魔法使いの夜・再録   作:某喫茶店のアルバイト

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注意事項
この作品は東方Projectと魔法使いの夜のクロスオーバー小説です。

 東方Projectは公式設定が少なく、また二次創作が幅広く認められているジャンルの一つです。読者様の中には『このキャラクターの性格は違う』『このキャラクターはこんなことやらないだろう』と思われる方がいると思いますが、そこは作者イメージということでご了承ください。
 また魔法使いの夜は未完の作品です。草十郎の性格やバックボーンはまだまだ謎だらけで、作者の考察や想像で保管している部分が多々あります。不快に思われる方もいるでしょうが、こちらも解釈の一つとしてご了承ください。

 一応ある程度は見直したりしますが、誤字脱字などがあった場合御一報いただけると助かります。
まだまだ文章的につたない部分やその他至らない点は多々あると思いますが、読者様の批判や感想など受けて精進していきたいと思います。


プロローグ
~草食動物が幻想入り


「お疲れ様でした」

 

 そう言って律儀に頭を下げると一人の青年、静希草十郎は自分の勤め先である中華飯店『まっどべあ』を後にした。

 パッと見たところ彼の外見は中肉中背で、道行く人の目を惹く美男子という訳でもないが純朴であり、ピンと背筋を伸ばした立ち姿は今時珍しく好青年と言っても差し支えない。性格も穏やかで人畜無害。彼を知る者の大半は草十郎がどのような人物かと聞かれれば、口を揃えて『いい人』だと答えるだろう。

 少々世間知らずではあるが、それは長年人里離れた山奥で暮らしていたからであり、致し方無いことだ。常日頃からその世間知らずな場面を何度も目撃し、対応に追われる某生徒会長としては一つ二つでは済まないくらいには言いたいことがあるだろうが、それでも嫌われる要因にはなりえない。

 さて、そんな彼だが何やら考え事が有るようで数歩も歩かない内に歩みを止めていた。

 

「どうしたらいいものか」

 

 神妙な顔こそしているが、その悩みの内容は至ってシンプル。簡単に言ってしまえば暇をもて余しているのだ。こんな悩みを友人たちに聞かれれば卒倒すること間違いないだろうが、それも彼の一身上の都合を考えれば納得も出来る。

 山から降りてきた彼は生活費と学費の両方を自分で稼ぎながら何とか一人暮らしをしていたのだが、紆余曲折を経て久遠寺邸へと居候する羽目になった。本来なら大なり小なり楽になるものだが、家賃と称して同居人二人が容赦なくお金を取立てて来るので更にアルバイトを増やすことになってしまったのだ。久遠寺邸のヒエラルキー最下層に位置する草十郎は、働き蜂よろしく、せっせと二人の女王蜂のために日々勤労に励むのであった。

 

 そんなこんなで静希草十郎は多忙である。なまじ冬休みで時間の制約がない今は稼ぎ時。ここ最近は朝から晩まで予定が詰まっていたのだが、この後に限っては仕事の予定が無かった。ただ今は夕方の五時過ぎ。遠出が出来る時間でもないし、何より今日の食事当番でもあるのでこの中途半端な時間をどう過ごすべきか悩んでいた。

 このまま素直に帰宅すべきか、それともどこか寄り道をしていくか。彼の中でメリットとデメリットについての計算が行われる。寄り道、又は宛のない散歩をするというのもそれはそれで有意義だろうが、万が一何か不測の事態が起きた挙げ句夕食の時間が遅れるようなら、同居人は彼を許しはしないだろう。

 

「うん、今日は真っ直ぐ帰ろう」

 

 デメリットがメリットを遥かに凌駕したのか、彼は素直に帰宅することを選んだ。止めていた足を再び動かし久遠寺邸へと歩き始める。

 日が落ちるのも早く、気温も冷え込む今の時間帯。歩く人々も自然と早足になり、寒さに体を縮こませるものだが、草十郎の歩みは普段と変わらない。

 山育ちで耐性があるのか単に表情や仕草に表れないだけなのか、刺すような気温の中でも平然とした顔だった。山の水は冷たいというよりは痛かったという本人の言葉から想像するに恐らく前者だろう。

 

 歩くにつれて段々と周囲に人が見られなくなっていくがそれも無理はない。彼が住む丘の上の洋館は、一般人の生活圏から外れている。というより彼を含めた三人以外誰も住んでいないので、この時間帯にはまず人と会わないだろう。その上ここら一帯は個人の所有地であり、近づかないことが暗黙の了解になっていることも関係している。

 久遠寺邸へと続く坂へとたどり着く頃にはいよいよ人の姿は見られなくなる。何気なく空を見ると今まで町を照らしていた夕日がゆっくりと沈んでいく所だった。

 

「……もう夜なのか」

 

 自分で言っておいて妙な気分に囚われる。昼と夜を隔てる境界線を空に見た彼はひっそりとため息をつくと、視線を下へ滑らせた。

 眼下に広がる三咲町。まばらに散る星にも似た光点。それは街灯であったり、家の明かりだったり、とにかくぼんやりと町という存在が隠れないくらいには光が保障されていた。

 何もおかしなことなんてない。おかしいのはこの光景に違和感を覚えている自分自身。本来なら疑問に思いもしないことが、草十郎にとっては悩みの対象となるのだ。

 彼にとって夜を迎えるということは、即ち闇の訪れを意味していた。街灯もなく、獣道が多い山では日が落ちるというだけでも死活問題だ。慣れた道でさえ様相を変え、方向感覚を狂わせる。その結果、間違って崖から足を踏み外すか、それとも野生の生き物のテリトリーに入って襲われるか。どちらにせよ、夜とは一歩間違えれば死へと繋がるもの。けれどそんな感覚は山を降りて直ぐに覆された。

 光を手に入れた人間は最早闇を恐れはしない。町は眠ることなく、また人の営みもそれに応じて変化したのだ。日は沈み、夜を迎え、そしてまた日は上る。当たり前のように巡る流れ(サイクル)の中に命を脅かすような危険が潜んでいるなどとは誰も考えないだろう。

 草十郎自身もそういうものなんだと言い聞かせ、環境に適応しようと努めている。が、ふとした時に感じる違和感を拭い切れない。そして故郷と比べ、思わずにはいられない。

 

――――どうして自分はここにいるのか

 

「ふう……」

 

 懐郷も過ぎれば毒だ。何とか考えを振り払うが、こんなことで大丈夫なのかと思わず弱音を吐く。

 心ここにあらず。どこか上の空で歩く姿は途方に暮れた童のようにも見えた。

 

 

 だからだろうか、彼は一つ失念していた。油断と言ってもいい。今この時、この瞬間に限って言えば心の弱い部分をさらけ出していた。

 今は逢魔刻。そういった心のスキマに容易く入り込んでくる存在は、人の負の感情に引き寄せられる。虫を誘う芳香のように、人の畏れや悲しみは彼等からしてみればそれは甘美なものだろう。様々な意味で、条件が合致しすぎていた。

 

「――――――む?」

 

 変化は一瞬。ふと我に返った時には既に遅く、世界は激変していた。

 そこは見馴れた帰り道ではなく、全く知らない場所。風景は一定のカタチを保っておらず不定形。それも雰囲気からしてどうにもただ事ではない。

 周辺を見回してみるが、何か所在を特定出来るようなものは見つからなかった。それどころか此処には何もない。自然やビルなどといった人工物は勿論のこと、生命の痕跡すらも感じられないのだ。

 この空間は現実味に欠けている。あやふやで不確か。その所感は彼が以前同居人に閉じ込められた硝子の小瓶に近いものを感じる。

 

 そこでふと思い出した。

 

 帰り道には魔が出るものだ。

 だから振り返ってはいけない。

 立ち止まってはいけない。

 弱味を見せてはいけない。

 でないと神隠しに遭ってしまう。

 そんな山での教訓めいた話。

 

 この手のモノは、大抵子供を怖がらせる為の作り話だが、火のない所に煙は立たないとも言う。現に山で暮らしているときに、何の前ぶれもなく、忽然と姿を消す者がいた。もしかしたらその内の何人かは本当に神隠しに遭った者がいたのかもしれない。そう考えると、今の自分の置かれた状況にも合点がいく。

 

「むう…………困った。このままじゃ帰れない」

 

 あおざきにしかられる。そう項垂れる草十郎は現状よりも同居人に怒られることの方が心配らしい。

 とはいえこのままでは埒が明かない上に、ぐずぐずしていては命に関わる可能性もある。今自分に何が出来るか。それを考えていた矢先、草十郎は人影を視界の隅に捉えた。背を向けていて人相は分からないが、こんな場所にも関わらず日傘をさしているということだけは見て取れる。

 吸い寄せられるように足は正体不明の人物へと。その距離が十メートルを切ったとき、草十郎が――――もし、と声を発するよりも先に相手はゆっくりとこちらを向いた。

 腰の辺りまで伸びた金色の髪。瞳は自然界で極希少とされる紫。そして瞳と同じ色のドレスを身に纏い、日傘片手に優雅に佇む様は此処には場違いなはずなのに、違和感を感じさせない。むしろこの空間の主であるかのような風格さえある。

 

 思わずその容貌に目を奪われた草十郎は、声をかける機会を完全に逸した。一方、日傘をさした女性はそんな草十郎を見ながら優しく微笑んでいる。しかしその瞳の奥は底の見えない闇のようであり、彼女の美しさもどこか魔的だ。

 ふと、彼女は何処からか扇子を取り出すと開いて口元を覆い隠す。

 

「あらあら、こんな所にお客様とは珍しい。招いた覚えはないのだけれど…………一体貴方は何者かしら?」

 

 表情は扇子で見えない。ただ、僅かに細められたその眼は返答次第ではただではおかないとでも言いたげな、そんな剣呑さを宿している。だが、そんな機敏を察するのは草十郎には少々難しい。

 

「むう……」

 

 彼はこの問いを額面通りに受け取り、回答に窮していた。

 自己の存在が曖昧で、名前すら定かではない。自分にこの問いは難し過ぎると項垂れた草十郎は、何とか絞り出すように口を開く。

 

「それが、まだ自分でもよく分からなくて……。あの、此処はどこで、貴女は誰だか分かりますか?」

 

 普通なら馬鹿にされていると思うだろう。けれど、これが彼の精一杯の答えだった。

 一方女性の方はと言うと、さして気を悪くしたような様子もなく、それどころか警戒も収まったように思う。けれど、今度は草十郎に対して何か思う所があるようで、怒りとも悲しみとも取れない、複雑そうな顔をしている。

 

「貴方に引き寄せられたのか、それとも貴方が引き寄せられたのか……。これも偶然の産物と言うべきなのかしら。いえ、寧ろこうなることは必然だったのかもしれない。巡り会えたことは幸運であっても、そう在ることは不幸なのね」

「あの……」

 

 草十郎にはまるで分からなかった。言葉の意味は理解していても、真に言わんとしていることを中々読み取れない。彼が感情の機微に疎いせいもあるが、彼女の言い回しや言葉を一つ取っても漂う霧のようで本音が掴みにくい。

 

「貴方は探し物を求めてここへ来たのね」

「えっと、……別に無くしたものはありませんけど。探し物ってなんですか?」

「残念だけど私が教えてあげることは出来ない。けれど探し物が見付かる場所なら知っている。

 招いた訳ではないけれど、それでもお客様はおもてなしするのが私の流儀ですわ」

 

 一転して曰くありげな笑顔を見せる女性。いたずらを思い付いた子供のようで、その実良くないことを企んでいる。

 友人であり、同居人である彼女も時折似たような顔をするのだが、そんなときは決まって自分に災難が降りかかるのだ。

 今正に良くないことが起きようとしている。草十郎がそう奇跡的な察しの良さをみせるのとほぼ同時に、持っていた扇子を閉じるとそのまま線を描くように虚空を一薙ぎした。

 

「なんっ……!?」

 

 突如として訪れる浮遊感。驚くべきことに、彼が足を付けて立っていた場所はいつの間にか人が丸々一人入れるくらいの穴がポッカリと開いていたのだ。

 草十郎の驚愕は落下に遮られ、そのまま奈落の底へと落ちていく。それを見届けた女性はここにはいない青年に向けて囁いた。

 

 

 

「幻想郷は全てを受け入れる。けれどこれだけは忘れないで……。それは――――」

 

 

 

 言葉の端はここに居ない草十郎は勿論のこと、他の誰にも届くことなくひっそりと空気に溶けて消えていった。

 

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