"連邦捜査部シャーレの先生"から直接依頼のメールが届いたため今俺はシャーレの部室がある建物に向かって歩いている。
ふと、周囲を見渡してみれば、二足歩行で歩く犬猫、スーツをビシッと着たロボット、"銃"を手に持って談笑している生徒たち、とキヴォトスでは見慣れた光景が目に入る。……こうやって周りをよく見たのは久しぶりかもしれない。
「おぉ」
今度は空を見上げてみた。すると雲ひとつ無い晴天で空に浮かぶ光輪が凄く映えている。思わずスキップしてしまいそうになるが、人目があるのでやらない。
晴れている日はいい気分になれるから好きだ。だが雨の日も好きだ。『雨の日は憂鬱な気分になる』という人もいるが俺はそうは思わない。雨に当たっていると"心"が洗われている気分になれるから。
結論、俺は晴れの日も雨の日も両方好き。
……なんだかありきたりなことを言ってしまったな。
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「……おっ、着いたな」
そうこうしているうちにシャーレの部室がある建物に着いた。デカイなーとか思いながら中に入ると俺に依頼のメールを寄越した件の女性、"先生"がいた。
「おっ!来たきた、はじめまして!私は"連邦捜査部シャーレの先生"だよ。これからよろしくね!」
先生はこちらに気づくと近づいて挨拶をしてきた。
「はじめまして、ミレニアムサイエンススクール2年、便利屋部部長の
こちらも挨拶をすると先生はニコニコとした顔だった。挨拶されたことがそんなに嬉しかったのだろうか?
「
『ヘイロー』、生徒一人ひとりの頭の上に浮いている光輪。ヘイローの恩恵を受ける生徒たちは銃弾が当たっても『痛い』だけで済む。だが俺にはそのヘイローがない。つまり銃弾一発が命に関わる。……だが俺にとってはヘイローの有り無しは
「キヴォトスでは人間の男は珍しいですからね。ヘイローに関しては少し事情がありまして」
事実俺以外の男子生徒に関しては見たことも聞いたこともない。
「そっか」
俺の中での先生への第一印象は『綺麗な人』だった。茶髪のボブカットにワイシャツ、そしてスカートに黒タイツと所謂"できる女性"を思わせる格好だった。首にはシャーレののIDカードが下げられている。
……余談も余談だが。スタイルもいいし……その……いろいろとデカイ……。
「自己紹介もしましたし、さっそく依頼内容を尋ねても?」
"尋ねる"という言い方をしたのには理由がある。先生からのメールには肝心の依頼内容が
「うん、でもその前に……その"刀"って本物?」
「……えぇ、本物ですよ」
どうやら先生は俺が腰に差している"刀"が気になるようだ。
「触ってもいい?」
「えぇ、いいですよ。鞘に入っているとはいえ刃物ですので気をつけてください」
刀を腰のベルトから抜き先生に渡す。
「おぉ!すごい!」
まるでおもちゃを買ってもらった子供のように目をキラキラさせている先生。
見ているだけのなのにそんなに楽しいのだろうか?とそんなことを考えていると。
「……鞘から抜いてみてもいい?」
恐る恐る聞いてきた。
「いいですけど、怪我をしないように十分に気をつけてくださいね」
先生は鞘から刃を抜く。
「ッ!凄く綺麗な刃!……この刀に名前とかあるの?」
「ありますよ。名前は
「カッコイイ!……でもキヴォトスは銃を持つのが当たり前って聞いたけど、刀を持っているのって」
「多分、俺だけですね」
「銃弾が飛んできたらどうするの?」
「弾くか避けるか斬るかします」
「え?」
「弾くか避けるか斬るかします」
「えぇ……」
……なんか引かれてる?
「て、手入れとか大変じゃないの?」
「それなりに大変ですね」
さっきの引き顔から切り替えてじっくり刃を見て目をキラキラさせている先生。もしかして。
「先生、もしかして武器とかロボットが好きだったりしますか?」
「うん!大好き!」
先生は元気よく応える。そうかそうか。
「なら今度ミレニアムに遊びに来てください。先生の好きそうなものが沢山ありますから」
「遊びって言うより仕事でだけど、必ず行くよ!」
ミレニアムは化学技術が発展しているため最先端のロボットや機械が豊富だ。先生にとってはまさに楽園だろう。……というわけで。
「先生?刀に夢中で本題を忘れていませんか?」
「……あっ……そうだった。ごめんね、はい、刀」
名残惜しそうな顔をする先生から刀を返してもらいベルトに差し直す。
「本題に入る前に。もう一度ごめんね、あんな雑なメールで呼び出しちゃって」
「いえいえ、お気になさらず」
「それで依頼内容なんだけど、君にこれを渡したくて」
そう言って先生は俺に鮮やかな青色の手紙を渡してきた。宛名には俺の名前。
そして差出人は……………………えぇ?
俺が困惑した理由は差出人の名前。……いやいや、えぇ……。
差出人のところには"連邦生徒会長"の名前。
「先生、待ってください。この手紙あのアホ会長からですか?」
「う、うん、そうだけど、アホ会長って?」
「そのままの意味ですよ。俺、
「そ、そうなんだ……」
……しまった。初対面の先生に聞かせる話じゃなかったな。
「でもなんでこの手紙を先生が?」
「私の持ってるタブレット"シッテムの箱"っていうんだけど、それと一緒に置いてあったの。それでリンちゃんに君のことを聞いて依頼のメールを出したって感じかな」
そういうと先生はその"シッテムの箱"と呼ばれるタブレットを見せてきた。見た目はただのタブレットだな。
……?なんかニヤニヤしてる?
「……でも、トウマも連邦生徒会長がいなくなって寂しいんじゃないの?」
「…………は、はぁ!?べ、べつにそんなことありませんけど!?ただ何も言わずに勝手にいなくなったことには色々言いたいことはありますけど!!寂しくなんかありませんよ!!えぇ本当に!!」
「そっちが素なのかな?意外に可愛いところもあるんだね」
なんか、いいように遊ばれてる気がする。これが大人の余裕ってやつか?……一応言っておくが本当に寂しくなんかない。本当に……。
「手紙、見なくていいの?」
「……見ます」
封を切り中に入っている本文が書かれた紙を取り出す。
『月見トウマ君へ』
手紙の一番上には綺麗な字で書かれた俺の名前。アイツはいつも俺のことを『トウマ君』と呼ぶため、こうやってフルネームで書かれていることに妙な違和感を覚える。
俺は手紙を読み進める。
『まずはごめんなさい、何も言わずにいなくなることに君は凄く怒ると思います。』
あぁ、凄く腹が立つ。なにがって、勝手にいなくなったこともそうだがアイツ、七神さんたちにも何も言わずにいなくなったそうだ。………………馬鹿野郎が、せめて七神さんには何かしら言い残してから行きやがれ。
『これからは連邦生徒会、特にリンちゃんには苦労をかけてしまうと思います。』
当たり前だろボケ。
『なので私がいない間、トウマ君が皆を支えてあげてください。』
なんで俺なんかにそんな大事なことを託すんだよ。
『トウマ君はきっと"なんで俺なんかに"と考えると思います。』
え?考え読まれてるんですけどこわー。
『でも大丈夫です。』
何も大丈夫じゃない。
『貴方はいつか私にこう言いましたね、『運命なんかクソ喰らえ』と。運命に抗うその力はきっとみんなを"ハッピーエンド"に導いてくれる、私が保証します。だから大丈夫なんです。』
あの時言った言葉、まだ覚えてたのかよ。それ言ったのだいぶ前だぞ。保証したから大丈夫ってそれどうなんだよ、俺だぞ。
『貴方の進む道がどれだけ歪んでいても、壊れていたとしても、貴方を信じてくれる"生徒たちと先生"がいる。だからどうか"諦めないでください"。』
……俺を信じてくれる人たちか……。
『私はもうキヴォトスにはいませんが、貴方の行く道に幸せがあることを願っています。』
手紙の最後には『連邦生徒会長より』の一文。
……クソが、手紙だけで寄越して勝手にいなくなりやがって。帰ってきたら説教だなこりゃ。
そしてよく見ると手紙には所々に濡れていたような跡がある。アイツもしかして……。
「……どうだった?」
先生が恐る恐るといった様子で話しかけてくる。
「……アイツが帰ってきたら必ず説教してやります。……だからこれからキヴォトスを、俺たち生徒をよろしくお願いしますね先生」
「うん!任せて!」
先生は元気よく、そしてどこか安心感がある声でそう言う。
「……?トウマ紙がもう一枚入ってるよ?」
「え?」
本当だ、さっきとは別の紙がもう一枚あった。
「えーとなになに、『連邦生徒会長権限でSRT特殊学園の"全権限"をトウマ君に差し上げます。拒否権はありません♡』…………は?」
え?……SRT特殊学園の……"全権限"?
「えーとトウマ?SRT特殊学園ってなに?」
「……簡単に説明すると、ヴァルキューレ警察学校が対応できない案件を担うための特殊部隊の運用と養成を目的としたエリート学園です」
「えっと、じゃあ今の手紙の内容からいくと」
「……えぇ、そのSRT特殊学園の"全権限"が今俺にあります」
「え!?ちょ、ちょっと!!まって!!なんでトウマに権限を?」
「SRT特殊学園は連邦生徒会長直属の特殊部隊で任務中の損害や責任は全部
「そこでトウマに権限を譲って閉鎖を阻止しようと」
「はい、そういうことだと思います。……というか譲るといよりも押し付けられたの方が正しいです」
「……でもトウマってミレニアムの
「自分で言うのもなんですけど俺自身便利屋部の依頼関係で各学園に伝手がありまして、しかも
「そ、そうなんだ。……でもトウマ、落ち着いてるね。いきなりそのSRTっていう、しかも特殊部隊の学園の全権限をもらった「押し付けられた」……押し付けられたのに」
「なんかもう、あのアホ会長の無茶ぶりには慣れましたよ」
「それ多分慣れちゃダメだよ」
「そうですかね?一応これでも内心焦ってますよ」
「ホントに?」
ポはただの一般生徒だゾ。学園一個のの全権限をポに押し付けるとかアイツ頭おかしいゾ。コワイゾ〜これ。
「本当ですよ。……でもこれからどうするかな〜便利屋部の方もあるしな〜」
ホント、アイツにビンタ喰らわせても許されるだろこれ。やらんけど。いややっぱやる。絶対やる。(決心)
「……私もできる限り協力する。トウマが無理な時は私がなんとかするよ」
「ありがとうございます。……じゃあ先生、今日三度目のよろしくお願いします」
「今日二度目の任せて!」
こうして俺と先生はアホ会長からの押し付けに覚悟を決めた。
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『それでは先生、さようなら』
『うん、気をつけて帰ってね』
そんなやり取りをした後俺はシャーレを出てミレニアムに戻っている最中である。
ちなみに先生とモモトークを交換した。交換する際、いつでも連絡してくれて構わないと言ってくれた。
……ふと、あの手紙の内容を思い返す。
(あんのアホ会長め、SRTの生徒の気持ちはしっかり考えたのか?一応SRTに知り合いはいるがいい顔は……されないだろうな。七神さんにもこのことを伝えないけないし。……俺に上手くできるのか?……もしかしたら先生にもSRTの生徒たちにも迷惑をかけてしまうかもしれない……)
と、そんなことを考えていながら歩いていると部室の前に着いた。シャーレに行く前にしっかり施錠し、"在室"の木札は裏返して"不在"に変えておいた。なのに。
「扉が開いてる?」
刀の柄に手を添えた状態で俺は勢いよく扉を開ける。
「よぉ!トウマ!邪魔してるぜ!─────」
……俺は扉をそっと閉めた。
おかしいな、今一瞬"ミレニアム最強"の顔が見えた気がした。
……気の所為だな、もう一度開けて確認しよう。
「おいおい、ひでぇなせっかくの休みだから遊びにきたのによ─────」
もう一度扉を閉める。
え?まって休みなのあの人?普段めちゃくちゃ忙しそうなのに?
…………もう一度だけ。もう一度だけ扉を開けよう。
「テメェ、いい加減にしろよ……」
「あ!トウマ!やっほー!」
「失礼している、トウマ」
「お邪魔しています。トウマさん」
「ようやく来ましたか。貴方が遅いので私は寂しくて仕方がありませんでした。なのでナデナデを所望します」
なんか増えてるし。
扉を開けると中にはミレニアム最強のエージェント集団、メイド部こと
……なんで?