───あの後も明星さんから何個か質問をされた。
「これが最後の質問です。最近『悲しくなった出来事』はありますか?」
『悲しくなった出来事』、恐らく明星さんは敢えてこの質問を最後にもってきたのだろう。
その証拠に明星さんはどこか申し訳なさそうな表情をしている。
「…………いえ、特にありませんよ……」
答えるのが数秒遅れてしまうがなんとか声を紡ぎ出す。
「……そうですか、安心しました。……ごめんなさい、こんな質問をしてしまって」
明星さんは謝ってくれるが、今の質問に明星さんが謝るべきところなど存在しない。故に俺は───。
「謝らないでください。俺は大丈夫です。"あの時"とは……もう違うんですから」
「えぇ……そうですね。貴方は成長しました。"初めて出逢った"時よりも……」
「はい、俺は皆さんのおかげでこうして"今"を生きていられるんですから」
"過去は想い出すだけでいい。"
"過去を想い出して一々後悔するなんてしんどいだけだ。"
俺たちは結局、"今"を生きているのだからそこに過去は関係ない。
……まぁ、やらかし過ぎて将来の進路に響くって言われたらおしまいだがな。
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「ふふっ、それにしても"初めて出逢った"時とは本当に変わりましたね」
「言わないでくださいよ。……あの時は…………精神的にも未熟だったんで……」
会話の流れから昔の話を引っ張り出され、小っ恥ずかしくなる。
「……あの時はごめんなさい」
「あら?謝ることはありませんよ」
「いや、あの時明星さんには失礼な態度をしてしまい……」
「貴方は本当に真面目ですね。私は気にしていませんので大丈夫です」
(明星さんは本当に優しいな……)
「"リオ"が貴方を連れて来た時は驚きましたよ、なんせ───」
「『ヘイローがない男』だから、ですか?」
「……えぇ、その通りです。……他にも理由はありますが……」
明星さんは昔のことを想いだしているのだろう。静かに瞼を閉じたその顔はとても美しい。いつも美しいけど。
明星さんのこういった一面はあまり見れないので眼に焼き付けようと思う。
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あれから少し雑談をしてから俺は明星さんと戻ってきた和泉元さんに見送られていた。
「今日はありがとうございました」
「いえいえ、また近いうちに遊びに来てください」
「部長が寂しがるから頻繁に来てくれてもいいよ───」
「エイミ───!!」
「ふふっ」
「寂しいのはエイミだって同じでしょうが!!」
「えぇ、そんなことないよ」
「じゃあ、近いうちにまた来ますね。今日は無理でしたけど次来る時はトリニティのお菓子でも持ってきますね」
『ていうか俺菓子折りのひとつもなしに人様の部室に来たの?』と、後悔している。さっきまで後悔がどうたら言ったそばからこれである。
俺がそんなことを考えていると、さっきとは違い真面目な顔をした明星さんが。
「……トウマ、"リオ"のこと、よろしくお願いしますね。……また何かを企んでいるようなので……」
いつも明星さんは調月さんと言い争ってはいるが、こういうところを見るに調月さんのことを心配しているのだろう。
「任せてください。"恩人"を……調月さんを独りにはしませんし、させません。絶対に」
「えぇ、頼みましたよ」
そんな会話をし、俺は特異現象捜査部の部室を後にした。
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「それにしても……」
「どうしたの部長?」
「いえ、なんでもありません」
「なにそれ、へんなの」
(本当に成長しましたね。トウマ)
想い出すのは彼と初めて出逢ったあの日。
最初は彼にヘイローがないことに驚きましたが、それだけならまだマシな方だったと後から悟ることになります。
髪と左眼は今とは違う色で、おでこには鉢金を巻いていて、着ている戦装束と呼ばれるであろう着物も斬られたような跡に銃弾を撃ち込まれたような丸い穴が大量にありボロボロ。
オマケに顔には口元が裂けたような不気味なデザインの"黒いマスク"を被っていたりと不審者と疑われても反論できないような格好でした。
服装だけを見て最初は百鬼夜行の生徒かと考えましたがどうやら違うようでした。
こちらから話しかけても無言を貫き、かといってなにかをする訳でもなくただそこに立っているだけ。
身体検査の為に着物を脱いでもらうと、そこにあったのは……。
鍛え上げられた体に刻み込まれた夥しい数の傷跡でした。
その傷跡に驚くと同時に私はとある違和感を覚えました。
なんせ
リオに手当をされた訳でもないようですし……それに、まるで傷なんて
……そして、身体検査を終えた後も彼はそこに立っているだけでした……。
まるで全てに意味を持つことをやめたかのように、なにかを求めることをやめたかのように、"自分"という"存在"を否定するかのように。
彼の眼はなにも映さない、見ようとしない、それが途方もなく可哀想に思えて仕方がありませんでした。
それからでしょうね、私が彼を気にかけるようになったのは。
最初は話しかけても頷きもしなかった彼でしたが少しづつ返事をしてくれるようになりました。
リオから贈られたであろう服一式を身に纏い無表情ですが嬉しそうに私のところに来たのは記憶に新しいです。
そしてミレニアムに通い始め、様々な出逢いを得て、今の彼『
……いえ、彼が作ったのは
……話を変えますが、変わっていないところも勿論あります。
今も昔も首から下げている"ドッグタグ"と腰のベルトに差している"刀"。彼はこのふたつはいつも身につけています。
そのふたつが、彼にとってなにを表すのかは私には分かりませんが、きっとなにか大きな意味を持つのでしょう……。
さて、昔を思い出すのはこのくらいにしておきましょうか。
(あれからもう二年ですか。感慨深いですね)
「部長、ホントにどうしちゃったの?」
「なんでもありません。ただ昔を想い出していただけです」
「へぇー」
「もうちょっと興味を持ちなさい!!」
そうして私はエイミの元へと向かうのでした。
(彼の