どこを探してもなかったので、自分で書きました。
あれだけ流行ったアウラがルイズに召喚されないって、すごい時代になったもんだ。
気が向いたら続きも投稿します。
「アウラ、自害しろ」
北側諸国グラナト領の城塞を望む丘の上、屍の兵士に囲まれたフリーレンはアウラへの最後の一言を放つ。それは、魔王直属の幹部である『七崩賢』の一人、断頭台のアウラにとって致命的な言葉になるはずだった。
「……ありえない……この私が……」
アウラは手に持った剣をゆっくりと自分の首に運ぶ。剣を持つ手は震え、漏れ出す声はかすれている。見開かれた瞳には、隠しようのない恐怖が浮かんでいた。
アウラが用いる
この強力無比な魔法を必殺の魔法に昇華させているのは、アウラのもつ膨大な魔力だった。500年を超える研鑽は、彼女の魔力を大陸有数の強大さに成長させ、魔力の大小で勝敗が決る
たった今までは。
フリーレンは、外部に漏れる魔力を制限していた。それは、魔族を欺くため。魔法、魔力に誇りを持つ魔族には到底なし得ない鍛錬。エルフの寿命を捧げた、魔族を殺めることのみを目的としたフリーレンの技術であった。
魔力制限を開放した千年を生きるエルフの魔力は、アウラを上回る。
勝利を確信し、全身の力を抜いたのは、フリーレンの油断だったのだろうか。
二人の間は、突如現れた銀色の幕に遮られ、フリーレンの視界からアウラが消える。一人の全身が映るほどの大きさの銀幕は、ただならぬ魔力を帯びていた。
「……っ!」
見たことのない現象。千年を生きる魔女をして警戒せざるを得ないほどの異質な魔力を帯びている。フリーレンはとっさに飛行魔法を発動し、全力で後退した。同時に防御魔法をはり、次の攻撃に備える。
しかし、予測された反撃は数秒が過ぎてもやって来ず、ただ静寂が流れた。
どういうことだ? なぜアウラは何もしてこない?
警戒心と僅かな困惑がフリーレンにかすめた直後、アウラとの間にあった銀色の幕は消滅した。
操られていた屍たちは、次々と糸が切れた人形のように地面に倒れ伏す。アウラの姿は消え、その強大な魔力は完全に消え去っていた。
フリーレンは混乱を深めた。
「アウラを、本当に倒した?」
消滅したアウラの肉体、広範囲の魔力探知で一切検知できない魔族の魔力、
では、先程の銀色の幕は、一体なんだったのか?
何らかの反撃を行おうとしたが、魔法が完成する前に『自害せよ』というフリーレンの命令が達成された。アウラは首を自身の手で切り落とした。その後、生命活動を停止した肉体は魔族の常として消滅し、術者のいない銀幕の魔法は消え去った、ということなのだろうか。
「……まさか、逃げられた?」
勝利を確信することはできなかった。
相手は魔王直属の幹部である『七崩賢』。フリーレンの想像を超える方法で逃走したのではないか、もしくはまだこの戦場に隠れ潜んでいるのではないか。
彼女は翌朝までアウラの痕跡を探し続けたが、手がかりは何一つ得られなかった。
一月の滞在の後、フリーレンたちはグラナト領を出発した。
アウラ討伐の声明を出すことはしない。グラナト伯爵がフリーレンの忠告を聞き入れたためだ。しかし、グラナト伯爵領は二度とアウラの侵攻を受けることはなかった。
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トリステイン魔法学院は、広大な森と青々とした草原に囲まれた、美しい城のような学び舎である。中央に最も高い石造りの塔がそびえ立ち、残り五つの塔はその周りを取り囲むように建てられていた。重厚さと美しさを備えた建物は、まさに貴族の子弟が学ぶにふさわしい場所だ。
ハルケギニア大陸のトリステイン王国を支えるさせる立派な貴族になるために、日夜メイジの卵たちが魔法の訓練に励んでいる。
学院の一角、広場と呼ばれる開けた場所に、一人の少女は立っていた。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。桃色ブロンド髪が美しい名門貴族ヴァリエール公爵家の娘にして、学院でもひときわ有名な生徒であった。
もっとも、その名声は魔法の腕前によるものではない。
彼女がどんな呪文を唱えようとも、結果は決まって爆発。周囲の生徒たちからは「ゼロのルイズ」とあだ名されていた。
今日の使い魔召喚の儀式も例外ではなく、ルイズはすでに何度も失敗を重ねていた。
「はぁ……」
付き添っていた教師、コルベールがため息をつく。召喚の儀式はルイズの度重なる失敗で長引いており、さすがに時間が気になり始めていた。
「ミス・ヴァリエール、そろそろ……」
「もう一度、もう一度だけ、やらせてください!」
悔しさと焦りが滲んだ声。ルイズは必死に頼み込んだ。彼女にとって、この儀式は進級するための最後のチャンスなのだ。
使い魔の召喚は二年生へ進級するための最後の儀式であり、メイジが一生を共にする魔法の使い魔を呼び出す大切なものだ。メイジの実力を見るなら使い魔を見よ、という言葉の通り、使い魔は貴族としての証明でもある。
トリステイン王国を支える大貴族ヴァリエール公爵家の三女として、ここで終わるわけにはいかないのだ。
「分かりました。しかし、これが本当に最後です」
コルベールは不本意という顔を隠しもしない。周囲の生徒は、期待とも嘲笑ともつかぬ表情を浮かべている。
ルイズは大きく息を吸い、杖を握りしめた。
これが最後、これが最後、これが最後。
失敗はできない。お願い神様、どうか奇跡を、私に魔法を!
「宇宙の果てのどこかにいる私のしもべよ。神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ。我が導きに答えなさい!」
呪文を唱えると同時に、彼女の全身から力が湧き上がる。今度こそ成功させるという決意が、その一挙一動に込められていた。
ルイズが杖を振り下ろした瞬間、爆発が周囲を包みこんだ。轟音が響き渡る。
周囲の生徒や教師は、また失敗だと呆れた。
だがルイズだけは違った。
私にはわかる、今までと違うと。同じ爆発でも、何かが違うと。
「え……?」
爆炎が収まると、突如として空間が歪み始めた。
ルイズは思わず息をのんだ。
生徒たちがどよめく。コルベールも目を見開いている。
目の前に、銀色に輝く鏡のようなものが出現した。
鏡の表面が揺らめき、まるで湖面のように波打ち始めた。そして──
──どさり。
草むらに、赤黒い衣を纏った人影が崩れるように倒れ込んだ。
「な、なに……?」
ルイズは急いでかけ寄るが、召喚したものの姿を見て足を止めた。
ルイズよりも濃いピンクブロンドの髪を持つ美しい少女だ。しかし彼女は人ではない。側頭部から伸びる二本の角があった。
地面は濡れている。横たわる彼女の首から大量の血液が流れ出している。
「おい……本当に召喚成功したのか?」
その場に居合わせた生徒たちは、困惑と好奇心が入り混じった表情でルイズを見つめていた。使い魔として召喚されるのは、物や魔法生物がほとんどだ。しかし、今ルイズが呼び出したのは、人間に見えた。
「い、生きてる……?」
ルイズはそれどころではなかった。目の前の少女の荒い呼吸、額に浮かぶ汗、首元から湧き出る血。彼女は明らかに重傷を負っていた。
「しっかりして!」
ルイズは少女の肩を揺さぶる。しかし、彼女はかすかに唇を動かしただけで、再び意識を失ってしまった。
「コルベール先生……この人、助けないと!」
「……これは前代未聞ですね。しかし、確かに放っておくわけにはいきません。治癒の魔法を使える生徒はこちらに!」
死なないで、お願い。あなたは私の使い魔なの。
生まれて初めて成功した魔法、その証である少女をルイズは不安げに見つめた。
死なせない、絶対に。