ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
この世界の空も青く美しいな。
柄でもなく、そんな事を考える。
腹の傷は深い。無理をすれば癒せない傷でもないだろうが、率いるべき民のいないこの地でそこまでする気にはなれない。
そもそも、この身は仮初の身体であり、無理やり呼ばれ己の意思など関係なしに使われていただけの道具だ。愛着や未練は疎か、生への執着すら湧きはしない。
力を増し、強き者と闘争の末に敗れ倒れるのは最高の上がりの一つである。このまま朽ち果てるのも悪くは無いだろう。
後悔があるとすれば、自分の意思で戦えなかったことぐらいか。
このまま静かに、慣れ親しんだ闇の底に沈んでいく、それだけだ。
最後の時を静かに待つ王の鼻孔に、虚無の香りが流れてくる。
ああ、そうか。
まだ一つだけ、最後にやるべき事があった。
※※※※※
流石に超グロンギ二体の相手は厳しすぎた。
エネルギーはだいぶ回復しナノマシンによる再生も進んでいるが、それでもまだダメージが抜けきっていない。五代さんと小野寺さんも、まだ白いクウガのままだ。
この状態で問題が山積みな事は頭が痛い。
まず、まだ俺が握っている魔石の剣。未だに闇を放ち続けており、俺たちが変身を解いていないのもこの為だ。念には念を入れて一条さんと意識を失った夏目さんは申し訳ないが、サイクロンヘルが張ったバリアの中にいてもらっている。
正直に言えばこんな物騒な代物は叩き折ってやりたいところだが、折ったら折ったで闇が噴出しかねないので何もできない。
んで、続いてン・ガミオ・ゼダの死体。こちらは流石にもう闇は噴き出していないが、グロンギの王だけあって下手な事をすると復活しかねないのでどうしたものか悩ましい。
警察やショッカー基地に持ち込んで何かをしたら復活したなんて言われたら、流石の俺でも泣くぞ。
さらに転がっているクウガのアナザーウォッチに、いつの間にか姿を消していたグロンギの老人。
ついでに言うと、俺の目的である古代ショッカーの勇者探しに関しては完全に振出しに戻った。
遺跡で見つけた壁画はン・ガミオ・ゼダの封印を指していた訳で、異世界から流れて来たらしいあれがショッカーの勇者は流石に無いだろう。
うん、やっぱり泣いて良いと思うんだ。これだけ苦労して進展0って言うのは。
とりあえずそこで転がっている岡見綾仁を回収しておくかね。グロンギの超回復力のおかげか、腹をぶち抜かれた割にまだ生きているっぽいし。
あれはもう警察に投げれば良い。あれの自認がどうかは知らないが、人間の法で裁かれ終わるのがあいつには一番の屈辱だろう。
戦いが終わった一時の虚脱が抜けて、俺たちは動き始める。
動きだしたのは、俺たちだけでは無かった。
「やれやれ、王の候補が二人とも敗れるとは嘆かわしいの」
そう、戦いの間は姿を消していたグロンギの老人が、再び姿を現したのだ。
一斉に構える俺たちであったが、一条さんや夏目さんは元より、力を使い果たした五代さんや小野寺さんも今は戦えない。
馬鹿みたいな回復力を誇る俺は、4人を庇うよう前に出る。
「消えていればよかったものを、死にに来たのか?」
見た目こそ老人ではあるが、推定ラ階級の強力なグロンギだ。油断できる要素は欠片も無い。
構えながら出方を窺う俺に対して、老人は好々爺のような笑みを浮かべながらこう返す。
「いやいや、勝者を讃え今は何かをする気は無いぞ。ただ、私物の回収に来ただけじゃ」
そう言った老人の掌には、クウガのアナザーウォッチが収まっていた。
って、いつの間に!?
そう言えば先ほどもいつの間にか消えていたし、空間転移か迷彩系の能力があるのか?
内心で驚く俺の気を知ってか知らずか、老人は更に勝手な要求を突きつけて来た。
「それと、出来ればその剣をこちらに渡してくれないかの。グロンギの宝じゃて」
「渡すと思うか?」
「勝者から力づくでというのは趣味では無いんじゃがな」
グロンギに魔石の塊を渡すなど、どんな災厄が発生するかわかった物じゃない。
当然の如く否定する俺に、老人の笑みの質が変わる。先ほどまでの好々爺じみた誰かを讃える笑みから、戦いを前に昂る狩人の笑みに。
「それは残念じゃ」
「表情がそうは言っていないな」
互いに殺気が高まっていく。そんな時だった。
「そりゃあんたの私物じゃなくて、死体を漁った盗品だろう」
それは鈴を転がすような可愛らしい声であった。
こんな荒野の戦場では無く、友達と語り合って笑っている方がよほど似合っている。そんな少女の声だ。
だが、その少女の声は、天から舞い落ちる巨大な戦斧とともに現れる。
灼熱の一閃が老人の右腕を両断する。
手首から先が消し飛び、アナザーウォッチが宙を舞う。
それを掴んだのは、ローティーンの少女の小さな手。
黄金色の髪をたなびかせ、真紅のマントを羽織り水着のようなレオタードのような装束を纏う。
炎の戦斧を操るその少女の名は……。
「キャロル!?」
ショッカーチルドレンの年長組の一人、ミカの妹の一人。
そして、俺が守ると誓いながら守れなかった少女が唐突に表れる。
一方、腕を断ち切られたはずの老人だが、腕を再生しながらこう叫ぶ。
「貴様! 流転の民の眷属か!?」
「今は白夜王……いや、今は救済神に鞍替え中だよ!」
アナザーウォッチを奪い取ったキャロルは炎の戦斧を豪快に振るう。火の粉が舞い散り、あまりの熱に離れて見ている筈の俺達すら熱から身を守る必要があるほどだ。
炎の竜巻と化した少女に触れる事は難しく、グロンギの老人は大きく後退するとため息をつく。
「やれやれ。研究資料としては惜しいが、ここは引かせてもらおうとするか」
「そうしておけ。てめぇらグロンギは一匹残さずぶっ殺してやりたいところだが、今は殺すなって言われているからな」
「相変わらずよくわからんの、貴様らは」
そう言うと、老人の姿は風の中に掻き消えて行く。
老人の気配が完全に消えた事を確認したキャロルは戦斧を担ぎ直すとこちらに振り向く。
ニカッという明るい笑みを浮かべ、こう話しかけてきた。
「久しぶり、兄ちゃん」
以前異世界で見た氷のような表情よりは、幾分記憶の中にあるキャロルの無邪気な笑みに近い笑い方だ。
俺の事を『兄ちゃん』と呼ぶのも、あの頃と同じだ。
何もかも、あの頃のキャロルと同じ。だからこそ、瞳の奥に存在する邪悪な気配が隠せていない。
奪い取り、壊す事を生業とする者が漂わす、血の匂いが彼女からは漂っていた。
「妹さんかな?」
白い姿のままの五代さんと小野寺さんが俺の隣にやってくる。
妹か? そう尋ねながらも二人とも構えを解いていない。彼女が放つ濃厚な死の香りや、たった一人でグロンギを圧倒する姿を見ればそれも当然だろう。
だが、俺は二人の問いかけに応える事など出来ず、キャロル相手に構えを取る事も出来ず、それなのに身体の何処かが彼女を敵と認識し動けないでいた。
「キャロル、なぜ……。それを、どうするつもりだ……」
違う、こんな事を聞きたいんじゃない。
だが、仮面の下の表情は凍り付き、頭や口が上手く回らない。
ほんの少し前に出れば抱きしめる事だって出来る距離なのに、足を踏み出す事が出来ない。
そんな俺にキャロルは微笑みかけながら、俺の問いかけにこう返してくる。
「ああ、うちの神さんが作ったものを回収しに来たんだよ」
「渡すんだ、そんな危険な物を持っていちゃいけない」
「兄ちゃんの頼みなら聞いてやりたいところなんだけどさ、ダメだよ。だってさ……」
ここまで言って、キャロルは言葉を切る。
そして、もう一度底抜けに明るい笑みを浮かべるとこう言った。
「このクソったれな世界を消し飛ばすために、必要だからな」
世界が反転するとは、こんな気持ちなのだろう。
灰ウォズの仲間として現れた。だから、これだって想定できるはずである。だが、心の何処かであれは演技だ、きっと昔のまま助けを待っていると思いたかった自分がいた。
いや、今でもそう考えたいのに、口に出るのはこんな言葉だった。
「なぜ……、そんな……、ことを」
「なぜって、あたりまえじゃん。こんな狂った世界、消し飛ばしたほうが良いって」
ああ、くそ、そうだろうよ。
彼女たちに良い思い出など何一つない。地下深くで生み出され、消費されるだけだった命だ。俺ごときになつくしかなかった、彼女たちが世界を恨むのは当然だ。
だけど、そんな事は……。
「駄目だ、そんな事はしちゃいけないんだ!」
「兄ちゃんは優しいよ。そんな身体にされても恨み言一つ言わず、心の底からそう言えるんだから」
「そういう事じゃない! でも……」
でも、何だというのだ。
どうすればいいんだ。約束を守れなかった罪を重ねようとする彼女をどう止めればいいんだ。
「行きたかった遊園地でも、ケーキ屋でも、連れて行ってやる。だから、もうやめてくれ! 世界を消すとか、そんな事は! ミカの所に……」
「あー、そうか。兄ちゃんまだあの女と一緒だもんな」
「あの女って! お前の……」
姉だろう。
同じショッカーチルドレンだろう。
ずっと君たちを守るために苦しんでいた子だろう。
「あんな奴あの女で充分だ。そっか、兄ちゃんは優しすぎるからな……」
俺が優しい?
ありえない。
悲しいほど優しいのはミカだ。自分一人ならいくらでも地獄から逃げ出す手段があったのに、彼女はそこでもがき苦しんでいた。
俺は我が身可愛さに現状維持しかできなかった偽善者だ。
「丁度いいや。今は監視もねぇ。兄ちゃんを叩きのめして連れて帰るか」
「な、何を!?」
キャロルの口から出た言葉に俺は呆然とする。
だが、呆然とする時間は無い。
キャロルの姿が俺の視界から消える。報告が正しいのなら、あのスーパー1と打ち合えたという。
まるで瞬間移動のような速度で俺の目前に現れたキャロルは、炎の戦斧を振るう。
あまりの事態に思考が追い付かない俺は、その戦斧を……。
「ぼっとしているな! 誠太郎!」
甲高い音と共に、戦斧の柄を素手で止めたのは五代さんのクウガだ。
燃え盛る炎に手が焼けるのも構わず、なんとか受け止め押し返そうとする。
「誠太郎の妹みたいだけど! 捕まえてお説教だ!」
動いたのは五代さんだけではない。
並の相手ではない。そう判断した小野寺さんのクウガが跳躍し、小柄な少女に向かい飛びかかる。
武器を封じられ、仮面ライダーが飛びかかる絶体絶命のピンチ。そのはずなのに、キャロルは好戦的な笑みを浮かべた。
「あははははははっ! 本調子ならともかく、今のあんたらなんぞ、あたしの相手になるか!」
キャロルの身から灼熱の炎が噴き出す。
そのあまりの勢いに五代さんは思わず戦斧から手を放し、小野寺さんはバランスを崩す。
二人の体勢が崩れたのを見たキャロルが戦斧を振るう。
「なんて力だ!?」
「そんな!?」
轟音と共に、二人の白いクウガは弾き飛ばされ、はるか後方の崖に背中から叩きつけられ崩れ落ちる。
「やめるんだ! キャロル!」
二人に追撃を仕掛けようとするキャロルの前に立ちふさがった。
そんな俺に、炎の戦斧が容赦なく襲い掛かる。
「丁度いいや! 手足の二、三本は我慢してくれ! 後で生やしてやるからさ!」
持ったままの黒い剣で炎の戦斧を受け止める。
どうすれば!? どうしろっていうんだ!?
下手に反撃しようものなら、彼女を殺しかねない。だけど、この威力をいつまでも抑えておく事は難しい。
炎の戦斧がぶつかるたびに、黒い剣の刀身が欠けて、ひびが入る。
「やめるんだ、やめてくれ! キャロル!」
「あはははははは! 兄ちゃんを連れて帰れば、みんな喜ぶんだ!」
「キャロル!」
情けなく懇願の言葉を叫ぶしかできない。
剣が欠け、防ぎきれない斬撃が身を斬り炎が身体を焼く。
それでも、俺は……。
キャロルの戦斧を大きく振りかぶる。
必殺の一撃を解き放つ。そのつもりなのだろう。
どうすれば、どうすれば……。
反撃が出来ない俺を嘲笑うかのように斧がこれまで以上に巨大な業火を宿す。
その瞬間であった。
雷が、俺とキャロルの間に割りこむ。
轟音を立てて俺を吹き飛ばし、キャロルにつかみかかる。
「そうはさせん! 虚無の使者よ!」
轟音を立てて、大地をうがち衝撃波を放つ。
先ほどまで俺を追い詰めていたキャロルも、予想外の不意打ちに後退を余儀なくされる。
「て!? てめえ死んでたんじゃねえのかよ! 人形野郎!」
「俺を好きなように操った貴様らを前に、死んでなどいられるものか!」
そう、それをなしたのは先ほどまで死体となって倒れ伏していたグロンギの王。
その名も、ン・ガミオ・ゼダであった。
いや、実際に弾丸を受けた奴の腹は崩壊を続けている。肉が崩れ、闇が漏れては薄れ消え続けていた。
腹だけではない。よくよく見れば全身の至るところが崩壊を始め、崩れつつある。
それでも、グロンギの王は緑色に輝く瞳をキャロルに向け、こう言い放つ。
「光でも闇でもない。世界を虚無と虚構に沈めようとする貴様らの愚行、王として見逃せん!」
「壊れかけの人形が!」
闇と雷をたなびかせ全身を崩壊させながら、グロンギの王はキャロルに迫る。
先ほどまで闇の共鳴で力を増していた時以上のスピードとパワー、そして技量の前に、先ほどまで俺たちを圧倒していたキャロルも防戦一方になる。
そして、ついにグロンギの王はキャロルを捉える。
金属音が響き渡り、戦斧が遥か彼方に飛んでいく。
グロンギの王の剛腕は彼女の首に掛かる。
「あっ!? あああああっ!?」
「虚無の使者よ! この場で果てて消えるがよい!」
キャロルがどれだけ超常の力を秘めているのか分からない。
だが、それでも、ン・ガミオ・ゼダの力の前に彼女の細い首などすぐにへし折れるだろう。
それほどまでに、あれの力は強い。
「やめろおおおおおおおおおお!」
考える暇も無かった。
考えもしなかった。
ただの条件反射で、手に持っていた闇の剣でグロンギの王の剛腕を断ち切ろうと振りかぶる。
黒い剣がグロンギの王の腕に触れた瞬間、黒い剣は粉々に砕け散った。
そして、剣を覆っていた黒い外殻は消え去り、真紅の剣が真の姿を現す。
深紅の剣はあっさりとグロンギの王の腕を両断する。
腕を断ち切られ後退するグロンギの王。苦しそうに咳き込むキャロル。そして俺の手の中で躍動を続ける真紅の剣。
誰もが事態についていけない中、多分一番事情に通じていただろうン・ガミオ・ゼダは俺を見つめながら語る。
「なるほど、貴様がそれを受け継いでいたのか、流浪の民の勇者の子よ」
「流浪の民!? 勇者の子!?」
片腕を失い、崩壊が進むン・ガミオ・ゼダが何を言いたいのかは分からない。
奴も事細かに伝える気など無いのだろう。
ただ、残った腕を天に翳し最後の言葉を叫ぶ。
「良かろう。その娘の命は貴様に預けた。だが、この悪しき遺産は俺が持っていく!」
奴が握っていたのは、いつの間にか奪い取っていたアナザーアルティメットクウガのウォッチであった。
グロンギの王の膂力と超能力で握り潰され、強固なはずのウォッチに火花が走る。
「勇者の子よ、リントの戦士たちよ! 世界を蝕む虚無はいまだ晴れていない! 大戦に備えよ! さらばだ!」
その言葉と共に、偉大なるグロンギの王の肉体は爆発を起こし、邪悪なウォッチと共に消滅する。
強力な輝きと共に遥か古代の歴史が、時の流れが解放された。
そして……。
※※※※※
「これで全ては貴様の思惑通りか、ブラックサタン?」
本来であれば資格ある者しか入れない闇の部屋に、勝手に入り込んだのはショッカー首領代行を務める門矢士であった。
いつものようにこじゃれたサマーコートを纏いマゼンダの二眼レフカメラを胸に下げた男を、ブラックサタンは表情の分からない骸骨の瞳で見つめる。
許可を取らず入り込む無礼者だ。普段なら厳しい処分を下すところだが、これでも大首領の代行だ。
面倒な男を前に、ブラックサタンにしては珍しく深いため息をつきながら言葉を返す。
「思惑など欠片も存在はせん。ただ、こうなる運命であっただけだ」
初めからこうなる事など分かっていた。
ブラックサタンに出来たのは、アインロールドが十分な力を身に着けるタイミングを見計らう事だけだ。
出来る事なら、このような事態は避けたかった。だが、それが許されぬことだという事も同じように承知していただけだ。
「何を企んでいる?」
もっとも、詳細な事情を知らない門矢士が、こう尋ねてくるのも無理はない。
説明するのも正直億劫ではあるが、立場上は応えなければならない。
骸骨故に表情など無い。だが、それでもブラックサタンは疲れを隠さずこう返す。
「言ったであろう、運命だと。我が子アインロールドには知る権利があり、あの子は必ず知ろうとする。ただそれだけよ」
そこまで言い切ると、ブラックサタンは虚空を見る。
誰も入る事を許さない空間だが、この時ばかりはブラックサタンはあえて隙を作っておいた。
そのわずかな隙を通って、その存在はこの場に具現化しようとしている。
その気配を察したブラックサタンは、勝手にやって来た存在にこう尋ねる。
「さて、これから来客があるのだが……。どうする?」
「来客?」
猜疑心と警戒心が強いブラックサタンに来客?
訝しげな表情を隠さない門矢士の耳に遠くから不可思議な音が届く。
それは、響き渡る荘厳な鐘の音色であった。
というわけで、クウガ編は一旦終幕。
終盤は一条編だったのは気のせいだ!
というわけで、次回より電王編となります。
時の列車の行く先は、過去か未来か、こうご期待!