青き春に少女は盾を広げる   作:狩村 花蓮

3 / 4
第三話、お待たせしました。


アビドス編
第三話 アビドス高等学校


宵闇に包まれた廃墟。周りを砂漠に囲まれ人の気配を感じぬその場所に、動く影があった。それは一つ、二つ、三つと増えていき、さらにはその影を大きく上回る大きさの影も増え、二桁は超えそうな数に増加した。その影からは何か大きな機械の駆動音と人の話し声が聞こえる。その影は人影であり、その人影はその手に小銃を携行し、ヘルメットをかぶっていた。

 

そして、その影を辿るもう一つの影があった。廃墟群のビルの屋上を凄まじい身体能力でもって飛び移りつつ、その人影の集団を追っていた。しばらく屋上を飛び移りながら集団を追っていた人影は、とある商業用ビルの屋上の上で止まり、背中に背負ったバッグを下ろし、チャックを開けた。そこに入っていたのは所々に破損が見られる古い型の大型狙撃銃であり、その上部レイルには高倍率スコープが装着されていた。

 

その人影はそのスコープを覗き、集団の方を狙っている。そして持っている銃の引き金を引いた。その弾丸は、大きな影、戦車へと飛翔し衝突と同時に大爆発を引き起こした。それと同時に、使っていた狙撃銃のバレルが破断して折れてしまう。それを見た人影は、その場で立ち上がるとその壊れた狙撃銃を投げ捨てた。

 

「やっぱりダメね、こんなものではすぐ壊れてしまうわ」

 

『では、あなたの得物を使えばよろしいのではないのですか?』

 

その人影は声を発する。そしてそれと同時に耳元のイヤホンから声がそう返答する。その人影、否黒く見える装束に身を包んだ少女は、先ほど狙撃銃で攻撃したところを見下ろす。そこには大爆発の跡と、燃え盛る何かとその炎を見て慌てふためく人影が見えた。

 

「だめよ、あの武器はコストがかかりすぎるもの。もう少し切り詰めないと…」

 

『筋金入りの節約家ですね。どうします?今日のご飯は私特性のスペシャルヘルシーフードでも…』

 

「それは遠慮しておくわ。それより、ざっと見た感じは20といったところだけれどそっちの反応は?」

 

『残念です…生体反応確認、数は21。惜しかったですね、破壊した車両の裏に一人隠れています』

 

「分かったわ。ではいつも通りに、私が突入したら」

 

『20分後にヴァルキューレに連絡、ですね?風紀の次は警察とは…いくら自分たちが対象ではないとはいえ、少々心苦しいものがありますね』

 

「無駄口叩くのは後にしてちょうだい。始めるわ、サポートよろしく」

 

『はいはい、任されました』

 

少女はそう言うと、懐から大きくはない銃と一本のナイフを取り出した。銃には細長い棒のようなものがついており、ナイフの刃は黒に近い青で塗られており、その装いと相まって夜の段階での奇襲を想定した装備だとわかる。

 

少女は自身が立っていた屋上の床を蹴る。そしてそのままビルの屋上から地面まで落下を始める。そして地上にたどり着くかというところで、その少女の落下地点にいた人影を落下の勢いを利用して蹴りぬいた。

 

落下の勢いと蹴りぬいた時の回転力が融合した蹴りを受けた人影は、王言ったアニメーションの表現もかくやというほどに、蹴り飛ばされて動かなくなる。そしてその人影を蹴りぬいた少女は、蹴りで落下エネルギーを半分ほど使い果たしたのを利用し、体をばねのように扱いつつも前方へと駆け出していく。当然足音の類は一切しない。そうして先ほど蹴り飛ばした人影の近くにいたもう一人の人影へ近づくと、背後からその人影の首元に腕を持っていき、そのまま首を締め上げる。当然その人影は抵抗しようとするが、酸素がいきなり足りなくなったことで、体どころか声すら出ずにその場で気絶してしまう。少女はその人影をその場で寝かせると、近くに5人ほどで固まっている人影の方へと向かう。音もなく近づいた少女は一番近くにいた人影を投げ飛ばし、そのままの勢いで二人目、三人目と投げ飛ばし、5人を連続で気絶させた。

 

そこでやっと、仲間がやられたことに気づいた人影たちが周囲を警戒し始める。全員が携帯していたのであろう懐中電灯を点灯させ周囲を見回し始める。

 

「やっと反応したのね…でも、もう遅いわ」

 

しかし、その少女にとっては障害になりえなかった。懐中電灯の明かりを辿り、その持ち主の背後へと近づき、その首を絞め落とし気絶させる。そんな作業を幾度か繰り返したところで、残りはその部隊のリーダー格と思われる人物だけとなった。

 

「お前は…お前はいったい誰なんだ!」

 

リーダー格の人物はその少女に叫ぶ。

 

「私は…そうね…」

 

その少女は、その質問に対し考え込む様子を見せる。その行為に対しリーダー格と思われる人物はその顔をゆがませる。しかし、その顔は再び驚愕へと染まることとなった。

 

「あぁ、適切な回答を思いついたわ」

 

そう言いながらその少女は持っていた銃を、右側に向けて引き金を引く。小さいながらも確かに聞こえるその銃声は、大破炎上して、いまだに燃え盛る戦車と思われる残骸の影に隠れていた人物を確実に捉え、その頭部を撃ち抜いた。その衝撃でその人物は気絶し、残っているのは本当にそのリーダー格の人物のみとなっていた。

 

その少女は先ほど引き金を引いた銃を、そのリーダー格の人物に向ける。その人物は額に汗をにじませながら、両腕を前に突き出し、その手を左右に振る。それはあたかも「待ってくれ!」と言わんばかりのものだった。

 

「私はしがない賞金稼ぎ(バウンティーハンター)よ」

 

しかしその少女は、引き金を引く。その弾丸はリーダー格の人物の頭に吸われるようにして向かい、その意識を確かに刈り取った。

 

「任務終了。ゲラゲラヘルメット団の壊滅を確認、これから拘束作業に入るわ」

 

『お疲れ様です。ジャスト20分、相変わらずの手際の良さですね。すでにヴァルキューレには通報してありますので、30分ほどでそちらに合流するかと』

 

「了解よ。いつもありがとう」

 

その少女は先ほど気絶させた生徒の両腕を後で縛り上げ、順番に並べていく。ゲラゲラヘルメット団と呼ばれた彼女たちの持っていた武器は、彼女たちがとることのできないところへと寄せられており、少女はてきぱきと全員を拘束し終えるのだった。

 

『お礼をするなら、まずはその生活を何とかしてください。すでに料理はいつものところに頼んでおきましたから。あと、それから先ほど、風紀委員会の方から先の賞金首の確保報酬が振り込まれました。9割を例の口座に振り込んであります』

 

「ありがとう、いつも助かっているわ」

 

『…通信、終了。あとは自分で何とかしてください』

 

そう言って通信が切れてしまう。少女は通信が切れたことを確認すると、自身の銃の簡単なチェックを始める。弾倉を抜き、スライドを引き薬室の中を確認する。しばらくチェックをすると、少女はホルスターにその銃をしまい込み、その場で息を吐く。あたりを砂漠に囲まれ、廃墟と化したその場所は、戦車の燃える炎でマシになっているとはいえよく冷える。その少女の吐いた息は、雪のごとく白い。少女は先ほどまでしていたフードをとる。そこから出てきたのは、顔の半分に切り傷のようなものが入った黒い髪の少女の顔だった。

 

しばらくして、遠くの方からサイレンの音が聞こえてくる。どうやらヴァルキューレの面々がやってきたのだろう。少女が時計を見ると時刻は、先ほどの通信を切ってから30分ほどたっていた。なるほど、その通信の相手はよほど予測に優れているようだ。やってきたヴァルキューレの面々は、その黒髪の少女が拘束していたヘルメット団のメンバーを回収し、大型のトラックのようなものの荷台に乗せていく。全員が乗り込んだのを確認すると、一人の人物が黒髪の少女の方へとやってくる。

 

「私はヴァルキューレ警察学校所属、アビドス方面隊所属の烏丸ミドウと申します。今回は指定賞金首である、ゲラゲラヘルメット団の確保、誠にありがとうございます」

 

その少女、ミドウと名乗った少女は黒髪の少女へと向かって敬礼をする。

 

「構わないわ。それで、報酬の方は?」

 

「はい、こちらに指定口座の番号を送信してください。機密保護の観点から作成された秘匿性の高いネットワークを使用しているので、個人情報を盗まれる心配はありません。指定口座の番号を把握し次第、振り込む形となります」

 

と言って、ミドウは何かのパスワードが書かれた紙を渡してきた。

 

「それはワンタイムパスワードですので、再発行などはできませんので、案内に従い確実に入力をお願いします。では本官はこれにて。ご協力ありがとうございました」

 

ミドウたちは車に乗り込むとその場を後にする。ユイはその車列が離れていくのを確認すると、スマホを取り出した。

 

「…これくらいでいいかしら?」

 

そして、その画面をタップする。すると、遠くから爆発音が聞こえる。その方向には先ほどミドウたちが乗っていた車両がいたはずだ。

 

「さてと、どうなっているかしらね」

 

ユイが近くまで行くと、車両は大破炎上しており、運転手やミドウたちのヘイローは消えている。

 

「私をだまそうとするなんていい度胸しているじゃない。ユナ、もう一仕事よ。本物の方は生体反応で追える?」

 

「現在地点から南に20km先に生体反応あり。なお、反応微弱のため気絶している模様」

 

ユナはそう答える。ユイはその話を聞きながら、その地点へと足を進める。するとそこには身ぐるみをはがされ、その場で気絶した本来のミドウたちが横になっていた。

 

「こちらユイ、対象を発見したわ。これから搬送するから、車を回してちょうだい」

 

『了解しました。5分待ってください』

 

ユナはそう言って通信を切る。ユイは背負っていたガンバックの中から、薄い毛布のようなものを取り出し、ミドウたちにかけた。しばらくしていると、大型の四輪自動車がやってきて、その運転席から黒髪の少女が顔を出す。

 

「乗ってください。送ります」

 

ユナはユイにそう言い、ユイは気絶しているミドウたちと、ミドウに成りすましていた生徒と、賞金首たちを荷台に積み込み、助手席に乗り込んだ。

 

翌日、アビドスのヴァルキューレ支部の前には、大勢の気絶している生徒と、口座番号が書かれた紙が置かれており、ヴァルキューレの生徒は混乱しつつも賞金をしっかりと振り込んだそう。

 


 

煌々と煌めく太陽が砂を照らし、熱気で陽炎ができるほどに熱いアビドス砂漠を疾走する影があった。

 

その影は四輪がついており、深緑の車体をしている。そう、車が砂漠を疾走しているのだ。その車両は見たところトレーラーのような外見をしており、大型車両に見える。そしてその車両を運転する人物とは、環理マドカその人であった。

 

「予定時刻には間に合いそうですね。全く、エンジニア部には困ったものです。毎度毎度、何かする前に仕事を増やすんですから、全くもう…」

 

そんなことを愚痴りながらマドカは車を走らせ続ける。代わり映えのしない景色の中、マドカはナビを頼りに、進んでいくのだった。

 

元々は広大な土地と、大人数の生徒を抱え、ゲヘナに負けず劣らず栄えていたアビドスは、盛者必衰のごとく、その土地のほぼすべてが砂に覆われており、当時の活気あふれる街並みはすべて砂の下に存在していて見る影がない。砂に覆われたビルは、ろくなメンテナンスを受けておらずに倒壊必死の廃墟と化し、市民や生徒が住んでいた住宅街は、今や不良のたまり場や、一獲千金を狙うトレジャーハンターたちの格好の餌となり果てている。代わり映えのしない景色が続く中、マドカの視界の先には目的地が見えてきた。

 

「また、ここに戻ってくることになるとは…アビドス高等学校」

 

彼女の目の前に見えてきたのは、少し砂に埋もれているが、大きめの校舎だった。そここそが彼女の今回の目的地、アビドス高等学校であった。

 

彼女はそのまま車を走らせる。しかし、何やら正面が騒がしい。

 

「銃撃音、それに煙…例のヘルメット団の襲撃でしょうか?…何にせよ、援護はしましょう。アテナ、自動運転開始。私が突入後、2分を目安に移動を開始、アビドス高等学校校庭にて停車」

 

『ラジャ、自動操縦に切り替え。突入後2分を目安に、アビドス高等学校校庭まで移動後停車します』

 

その車両に搭載されていたAIにマドカは指示を出す。するとその車両は自動的にブレーキをかけその場に停車した。マドカはシートベルトを外し、助手席のグローブボックスを開けると、その中に収められていたリボルバー式拳銃とクイックリローダーを取り出し、ホルスターに込めるとアビドス高等学校の方へと走り出していった。

 

マドカが正門前まで近づくと、戦闘の様子がはっきりしてきた。敵は正門前に陣取り、校舎の方へと向かって撃っている。より正確にいうのであれば、表校庭に陣取っているアビドスの生徒たちに向けて、である。マドカは、襲撃者のその最後方にいる生徒に照準を合わせ、引き金を数度引く。それに従って銃から弾丸が発射され、それは生徒の頭に吸いこまれるように当たった。その生徒はいきなり後ろから撃たれるとは思っておらず、数発の弾丸を受けその場で気絶し、倒れこんだ。そして、その射撃音に気づき、後方に陣取っていた生徒が一斉にマドカの方を向く。

「いきなりこいつが倒れるから、いったいだれかと思ったが、てめぇか!イージスのマドカ!こいつをここでやれれば報酬アップだ!お前ら撃て撃てぇ!」

 

襲撃者の生徒の一人がそう言うと、その取り巻きも含めて一斉にマドカへ向けて無数の弾丸を放つ。普通の生徒であれば、一度に何発もの弾丸を受け、そのまま気絶してしまうほどの密度の弾丸の雨の中を、マドカは針に糸を通すかの如く駆け抜けていく。ものの数分でその場にいたすべてのヘルメット団の集団を壊滅させた。

 

「ふぅ…こんなものですかね…っ!」

 

マドカが一息つこうとすると、周囲に煙幕が発生した。マドカは周囲を警戒する。すると、ちょうど学校の校舎の方面から人影が飛んできた。その人影はマドカに向けて蹴りを放つ。マドカは咄嗟に特殊警棒を引き抜き、その人影の攻撃を受け止める。がしかし、勢いが強すぎて後ろに少し下がってしまう。

 

「誰っ!?」

 

「あなたこそ誰?ヘルメット団の仲間?」

 

人影の姿が鮮明に見えてきた。その人物は、白に似た髪色にオオカミのような耳をはやした少女だった。その少女は自身のものと思われる白い自動小銃を構え、数度引き金を引く。それをマドカは体をひねることで躱し、同時に特殊警棒で白い少女の足をはじき、お互いの間合いが少し開けた。

 

「少し落ち着いてください。私は環理マドカ、特務機関イージスの総司令で、本日伺う予定だったものなのですが?」

 

「ん…そんな話聞いてない。嘘をつくにしてももう少し、まともな嘘をつくべき」

 

マドカの説明を嘘だと断じ、白い少女は銃をこちらに構えている。

 

(ここまで話がこじれたのであれば、相手を無力化するしかないか。しかしこの生徒の所属は、制服のデザインからしてアビドス高等学校のはず。話がいっていないなんてことがあり得るのだろうか…いや、今はこの状況をどうにかするのが先決。申し訳ありません、アビドス高等学校の皆さん!)

 

マドカもまた、リボルバーと特殊警棒を構える。まさに一触即発の様を見せていたそれは、白い少女のほうから崩れた。

 

「シーローコーちゃーん?お客様に何してるんですかー?」

 

白い少女、シロコと呼ばれたその少女は背中から抱きしめられる。

 

「ノノミ、邪魔しないで。こいつは敵、私のことを警棒で殴った。」

 

「それはシロコちゃんが最初に攻撃したからですよー?反省しましょうねー」

 

シロコに抱き着いている少女、ノノミと呼ばれた人物は、シロコの言葉を否定する。その顔は笑顔だったが、その場にいたシロコ、そしてマドカでさえ彼女の全身から噴き出している強烈な怒気を身に感じていた。シロコは「ひっ…」と小さく声を漏らしそのままうなだれた。

 

そして、その後ろから眼鏡をかけた少女がやってきた。

 

「失礼しました。環理マドカさんですね?私は奥空アヤネといいます。本日はよろしくお願いします」

 

これが、マドカとアビドスとの出会いだった。

 




tips フォーミュラスーツ

イージス研究開発部が開発した新型の戦闘服。動力は小型励起反応炉を使用し、全身をナノマシンを使用した特殊合金製の装甲で包み、個人当たりの戦闘力を大幅に引き上げることができる。使用時には各スーツに登録された生体データに符合しなければ使用できない。声紋認証と指紋認証、さらには生徒個人が所有する体内ナノマシンの固有番号のすべてに符合しなければならず、その照合はわずか0.5秒で済む。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。