清澄な朝の空気、そして小鳥たちの囀ずりの中で霊夢はゆっくり瞼を持ち上げる。
日も登りきらず、まだまだ薄暗い時間帯だが巫女である彼女の朝は早い。
後ろ髪を引かれる想いで布団から這い出ると、眠気眼を擦りながら浴衣の帯に手をかける。そして何時もの巫女服を身に纏うと何処か憂鬱そうに自分の部屋を出た。
因みに睡眠時間は充分で、目覚め方も悪くはない。朝早く起きることは大変ではあるけれどもう慣れている。それでもこう気だるいのは理由があるのだ。霊夢自身もそれは解っている。
昨晩やってきて、急遽神社で世話をすることになった居候と言う名のお荷物、静希草十郎。霊夢はどうしても彼のことが気に食わなかった。
急にやって来たことは仕方ないとは思うし、居候する流れになったのも面倒臭いが自分の仕事なのだから渋々了承した。急に幻想郷に連れてこられた彼は一番の被害者なのにそれでも前向きなのは好感が持てる。にも関わらず、初めて顔を合わせたときから意味もなくあの青年に反感を覚えていたのだ。
理由は不明。考えても答えは出そうに無いし、どうせ数日もすればいなくなる人間のことを考えても仕方ないと、胸の蟠りを無視する。
部屋を後にした霊夢はまず掃除をすべく境内へと向かう。
僅かに顔を出している朝陽が眩しく、目もとを巫女服の袖で覆いながら境内をぐるりと一望して一言
「境内はそんなに汚れてないからよし」
と呟くと庭の方へと向かうことにした。
神事に携わるものがそんな適当でいいのかとも思わなくないが、確かに境内にはゴミらしいゴミもなく、態々掃き掃除をするような状態ではない。それは他の場所も同じで、結局掃除はやらなくて済んだのだった。
これにはご機嫌斜めな彼女も嬉しそうにしている。
「あ、そう言えば……」
ふと、薪がもう残り少なかったのを思い出し、せっかくだからやってしまおうと薪割りをすべく神社の裏手に向かう霊夢。木材その物はあるのだが、まだ割っていないものばかり。博霊の巫女と言っても肉体的な力は年相応の少女なので、薪割りはちょっとした重労働だ。その為、一度では余り多量には出来ないので小まめにやらなくてはならないという悪循環になっていた。
自分は肉体労働をしているのに、今頃居候はスヤスヤ寝ているのかと想像すると釈然としないものがある。がしかし、結論だけ言うなら霊夢は薪割りをせずに済んだ。
「なんだ、まだまだあるじゃない」
うず高く積み上げられた薪は少なく見積もっても一週間は保つ量だろう。こんなに沢山切ったかと首を傾げながらも、まあいいかと納得して戻っていく。
「やあ、おはよう霊夢」
「アンタ何してるのよ」
それは母屋へと戻り水甕の中を確認しようとしていたときのこと。勝手口から中へ入るとそこにはまだ寝ていると思った人物がいて暢気に挨拶を返してくる。
「うん、お湯を沸かしてるんだ。もし霊夢が飲むならお茶にして出すけどどうする?」
「そうじゃなくて……まあいいわ、赤い缶が煎茶だから。間違って玉露なんて使ったらぶん殴るからね」
「ああ分かってる。そうだ、ついでにお米を炊いても良いかな」
「勝手にどうぞ……」
色々と言いたいことはあるけれど、仕事を何もせずに済んだ今日は機嫌がいいので許してやろうと思う。それに草十郎の勝手な行為も見方を変えれば火を態々起こす手間が省けたことになるし、炊飯までしてくれるというのだから寧ろ好都合だ。
何ならみっちりコキ使ってやろうかとも考えたが、この3日間で住む場所やらを見つけて貰わなくてはならないので止めておくことにした。
その後、二つの湯飲みを持ってきた草十郎と共に、お米が炊き上がるまでの暫し間、二人きりで気まずい時間を過ごすことになる。ただ気まずいと言っても、霊夢が一方的に身構えているだけで、草十郎のほうはお茶を啜りながらのんびりとしているのだが。
どうして家主である自分が肩身の狭い思いをしなくてならないのだと、彼女は少しムッとしたように話を切りした。
「朝食を済ませたら人里に行くから」
「人里っていうと、確か人と妖怪が一緒に暮らしてるんだっけ」
「そうよ。アンタが住む場所とか働く所を見つける意味合いもあるけど、探し物するならもっと幻想郷のことについて知る必要があるでしょ?だから適任がいるからそいつに聞きなさい」
「ああ本当に助かるよ、ありがとう。霊夢は優しいな」
「はぁ?」
予想外の言葉に、霊夢は唖然とした表情で変な声をあげてしまう。すぐ我に帰ると彼女はやや噛みつくようにして草十郎へ問いただす。
「私のどこが優しいのよ」
「だって色々気にかけてくれてるじゃないか」
「勘違いしてるようだけど私はさっさとアンタに出てって欲しいだけよ」
「例えそうだとしても助かってる事には変わりはないよ。それにやっぱり優しいと思う。だってお米がちゃんと二人分磨いであったから」
「ふ、ふん。面倒みるって言った手前ちゃんとしないと魔理沙が五月蝿いでしょ?それだけよ……それよりそろそろ炊けたんしゃないの?万が一焦がしたらボコるからね」
何が面白いのか、草十郎はニコニコと笑って釜戸の様子を見に行った…………去り際に『霊夢は律儀だな』と言葉を残して。
青年が去り一人になった茶の間で、卓袱台に顎をつけながら憮然とした表情の少女。その姿は嫌悪感を抱いているというよりは拗ねているようで、年相応の愛らしさがある。
「…………やっぱり嫌なやつ」
自分で口にしておいて、これじゃあ何だか負け惜しみのようだと三度不機嫌になる霊夢だが、朝食を済ませる頃にはそれも収まっていた。
因みに朝食は昼のことを考えて握り飯を選択。それくらいは草十郎でも出来るだろうと全て任せたのだが、彼女が想像していたよりはずっと上手く出来ていて、それは不覚にも食べたお握り二個分くらいは居候を許してやっても良いかと思うほど。
気難しそうに見えて、案外単純な一面が垣間見えた一時だった。
朝食を済ませ一息ついた後、昼用のお握りを竹皮で包み、その他諸々を纏めた風呂敷を背負って神社を出発した。目指すは人里。因みに風呂敷を背負うのは草十郎に一任されてる。
飛んで行くならそう時間は掛からないのだが、飛べない草十郎を連れてではそれも出来ない。草十郎を持ち上げて飛ぶことは不可能ではないけれど、疲れる上に絵面的によろしくないので却下。何より神社から人里までの道程を覚える意味合いもかねているのでこうして彼に合わせて歩いているのだ。
ただ、今日だけは特別だと割りきっていても面倒くさいものは面倒くさい。歩き易い平原に出るまでは獣道が続くのだが、これが大層歩きにくく、久しく通っていなかったので普通よりもかなり疲れる。まあ滅多に人が通らないから獣道と呼ばれているのだけれど、それでも以前はもう少し歩きやすかったはずだと記憶を引っ張り出す。
無造作に伸びる雑草や絡み合う蔓、木の根や転がる石等に霊夢が悪戦苦闘しているのを尻目に、草十郎は小馴れた様子でスイスイ獣道を進んでいた。手間取ると思っていただけに彼女的には肩透かしを食らった気分だ。
霊夢が先導し、草十郎がその後に続くカタチだったのが、何時しか逆転し草十郎が先頭を歩き、霊夢がそれに続くようになっている。
「ふう、コイツの後ろだと楽ねえ」
彼女は僅かに滲んだ額の汗を拭いながら前を歩く青年に聞こえぬよう言葉を漏らすが、そこで生まれる一つ疑問。未だ獣道を歩いているのに何故自分は急に楽になったと感じるのか。その答えは直ぐに分かった。
前を行く草十郎だが、歩き易い場所を探しつつ、ときには少し遠回りをして、言われた方向を目指している。そして極めつけは霊夢が足を取られないよう気を使って、雑草や蔓を踏み慣らしていたのだ。
その事に気がついてしまったが、何も言わずケロリとしている草十郎を見ると自分から話を切り出してお礼をいうのも癪な気がした。
「どうかしたのか霊夢?」
「別に何でもないわよ。ほらキリキリ歩く。さっさと歩き易い所に出るわよ」
振り返り立ち止まる草十郎を急かすように、霊夢は彼の背中を押す。何となく顔を見られたく無かったからかもしれない。
再び進み始めた草十郎の歩みは変わらず、結局予想より大分速く獣道を抜けることが出来た。平原に出ると霊夢は早々に歩く事を放棄し、草十郎の隣に浮遊するように並ぶ。
少女にとっては見慣れた、青年にとっては懐かしく親しみのある緑一色の世界を二人でひた歩く。道中、草十郎はキョロキョロと道順を確認するように辺りを見回していた。
そして遂に二人は人里へたどり着く。
定食屋に甘味処、八百屋に米屋などぱっと見ただけでも多種多様な店々がズラリと建ち並び、奥の方へと進んで行けば畑が目に入った。
呼子の威勢の良い声や住人達の生活の音で活気づき、二人の直ぐ脇を子供達が駆け抜けていく。
「そう言えばどこに向かっているんだい?」
「アンタに幻想郷のことを教えてくれるところよ。ついて来れば分かるわ」
霊夢の言葉に素直に従う草十郎はアヒルの親子よろしく、先導する彼女を疑わず付いていく。
畑が広がる場所を更に奥へ進んでいくと、長屋や一軒家などが集まる居住区へとやってきた。最近の良く見る鉄やコンクリートで出来たものではなく、木と草と土の家。最早幻想郷の外では廃れかけている、自然と共に過ごす人の在りが目の前にあった。
程なくして見えてきたのは門のあるやや大きめの家屋で、『寺子屋』と達筆な文字で書かれた札がかけられていた。
「おや、博霊の巫女じゃないか。寺子屋に何か用か?」
「てっきり授業やってると思ったけど寺小屋の先生も案外暇なのね」
「今は休みの最中なだけだ」
後ろから声をかけられ振り返ると、そこには若い女性がいた。
腰まで伸び届く青いメッシュの入った銀色の髪、そして温かみのある赤い瞳。この幻想郷の中にあってなお目立つ容姿なのは間違いないが、それよりも六角錐に近い形をした珍しい帽子が目に付く。
この女性は霊夢に余り良い感情は持っていないのか、嫌ってはいないがあくまで事務的な対応を取るも、当の霊夢は余り気にした様子もなく用事を切り出した。
「こいつ外来人なんだけどね、訳あって暫く帰れなくなったの」
「そういえば見ない顔だな」
女性に視線を向けられペコリと一礼をする草十郎。
キリリと引き締まった表情をしていて、厳格な教師が持つ特有の雰囲気を感じる。人によってはお堅いと敬遠されるが、草十郎にとってその厳しさは嫌いではなかった。
「紫のヤツが結界に何かしたみたいでね。当分帰れそうにないから仕事を探すついでに幻想郷について必要な知識を教えて貰いに来たの。そういうの得意でしょ?」
「全く、自分が教えればいいだろうに」
「嫌よ、面倒だもの。それに私はやる事があるの」
「はあ……、まあいい。
改めまして、上白沢慧音という。普段はこの寺小屋の教師をやっている。まあとりあえず立ちながら説明するのもなんだし教室へ行こう」
「じゃあよろしくねー」
呆れる慧音をよそに、霊夢は二人に背を向けながらヒラヒラと手を振って元来た道を戻っていく。
―――――
「ん~~、美味しいわ」
草十郎を寺子屋に置いてきた霊夢は、重荷から解放される一時を存分に満喫していた。彼女はかねてから、一人になれるこの瞬間だけは昨日潰された時間の分まで気の向くままに過ごすと心に決めていたのだ。それこそ邪魔をしようものならその相手を撃墜させるぐらいの勢いで。
まず始めに繁華街を練り歩き、目ぼしいものを冷やかし終わった今は甘味処で餡蜜片手に御満悦の様子。しかめ面ばかりだった彼女の表情も緩んでいて締まりがない。因みに餡蜜は二杯目だったりする。
餡蜜を食べ終えた霊夢は次に団子屋に目をつけると、店に行って御手洗団子を三本ほど包んで貰う。そして空を飛んで寺子屋へ戻ると屋根の上に腰掛けて買った団子を取り出した。
ちょうどこの場所は大木で影になっていて過ごしやすく、陽射しも気にならない。どうせまだまだ時間もかかるだろうとので、ここで暇を潰そうと言う訳だ。
「モグモグ、あいつ今頃ひーこら言ってそうね」
ニヒヒと今は見ぬ居候の事を想像しながら悪戯っぽい表情の霊夢。
草十郎を任せた上白沢慧音だが、 人選的には間違っていない。単純な知識量も豊富で、教師という役職に就いている。
けれどまあ、完璧な人物は早々おらず、そんな上白沢女史一番の欠点は授業が難解過ぎることだ。彼女自身、頭脳明晰なこともあってかどうしても教えるレベルが高くなってしまうようで、子供達からは授業がつまらないと評判は宜しくなかったりする。
草十郎の飄々とした顔がどう変わるのか考えただけで痛快だと、最後の団子を口にしながら呟く。
「さーて、少し昼寝でもしましょうか」
ゴロンと仰向けになってそのまま目を瞑る。
食ったら寝る。寺子屋の教師が聞こうものなら弛んでると説教されそうな有り様だが、今は彼女を諌めるものはいない。
こうしてのんびり出来る感動を噛み締めて眠りについた。
風が心地好く、葉の揺れる音も相まってついリラックスし過ぎてしまった。その結果、ムクリと起き上がったときには日がやや傾きかけていて、大分時間が経っているのが分かる。
「マズ……昼には迎えに行くつもりだったのに」
甘いものを食べていたので空腹で目覚めることもなく、ちょっと仮眠を取るつもりが、熟睡してしまったのだ。
慌てて屋根から飛び降りると一先ず教室へと急ぐ。もしかしたらもう寺子屋にはいないかもしれない。自分を捜して人里を歩き回っているか、最悪人里を出てしまっている可能性もある。
人里以外でも妖怪が人を襲うことは減ってきているとはいえ、人を喰う妖怪はいるし、分別つかない下級の妖魔には幻想郷の決まりなど意味はない。
脳裏に血塗れな青年の姿が過る。草十郎のことは気にくわないけれど、死んで欲しいなんて思わない。半ば祈るように教室の木戸を開け放つとそこには…………
「もーう、しょうがないなー!本当に君は欲しがりさんなんだから」
何故か異様に肌をつやつやさせた慧音が、教科書片手に満面の笑みで黒板にチョークを走らせていた。そして、草十郎は時に相槌を打ち、時には驚いたように声を上げながらその説明を熱心に聞いている。
教師と優等生。そういう意味で二人の相性は抜群だったのか、日頃から授業がつまらないと言われ地味に落ち込んでいる慧音としてはこうまで自分の話に興味を持ってもらえれて嬉しさを爆発させているのだろう。
その証拠に、霊夢はおろか寺小屋の生徒ですら見たことが無さそうな表情で、お堅い先生という印象は微塵も見られない。
勉強机の上を見れば湯飲みや風呂敷が広げてあることから恐らく合間合間に休憩を挟みながらほぼノンストップで話続けていたのだと思われる。
「ちょっと、何時までやってるのよ」
「むっ、もうこんな時間か……」
霊夢の入室に気がつい慧音はハッとして教室の中にある柱時計をみやると、もうすぐ夕方になろうという時間だ。
「ついつい話してしまった。すまないな草十郎」
「いえ、本当にありがとうございました慧音さん」
「なに、気にすることはない。それにしても博霊の巫女、君は少々迎えにくるのが遅いんじゃないか? 」
「お互い様でしょ。ちょっと説明するのにどれだけ時間かけてるのよ」
「彼が思いの外優秀でね。その都度疑問に思った事を聞いてくれるんだ。本当に教師冥利に尽きるよ」
『寺子屋の子供達にも見習ってほしいものだ』としみじみ呟く慧音に、思わず草十郎を見る。霊夢にはどうしてもコレが優等生には思え無かった。むしろ手のかかる問題児と言われたほうが納得出来る。
まあ優等生であろうとなかろうと自分には関係者ないと草十郎方へ近いていくと、茶請けとして出されたであろう水羊羹が一切れ残っているのに気がつく。するとその最後のひと切れをヒョイとつまみ上げ、誰に許可を得るでもなく口に入れた。
その行為を見咎めるように慧音が眉をひそめる。
「全く君は……」
「余ってるんだしそうケチケチしなくても別に良いじゃない」
「余っていたんじゃない、彼が君の分だと残しておいたんだ。まあ君は君で御手洗団子でも食べていたのだろうけど。口の端にタレがついてるぞ」
「水羊羹ご馳走さまです」
「気にしなくていい。私も美味しいおにきりをご馳走になったからな。お互い様だ」
指摘され慌てて袖で口を拭うと、霊夢はばつが悪そうにする。一人で甘いものを食べていた自分と貰ったものを皆で分けようとしていた草十郎。なんだか自分が悪者のように感じられたのだろう。
「ほ、ほらさっさと出る。早くしないと日が暮れるわよ」
半ば強引に、草十郎の腕を掴んで外へと連れ出す霊夢を見て、慧音はやれやれと溜め息をつきながら二人を見送るため後に続いた。
「お世話になりました」
「もしまた聞きたいことがあったら何時でも来てくれ。楽しみにしているよ。
それと仕事を捜してるんだったな。幾つか心当たりがあるからまた明日くるといい」
再三お礼述べ草十郎は霊夢と共に里の入り口へと戻る。途中、霊夢の申し出で繁華街に寄って八百屋で幾つか野菜を買ったのだが、どうにも霊夢の表情が優れない。
何というか、草十郎の中で彼女は一本芯が通っていて、力強い印象だった。今まで気の強い部分しか見ていなかっただけに、今の彼女の顔は予想外なのだ。
彼は彼なりに、無い頭を捻って探しだした答えは気落ちしている女の子に対してのフォローとしては正直赤点もいい所だろう。
「ほら霊夢、おにぎり。君お昼食べてないだろ?お腹がふくれれば元気も出るよ」
洋服のポケットから竹皮の包みを取り出すと、霊夢へと手渡す。こともあろうに草十郎は彼女が空腹で元気がないと考えているらしい。悲しいかな、これが彼の限界なのだ。
普段の彼女なら違うと反発するところだが、朝から怒り続け、ちょっと負い目を感じている今の霊夢には言い返す元気もない。
渡される包みを受け取り開くと、彼女の分のおにぎりがキッチリ二つ並んでいた。
「あれ、慧音と二人で食べたんじゃないの?」
「ああ、自分のを分けてたべたんだ。三つあったから一個半づつね」
ささやかな笑顔を向けられ、促されるままにおにぎりを口に運ぶ。シットリとした海苔に、具のおかかが御飯に染みていて、冷めてはいるがこれはこれで美味しい。
「……ほら、アンタも一つ食べなさい。足りないでしょ?それにもう夕御飯が近いんだから二つは多いのよ」
何を思ったのか、霊夢は手をつけて無い方のおにぎりを押し付ける。草十郎は少しキョトンとしていたが、『君がそう言うなら』と、受け取って食べ始めた。
何が嬉しいのか終始笑顔の草十郎。霊夢は相変わらずの対応だったが、夕陽のみかんいろで彼女の顔色までは分からない。
青年と少女。並んで歩く二人は、今朝よりその距離が心なしか縮まったような気がした。