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首都高バトル新作おめでとうございます!
どうしても書きたくなったので、久遠のポラリスちゃんと、とある夜の一幕を書きました!

*自己解釈・オリジナルの設定が少しあります。
 ポラリスちゃんの師匠が、パープルメテオだったらなぁ...として書いてます。
 過去作ネタも色々入れてます。

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オリ主人公の通り名は、それっぽくできたと思います。


第1話

 令和七年、その者達は今夜も東京に集う。

 

 ――首都高速道路、夜の女神が見守るスタジアムには、車という鋼鉄の武装を施した、走り屋……と呼ばれる戦士が走る。

 

 首都高速環状線、通称:C1。

 

 首都高で最も作りが古く、最もテクニカルなエリアは、首都高デビューしたての初心者が、よく走り始めるエリアとされている。

 

 テクニカルなエリアは、それだけ車の性能よりもドライバーの腕が、物を言う。

 

 しかし、どれだけ腕に自信があっても、あらゆる「障害」を上手くさばけなければ、格下にも喰われてしまう。

 

 ……ようするに、初心者でも勝ちを拾いやすいのだ。

 

 運だろうが何だろうが、勝ちは勝ち、それが首都高バトル。

 

 スタートもゴールも存在しないので、対戦相手の精神力を削る、削りきられたら負け、それだけだ……

 

 中には「勝つ為のルールしか知らない」……そう豪語する者もいるが、概ね間違ってはいない。

 

「……………………いい感じ、足回りもボディも……エンジンだって……何も問題ない」

 

 時刻は午後23:24、C1外回りの芝公園付近に一台の車が出現した。

 

 グレーとパープルを織り交ぜた、専用カラーを身に纏ったグランドツーリングカー。

 

 特徴的な4連テールランプは、全ての車好きに捧げるネームバリューの証だ。

 

 R33型GTーR。

 

 巨大なボディが絶大な安定性を生み、心臓部は数えきれないくらいの伝説を創りあげてきた、名機:RB26DETTが搭載されている。

 

 外装にはコネクションロッドで固定化された、フロントスプリッター、ハイマウント化されたGTウイング。

 

 そしてボンネットやボディサイドには、北極星の美しいバイナルグラフィックと、首都高を走る戦士達が必ず身に着ける、専用のステッカーが刻まれている。

 

 ポラリスはその名の通り、星を模したステッカーだ。

 

 時速120km/hオーバーで、東京タワーを右手にするコーナーを抜けていくR33のドライバーは、驚くことに未成年の少女である。

 

 久遠(くどう)ひかる。通り名は「久遠(くおん)のポラリス」

 

 最近首都高を走り始めたばかり、正真正銘のルーキーなのだが、既にその名を各エリアに轟かせている。

 

「今夜は誰にも負けない……そんな気さえしてくる……」

 

 4速、特に強くアクセルを入力していないのに、背中から蹴とばされるような加速力に、ひかるは柔らかな表情を作り上げる。

 

 R33の好きなところは沢山あるが、特にお気に入りなのがこの加速。

 

 他の車も運転した事はあるが、やはりR33が一番好きで、乗り換えなど考えられないほど、彼女はこの車を愛している。

 

 ゴツい巨人の存在感を放つR33、しかしドライバーはショートカットヘアで、露出の高い服装を着て身長が低めな少女。

 

 さらにあどけない顔つきであるのに、スタイルは抜群でグラビアアイドル顔負けの巨乳である。

 

 ……このギャップにやられた走り屋は数知れず、速さだけでなくビジュアルの良さも、ポラリスの名を轟かせている大きな要因だ。

 

 時折パーキングエリアで休憩している姿を発見されるが、話しかけられると一目散に逃げ出されてしまう。

 

「私の悪い癖……無くしたいんだけど……」

 

 元々ひかるは、大人しくて寡黙な少女。

 

 昔から友達は少なく、人と接する事も苦手。

 

 本当は走り屋達と談笑をして、愛車を語ったり情報を交換したり……友達やライバルを作りたいとは思っている。

 

 が、毎回逃げ出してしまうので、どうにか克服したいと考えているのだが……

 

「師匠も言ってた……交流ができると、もっとこの世界が楽しくなるって……」

 

 ひかるには「師匠」が存在する。

 

 走り始めたばかりの少女が、殆ど負けなしでチームリーダー達や、何十年も前から走り続けている古豪を、打ち負かす事なんて強力なサポーターがバックに居なければ、不可能である。

 

 師匠はひかるの才能に眼を付けて、最速の走り屋に鍛え上げるつもりで、ひかるを弟子にしたのだが……大人しすぎる口下手なところは、改善しろと頭を抱えてしまっているらしい……

 

 ひかるの首都高への才能は本物だ。

 

 例えば江戸橋コーナーを綺麗に、ゼブラゾーンに一切触れずに走れ、と課題を師匠が出す。

 

 一度目は失敗する、が……二度目にはもう出来てしまえる。

 

 しかも軽自動車ならまだ分かるが、R33ほどの巨体でたった二度目での成功は、尋常ではない難易度なのだ。

 

 一度は失敗しても、二度目では何だって出来るようになる。

 

 恐ろしい適応力と車両感覚を備えたひかるは、間違いなく首都高をひっかきまわす……いや、伝説に名を残す走り屋になる。

 

 ……と、師匠は期待しているが、引っ込み思案すぎる性格だけは、何度指摘しても矯正できない。

 

「頑張りたいんだけど……」

 

 シュンとなるひかる、裏腹に一ノ橋JCTの角度が浅く、伸びるようなコーナーをすんなりとクリアする。

 

 一般車の状況が良いという条件を加味しても、ほぼノーブレーキングで160km/hから速度が落ちていない。

 

「ブースト、水温、油圧……燃料、問題なし、師匠がセッティングしてくれた足回り……完璧です……」

 

 彼女の愛機は、師匠との共同で制作されている。

 

 走り始めの時は、C1用に足回りとギア比を調整しただけで、エンジンも吸排気系も手を加えていなかった。

 

 師匠は「暫くこのままで十分か?」と、予想していたが、ひかるの成長はとんでもなかった。

 

 もう今のR33では物足りない、R33がドライバーに付いていけなくなった。

 

 彼女の成長速度には、師匠も面を食らったようで、急いでチューニングを許可、そして現在の使用となる。

 

 パワーは約380馬力、ブーストアップによりノーマルから100馬力も増加したが、RB26で380馬力はまだライトチューンである。

 

 合わせて吸排気、駆動、足回り、ボディ、そしてエアロパーツとホイールもアップデート。

 

 あくまでも「ステージ2」の内容であり、彼女のR33はまだまだ速さを得る大量のステージが控えているのだと、留意していただきたい。

 

 なお、外装は全てひかる自身の趣味であるが、エアロパーツがもたらす強大なダウンフォースには、「もっと安心して踏めるようになりました」と、性能に満足している。

 

「よしっ、ここからは本気で――」

 

 絶対的な信頼をおいている、師匠と共に制作したR33は実はまだ、本気の走りをしていなかった。

 

 すれ違う同志、首都高の戦士達は「バカみてーな速さ!」「あんな走りをあの女の子がっ!?」と、口を揃えながらアクセルを緩めてしまう。

 

 揃いも揃って、バトルを申し込もうとして……いたのだが、あまりの迫力と速さに戦意を喪失させてしまったのだ。

 

 バトルをしたかったが、誰も挑んできてくれない……

 

 走りは攻めでも、性格が受け身なひかる。

 

 自分からバトルを挑むのも考えたが……今夜はタイムアタックに変更しようと、センターコンソールに後付けされたラップタイマーを起動……

 

「……………………っ!? パッシングだ……」

 

 霞ヶ関トンネル内で、突如現れた車にアクションされたひかる。

 

 これはルールなどではない、戦士達の本能に刻まれている、走りの記憶。

 

 首都高でのパッシングがバトル-魂と誇り、そして速さを凌ぎ合い、削り合う合図なのだと。

 

「車種は……っ! あの車…………」

 

 ひかるが初めて首都高を走った夜、とある走り屋に敗北した。

 

 そこからは連戦連勝なので、唯一の黒星を付けられた相手……それが――

 

「……GR86……やっぱりあの人だ……」

 

 ひかるとほぼ同時期に、首都高デビューを果たして、瞬く間に「要警戒ドライバー」と数えられるようになった男。

 

「〝首都高の超新星〟…………さん」

 

 激しくパッシングする車の正体は、新生代のスポーツカー、トヨタから生み出されたGR86であった。

 

「私のR33と一緒……?」

 

 彼のGR86も、初めてバトルした夜は外装がドノーマルであった。

 

 今夜はフルエアロと、バーチカルマウントタイプのGTウイングで武装されて、如何にも「速そう」な見た目へと変化されている。

 

 超新星の通り名は、彼が刻むシンボルステッカーが、爆発するかのように輝く天体である事から、呼ばれるようになった。

 

 ボディカラーは夜でも眩しいレモンイエローをベースに、フェンダーやサイドスカートにはラメやフレーク加工が施され、車体中心に引かれるストライプはメタリックグリーン、車体下部にはグリーンのネオン管も装備され、非常に派手である。

 

「見つけたぜポラリス、あの時よりずっと速くなったって聞いて、身体が疼いちまっていたが……ようやくまた走れるな!」

 

「…………このバトル、受けます……!」

 

 ひかる、いや――久遠のポラリスは、ウィンカーを数回点滅させる。

 

 バトル了承の意、50km/h程度で巡行しているR33とGR86は、間もなく夜の首都高迷宮を駆ける、鋼鉄のモンスターマシンへと変貌する……

 

「嬉しいぜ、噂されている以上の、新しくなった速さを見せてくれ!」

 

「……今夜は……勝たせていただきます……!」

 

 ステアリングを強く握るポラリス。

 

 物静かな少女、しかし彼女は走り屋……計り知れない闘争心を秘めている。  

 

 しかも一度負けている相手なのだ、一度ならず二度までも負けたくない、絶対に勝利すると――アクセルを踏み込み、シフトを2速へ上げた。

 

「お前のR33もチューンされたみたいだな」

 

 例え並列スタートだったとしても、アテーサEーTSを内臓したR33相手に、瞬発力でGR86が勝てる道理はない。

 

「いい加速だ、パワーじゃ完全に負けてるか」

 

 ストレートだけでなく、トンネル内の左中速コーナーでも、踏みっぷりの良さを見せジリジリと、GR86を引き離すR33。

 

 彼の推察通りだ、GR86はターボチューンを新たに施されて、馬力は350へと大幅にアップ。

 

 軽量化も進めており、ノーマルよりも50kg以上も軽くなったのだが……やはりGTーRの名は伊達ではない。

 

 明らかにGR86よりも図体がデカく重いのに、自信のあった瞬発力でも上回られてしまった。

 

「…………私も、速くなったんです……負けない……!」

 

 弾かれるようにして、トンネルから脱出する北極星と超新星。

 

 一般車の数はまばら、あまりブレーキを使用せずに、小刻みにステアリングを切りながら、余裕を持たせてパスをし続けるポラリス。

 

「その巨体を、よくもまぁ軽快に動かすな、やっぱお前はすげぇよ、ポラリス!」

 

 S字を抜ければ、またしてもトンネルに突入。

 

 この三宅坂は、道幅の狭いC1内でも特に窮屈で有名だ。

 

 トンネル内の照明を受けて、オレンジ色の光がボディへと、一時的に刻まれる鋼の戦闘機は、ダラダラと右へと伸びるブラインドコーナーを、インベタ気味に走行。

 

 この首都高ではサーキットの基本、アウトインアウト……など、馬鹿正直にしていられないステージ。

 

「上手いな……あの時よりもずっと」

 

 イン側に一般車が現れても、すぐにアウトへ流れればいい。

 

「そしてそれが……ブロックにも繋がる……」

 

 数秒後にまたダラっと伸びる右のブラインド、捉え方によっては複合コーナーとなるだろう。

 

 今度はアウトから徐々に、イン側へと降りていくポラリス。

 

 狙っていたラインを防がれて、アクセルが一瞬踏めなかった超新星。

 

「ちっ……コーナーでも死角はありませんよ、ってか」

 

 そして現れるのは絶望のストレート、しかも一般車は極僅か。

 

「行こうよ、私のR33……!」

 

 フルスロットルを入力されて、タコメーターがブン回る。

 

 フルスケールに交換されたスピードメーターは、RB26のけたたましい咆哮と共に、190、210、230km/h……

 

「まだ伸ばすのかっ! だがアクセルを踏むだけじゃ、C1はクリアできないぜ! どうするんだポラリス!」

 

 超新星のGR86もアクセルをベタ踏みするが、ダメだ……数値上のパワー差はたったの30なのに、その「30」がほぼ障害物のないストレートでは、あんまりにも大きい。

 

 ジリジリどころか、ドカンッとR33のテールは消えていく。

 

 超新星は自身の精神力が、ガリガリと削れていく事を実感する。

 

 先行では前を走り続け、後追いの精神力を削り倒す。

 

 逆に後追いではしつこく張り付いて、先行のミスを誘う……首都高での「あたりまえ」

 

 しかし超新星の言葉通り、C1はパワーのある車でアクセルを踏めば勝てるほど、ヌルいエリアではない。

 

 ここは首都の中枢、終わりのないメリーゴーランド、減速の術を知らない「ヘタクソ」は、よくストレート後のコーナーへと突き刺さる。

 

 設計が古く路面状態も悪いので、道路の繋ぎ目で絶妙に跳ねてしまったり、毎晩走り回る走り屋達のブラックマークすらも、行く手を阻む障壁となりえる。

 

 トンネルを抜ける間際、非常にキツイ右コーナーが大口を開いている。

 

 まるで首都高に潜む悪魔が、「今夜の食事だ!」と言わんばかりに、ストレートで踏み続け調子に乗ったドライバーを、喰らいつくさんかの如く……

 

「…………ッ!」

 

 向上した技術、アップデートされた愛機を信じるポラリスは、ベストなタイミングでハードなブレーキング見せた。

 

 前を抑えていても冷静に、それでいて激しい闘争心が無ければ、到底「伝説」には届かない……

 

「師匠は……そう教えてくれました」

 

 ……速い、タイヤを僅かに、本当に僅かに滑らせながら、しかもコーナーの途中で一般車を躱しながら、ポラリスは一切の破綻をせずにクリアしてみせた。

 

 あのスキール音は、タイヤグリップが限界だから……ではない、意図して滑らせたのだ。

 

「本当に速いコーナリングは、僅かにタイヤを滑らせるって言われてるけど……いいモン見せてくれたな! 俺らも反撃だぜ!」

 

 目の前で繰り広げられた「芸術」には、思わずステアリングから手を放して、拍手をしたくなる程であった。

 

 ……まだ彼の精神力は死んでない、寧ろより強い闘争心、そして走り屋の「本能」を覚醒させた。

 

「速い相手が居たらブチ抜いてやりたくなる! そうだよなぁポラリス!」

 

 FA24ターボが突き抜けるエキゾーストを奏でる、夜の即興劇は……これからが本当のハジマリ。

 

 誰もが主役になる事を夢見る、敗北の二文字が大嫌いな戦士達、彼方へと消えていく美しい北極星目掛けて、人差し指を射す。

 

 ここで超新星は、GR86から敢えて取り外していない、オーディオのスイッチをONにする。

 

 最高にテンションが高まったら、お気に入りの音楽を流しながら走る。

 

 彼なりの拘りであり、凄まじく速いライバルへの流儀でもあった。

 

 ……その曲は何十年も前に流行っていて、それこそ彼が産まれたと同時にリリースされた、まさかの「首都高で生きる走り屋達の為のシングル」

 

 超新星はこの曲が大好きだ。

 

 今となっては走り屋達の間でも忘れられてしまっている曲だが、只管に走りの魂を刺激してくれるメロディと歌詞は、どれ程の刻が経過しようと全く色褪せていないと思っている。

 

「走り続けたい、いつまでも!」

 

「命の限り……見せてやる……」

 

 ヘッドライトの光が、夜風を切り裂く。

 

 チューニングされた鋼のモンスターが、大官町へ突入し……一瞬で走破を果たす。

 

 ポラリスは不思議な気持ちになった。

 

 自然と口が「ある曲」を、口ずさんでいたからだ。

 

 今でこそ忘れ去られてしまった名曲だが、彼女の師匠は名の通った走り屋だ。

 

その師匠から教えて貰い、大好きになって学生時代はずっと、ミュージックアプリで聴いていた曲だった。

 

「WITH ME ここから抜け出そう、輝くあの場所へ!」

 

「そう……灼熱の心を止めないで……」

 

 ――LET ME GO!  一瞬を感じよう!――

 

 眠らないネオンの都会。

 

 100、200、250km/h……スピードを上げれば、ノイズが遠ざかる。

 

 竹橋も交通量は問題ない、一般車両の「配置」もポラリスが走り抜けるには、これ以上なく速度を乗せたライン取りが出来る。

 

 路面がウネり「バンクなんじゃないか?」と、揶揄される傾斜を誇る神田橋が姿を表す。

 

 超新星と同じ歌詞を口ずさみながら、暗い闇へとダイブしていくポラリス。

 

 軽量なGR86では同じ走りができない、ドッシリと構えるような車体のR33だからこそ実現できる、センターライン陣取るようなライン取りには、超新星も歯ぎしりしてしまうが……

 

「楽しいぜポラリス!」

 

 ライバルは速ければ速い程イイ、それでこそ倒し甲斐があるというものだ。

 

「伝説へと向かう扉、その一つの道がお前を倒す事で開かれる!」

 

「…………もう負けない、負けたくない、伝説の景色を私は……見たいんです!」

 

 エンジンの負担覚悟で、超新星はブーストを上昇させてきた。

 

 +50馬力は上乗せされたが、パワーに任せストレートで勝負するのではない。

 

 摩天楼が戦士達を見下ろす、呉服橋ストレートでは完璧にポラリスが優勢で、周囲で巡回している走り屋達は「勝負あったか?」……そう勘違いしても、おかしくないアドバンテージを作り上げていたが――

 

「……っ! 一気に詰め寄ってきた!」

 

 江戸橋の右低速コーナー前、フルブレーキングでサスペンションが軋む、減速Gを華奢な身体で受け止めながらも、ヒール&トゥ、シフトダウン、そしてバックミラーを一瞥。

 

 首都高での才能に恵まれているポラリスは、短期間でメキメキと上昇するバトルの技術ばかりに注目されているが、車の運転の基礎自体が抜群に上手い。

 

 基礎ができなければ、どれだけ走ってもヘボのままだと、優しくも厳しい師匠から散々教えられている。

 

 しかし、傍から見れば分からないだろうが、一瞬だけ……ポラリスの運転は破綻していた。

 

 アウト側のゼブラゾーンを割りながら、イエローとグリーンのGR86が、急激にアドバンテージを縮めてきたのだから。

 

「どれだけのレイトブレーキングを……私のR33だと絶対にできない……」

 

「ストレートでダメならコーナーで! バトルのお約束だろ!」

 

 超新星は覚悟を決めて、ポラリスよりも実に80km/hは増した速度で、クラッシュが頻回に起こるコーナーを切り抜けたのだ。

 

 しかも「おかえし」とばかりに、タイヤどころか車体をスライドさせた、ドリフト状態で、だ……

 

 首都高でドリフトは非常に危険なのだが、彼も「伝説」を目指す期待のルーキー、これくらいして貰わないと夜の女神には愛想を尽かされるだろう。

 

「距離は縮められても……!」

 

 4速、気持ちのいいフィーリングでギアを入れたポラリスは、気を取り直して宝町ストレートへ突入する。

 

 +50馬力され、グワリと離れる事はなくなったが、それでも確実に4連テールランプは離れていく。

 

「やっぱコーナーでケリ付けるしかねぇか」

 

 彼らの大好きな首都高ソング、「Let Me Go」にはこんな歌詞がある。

 

 ――悪魔のようなエクスタシー

 

 首都高バトルそのものを体現している言葉に、超新星は-ポラリスは、今も変わらず心を打たれている。

 

 逃げて、追って、縦横無尽に一般車というパイロンを捌きながら、首都の中心たる無限回廊を駆け巡っていく、若き戦士達。

 

 誰よりも速く、輝く栄光を掴み取ろうと信じて止まない。

 

「狂った夜の……」

 

「はじまりさ!」

 

 瞬きしている暇などない、終わりなき旅の途中で、スリルとドラマを求めている。

 

 ポラリスが首都高で走り始めたキッカケの一つも、スリルのない日常から、スリルのある「非日常」を堪能したかったから。

 

「一緒に続けたいの……」

 

「どこまでも!」

 

 ミラーに映る景色が、一瞬で移り変わっていく……自分達は何処へ向かうのだろう?

 

 移り行く時代の中、降りてしまった者も大勢いるが、参戦した新鋭達も大勢いる。

 

 ポラリスと超新星は、男女の代表のような存在だ、これからを担う若き戦士達は、京橋へと突入する。

 

 この場所は見通しが悪く、橋脚が各所に設置されている。

 

 ベテランですら「怖い」と漏らすほどに、勝負所であり、最も首都高でクラッシュの多い場所……

 

「もう少し早く勝負を付けたかったけど……」

 

 この付近はR33が苦手とする区間、しかし超新星が粘りに粘るので、結局はやや離れた後方からヘッドライトの光を、背に受けている。

 

 かなりのダウンヒル、ブレーキングのタイミング、リリースポイントをミスれば即座に事故る。

 

 ブレーキの容量にはまだ余裕はあるも、ここ一発のブレーキングではGR86の方が有利であると、先ほどのコーナーワークで訴えられてしまっている。

 

 バトルが始まってから、初めて苦い表情を作り出したポラリス。だが……

 

「……つまらない戸惑いは……もういらない!」

 

 ポラリスはアウトから、超新星はインから、橋脚を中央に添えたトンネルから、カタパルトの如く射出される。

 

 また差を詰められたが、一度抜けてしまえば思う存分、RB26DETTのパワーを発揮できる。

 

 今の自分はコーナリングで負けている、ならば、補うような走りをすればいい。

 

「たた真っ直ぐに……この夜を……超える」

 

 師匠も唸るほどの対応力、追いついたと思えばまた引き離される。

 

 今度苦い顔をしたのは超新星だが、彼も僅かに残されている精神力を掲げ、夜を共にするライバルを瞳の中に捉え続ける。

 

「ポラリス! このバトルは-夜は勝つか負けるか、すぐ終わるのか、永遠に続くのか、それすらも分からない」

 

 右、左、右……一般車をスラローム回避。

 

 この動作も一瞬ミスってしまえば、運が良くてスピン、運が悪ければ大事故だ。

 

 それでも止められない……

 

 こんなに楽しいことが他にあってなるものかと、銀座橋脚をアクセルオフのみで突破し、路面のウネりと傾斜が車の自由を奪う、危険なS字に入り込む。

 

 先頭は以前として変わらずポラリス、少しずつだが超新星は差を詰めてはいる。

 

「一緒に走れば……分かり合える事がある……」

 

「俺達は確かに、この夜を共感している!」

 

 一時的に三車線になる特性を活かして、アウトから流れ落ちるようにアタックをしかけた、超新星。

 

 読んでいたポラリスは、わざとアウト側へと膨らませて、寸でのところで超新星を封じ込める。

 

 二台は一瞬だけ失速、しかし瞬発力に自信があるのはR33。

 

 マフラーからアフターファイアを放ちながら、悠然と4つのタイヤでアスファルトを蹴飛ばしたR33は、またしてもジリジリGR86を引き離していく。

 

「これでもダメか、どーすっか」

 

 普通に生きていたら出会う事は無かった2人が、こうして夜を共にできているのも、首都高の-車のお陰だ。

 

「…………この先はトンネル、そして長いストレート……」

 

 勝ちのビジョンを脳裏に浮かべるポラリス。

 

「早く次の手をしかけねぇと! このままだと不味いぜ!」

 

 逆に少しでも食らいついて、さらなる長期戦のプランを瞬速に練り始める超新星。

 

 ポラリスは「行ける……!」と、トンネル突入前にさらに速度を上昇させた。

 

 時速は200km/hを超えている、状況が良くてもこの速度域は驚異的だ。

 

「やっべ……ここまでか……?」

 

 超新星も完全に諦めてはないが、いかんせん分が悪すぎる。

 

 もっと一般車両が多ければ、どうにかなったが、現状は誰も味方にならない状態なので、アクションをしたくても出来ない。

 

 アクセルをベタ踏み、彼も200km/hを超えた速度でトンネルに進入するも、ポラリスは既に左コーナーへ届いている。

 

「クッ……ソぉ……」

 

 ポラリスのリベンジは成功……?

 

 諦めの悪い超新星も、これまでだと……アクセルから脚を離して、降参しようとした……その刻だ――

 

「…………? バトルしてる車……」

 

 左コーナーを抜ければ……相変わらず一般車の数は少ないので、アクセルを踏み込むだけで彼女は勝てた。……ハズだった。

 

 だが首都高を見守る女神は気まぐれだ、常に先行している車両の味方であるとは限らない。

 

 ポラリスは前方に、バトルをしているスポーツカーの姿を確認する。

 

 通り名は……分からないが、マツダのFD3Sと、日産のシルビアS15だった。

 

 首都高はポラリスと超新星、二人だけのスタジアムではない、当然夜に魅せられた数えきれない程の戦士達が、同時刻に火花を散らしていてもおかしくはない。

 

「…………ッ!! スピンッ!?」

 

 FDの後方を走っていたシルビアは、離されるのを嫌ってか、一般車両を追い越す為に無茶なステア操作をしてしまった。

 

 FRのシルビアはスピンモードが早い、立て直しを試みるも虚しく、完全なるスピンとなって、シルビアのヘッドライトがR33の、フロントガラスを眩しく射す。

 

「そんなっ……」

 

スピンをしたドライバーを恨むのか?

 

「もう少しだったのに……」

 

 不運な自分を呪うのか?

 

 ポラリスは考えるよりも先に、R33をフルブレーキング、サイドブレーキも使ってハーフスピンを、させるしかなかった。

 

「また私は負けるの……?」

 

 本来ブレーキを踏まなくていい場所で、ポラリスが絶対にスピンしない場所で……

 

「待って…………!」

 

 スルリ……真横から後方を走っていた筈の、GR86がR33をすり抜けていく。

 

「待ってくださいっ!」

 

 左のドアガラスへと手を伸ばす。

 

 伸ばした闇の彼方へと、超新星は容赦なく消えて行ってしまった。

 

「…………………………………………」

 

 久遠のポラリス-久遠ひかるは、人生二度目となる敗北の味を噛み締める事となり、自身の太ももへ思いっきり――

 

「…………今日は私の夜じゃなかった……」

 

 ――拳を降ろした。   

 

 

 

 

 時刻は23:51。

 

 あれだけのバトルを繰り広げたのに、対して時間は経過していない。

 

 芝浦PAで愛車を停めていた超新星は、今しがた入り込んできたR33の元へと、ゆっくり歩いて行く。

 

「…………よぉ!」

 

「あっ! えっ……あっ、あのっ……」

 

 元気のない表情で、愛機から降りてきたひかる。

 

 車から降りれば彼女は、引っ込み思案で口下手、アグレッシブな走りをしていた姿は欠片も無くなる。

 

「…………私になにか……?」

 

「はい、奢り」

 

「えっ…………わ、悪いですよ…………」

 

 超新星が手渡そうとしているのは、自販機で購入した暖かい缶コーヒーだ。

 

 夏でも冬でも、暖かい缶コーヒーは走り屋御用達のアイテム、これを片手にPAをウロつくだけでも、走り屋だとみなされる程度には、メジャーなアイテムなのだ。

 

「そんな事言うなって、ほらっ!」

 

「……………………では、いただきます…………」

 

 押しにも弱いひかるは、断りきれずに缶コーヒーを受け取った。

 

 超新星は「そのヘソ出した格好だと、夏でも冷えるんじゃないか?」…………とは、セクハラになるので発せられなかったが、彼女の身体を労わっているのは確かである。  

 

(おいしい…………)

 

 バトルで疲れきった身体に、カフェインが染み込んでいく……

 

 彼女はココアの方が好きだったが、偶にはコーヒーもいいなと、両手でくぴくぴ飲みながら思ったのである。

 

「あのさ、これはお願いなんだけど」

 

「えっ…………」

 

 超新星の一挙手一投足に、ビクッと身体を震わせてしまうひかる。

 

 シュワシュワストロングのように、クソデカい声にビビるなら兎も角、超新星は普通にしているのだが……やはり車に乗らない彼女は、人見知りな美少女でしかない。

 

「俺の友達になって欲しい」

 

「えっ…………私と…………?」

 

「ああ! お前とは共に高め合える関係になれる、俺は今夜のバトルで確信したんだ!」

 

 それは願ったり叶ったり、ひかるは首都高で誰もが認める凄腕ルーキーだが、友達と呼べる者はいなかった。

 

 100%性格が原因だが、自分で理解していながらも、実行に移せていなかった。

 

 しかし、いくら人と関わる事が苦手でも、このチャンスを逃す……ひかるは、そんな愚か者ではない。

 

「………………………………」

 

 ハンカチで掌を拭いてから、ひかるは超新星の眼を見据え、左手を差し出した。

 

「…………私で……よろしければ…………私も…………お友達……欲しかった……です……!」

 

 頬どころか、身体全体を真紅に染めながら、やっと……やっと、ひかるは同じ志を持ち、同じステージで走る「友達」を作る事が出来た。 

 

 超新星の言葉通り、これからは共に走り、互いを高め合う良い関係となるだろう。

 

「…………あ」

 

 友達が出来たら話したい事、知りたい事が沢山あった。

 

 早速、改めて自己紹介を……と思ったのだが、ひかるは未だに超新星の手を握り続けている、自分にハッとする。

 

「あ……………………~~~~っ!!」

 

 ……そういえば、男性と手を繋いだ記憶は無い。

 

 恋愛どころか交友関係でつまづいている彼女は、男性と肌を触れ合わせる経験が無く、自覚した瞬間にテンパッてしまう。

 

「わたわたっ わたしししっ! 今夜はこれで失礼致しますっ!!」

 

「あっ! おっ、おいっ! …………今までで一番、大きい声じゃん……ポラリス」

 

 芝浦PAに響き渡る絶叫、なんだなんだと皆が注目を浴びるR33は、バトルの時よりも速いロケットスタートで濃いブラックマークを刻み、再び夜の闇へと溶け込んでいく。

 

「……………………次に会ったら、自分から話してみようかな……私に出来るかな?」

 

 まだステアリングを握る手が落ち着かない、クールダウンの為、暫くはC1を巡回しようと、ひかるは口元を抑えながら決めた。

 

「…………やらなきゃ、友達に……なったんだから…………」

 

 車内に持ち込んでいた、まだ熱のある缶コーヒー、半分残っていたので一気に胃の中へと流す。

 

「…………はぁ…………」

 

 夜風を受けながら走っているのに、夜が明けるまで身体も心も、暖かさが取れなかった。


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