ある日、目覚めたら医療の街ヤーナムにいた。
うわっ、絶望。
さっきまで家でご飯を食べていたはずなのに、瞬きもして無い一瞬で突然風景と温度と空気がガラリと変わって見覚えのある見知らぬ大地に立っていた。
いや、あの、食べてたごはん……じゃなくって! ウソだろぉ!?!? 待って待って、嫌すぎるんですけど! 気軽に迷い込むところじゃねえよマジで!
血の気の引く感覚を腕をさすってなんとか誤魔化しながら、いやいやっ、ヤーナムとか絶対なんかの見間違いのはずだよ! っと何度も、ホントに何度も確認したから残念ながら間違いない。
おどろおどろしい中世ヨーロッパ風味の街並み。血生臭い空気。何処からともなく聞こえてくる唸り声。
ワーオッ! どこをどう見てもここはヤーナムやでぇっと主張しているぜぇ。ゲームの中での話ではあるけれど、どこもかしこも見覚えがありすぎるんですけどぉっ。ヤバすぎぃ!!
おっと失礼。あともう少しで内なるギャルが出てくるところだった。危ない危ない。
思い出の中でじっとしていてください。ホントに。
だけど、そうはならなかった……ならなかったんだよ……ロック……!
これが現実だと分かった今現在、ギュルンギュルンと高速で脳内に駆け巡るのはゲームの中のBloodborne。この世界は一体全体どういうモノだっただろうか。この先、生き残る為には大切な作業になるだろう。いやマジで!
『Bloodborne』
死にゲーという難易度高めの人を選ぶ作品であるものの、その触れ辛さを軽くひっくり返してその世界に引きずり込まれるような内容だった。
個人的には間違いなく傑作の一つ。うっは! 神ゲーキタコレ! でも、やっぱりムズいよぉ。先に進めるには気合いと根性と冷静さが必要不可欠でしたね……。
やったね! これ聖地巡礼じゃん! よし! もう帰っていいよねぇぇえ!!
噛めば噛むほど味が出るような完成された世界観、感嘆するほど引き込まれるグラフィック、心を掴んで離さない作り込まれたテキスト、押し寄せるのは溺れるほどの情報の波。神は細部に宿るとはまさにこのこと。
あえて見せないという哲学のもと、想像を駆り立てる匂わせをそこかしこに仕込むことでストーリーに奥行きを演出。過去の出来事の擬似的な追体験をさせることでそこに生きたキャラクター達の想いや背景を想起させれる技法。天晴れだ、フロム様。もっとやれ。
まるで幾つもの層を積み重ねたミルフィーユ。
その全て味わい尽くすには一体どれほど掛かるものか、まったく分かったもんじゃない(歓喜)。
ハマる人には抜け出せない中毒性の高い代物。
例えるならグツグツと煮え滾る真っ赤な激辛ラーメンみたいな?
ゲームの主人公、そしてこれから待ち受けるであろう俺の運命は何故か連れ去られて、理不尽な暴力に襲われ、あれよあれよと輸血される。
おいおい倫理観倫理観! 人権はねぇのか! 人の心とかないんか?
そして何故か青褪めた血とやらを求めて各地を探索するのがしばらくの目的になる。めっちゃハードじゃん……。つっら、これ知らない方がマシなのでは?
ゲームをやっていた当時は、ふ、RPGの定番通りに序盤は常に謎が謎を呼ぶものさ、っと軽く流していたものだが実際に起きるととんでもねぇな!
まったくこの怒涛の展開、他のゲームに良く居てくれる主人公の相棒的なキャラクターによる現状の解説のありがたさを知ることができるぜ(血涙)。
死にゲーらしく、その旅の道中も決して楽じゃない。
ヤーナムには人を獣に変える風土病が流行っていた。人を喰らう獣。彼らを狩りながら、様々な人と獣と上位者と出会い、交流し、別れ、ハントする。そうして前に進むのだ。
いや殺すんかーい! でもそんな感じの世界である。壊れてやがる。
そんな世界でも俺たちを導いてくれる存在はいる。
最初の狩人。車椅子のおじいちゃん。
老狩人のゲールマンは静かに語る。
戦いとは、介錯であり、慰めであり、弔いである。
血と涙と闘争。それを求める修羅としか生きれぬ者達の為に慈悲を持って刃を振るうのだ。その血塗られた因果を断ち切り、どうしようもなく渇いた飢えを終わらせて穏やかな日々へと解き放つ、その為の儀式のようなものだと。
なるほど分かった(分かってない)!
つまりアレだろ? 俺のパイルハンマーが火を吹くぜ!
それにしてもアレですね。
人形ちゃんなんですけど、美し過ぎると興奮しないもんですね。なんかこう、居るだけで尊いっていうか、話すと浄化されるっていうか、そういう欲すら申し訳なく感じるっていうか……。
これがホントの偶像崇拝つってね!
…………。
あっちへこっちへ導きを頼りにお使いとたらい回しを繰り返し、やがて収束するように伏線を回収し、真実に辿りつく……なんてことはなァい。
残念ながらこの世界はそこまで優しくは無いのである。心の何処かに、ほんの一欠片ほど、本当の本当にちょっとだけ、正解のストーリーを説明してほしいところはある。だが、ここまで来るとそれは最早野暮なのだ。
多くは語らず、ご想像にお任せスタイルがデフォである。
他のゲームにありがちな、最後に怒涛の種明かしかと思えばところがぎっちょん。そこで放置プレイするのがBloodborneの行けずなところ。フロムゲーの恒例である。最後まで疑問たっぷりだぜ!
初見さんは思うことだろう。
おいおい情報が完結しねぇぜ! 宇宙猫もビックリ、無量空処受けちまったかな? それともエヴァQかな? 何が起きてんのん? 置いてかないで! 誰か説明ぷりーず!
大丈夫だ、問題ない。みんな一緒だ。むしろ、現在進行形です。
フッ、これはそう。よくある、答えは君たちの中にある。というやつなのだ。多分、きっと、あると思います!
あるん……じゃないかな?
現実に解説キャラがいないのと同様、基本的に詳しい設定やストーリーの説明、これまでのバックボーンはあまり語られない。主人公も配慮があってのことだろう。重要人物に聞くこともない。きっといつでも聞けるけど空気を読んでいるのだ。そうに違いない(遠い目)。
習うより慣れろ。考えるな、感じろ。力こそパワー。正面から押し通る! それが先人たちのアドバイス(嘘)。
だがしかし、もういっそのことそっち方が一番手っ取り早いのである。まったく、どういうことだお?
犬夜叉よろしく四魂の欠片を集める旅の如く、世界各地に散りばめられたテキストを読み漁り、その情報の断片を繋ぎ合わせることで己の中に真実を見出すのだ。
まあ、それすらもパズルを上手く合わせると正しい答えが出来上がるようなものでなく、ガラスの破片を集めて自分の思う綺麗なステンドグラスを作るようなものだけども。……それって何も分かってn
つまり、脳に瞳を授かるのだ。
何言ってるか分からないと思うが、俺も分からないので安心してほしい。
まあ、真実はいつも一つと豪語する名探偵でなければまとめる事は出来ないだろう。俺程度にはムリムリ。後は任せます。
しかし、この世界で最も大切なことは誰を信じて誰を信じないかを見極めることだ。この街には幾つかのグループがあって、どの勢力もホントにちゃんとものの見事にイカれてる。
挨拶代わりに剣と剣の鍔迫り合い。会話の代わりに血飛沫が舞う。サイコだね。最高じゃないぞぅ(血涙)。
詳しく話? を聞くところ、どうやら、それぞれに主義主張があってこんな行動しているらしい。嫌な予感しかしない。何処かのアビスのように好きな地獄を選ぶことになる。
街を支配する医療教会。その中で分かれた聖歌隊とメンシス学派。その影にカインハーストに処刑隊。彼らの源流、或いは元凶たるビルゲンワースという学者連中。
揃いも揃って胡散臭くて、辛気臭くて陰鬱で、まったく持って血生臭い。てか、ほぼ獣になってるじゃねえか! 腐ってやがる。遅すぎたんだ!
そんな街の俺的オススメ勢力はあらゆる主張は置いといて、とりあえず狩人達の連盟に協力することだ。獣全てを見敵必殺。シンプル・イズ・ベストってやーつ。サーチ・アンド・デストローイ!
人と獣の二つの道が、捩って交わる螺旋道!
昨日の敵で運命を砕く、明日の道をこの手で掴む!
完全なる黄金の回転エネルギーを見せてやろう。火力はロマンで補ってローゲリウスの車輪が火を吹くぜ!
狩りの在り方を変えた男。醜く血に飢えた獣へ堕ちた怪物。
英雄ルドウイークは虚しく叫ぶ。
戦いとは、正義であり、癒しであり、導きである。
剣と導きと闘争。それを求める修羅としか生きれぬ者達をもはや救えぬ者として、ただの敵だと打ち倒す。そこにあるのは英雄譚。己が本能に委ねるままに、同じ悲劇が起きないように狩って狩って狩り尽くす。その先にはきっとこの病を超える導きがある。ただそれだけを唯一として返り血を浴び続けるのだ。
なるほど、なるほど。分かった(分かってない)
後は任せろ。俺も英雄になるんだ! (分かってない)
いらっしゃいませぇぇぇ!!!!
昨日の人は今日の獣。所詮罹患者達の踊り食い。そこらに群がる怪しい影は人か獣か上位者か。立ちはだかるのは血に渇いた獣。略してちいかわ。考えた人、啓蒙高すぎて草。尊敬しかないのである。
いつから獣でどこから獣なのか。
誰が獣で、はたまた誰もが獣なのか。
いずれ獣になるのなら、果たして自分は人なのか。
そんな世界のお話だ。
うん、人間不信待った無し。さあさあ皆さんご照覧あれ。その病こそ罪の証。最早ここは見渡す限り全てが等しく処刑場。病みに病んだ俺もお前も冒涜的な罪人であり、自浄作用的処刑人。その執行は自分も含めて気分次第。
理性が溶けて、自分をも見失って、本能に塗りつぶされた獣達。手に持つ武器の、その戦いだけが己を表現できる最後の手段。自らの背負った役割をなぞるように刃を振るってくるだろう。その悲痛な叫びを断つために救ってあげよう。この悪夢から。
どこに行っても誰と会っても、ちょっと前のポケモンのように目と目が合ったら即バトル。挨拶はきっとおやすみなさい。
ようこそ! ポケットモンスターデンジャラス&バイオレンスの泣く子も黙るヤーナム地方へ。どっちのバージョンがお好みかな? (いらない)
今なら二つの良いとこ取りのマイナーチェンジ版、グロテスクもあるぞぉ!? (いらない)
ちなみに戦うのは自分自身、負ければ死、勝ち続ければ獣に堕ちてモンスターに成れるよ。
やったね! ポケモンダンジョンまで付いてくるぞ! ナンテオトクナンダー。アンハッピーセット、ゲットだぜ!
…………地獄やんけ。
前門の虎、後門の狼がヨダレを垂らしてにじり寄ってくる大ピンチ。そんなにっちもさっちもいかない状況に放り込まれるのが主人公である。
いやいや、どうしろってんだい!
だがしかし、フロムゲーで主人公に課せられる宿命は大体同じ。
簡単に言えば後片付けと後始末である。もうやらかし終わった壊れかけた世界をちゃんと終わらせて、次の世界を始めるのが役目である。長い夜が終わり、朝日が昇る。そういう当たり前の話なのだ。
つまり俺が太陽だ!
ならば一切合切に救いが必要だろう。
俺が救世主。俺こそがガンダムマイスター(錯乱)。そして死は救いなのだ。そう思わないとやってられねーぜ。
だから、今日も廃人と会話して、狂人共とハイタッチしながら獣を狩りに出掛けるのだ。
汚物は消毒だ! ヒャッハー!!!!
この世界きってのインテリ集団ビルゲンワース。
彼らは冒涜的なまでの探求の末、一つの警句を残している。
かねて血を恐れ給え。
何とも抽象的で解読が難しい。
物語的な意味を無視して個人的な解釈をするなら、現実を見ろという身も蓋もない警句である。他の狩人様たちはどう解釈したのか、気になるところ。
その血でもたらされる奇跡は夢でしかなく、いずれ誰しもが痛感する。夢の中では意味がない、と。
現実でしか夢は叶わないのだ。叶うかどうかは別として。そこにある甘い幻想は結局存在しないも同じなのだ。ならばそれは儚くも虚しい悪夢でしかない。どれだけ夢が叶うとも満たされるはずがない。
一部の学派を除いて。そいつら無敵やんけ。それは幸せかい?
さて、この世界に本当に救いはないのだろうか?
文豪ストレイドッグスという作品に織田作之助というキャラクターがいる。まるで閃光のような人生で、作中で、物語で、こんな言葉を残している。
『人は自分を救済する為に生きている』
彼の人生と心情を一言に凝縮したような言葉だった。
そして、この言葉こそ、ヤーナムを体現しているように思えてならないのだ。
ヤーナムに来る者達は、その進んだ医療を求めてここに来る。この悲劇の元凶も探求こそが目的であり誰かを害するものでなく、奇跡のお裾分けでしかなかった、ような印象を受ける。その後めっちゃ歪んだけども……。
地獄への道は善意で舗装されている、なんて諺もあるが歯車が狂ってしまったのではない。完成した歯車が終わっていたのだ。致命的だぜ!
でも誰かを癒すためにその神秘が使われたのは間違いない。
自己顕示欲と選民思想の塊、もしもバイオハザードのウェスカーみたいなのがこの祭りの音頭をとっていたら今頃世界は終わっていることだろう。
まあ、とか言いつつも実際何が遭ったのかは闇の中で確たる証拠はない。すべては憶測で妄想で考察の域にも満たない。こうだったら良いなと言う希望でしかないのだから一夜の夢のように忘れて欲しい。
でも希望は温かい方が良いはずだ。厳しい現実を覆い隠すように優しい嘘で出来ているこの世界。その悪夢の始まりが悪意であってほしくない。そんな個人的なわがままだ。
誰かに生きていてほしい。
誰かを助けたい。
誰かを救いたい。
その想いの何が間違っているというのか。
きっと間違っていない。それぞれが己の正しさの為に動いて、その結果に勝手に正悪がついてくるだけなのだ。
その結末は確かに間違いだらけだったのだろう。だが、たとえ何かを間違ったとしても、それが間違いなら誰かがそれを正す時が来る。その絶望に終止符を打ってくれるはずだ。
待て、しかして希望せよ。というやつだ。
他力本願上等である。
自分じゃない誰かが救ってくれるものほど尊いものはない。何故なら正しさが姿形を伴って目の前に現れると同じだからだ。
君たちにとっての救世主となるのだ。そして任せて逝ける、と安堵するといい。誰かに負けて初めて止まれる道がある。もう自分ではどうしようもないのだ。
自分が歩んだ間違いが無駄にならない喜びがある。
後に続く生ける者達は、その失敗と間違いから学び、反省し、それを生かして、これからを築き上げて行くのだ。
偉大なる先輩達の想いを引き継いで。
そして、それが、俺の役割ならば…………。
さて、そろそろ目覚めるとしよう。
全ての狩りを終わらせて。
夢占いにおいて悪夢は現実での吉報の知らせだ。
なら、とっとと起きてしまおう。
そこには苦しくも向き合うべき現実と、きっと求めるべき本物がある。
だから、かねて血を恐れよう。
そうして役目を終えた俺は無事ヤーナムから帰還した。
朝日が眩しい。もはや懐かしさすら感じる現代の風景に心の底から喜びを噛み締めながら本来の日常に帰るのだ。
……と、良い感じで終わったと思ったら。
元の世界に帰れず、あれれぇ? と見知らぬ現代の街並みを歩いていると悲鳴と奇声がBGMとなり、隣にドスンと人ならざる死体が真っ赤な花びらを撒き散らしながら降ってきては果てる様子を間近でドン引きしながら見守る事態に遭遇する始末。なっ、なんじゃこりゃあァァァ!!!
まさかのここまでが前日譚だったというオチである。
早川家を救う手段が思いついたら続きます(遠い目)。