レオリオのォ⤴ ちょっといいとこ見てみたい~! 作:佐伯 裕一
新米憑依転生者ではあるものの、それ系のオタ知識は腐る程ある。あとはまあ、若くして病死した経験からかね。どうにもひとごとというか、ちっと冷めてるきらいがある。だからか、順応するのは我ながら妙なくらい早いと思える。
とりあえず、大目標の『栄達』と『復讐』。この二つを成し遂げにゃならんということだけは決まった。
となれば、やることは一つ。
まずは
赤ん坊を壁にぶん投げるクズから身を守らんと話にならん。
幸い、あの父親らしき男はあまり家に帰らない人間らしい。忙しくバリバリ働いているようには思えない。どっかに女でも作ってんじゃねえのかね。
そんなゴミクズと一緒になって子供までこさえちまったママンはと言うと、なーんか難しい雰囲気。
というのも、自分が生活を共にしている男がろくでなしなのは理解していたんだろうが、赤ん坊を虐待しているとまでは考えていなかったご様子。
そんで、オレがこの子になったきっかけの壁ぶん投げ事件で負った怪我は、主に背面。
おしめやおべべを替えるときってのは、大体赤ん坊は仰向けに寝かされているもんだ。そのせいで背中側の異常には気が付きにくい。生前の女友達もそんなこと言ってた。
だから、ママンが背中や後頭部を撫ぜる度にギャン泣きしてやった。繰り返し繰り返し、飯や粗相では出さない大声で。
そこまでしてやっとこさ異変に気づき、あの男のしてきたことがわかったっぽい。
ママンは貧乏暇なしって感じに働いてる臭いんだけど、それにしたって時間かかったね。
目立つ傷跡は背中の痣だけど、別件なのか細かいものがちょこちょこ残ってる。
仕事と育児で疲れてたんだろうけど、その言い訳が通じるのは子供が生きてるあいだだけだよ、お母さん?
努力のかいあってか、ここ数日のママンはオレをできる限り側に置いておくようにしているし、クズが帰宅しても抱くか背負ったまま離さない。
本音を言えば、きっちり決断して大胆に行動してほしいもんだが、今のところは男を刺激しないよう注意しながら手を考えてる、って感じか。
子供を守ろうという気持ちがあるってわかっただけでも収穫だあな。なにせ伴侶がアレだ。母親も揃ってアレだったとしても、驚きはしない。
被害アピールで母親を味方につけることはできた(と思いたい)。
じゃあ次に何をやるのか。……念の修行でしょ。
逆に聞きたい。寝返りもろくにうてない念能力者の赤ん坊が護身の修行に優先順位をつけるとして、念能力以外が最上位に来ることってあんの?
最終目標としては、世界最強。夢はでっかくいきたいね。多分無理だけど。とはいえ、単純に強ければ、傷つけられる事態は少なくなる。
ハンター世界だし、強さ故に争いに巻き込まれることもあるかもしれんが、それは弱さ故に怯えて暮らし、強者の気まぐれで命を散らす危険性よりずっとマシだと思う。モブの命はジャンプのザラ紙(安価な雑誌用再生紙)より安いのだ。
短期目標としては、あのゴミクズにまた投げられても死なず、後遺症も残らない程度には鍛えたい。
起きてるときは常時『纏』。寝ているときは無意識だろうが常時『絶』だ。
オーラのコントロールを磨くと同時に、肉体の強化と休息を最大効率で行っていく。
さて、それはそうと前述のとおりまだ視界もボケてる赤ん坊のあてくし。周囲の状況把握が随分と進んじゃいねえか? と。
これは、ママンの様子を目や耳を『凝』で強化して探ったことと、一つの能力のためだ。
これらによってボケてた視界も前世と遜色ない、どころか若い? 幼い? 分、めちゃくちゃクリアに見える。
音は元々聞こえていたが、言葉をダイレクトに脳へ届けるため、またママンの小さな独り言も漏らさず聞くために耳でも行った。
応用技の凝は、何もオーラで目を凝らして見ることだけを言うわけじゃあない。
GI編ゲンスルーは、両のおててを凝でガードしていた。このあたり、副読本、いわゆるガイドブックでは「『凝』は目で見るもので、それ以外は『硬』」みたいなことが書かれていたように思うが、硬は『絶』を用いた複合技だったはず。ただオーラを集中させるだけの凝を耳に用いたとして、それを硬とは呼ばんだろう。
こういうの、大体編集者がアシかライターを雇って書かせるもんだから、作品の理解度によっては設定に矛盾が出る。仮にも公式を謳って発刊するのだから、きちんとした仕事を願いたいもんだ。ファンとしては、いい加減な仕事にはイラッとする。
話がそれた。
今のオレにとって、ママンを中心とした狭い世界のありとあらゆる情報が貴重だ。というか、それを仕入れることは死活問題としか言いようがない。応用技である凝は簡便なものではないが、文字通り死に物狂いで取り組めば、やってやれないことはなかった。情報を仕入れられなければ、次の瞬間にでも死ぬかもしれないんだ。スゲえ恐怖とストレスだよ。一回死んだって、寧ろ一回死んだからか? 死ぬのは怖えよ。超怖え。
あとは、やっぱりこの子は天才なんだろうな、と。
その天才ちゃん(おにんにんが無いから女の子だ)は、オレが作った覚えの無い発をプレゼントしてくれた。
【
内容は、「自分の体の状態や変化について、詳細に認識することができる」というものだ。
医学知識なんぞ持ち合わせていないオレでも、見ても触ってもいない背中の痣について知ることができた。
ぶっちゃけ、戦闘の役に立つかは正直わからん。ただ、生活するのに便利な能力だと思う。知らない間に風邪をひいたときなんかでも、自覚症状が出るまえに対処できる。なんでも、早め早めに動ければ、最終的にはローコストで済むもんだ。
また、「人体に精通するほど、より詳細な情報を得ることができ、消費するオーラも減退する」ようだ。『制約』と言えるレベルかはわからんが、勉強嫌いなオレにとっては、効果を発揮すると思われる。たしか制約ってのは本人が軽いと思っていると、あんま意味がないものだったはずだしな。
それに、「能力を使いこなしたければ努力が必要」ってのはプラスに考えれば伸び代があるってことだ。逆に言えば、努力しなければ大して使い道の無い発に、ヒソカの言うメモリを無駄遣いして終わる、なんて間抜けなことになる。
どこまで使える能力にするかはオレ次第。そそられるじゃねえのよ。
とはいえ、水見式もしないで発決定かあ……。
発は念の系統と合致していることが望ましい。でなければ使い勝手が悪すぎるからだ。
オレ自身の系統はあとで調べるとして、肝心なのはマヴラブよ。
これって何系になんの? 強化、は何もしてねえよな。放出もしない。変化は起こったことを知るだけで、変化『させる』わけじゃない。特に操作もしなけりゃ、何かを生み出しもしない。
……あくまで発の感じだけ言えば、特質系の能力じゃねえのかなあ。おいどうすんだよ。違ってたら弱々能力になっちゃうじゃん。
特質系ってクッソレアなんだろ? ソシャゲで言えばSSR越えてURとかMRとか言われる感じの。
マジかぁ。食い違ってたらどうしよ。
まぁ、うん。お兄さんだからね。天才赤ちゃんからのプレゼントなんだし、嫌な顔一つせず喜んで受け取るよ、うん。不安ではあるけども。
念能力の修行とはいえ、発の向上は後回しにした。人体に精通って、赤ん坊にどないせいっちゅうんじゃ。普通に四大行を鍛えるわ。
オレの最大のアドバンテージは、何と言っても修行に費やせる年月だ。逝去する可能性は考えない。意味がないからな。
ビスケから絶賛されたゴンやキルアでも、世界のトップオブトップには程遠かった。ただ、ゴンさんを見るに、時間さえあればその領域まで到達できる可能性はあるわけだ。
オレにはその『時間』が、前倒しで与えられている。オレ自身は何の取り柄もない凡人だ。でもこの子は違う。盲信じゃねえかと自分でも思うけれど、いいんだよそれで。思うことが念の強さだ。多分。
そこで、修行にもちっと色気を出すことにした。
『凝』による情報収集だけでも体力精神力を異常に消費し、栄養と睡眠をやたら必要とした。
だからまずは消化能力の底上げを試した。
オーラは全身の『精孔』と呼ばれる部分から放出される。精孔ってのは全身に存在しているのだとか。
ウィングさん曰く、「オーラは人間の内部から発するエネルギー!」らしいから、『全身』ってのは表面的な話ではなく、骨や内蔵を含めた、正しく『全ての身体』って意味なんだろう。
じゃあ、ある程度意識すれば、オーラを節約しつつ、消化器官だけ強化することだってできんじゃね? そんで大量の栄養を摂取できれば、丈夫な体になるんじゃね? と。
結果、強化はでけた。発想の勝利だな。
ついでにこれにはマヴラブの力が大いに関わっている。
ママンのお乳を吸う。嚥下して、食道を通り、抵抗なく胃に辿り着く。そこから数時間かけて腸を通って、その、なんだ。オムツを汚すわけだが。
その一連の流れをマヴラブで把握し、意識しながら、働いている臓器を念で補助する。
肉体の強化ってのは、何も強化系の専売特許じゃあない。仮にそうなら、GIでゴンの修行に付き合ってたキルアのアレはなんだったのか、って話になる。あくまで得手不得手の問題だ。
そして、推定特質系のオレでも、母乳の消化を助けるくらいの強化は行えるようだった。問題は、効率の話だ。
注ぎ込むオーラが多すぎれば、体が先にへばる。なんのための消化能力強化とお乳の大量摂取なのか、本末転倒だ。オーラが少なければ、しないも同然。語るまでもない。
ついでに言えば、必要な部位も正しく把握することが大切だ。別に応用技の『流』ではないが、不必要な部位へオーラを使用しても仕方ないし、必要な部位に使用しなければ、これも言うまでもなし。
適切なオーラ量で、消化という目的を果たすに最適な強化を行う。
言ってしまえばそれだけのことなのだが、これが結構難しい。できるできないで言えばできる。でも結構難しい。ゴンとキルアが組手を通して学んだことを、オレはおっぱい飲みながら修練している。こんな日常的な動作でも念の修行ってできるんだなーと感心する。
というかあの二人。戦闘にばかり意識が向きがちで、こういった念の使い方ってしてたんだろうか? 多分してねえんじゃねえかな。割とフィジカルモンスターだからな、二人共。「素の肉体の強化」って体を動かすことくらいしか意識してない気がする。
だとすると、考え方次第で24時間フルで念の修行ができるってことだ。これは主人公超えきたか?
……と油断してたら胃のあたりで限界が来た。胃への補助が足りなかったのと、これはゲップが迫り上がって来てるせいか? 赤ん坊の体ってホント不便だな。
ちなみに、ママンはそこそこ美人で美乳だったものの、母性こそ感じはすれども、欲情することは全く無かった。なんでだろう? 脳を含めた体が未発達だからだろうか?
次に取り掛かったのは、寝返りのための筋肉を育てることだ。
普通の赤ん坊ってのは、あうあう言いながら手足を動かしたり、泣くことで主に胴の筋肉を鍛えているらしい。
ただオレの場合、泣きの度合いはママンへのサインにしてしまっているし、折角念が使えるならそんな地道に時間をかけるまでもない。
寝返りをうてるだけの筋力が無いのなら、念で補えばいい。
結果、うてませんでした、寝返り。
敗者ァ! 圧倒的、敗者ァ!!!
うるせえ!(逆ギレ&誰に?)
できると思ったんだよ! だって念能力つったら、身体能力の底上げがまず頭に浮かぶだろうがよ。人によっちゃあ発が先かもしれんけど。
でもまじかー。イケると思ったんだけどなあ。
じゃあまあ、駄目なもんはしかたない。念の補助ありででも寝返りが打てるようになるまで、筋肉を育ててやればいい。
どうやってか?
まずは呼吸だ。息をするってのは無意識に行っているもんだが、理屈としては横隔膜が上下することで肺が収縮し、呼吸ができている。肺が動くからじゃあない。逆だ。
そしてその上下、収縮運動に腹筋等、胴体の筋肉が関係してくる。泣いて鍛えられるってのもこういう話だ。
で、理屈がわかってんなら、別に泣かなくても鍛えられるよね? とばかりに実践。
イメージするのはモラウだ。おそらく、こと『呼吸』に関して言えば、全ハンター中でも最高だろう。
赤ん坊らしい浅い呼吸を止め、まずは深くゆっくり吐く。腹筋も念も限界までがんばる。マヴラブで、引き上げられる横隔膜とそれに圧迫される肺の様子がわかる。
負荷を無くせば、今度は自然と横隔膜が下がり肺が膨らむ。ある程度膨らむと止まろうとするが、させない。横隔膜を思いっきり下げる。押し下げられた横隔膜によって圧迫される臓器と、逆に開放されて、というか必要以上に空気を含まされてそれ自体がちょい苦しくなってる肺がわかる。そこで数秒止める。
体感で、「あ、しんど」と思ったらゆっくりゆっくり息を吐く。
やってみて理解する。これはめちゃくちゃ鍛えられてるぞ、と。
そして思う。「あ、これ保たない」と。
数えたわけじゃあないが、二、三十回の呼吸で意識が遠のいた。
そうだ。眠るときは絶。常に絶。回復力を高める。起きる時間を強く意識してそのとおりに起床するように、自分に睡眠中の絶を強く言い聞かせる。どれだけ良質な休息がとれたかで、どれだけ良質な修練を行えるか決まる。眠ることも修練だ。修練が間に合わにゃあ死ぬだけだ。死にたくなきゃあ、死ぬ気で絶だ。
一ヶ月後。
椅子でうたた寝をするママンの足にしがみついて、お乳をねだるオレがいた。
……うん、たっちできちゃったね。寝返りだとかハイハイだとかすっ飛ばしちゃったね。ちょいがんばりすぎた?