魔法使いの夜・再録   作:某喫茶店のアルバイト

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手弱女の桜

 やっと畑仕事が一段落し、ついに白玉楼へと向かう日がやってきた。とはいえ何かしら特別な用意をしてるわけでもなく、早朝から行動に移したりもしていない。いつも通りの朝を迎え、いつも通りの雑用をこなし、いつも通り朝食を食べる。因みに朝食はご飯に味噌汁、漬物に少しばかり焦げて形の崩れた玉子焼きだった。

 霊夢から姑のような小言を飛ばされ、卵焼きくらいは何とか無難に作れるようにせねばと密かに誓う草十郎。こんな感じで、幻想郷に来てから少しずつ主夫スキルが向上していくのに本人は気がついていない。

 

 二人して手を合わせ、ご馳走さまと口にする。ご飯粒一つ残さず綺麗に食べられた食器を片付け、井戸の近くで洗っていると、母屋の中から彼を呼ぶ声があった。

 何の用だろうと思いながら、洗った食器を桶に入れて運ぶ。そういえば何時もなら朝食後は居間で大の字になるのだが、今日は自分の部屋へ行って何かをしているようだった。

 お勝手に桶を置き、手拭いで濡れた掌を拭きながら霊夢の部屋へ向かうと、彼女の部屋は布の切れ端と糸が散乱している。最近掃除をしたばかりなのにと思いながら背を向けて座っている霊夢に声をかけた。

 

「何か用かな?」

「ちょっとこっち来て」

 

 手招きをされ近付くも、振り返った彼女を見て……正確にはその左手に握られたモノを見て足を止める。

 

「霊夢、それ」

「小刀だけどそれが何?」

 

 不思議そうに首を傾げる霊夢が持っているのはどこからどう見ても小刀だった。手の中にすっぽりと隠れてしまいそうなほどだが、その可愛らしい大きさとは裏腹に鋭くてよく切れそうだ。

 草十郎としては事の次第を説明して欲しいと思うのだが、覚えの悪い彼に説明するのが面倒なのか、霊夢は無言で近づいてくる。とりあえず怖いので後ずさると彼女はその分また近づいてきた。

 少女が一歩近づいては青年が一歩下がる。ジリジリと、そんなやり取りを続けていた両者だが、ついに草十郎の背中に壁が当たり、逃げ場がなくなってしまう。

 すると霊夢は追い詰めた獲物を逃がさんと更に接近し右手を壁に打ち付けた。にっこりと笑い、左手の鋭い小刀がキラリと光る。

 

「草十郎……手、出して?」

 

 有無を言わせぬ迫力に、小動物よろしく震えながら彼はコクコクと頷くのだった。

 

 

 

 

「オッスだぜ……って、どうした。包丁で指でも切ったのか?」

「恐ろしい目にあった」

「何よ、大袈裟ね」

 

 草十郎を冥界まで運ぶべく、博霊神社にやって来た魔理沙だが、彼の右手人差し指に巻かれた包帯を見て当事者ではない彼女は首を傾げる。被害者である青年は神妙な顔で項垂れているのに対して加害者である巫女は指先を切ったくらいで大袈裟だと呆れていた。

 草十郎からしてみれば、指先を切られたことよりも、霊夢が刃物を持って笑顔で迫ってきたことのほうが余程恐かったのだが、それを言うともっと恐いことになりそうだったので口を閉す。

 

「まあいいか。二人とも準備はいいか?」

 

 魔理沙の呼び掛けに、草十郎は『ああ』と頷き、霊夢は無言でそれに応える。元々これといって用意するものはないので、形式上の確認になるのだが、彼の背中には風呂敷で包んだ何かが背負われていた。

 あれは何だろうと思いながら、普通の魔法使いは草十郎に箒へ跨がるように促す。その際、草十郎は先に肩をつかんでから箒の後ろに腰を落とした。もう二度も痛い目を見て学んだのだろう。

 

「魔理沙、安全運転でたの」

「時は金なり善は急げ、速さは正義だぜ草十郎!」

 

 安全運転で頼むと言い切るより速く、またもや箒は急発進して空へ飛び上がった。

 今回は情けなく悲鳴をあげることはなかったのだが、何度体験してもこの感覚は慣れないし、何度魔理沙に言っても意味がないと、心の中で思う。というより、体が後ろに引かれ、肩から手を離さないようにするのが精一杯で、喋る余裕がないのだ。

 

 暫くの間空を自由に翔る速度中毒者(スピードジャンキー)だったが、程なくして満足したのか平常運転に戻る。眩しいほどに太陽が降り注ぐ空は雲ひとつ無い快晴で、その青さも相まって何処までも続く大海のようだ。

 空の海を往く航海者たちは三人。穏やかな風を肌に受けながら目的地を目指す。

 速過ぎるのはもうこりごりな草十郎だが、こうして景色を楽しみながらまったりと空を飛ぶのは好きだった。仮に、外で同じように空を飛んだとしても恐らく見える光景は違うだろう。

 時が進み、文明が発達し、そうしていく中で、自然は何時しか様相を変えられ、空ですら人の手が届くようになってしまった。失われたはずの空が今目の前で広大に広がっている。この光景は幻想郷に来たからこそ見られたのだから、神隠しに遭ったのもそう悪い事じゃないように思えた。

 

「あんなに速度出す必要は無いでしょ。もっとゆっくりでいいわ」

「速いほうが色々とお得だぜ? それに、今日は後ろに草十郎が乗ってるから遅めだし」

「なん……だと……」

 

 霊夢は箒の隣を並飛行するが、その表情は不満気で、無駄に疲れたとぼやく。

 ゆっくり行くという彼女の意見には大いに賛成の草十郎だが、これでもまだ遅めだという魔理沙の聞いて思わず固まった。そして数秒ほど考えた後、今の会話を聞かなかったことにする。とりあえず自分が乗っている限りそれ以上の速度は出ないということだけでよしとしたらしい。

 森を過ぎ、山を越える頃になっても向かう先には目的の建物らしき影すら見えてこない。当分の間はこの空中散歩が続くかと思いきや、前の魔理沙から声がかかった。

 

「さあ、もうそろそろ冥界に到着だぜ?」

 

 草十郎がどういうことだろうかと疑問に思っていると、まるで見えない膜を突き破るかのような感覚が体を包み込んだ。そして次の瞬間、世界がガラリと変わり、長々と続く階段の先に大きな屋敷らしきものを見つける。

 三人揃って着陸し、箒から降りた草十郎は周囲を見回した。一見すると外と変わらない、自然に溢れた光景だが、彼は直ぐに違和感を覚える。

 

 ここには生命の音というものが感じられない。

 風の起りも、木々のざわめきも、生き物の声もない。

 ひんやりとした空気が体を包み、どこか現実味が薄く、ふわふわとしている気がした。

 

 目の前を一羽の蝶がヒラリハラリと舞っていくが、その体は青白く光っていて、周囲を良く見てみれば冥界にある物全てが、程度の差はあれ青白く発光している。アリスが『この世ならざる美しい場所だ』と言っていたのを思い出し、なるほどと納得する草十郎。

 

「さってと、仕事も済んだことだし私は帰るぜ?」

「ああ、助かったよ。ありがとう」

 

 元々彼女は用事があったのだが、草十郎を運ぶだけでもと自ら買って出てくれたのだ。そもそも空を飛んで草十郎を運べる者など数えるくらいしかいないので、もし魔理沙がいなかったら、ここまで徒歩で来ることになっていただろう。

 因みにアリスも今日は用事があって来ていないが、霊夢さえいれば大丈夫だろうというのが二人の総意である。

 草十郎がお礼を言うと、箒に跨る魔理沙はサムズアップして帰っていった。

 

「さ、行くわよ」

 

 魔理沙が飛んでいった空を見つめていた草十郎だが、そっけない霊夢の声に呼ばれて歩き出す。白玉楼へ続く石階段を見上げれば先は長く、建物は辛うじて見えるが上の方は霞んで見えた。

 霊夢は疲れるからと自分の足で登る事を拒否。草十郎だけが、この途方も無い階段を自分の足だけで登ることになるのだが、そこは山で育っただけあり、ケロリとした顔で足を動かしている。素晴らしい健脚ぶりだった。

 長い階段を登っているにつれて周囲の景色も様変わりしていき、後ろを振り返れば地に足がついているのに空にいるという妙な光景が広がる。そのことに暫く感心していたが直ぐにまた足を動かし、白玉楼を目指す。

 

 やっとのことで中間地点までたどり着き、さあここからもう踏ん張りだと気合を入れ直したところで、先のほうに階段をゆっくりと降りてくる人影を見た。誰かと尋ねようと隣を向けば、霊夢は既に階段に足をつけていて、表情は変わらないが、心なしかピリピリとした空気を纏っている気がする。

 何となく彼女に話しかけることが躊躇われ、視線を前に戻すと、階段を降りてくる少女の容貌が明らかになってきた。

 

 銀色の髪は咲夜と似ているが彼女が少し青い色を含んでいるのに対し、この少女は混じりけの無い銀だ。緑色のスカートとベストを着用していて、おかっぱ頭に黒いリボンのついたカチューシャが可愛らしい。

 これだけ見ればそう身構えることはなのだが、彼女の腰と背中にはそれぞれ一振りずつ刀があって、彼女の纏う雰囲気は剣呑なものだった。

 こちらを伺う瞳は鋭く、鉄の色をしている。その雰囲気や出で立ちはまるで抜き身の刀のようで、遊びの無い直刃を連想させた。強く、真っ直ぐではあるが、同時に脆くもある。そんな危うさのような輝きを彼女の瞳の中に見た。

 

 カツ、カツと、徐々に草十郎たちに接近してくる少女。一歩、二歩、三歩と段々と進んでいき、丁度十歩目を踏み出そうとした瞬間、草十郎は二歩ほど下がる。

 立ち止まった彼女は草十郎など意に介さず、その剣呑な眼差しは霊夢へと向けられていた。『目は口ほどに物を言う』というやつで、その瞳からは『寄らば切る。寄らずとも踏み込んで切る』という意思がありありと分る。

 

「白玉楼に何用だ博霊の巫女。ここは生者の来る場所ではないと以前に言ったはずだ」

「アンタの主に用があるの。という訳でどいて」

「来客の話は聞いていない。去れ」

「そっちに用事が無くてもこっちにはあるのよ」

 

 両者の間には何やら因縁でもあるのか、特におかっぱの少女は霊夢に対する敵意を隠そうともしていない。刀に手をかけ今にも飛び込んできそうな雰囲気だが、草十郎はお気楽そうに少女の周囲をフワフワ漂う半透明な物体を眺めていた。

 雲のようだけど動いているし何だろうなどと考えていると、彼の前にいる霊夢が振り返らず声をかける。

 

「これから弾幕ごっこ始めるから、アンタは走って上に逃げなさい」

「ちょっと待ってくれ」

 

 聞き捨てならない言葉を耳にした草十郎は、思わず真剣な顔で今にも飛び出して行きそうな霊夢を止めた。それは危険だと彼女を心配してのこと……ではなく

 

「今ここで弾幕ごっこを始められたら自分が巻き込まれるんじゃないだろうか?」

 

という考えに至ったからである。紅魔館の地下室で大いに痛い目を見た草十郎は、あれ以降『弾幕ごっこ』と聞くと敏感に反応するようになっていた。情けなく聞こえるかもしれないが、彼にとっては命に関わることなのだから仕方ない。

 別に弾幕ごっこをするのは構わないが、自分が居ない場所でやって欲しいと抗議するも、そんな願いは一刀両断に切って捨てられる。

 

「だから走って逃げなさいって言ってるでしょ? 大丈夫よ、直ぐ逃げれば弾幕も薄いだろうし。ほら、さっさとかかってきなさい。時間が惜しいから本気でやってあげるわ」

「いいだろう……強さというものが不変ではないということを教えてやる」

「なっ……」

 

 それはあんまりだと口にするよりも先に飛び上がる二人。

 このままでは巻き込まれると、草十郎が弾かれるように走り出したのと同時に色とりどりの弾幕が空を埋め尽くす。巻き込まれた形ではあるが、彼にとって二度目の弾幕ごっこがこうして幕を開けた。

 足に力を込めて階段を駆け上がっていく草十郎は以前の経験から背後を確認するのを忘れない。無数の弾幕が霊夢へと飛来しているが、彼女はヒラリと器用に避けて反撃していて、何処か余裕すら感じられた。

 色鮮やかな光体は勿論、斬撃やお札に、陰陽玉と多種多様なものが飛び交う中で、息を荒げながら彼は文句を口にする。

 

「人の話を聞かない子ばっかりだ!」

 

 霊夢も魔理沙もおかっぱの少女も、他人の話を全く聞かない。考えるという工程をすっ飛ばして、即行動に移すのは彼としても如何なものかと思うし、もっと話し合って穏便に解決すればいいのに物騒な事この上ない。

 皆おかしいんじゃないかと口にすると、流れ弾が頬を掠めていき思わずひやりとする。霊夢の放った弾幕なのだが、まさかこの状況で聞こえているのかと戦慄を覚えながら体を低くして一層速く足を動かす草十郎。

 幸いにも地下室のときとは違い、標的は彼ではなく霊夢なので難易度はそう高くない。出来る限り一直線に、時にジグザグに蛇行しながら降り注ぐ流れ弾を掻い潜る。程なくして戦闘区域を離脱し、階段を踏破した草十郎はやっとの事で白玉楼の門までやってくる。

 危機は去ったと、ホッと胸を撫で下ろしながら登ってきたほうを見てみると、未だに弾幕ごっこは続いているようだ。光の明滅から少し遅れて爆発音が響いてくる。

 ここで彼女達の弾幕ごっこが終わるまで待つべきかと悩む草十郎だが、心なしか爆発の音が近づいてきているような気もするので先に中で待っていたほうが安全だと判断した。

 

「お邪魔します」

 

 流石に何も言わず入るのは気が咎められたのか、挨拶をしてから木製の門を潜ると、石畳の道が続き、その先には大きな武家屋敷が建っていた。

 古めかしくも格式がある造りに合った厳かな雰囲気。敷地内の松も、庭の枯山水もよく手入れが行き届いていて、広いお屋敷なのに凄いなと思わず感心する。

 なんとなしに屋敷の周りを散策していた草十郎はその足を止めてあるものを見ている。それは白玉楼の名物である枯山水ではなく、庭に根を下ろす巨大な桜の木だった。

樹齢何百年……いや、もしかしたら千年単位かもしれない。それほど見事桜の木なのだが妙な違和感覚え、注意深く観察してみるとその正体に気が付く。

 

「枯れてるのかな」

 

 夏の時期なら桜の木は若葉が芽吹き、枝先は新緑で覆われているはず。けれどこの木には若葉は愚か枯れ葉すらもない。

 白玉楼の敷地内には他にも桜の木があったが、葉をつけていないのはここだけだ。

咲けば見事な桜が見られただろうと残念に思う反面、何故かこの桜は決して咲いてはいけないのだという妙な確信があった。

 

 桜の木を眺めるのにも満足した草十郎が、そろそろ弾幕ごっこも終わる頃合いだろうと庭を後にしようとしたとき、カラン……コロン……という音が耳に入ってきた。横を向けば和服の女性が一人、黒塗り下駄を鳴らして彼のほうへと歩いてくる。

 髪は薄い桃色で、その髪よりもなお薄い唇はまるで桜の花びらのようだ。髪と同じ桃染めの瞳はどこか虚ろで視点が定まっていない。体の線は着物を上から見ても分るほど起伏に富んでいて、たおやかな仕草も相まってゾッとするほどに美しい。

 まるで桜のような女性だと彼は思う。背後の桜が満開で、この女性が傍らに寄り添えばさぞ絵になるだろう。けれど妙な事に、これほどまでに美しい女性にも関わらず、まるで存在感が感じられなかった。桜の花びらのように、風に吹かれたら消えてしまいそうなほど儚い。

 

 思わず時間も忘れ、目の前からやってくる女性の歩き姿に目を奪われてしまう草十郎。けれど不意に……

 

『冥界の物に魅入られないように気をつけて』

 

そう言って心配そうに忠告してくれた童話の少女の顔が頭に思い浮かんだ。

 ハッと我に返ると、辺りを何時の間にか現れた無数の蝶が優雅に舞っている。この蝶もあの女性と同じで、生き物としての存在感に欠けていた。

 

 一瞬、顔の前を一匹の蝶が音も無く横切る。

 そして、視界が晴れるといつの間にか女性が目と鼻の先まで迫っていた。

 

 幽鬼のようにその場に漂う女性はおもむろに草十郎へと手を伸ばす。それが頬に触れるか触れないかの辺りで、彼は壮絶な悪寒を感じ、その場から飛びのくようにして尻餅をついた。

 

「……はぁ……はぁ」

 

 背中は汗でびっしょりと濡れ、動揺からか過酷な畑仕事をしても息一つ乱さない彼が肩を大きく揺らしている。

 山を降りて、そして幻想郷に来てからも、度々死の気配が首筋を掠めていく事はあった。命を落としかねないような体験を幾つもしてきた草十郎。けれど、今感じたのはそういったものとは一線を画すものだ。

 例えるのならそう、…………人の形をした“死”そのものが此方へと手を伸ばしているような感覚。あの手に触れられたら否応無く、無慈悲に、けれど穏やかに死へと誘われる。何故かそんな気がしたのだ。

 

「あら? あらあらー?」

 

 何やら尻餅をついた草十郎を見て、女性は驚いているのか良く分からない呑気さで不思議そうに首を捻ると、そのまましゃがんで彼の顔をペタペタと触りだす。

 ひんやりとした手ではあるが、先程感じた悪寒はなく、虚ろだった瞳にも人間らしい光が宿っていた。周囲を舞っていた蝶も既にいない。夢か、若しくは幻か、はたまた狐に化かされたのかと考えもしたが、あの言い知れぬ恐怖は本物だ。

 どういうことなのかと、頭の中がぐるぐると回り、女性にされるがままになる。一方、女性のほうはある程度満足したのか、手を引っ込めて、今度は覗き込むように顔を寄せた。ふわりと、僅かに桜の香りがする。

 

「貴方生きているのね。驚いたわ、てっきり気付かず彷徨ってるのかと思ったけど。危ない危ない。ねえ……貴方、最近死ななかった? どうにも濃密な死の気配がするのよねぇ……」

「あの……それは……」

「草十郎ー!」

 

 呼ばれて振り返ればそこには霊夢がいた。弾幕ごっこを無傷で切り抜けてきたのか、服が所々汚れてはいるが未だ壮健の様子。ただ、それなりに消耗しているようで息が乱れている。

 尻餅をついている草十郎をキッと睨み、巫女服の袖を大きく揺らしながらカツカツと歩いてくると、勢いそのままに彼の頭をお祓い棒で叩いた。スッパァンという小気味の良い音が響く。

 

「あいたぁ!」

「こんのバカちんが! 誰が入って良いって言ったのよ!」

「待って欲しい。上で待っていろと言ったのは君じゃないか」

「門の前で待ってればいいでしょうが!」

 

 ボンヤリとしていた草十郎だったが、霊夢の一喝でいつもの調子を取り戻したようだ。怪獣のように怒りを撒き散らす巫女を何とか宥めようと試みてみるも、その緊張感の無さが火に油を注ぐ結果になってしまう。

 石畳の上に正座でお説教を受ける草十郎は、まあ確かに自分も悪いかと反省する。けれど流石に言いたいこともあった。

 

「確かに人の家に勝手にはいるのは良くなかった。けど、ああも好戦的なのは如何なものだろうか。事情を説明すれば分かってくれたかもしれないじゃないか」

「甘いこと言ってんじゃないわよ。そう簡単に通して貰えるわけないでしょうに」

「そうでもないわー。私も暇だったし面白そうなお客さまは歓迎よー」

 

 それまで二人のやり取りを黙って見ていた女性の言葉に、草十郎は『そら見たことか』言いたげである。そんな彼の様子に、お前はどっちの味方だと歯軋りしながらもう一度彼の頭を叩く霊夢。

 同居人の暴挙に、理不尽だと肩を落としている所で、おかっぱの少女が少し遅れてやってきた。霊夢と同じで怪我はなさそうだが、服は腕や腰の辺りがボロボロで、髪もボサボサである。

 

「あらあら、その様子じゃあ負けちゃったみたいね妖夢」

「ぐっ……申し訳ありません幽々子さま……。賊の侵入を許してしまいました」

 

 勝負に負けたことへの悔しさを滲ませながら、自分を負かした敵を見てぐぬぬと呻く。先程の物々しい雰囲気は鳴りを潜め、なんというか一気に年相応の姿になった気がした。

 

「ふふっ、いいのよ。お陰でこうして面白そうな子に会えたんだから。さあ、着替えてらっしゃい。それでお茶にしましょう」

 

 そうしましょうと、妙案を思い付いたとばかりに手を合わせ、幽々子と呼ばれた女性は顔を綻ばせながら弾むような足取りで屋敷の方へ歩いていく。主の命ならと渋々案内するおかっぱの少女に連れられて、二人もその後を追いかけた。

 

 

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