。アタシが持ってくるゲームもすぐにルール覚えてくれるしさ。ま、要領よくねーとロコドルだの何だのやってられないだろうから、当たり前っちゃ当たり前なんだろうけどよ」

「あはは……。自覚はないですけど、そう言われるとちょっと嬉しいですね」

 

 なんて話をしながら、ゴルシさんもそろそろ自分の部屋に戻るつもりみたいで、広げたゲームのボードだったりコマだったりを片付けているところで、ふと。

 

「てか、ヴィルシーナのトレーナーって、アイツか? あのホスト崩れみてーな、チャラチャラした奴」

「……認めたくはありませんけど、その通りです。ゴルシさんもご存じなんですか?」

「まあ、色々と有名人だしなー。それにお前の追っかけしてる時、だいぶ目立ってたし」

「今のところ六割は後悔してますよ。あんな人をトレーナーに選んだなんて……」

「その言い方だと、四割はよかったって思ってるんだ?」

 

 妙に生暖かい視線を送ってくるタルマエさんに、観念して言葉を返す。

 

「優秀なトレーナーだとは思います。指導も的確だし、私やジェンティルさんのことをよく見てる。普段の言動や行動が目に余って信頼はできませんが、信用ならしてもいいんじゃないか、って絆され始めてるわ」

「それこそ今の時点で、将来的にオメーの弱点になりそうなところ言ってくれてるしな。いいんじゃねーの、信用してみても。面白くなりそうだから詳しくは言わないが、アタシが保証してやるよ」

「どういう意味ですか……」

 

 絶対にロクなことにならないから、何かあるなら早めに言ってほしいのだけれど。

 なんて私が言葉を返す間もなく、ゲームを片付けたゴルシさんが立ちあがって。

 

「じゃ、アタシは帰るわ。またなんか面白そうなヤツ見つけたら来るからな」

「お願いですからこれで最後にしてください」

「んな寂しいこと言うなよ。それに、オメーにとっちゃいいことだと思うぜ? ほら、ボドゲって何だかんだ頭使うから、やってるうちに視野も広がるかもしれねーだろ? な、タルマエ?」

「確かに。いい案だと思うよ、ヴィルシーナさん」

「タルマエさんは単純に遊びたいだけでしょ……」

 

 とはいえ、ゴルシさんの意見も案外、的を射ている気がする。そもそも私自身、ゲームとかそういった遊びの経験があまりないから、頭の使い方を練習するっていう点でならゲームもアリかもしれないし。

 ただ、何もこんな寝る直前にやる必要もないでしょうに。

 

「助言はありがたいけど、一人でやります。わざわざ巻き込まれたくもないので」

「ならさー、アレは? あのビー玉敷き詰めた木の板で、上跨いだら間の玉を取ってくやつ」

「ああ、あのよくアメリカの子供とかお婆ちゃんがやってる……」

「それは私が知育玩具程度の脳ミソって言いたいの?」

「オメー沸点低すぎねーか?」

「帰りなさいさっさと!!」

 

 まだ何か言いたげなゴルシさんを無理やり押し出して、扉を勢いよく閉める。

 ……さて。

 

「寝ましょうか、タルマエさん」

「うん、そうだね」

 

 なんて答えた彼女が、ふと携帯を操作しているのが見えて。

 

「……タルマエさん? スマホで何見てるの?」

「さっきゴルシさんが言ってたゲームの値段を見ようと思って……」

「電気、消します」

「あっもうちょっと待って!」

 

 消灯。

 スマホの画面から漏れる光をよそに、私はベッドに潜り込んだ。

 

■

 

「……ちなみに、いくらするんですか?」

「ちょっと待って……え、七〇〇〇円って書いてあるよ?」

「いやいや……え? アレそんなにするの? ウソでしょう?」

「ホントだよ。『インドの職人による手作り』って書いてあるけど」

「自作します」

 

■

 

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