ハイスクールD×D 終焉に抗う暁の太陽   作:ドラゴン大好きT

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今回、前々から決めかねていたことを後書きにて触れていますので、読者様のご意見を聞かせていただきたいです。よろしくお願いします。


第41話 神器所有者の苦悩

 

 

 ギャスパーとの初顔合わせを終えた秀次はジャージに着替え、生徒会の匙元士郎と共に花壇の手入れを行っていた。

 

「────」

 

 秀次はコカビエルと戦った際に校舎を自らの手で破壊してしまった。そのお詫びに生徒会の仕事を一部手伝うことになった。

 仕事を一部手伝っているだけで彼はソーナの眷属ではないので、学校生活を送っている時間帯は生徒会のメンバーとは関わらず、放課後のみに限定して手伝っている。

 

「────」

 

 二人は軍手を着用し、園芸用の小さなシャベルを使って黙々と作業に勤しむ。

 匙は集中しているというより、苛立っているような刺々しい雰囲気で、空気を読んだ秀次も話しかけようとしなかった。

 結果、作業が始まってから三十分ほど経った現在も二人は会話はおろか、一言も話さずに花壇の手入れをしていた。

 

「よし。これでこのあたりの花壇の手入れは終わったかな」

 

 作業開始から三十八分。初めて発された言葉は仕事の終わりを確かめたもの。

 体に溜まった疲労を抜くように全身を伸ばし、秀次は次の場所へと移動しようとする。

 そんな秀次に匙は鋭い視線を向けていた。

 

「────」

 

 匙は生徒会の書記として、生徒会の仕事に誇りを持っている。敬愛する主からの命令ともなれば彼のやる気は最高潮──だった。

 

 邪魔者(秀次)が現れるまでは。

 

 突如として現れた秀次に対して、匙の心象はかなり悪いものであった。

 自分の仕事を奪われているような気がしてならないし、秀次は自分たちが大切にしている学園を半壊させたのだから。

 グレモリー眷属とコカビエルの戦いが終わって学園の惨状を目の当たりにしたソーナの悲壮な顔を思い出すと、腸が煮えくり返る。

 

「なあ、一つ訊いていいか?」

 

「なに?」

 

 軽さも重さも感じさせない平坦な声を返してくる秀次に対して、匙はできるだけ冷静さを保ったまま質問する。

 

「なんで校舎を壊した?おまえは学園を守るために堕天使の幹部と戦ってたんじゃないのかよ?」

 

 その問いに秀次は一瞬、息を詰める。

 陰りのある表情となって心の底からの謝罪を口にする。

 

「それは……本当に申し訳ない」

 

「謝罪じゃなくて、なんで壊したのか理由を話してくれって言ってんだよ」

 

「……言ったところで、匙くんには受け入れられないと思う」

 

「──どういう意味だよ、それ」

 

 秀次の一言に冷静さを保とうとしていた頭が沸騰したように熱くなるのを匙は感じていた。

 

「だって、理由を話したところで俺が校舎を壊した現実は変わらない。仮にコカビエルを倒すために必要だったとしても、俺が暴走して周りが見えなくなっていたんだとしても、他にどんな理由があっても、校舎を破壊した罪は消えない」

 

 だから、自分は精一杯の謝罪を伝えることしかできないと秀次は言う。

 秀次の言い分は筋が通っている。冷静に事実のみを告げている。そのうえで本当に悪いことをしてしまったと反省しているらしい。

 ──だが、どうにもその態度が気に食わない。

 人を食ったような。突き放すような。

 受け入れられることをそもそも想定していないようなその態度が。

 まるで、おまえとは違うと突きつけられているようで胃がムカムカする。

 

「っ──ふざけんな!もっとまともな言い訳をしろよ!」

 

「校舎を壊してしまったのは俺が弱くて、未熟なせいだ。だから、言い訳なんてできない」

 

 激昂する匙に秀次は淡々とした声を返す。

 彼の真っ黒な瞳に揺らぎはない。

 これ以上の追求をしても、同じ答えしか返ってこないのだと匙は理解する。

 同時に、秀次のことがますます苦手になった。

 根本的に価値観が合わない。匙は秀次のことを不気味な人物とはっきりと認識していた。

 


 


 

 秀次は先ほどの匙との会話を思い出して内心でため息を吐く。

 

(絶対に怒ってるよな……)

 

 初対面から継続して匙との仲は悪い。校舎を破壊した件で溝はさらに深くなってしまった。

 次の手入れ予定の花壇に行く前に、秀次たちはギャスパーの指導をしているはずのグレモリー眷属のもとへと足を運ぶことにした。

 皆と話せば匙の機嫌も少しは改善されるかと思ってのことだったのだが──。

 

「ほら、走れ。デイウォーカーなら日中でも走れるはずだよ」

 

「ヒィィィィッ!デュランダルを振り回しながら追いかけてこないでぇぇぇぇぇッ!」

 

「……ギャーくん、ニンニクを食べれば健康になれる」

 

「いやぁぁぁぁん!小猫ちゃんが僕をいじめるぅぅぅぅ!」

 

 デュランダルを持ったゼノヴィアとニンニクを持った小猫に追いかけ回されているギャスパーを視界に映した瞬間、秀次は額に手を添えた。

 リアスはギャスパーの人見知りを改善するために指導してくれと言っていたはずだ。これではむしろ恐怖心を倍増させてしまいそうだ。

 

(……いや)

 

 きっとこれも、自分には理解が難しいだけでコミュニケーションの一環なのだろうと、秀次は開きかけた口を閉じる。邪魔をして空気を壊すような真似は止めておいた。

 周りを見てみれば、先ほどまで不満たらたらの様子だった匙も一誠と楽しそうに話している。

 ──と、そのときだった。草地を踏む音を鳴らして誰かが近づいてくる。

 

「へぇ。魔王眷属の悪魔さん方はここで集まってお遊戯してるわけか」

 

 現れたのは浴衣を着た男。悪そうな印象が強い笑みを浮かべる男に全員の視線が向けられた。

 瞬間、その男に見覚えがあった一誠は警戒心に体を強張らせて男の名を呼ぶ。

 

「アザゼル……ッ!」

 

「よー、赤龍帝。あの夜以来だ」

 

 突如として現れたアザゼルに全員が構える。

 アザゼルは戦う気はないと言った。殺気も敵意も感じられないのは確かだが、相手は敵対勢力の堕天使のトップ。悪魔の一誠たちからすれば警戒せずにはいられない。

 

「ちょっと散歩がてらに見学だ。聖魔剣使いはいるか?ちょっと見に来たんだが」

 

「木場ならいないさ!木場を狙っているならそうはさせない!」

 

 叫びにも近い一誠の返答にアザゼルは呆れる。

 コカビエル相手に苦戦しているようでは、堕天使の総督である自分とは勝負にもならない。

 しかし、この場にはそのコカビエルとしのぎを削った新星がいる。

 

「なんだ、聖魔剣使いはいないのか。ならおまえと話すかな、煌黒龍アルバトリオン」

 

 アザゼルは軽い足取りで秀次の眼前に立つ。

 コカビエルが相手でも彼らは死を覚悟した。

 そのさらに上の強さを持つ相手ともなれば嫌な想像が絶えないのは当たり前だ。

 顔を突き合わせていない一誠たちでさえ、湧き上がる恐怖に体が自然と揺れ動いてしまう。

 ──しかし、秀次は一切の動揺も変化も見せずにアザゼルと真っ向から向かい合う。

 

「俺に用があるのか?それとも、俺に宿っている奴に?」

 

「両方だな。まずおまえ、自分の神器のことをどれだけ知っている?」

 

「……複数の属性を操れること。ドラゴンが封じられていること。あとは……」

 

 あとはと、続きを口にしようとして、秀次は言葉を詰まらせた。

 秀次も自分の神器の多くを知らない。

 知ろうとして、封じられているドラゴンと対話を試みたが、結果は芳しくなかった。

 ならばと秀次は考える。いま話している相手は神器を詳しく調べている堕天使組織のトップだ。

 自分の神器についても何かしら知っている可能性はある。

 

「あとは、暴走することがあること。質問に答えたんだから、こっちの質問にも答えてほしい。あの暴走はいったい、何なんだ?」

 

「────」

 

 秀次の問いを聞いたアザゼルの空気が変わる。

 見詰めてくるアザゼルに違和感を抱くと共に秀次は自らの心臓が早鐘を打つ感覚に酔う。

 

「アレを知ってるってことは、もう暴走状態になったことがあるんだな」

 

 しまった、と秀次は己の不手際に気づく。

 だが、気づいたところでもう遅すぎる。秀次は自らの意思で、死地に足を踏み入れた。

 堕天使は神器を研究し、有益な神器所有者を組織に引き入れる一方で、危険な神器を持つ者を処分する役割も担っている。

 暴走する神器とそれを所有する自分。アザゼルが処分を考えていてもおかしくはない。

 

「──っ」

 

「安心しな。おまえが危険なのは確かだが、俺はいますぐどうこうするつもりはねえよ。勝手なことをしたら魔王どもが黙っちゃいないだろう。すべては会談が終わったあとに決まる。おまえが知りたいことにも答えてやるよ」

 

 アザゼルから敵意や殺気は感じられない。

 本当に秀次をこの場で始末するつもりはないようだが、会談後の身の安全は保証されないと暗に伝えられた。そのうえで秀次が知りたいことについても答えてくれるらしい。

 

「おまえが言う暴走、それはおまえに宿る神器、『煌黒龍の統天角』に仕込まれた防衛機能だ」

 

「防衛機能、だって……?」

 

 わけがわからない。なぜ暴走が防衛になる?

 困惑をあらわにする秀次を見ながら、アザゼルは真剣な表情で語る。

 

「所有者が追い詰められ、絶望感に満たされると自動で発動するらしい。所有者の潜在能力をすべて発揮させる代わりに理性を失わせる。そして、所有者に危害を加えた対象を滅ぼす。だからそれは暴走であり、防衛機能なのさ」

 

 一度目の暴走はレーティングゲームの最中。

 ライザーの『女王』によって、結界に閉じ込められ、外に出ようとしていたら暴走した。

 二度目はコカビエルとの戦闘中、重傷を負わされて暴走した。

 程度の差はあれど、窮地に追い込まれた結果、暴走したということに間違いない。アザゼルの説明に疑う余地はなかった。

 それが、どうしようもなく情けない。この上なく恥ずかしい現実を突きつけられている。

 

「それと、一度でも暴走した所有者は次に暴走する危険性も高くなる。暴走癖がつくからだ。さらに何度も暴走していれば所有者の肉体も徐々に傷ついていく。最後は救いのない自滅さ」

 

「……どうしたら、暴走しないようになる?」

 

「神器に組み込まれた機能だからな。完全に無くすことは難しいだろう。自制心を強く保つことが現状の防止策だ」

 

 完全に無くすことは難しい。その一言が秀次に与えたのは慣れ親しんだ諦観だった。

 自分は爆弾を抱えたまま悪魔の永い生涯を生きることになる。もしくはそんな自分を危険だと判断した勢力が処刑するのだろう。

 死への恐怖は──あまり感じない。処刑されたとしてもそれは仕方のないことだと思える。

 むしろ、それが正しいのではないだろうか。

 

「そんじゃ、次はこっちの質問に答えてもらう。宿主のおまえじゃなくて、煌黒龍アルバトリオンのほうにな」

 

 瞬間、秀次の意識が暗闇から浮上した。

 興味津々な視線を向けてくるアザゼルに辟易しながら秀次は神器を出現させ、自らの額に生えた角を指でコツコツと叩きながら言う。

 

「それは別にかまわないけど、期待した答えが返ってこなくても俺に文句は言わないでくれ。まともに受け答えをしてくれるような奴じゃない」

 

「それは質問によるだろ。──煌黒龍よ、なぜおまえほどのドラゴンが封じられているのに神器はそんなにも弱い?」

 

 アザゼルの一言で辺りは静寂に包まれる。

 秀次でさえそれがアルバトリオンに対する侮辱だと息を飲んだ。

 言われた本人。いや、言われた本ドラゴンが怒り狂ってもおかしくはないと思った。

 しかし、意外にも額に生えた角から不機嫌極まった低い声は聞こえてこない。ただ静かに紫色の点滅を繰り返している。

 

「所有者の命を削る神器はある。所有者を暴走させる神器もある。特に魔物やドラゴンが封じられている神器がそうだ。

──だけどな、そういう類いの神器は禁手に至れば大幅な強化や変化が起こる。だが『煌黒龍の統天角』の禁手にはそれがない。他の神器に比べて拡張性がない」

 

 辛辣だが正当な評価だと秀次は思った。神器について詳しく知っているであろうアザゼルの評価なのだから、余計に正しいと思える。

 

「生前のおまえはまさにあらゆる天災の具現化、破壊の象徴と呼ばれるにふさわしい強さだった。それがいまや欠陥品の神器だと蔑まれている。おかしいと思わないか?」

 

『──カラスの総督、貴様、何が言いたい?』

 

 再三にわたる侮辱に耐えきれなくなったアルバトリオンが反応した──かに思えた。

 聞こえてくるその声に不快感は感じられない。アザゼルが何を考えているのか、続く言葉に興味を示したようであった。

 しめたと口角を上げてアザゼルは答える。

 

「その神器が欠陥品になった理由があるんじゃねえのかって話さ。例えば、おまえが神器に封じられたときに神が何らかの細工を施した、とかな」

 

 アザゼルの例え話に皆が黙るなか、アルバトリオンのくぐもった声が響き始めた。まもなく大きな笑い声へと変化する。

 

『フハハハハハ!カラスは神器の研究をしていると聞いていたが、その頭ともなれば知恵も回るようだ。確かに俺が神器に封じられることになった際、あの神は細工を施した。だがそれは俺との取引に応じたからよ。「神器に封じるのなら、俺の力の大半も封じてもらう」とな』

 

「なぜ、そんなことを?」

 

『単に気に入らなかっただけだ。人間ごときがこの俺の力を使うなど、身の程知らずにもほどがあるというもの。仮に使えたとしても翻弄されて自滅するのが関の山だろう?それまた一興ではあるがな』

 

 なんとも性格の悪い奴。話を聞いていた全員がアルバトリオンへの印象をそう定める。

 

『神器は所有者の想いによって真価を発揮する。それは激情、怒りによって引き起こされることも多い。窮地に追いやられて怒り、この俺の力を軽々しく使おうなど、到底許せるものではない。貴様らが言う暴走機能も安易に俺の力を使わせないための処置にすぎん』

 

 それだけ告げると、神器の角は消え失せた。

 話を聞いていた一誠は驚く。自分とドライグとの関係とはあまりに違いすぎたからだ。

 ドライグも一誠の身に余る力を貸すときは代償を求めてくる。無条件に力の全部を貸し与えてくれるわけではないが、それでも基本は協力的だ。宿主の一誠に危険が差し迫ったときは助言までしてくれる。

 だが、アルバトリオンは違う。協力的な様子が一切ない。宿主が死のうとどうでもいいという態度である。

 

「まさかこれほどとはな。おまえも厄介な奴を宿しちまったな」

 

 ため息を吐いて頭を掻くアザゼルと沈黙を貫いている秀次。

 先のアルバトリオンの話を聞いて、アザゼルは目的を果たしたが、秀次が何を思っているのかを察することはできなかった。

 煌黒龍との話し合いを終えたアザゼルはギャスパーが隠れている木陰へと近づく。

 

「そこで隠れているヴァンパイア。『停止世界の邪眼』の持ち主なんだろう?そいつは使いこなせないと害悪になる代物だ。神器の補助具で不足している要素を補えばいいと思うが……。そういや悪魔は神器の研究が進んでいなかったな。五感から発動する神器は持ち主のキャパシティが足りないと自然に動き出して危険極まりない」

 

 アザゼルはギャスパーの両目を覗き込みながら神器について語る。相変わらず敵意はなく神器への興味だけしかない様子だ。

 さらにアザゼルは匙に視線を向け、彼の右手を覆う神器を指さす。

 

「それ、『黒い龍脈』か?練習をするなら、それを使ってみろ。このヴァンパイアに接続して神器の余分なパワーを吸い取りつつ発動すれば、暴走も少なく済むだろうさ」

 

「……お、俺の神器、相手の神器の力も吸えるのか?ただ単に敵のパワーを吸い取って弱らせるだけかと……」

 

「ったく、これだから最近の神器所有者は自分の力をろくに知ろうとしない。『黒い龍脈』は伝説の五大龍王の一匹、『黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)』ヴリトラの力を宿している。まあ、これは最近の研究で発覚したことだがな。そいつは、どんな物体にも接続することができて、その力を散らせるんだよ」

 

 アザゼルいわく、短時間なら所有者の匙側のラインを引き離して他の者や物にも接続可能。さらに成長すればラインの本数も増え、吸い取る出力も倍々に増えると言う。

 自分の力を知った匙は黙り込む。密かに一誠にライバル心を持っている匙としては、アザゼルから伝えられたことは表には出せずともうれしいものがあったからだ。

 

「神器上達で一番てっとり早いのは、赤龍帝を宿した者の血を飲むことだ。ヴァンパイアには血でも飲ませておけば力がつくさ。ま、あとは自分たちでやってみろ」

 

 それだけ言い残すと、アザゼルはその場から立ち去ろうとする。だがすぐに足を止めて一誠と秀次に視線を向けた。

 

「ヴァーリ──うちの白龍皇が勝手に接触して悪かったな。さぞ驚いただろう?なーに、あいつは変わった奴だが、いますぐに赤白ライバルの完全決着をしようなんて思っちゃいないだろうさ」

 

「正体語らずに俺たちへたびたび接触してきたあんたのほうは謝らないのかよ?」

 

「そりゃ、俺の趣味だ。謝らねぇよ」

 

 思わず悪態をつく一誠であったが、アザゼルはまったく悪びれもせずに立ち去っていった。

 取り残された彼らはしばらくの間、顔を見合わせながら今後の動向を悩む。

 ただ、先ほどまでの話を聞いて黙り込んでいる秀次のことが一誠は気になった。

 常に神経質な弟分のことだ。よほどのことじゃ取り乱さないとはいえ、内心はとても穏やかではいられないだろうと心配して。

 

「なあシュージ、あんま気にすんなよ。確かにアザゼルは神器のことに詳しいみたいだけど、あいつの言うことを全部真に受ける必要はないと思うぜ。なにせ堕天使のトップだし」

 

「……心配してくれてありがとうな。でも大丈夫だ。これは俺が抱えた問題なんだから」

 

 小さく微笑んで感謝の言葉を述べる秀次。

 だが、その素直な感謝が一誠に確信を与えた。

 秀次が嘘をついていることを。嘘をついて自分の心の平静を保っていることを。

 


 


 

 アザゼルと再会した次の日。ギャスパーは再び部屋に引きこもってしまった。

 理由は昨日の夜、一誠と共に召喚者と対面しての契約をしようとしたのだが、ギャスパーの美貌に急接近した召喚者の時間を停めてしまった。

 ただでさえ人見知りが激しく、神器の扱いに難儀して周りに迷惑をかけている。その事実がギャスパーの人嫌いをより強固なものにしている。

 現在は自室に引きこもって外にまで聞こえる声量で泣きじゃくっていた。

 

 ギャスパーの父は名門出身の吸血鬼だが、母親は人間で妾のため純血ではなかった。吸血鬼は悪魔以上に純血ではないものを軽視、侮蔑するために親兄弟であっても差別され、ギャスパーは腹違いの兄弟たちにも酷くいじめられた。

 人間の血から得た神器は強力で、半分とはいえ吸血鬼の血を受け継ぐギャスパーは人間界からもバケモノとして拒絶された。

 あげくに家から追い出されたギャスパーは最後にはヴァンパイアハンターに殺された。その後にリアスに拾われ、悪魔に転生して現在に至ると、一誠と秀次は説明された。

 

 ギャスパーが引きこもる部屋の扉の前でリアスと一誠と秀次は集まっていた。もうすぐサーゼクスとの打ち合わせが始まってしまうのだが、ギャスパーのことは放置できない。

 選択を迫られたリアスはこの状況でも顔色を変えない秀次に問いかける。

 

「ねえ、シュージ。あなたならギャスパーの引きこもりもなんとかできないかしら?」

 

「……どういう意味ですか?」

 

 リアスは秀次の過去を知っている。秀次が過去に不良であったことも。それより以前には家で引きこもりになっていたこともだ。

 そんな彼は現在、人当たりが良いとは言えないまでも引きこもることなく活動している。

 もしかしたら、秀次なら引きこもりを解消する方法を導き出せるかもしれないと、リアスは考えたのである。

 

「……シュージの過去を私は知っているわ。引きこもりになったこともあるのよね?ならギャスパーの引きこもりを直す案も出せるんじゃないかなと思ったの」

 

「そうですか。──でも俺は反対です。ギャスパーをいますぐここから出すのは」

 

「……え?」

 

 それは予想外の意見だった。思わず呆気に取られた声を出すリアス。加えて一誠も驚きに満ちた表情を秀次に向ける。

 

「どういうことだよ!?ギャスパーをここから出すのは反対だって!」

 

「そのままの意味だが。ギャスパーをここから出すことに俺は初めから乗り気じゃなかった。これが俺の正直な意見だよ。ギャスパーを連れ出したい部長やここまで頑張ってきた皆には申し訳ないと思っているけど、な」

 

 秀次は淡々とした声で言う。その視線はギャスパーが引きこもる部屋の扉に注がれている。

 最初から乗り気ではなかったなんて、これまで知らなかったリアスは下僕のコミュニケーション不足を嘆きながら問いかける。

 

「えっと、シュージ……なぜ、そう思ったのかを説明してほしいのだけれど……?」

 

「ギャスパーをここから出すことになったきっかけって魔王さまからの指示なんですよね。それに従った部長が俺たちにギャスパーの引きこもりを解消するように命じた。そうですよね?」

 

「え、ええ……その通りよ」

 

「──じゃあその指示を実行する前に、ギャスパーにこの部屋から出たいかどうか、部長は訊きましたか?」

 

 秀次の質問はリアスにとってまさに青天の霹靂であった。絶句する彼女を視界に映した秀次は目を伏せて言葉を続ける。

 

「ギャスパーの引きこもりの所以が恐怖心だということは一目瞭然です。外の世界を怖がっているやつが長い間引きこもっていたのに、いきなり外に出されてもすぐに順応することは困難ですよ。人との関わりすら恐れているなら、近くに知り合いがいても効果はないでしょうね」

 

「……なら、シュージはどうやって引きこもりを克服したの?」

 

「俺が引きこもっていたのは、他人との関わりを拒絶していたからです。必要になれば家の外に出ることくらいは普通にできましたよ。ギャスパーの引きこもりと俺の引きこもりを一緒くたに考えているならそれは間違いです」

 

 つまり、前提が違う。ギャスパーは外にあるすべてを恐れて引きこもっているが、秀次はその恐怖心すら当時は失っていた。

 単純に他人との関わり合いを嫌い、逃げるために家に引きこもっていただけ。

 だが、そんな現状に危機感を覚えた秀次は自らの意思で外に出た。

 ギャスパーにはその意思がない。秀次とギャスパーの決定的な違いはそこだろう。

 

「ギャスパーが外の世界を恐ろしいと考えるのもわかります。だから、皆がギャスパーの引きこもりを改善しようとしているのを見ても、俺はあんまり乗り気になれなかった。無理やり外の世界に出そうとしているように思えたので」

 

「そんなつもりはないわ!」

 

 思わず大声を上げるリアス。そんな彼女に秀次は光が失われた双眸を向ける。

 

「部長たちにそのつもりがないのは見ていればわかりますよ。でも実際、ギャスパーは外に出ることを望んでいない。それが目の前の現実じゃないですか」

 

 無感情な瞳で秀次は目の前の扉を見続ける。

 この扉はまさにギャスパーの安住の地と恐怖に満ちた外の世界を隔てる境界線だ。

 そこからギャスパーを無理やり外に引き出すことを秀次はやりたくなかった。仮にやったとしてもすぐに引きこもりに戻るだけだとわかっていたから。──無駄だと判断してしまった。

 

「ですが──部長がどうしてもって言うなら、俺がギャスパーをこの部屋から出します」

 

 扉に一歩近づいた秀次は振り向いてリアスと一誠を見つめながらそう言う。

 秀次の真っ暗な瞳に差す冷たい光を見て、リアスは彼が考えていることは自分たちにとってはあまり良くないものであると、自分たちとは決して交わらないものだと理解する。

 

「俺がギャスパーの部屋を破壊します」

 

「なっ……そんなことを許すわけないでしょ!」

 

「でもこれが一番てっとり早いですよ。ギャスパーは外の世界を恐れているから、安全圏なこの部屋に引きこもっている。ならこの部屋に引きこもっていても安全じゃないと思わせればいい」

 

「それじゃギャスパーを無理やり外に出しているじゃない!」

 

 したくはないが、必要ならやる。それが秀次の基本スタンスだ。

 リアスがやれと命令した時点で、秀次はギャスパーの部屋を破壊し尽くすだろう。ギャスパーが外で生活するしかないと判断するまでやる。

 その結果、今後一切、ギャスパーと関わることができなくなってしまってもだ。

 

「シュージ……あなたは、それがギャスパーを追い詰める行為だってわからないの?彼をどれだけ傷つけるか、理解している?」

 

「……わかりますよ。わかりますけど……」

 

「私は、あなたにそんなことをしてほしくない。ギャスパーが傷つくことは絶対にしないで。私は皆で仲良くやっていきたいの。あなたはそれを理解してくれていると……思ってたわ」

 

 秀次が出した提案をリアスは突っぱねた。

 そんなリアスを秀次は敬愛している。こんな主に仕えて良かったと心からそう思っている。

 ──でも、秀次にはこれしかない。そうすることでしかギャスパーの引きこもりを解決することはできないと結論づけてしまった。

 

「……部長、すみませんでした。少し頭を冷やしてきます」

 

 そう言い残して、秀次は一誠とリアスをギャスパーが引きこもる部屋の前に置いて去った。

 その背中をリアスは残念そうな、悲しげな瞳で見送った。




では、前書きで触れたことを。
最近、私事なのですが型月作品の月姫リメイクの配信動画を観ています。

それで思ったことは──純愛っていいね!!
ハーレムが主なD×Dの二次を書いておきながらなんですが、型月作品に限らず一途な男キャラがカッコよく思えるというか、ハーレム描こうとしていた自分が不純に思えてしまうというか…。

そんなこんながあって現在、原作ヒロインを一人にするか、複数にするか、オリキャラを混ぜた大ハーレムか、まさかのオリキャラ一途にするか。正直、めちゃくちゃ迷ってます。

そんなわけで、投稿スピードが著しく落ちる、及び最終的にはアンケートも取るかもしれません。読者の皆様も感想でアドバイスしてぇ!
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