その後の話をしよう。
あの大会の後、俺の怪我は順調に回復した。
光ちゃんとの関係も、最初ちょっと甘酸っぱい方向にギクシャクしたが、今までの付き合いが付き合いなので落ち着くまでにそんなに時間はかからなかった。
というか、ギクシャクしている間も光ちゃんは真っ赤になりながら頑として俺の世話は一切母さんに譲らなかったからね。
うん、愛されてるね我ながら。
結局俺はシーズンの残りは療養に当てる事になったので、あの滑りが今シーズン最後の大会での滑りとなった。
いのりちゃんはあの後、見事グランプリファイナルで金メダルを取った。
回復が間に合ったいるかちゃんが練習不足気味であったことに助けられた面は否定できないものの、いるかちゃん自身も言っていたとおり、そこも含めて勝ちは勝ちだ。
やっぱりいのりちゃんは、色々もってるなあと思う。
ジュニアに上がってから、いのりちゃんが初めて光ちゃんに勝つまでにそう時間はかからなかった。
その時の悔しそうな、でも嬉しそうな光ちゃんの表情はとても印象深いものだった。
ジュニア時代における二人の戦績は波はあるものの、均せば概ね光ちゃんが7、いのりちゃんが3と言ったところ。
シニア時代もその比率は変わらなかった。
だが一点。
俺たちが20歳の時のオリンピックは、激闘とも言うべき本当の僅差でいのりちゃんが掻っ攫った。
やっぱあの子すげぇよ。
ここ一番の勝負強さが本当に普通じゃない。
流石に光ちゃんが落ち込んで慰めるの大変だったぞ。
俺?
色んな人に色々凄く申し訳ないんだが、大したドラマもなくきっちり金メダルですが何か?
もしかしたら男子にもいのりちゃんみたいな子が現れたりするかなと思ったけど、そんなことはなかったんだぜ。
まあ、俺たちの世代、異常な外れ値がすでに3人いるわけだしね。
いつの間にかさらに実力上がってたいるかちゃんも含めると4人か。
そのいるかちゃんだが、実は一つ前のオリンピックで金メダルを取っていたりする。
あのオリンピックシーズンの年は、いるかちゃんが夏季長期休暇を使ってスターフォックスに一時的に籍を置いていたりと結構思い出深い。
女子フィギュアで若くして金メダルを獲得したライリー先生を頼ってきたんだよね。
五里先生から、お願いされて俺も口添えした。
練習は俺もかなり頑張って手伝った。
だから、いるかちゃんのあの金メダルは自分の事のように嬉しかったよ。
そのあと結構早い段階でスパっとプロに転向していたけど、まあいるかちゃんは自立を目指していたからね。
俺も応援がてら、伝手で仕事をあっせんしたりしている。
ちなみに大学を卒業し完全にプロになってからは、いるかちゃんは例のマンションの住民である。
よく一緒に食事をするんだ。
最初は固くなっていたけど、今ではよく遭遇する夜鷹純やレオとも関係は良好である。
そして二度目のオリンピック。
今回は光ちゃんがリベンジを果たした。
いのりちゃん曰く。
「すっごく悔しいけど、同時に同じ女として、今日の光ちゃんには負けてもしょうがないかって思っちゃう」
という事だった。
うん、危うく先にプロポーズされるところだったわ。
キスで言葉を封じてちょっとだけ待ってもらった。
そして今、俺は二度目のオリンピックの氷上に立っている。
ショートはすでに大差で一位。
このフリーをきっちり滑り切れば、オリンピック連覇が達成できる。
一度目のオリンピックの後、一人で夜鷹純に呼び出されたことを思い出す。
あの日、夜鷹純はいつかの夜の返礼だと言って、俺の前でプログラムを一つ滑ってみせた。
凄まじい滑りだった。
本当に魔法のような。
「肉体のピークを維持するのもさすがに限界だから、技量との兼ね合いを考えてもこれが僕の生涯最高の滑りになるだろう」
あの人は俺に、追うべき背中を見せてくれたのだ。
本当の意味では競う相手がいなかった俺が、倦むことなく滑り続けられたのは間違いなくこの人との出会いがあったからだった。
俺にとっての追うべき背中で、憧れの滑りだった。
「君から受け取った多くのものへの返礼には足りないだろうけど、この滑りを受け取ってくれ」
俺はきっと、生涯あの滑りを忘れない。
そして、俺のスケート人生の総決算ともいえる今日この日に。
あの滑りを超えてみせる。
もはや仮面の用をなさなくなったそれを撫でる。
剥がせばそれは、まるで最初からなかったかのように溶けて消えた。
そんな幻視をした。
その日、俺は憧れの背中を追い越して、きっとあの人も見たであろう景色を見た。
俺はオリンピック連覇を達成した。
万雷の喝采の中、キスクラに向かう。
キスクラにはライリー先生と、呼んでおいてもらった光ちゃんが。
最近、俺と光ちゃんの話でちょっと報道がうるさめだったのもあって一計を案じたというか。
もういっそ、思いっきり爆発させてやろうという悪戯心が沸いたというか。
きっちり大会の人たちにも許可は取ってあるので遠慮の必要もない。
光ちゃんはちょっと呆れたような、でも期待を隠せない顔で待っていた。
「光。君の事を世界で一番愛している。俺と結婚して欲しい」
光ちゃんは予想していても喜びがはるかに勝ったみたいで、はらりと涙をこぼして笑顔を咲かせた。
「よろこんで。私も、理凰の事を世界で一番愛してる。世界で誰よりもあなたを。世界の誰よりも私が。今なら私も胸を張ってそう言える」
そうして、俺と光はキスクラで本当にキスを交わして。
万雷の喝采は、同時に俺たちへの祝福も含まれたものになった。
俺たちの関係はとっくに有名だったから、観客たちにも驚きはないみたいだった。
その後、俺たちはネットで世界で最もコーヒーの売り上げに貢献する夫婦なんて呼ばれるようになるんだが、まあ、どうでもいいことである。
光ちゃんは、このオリンピックを期に引退。
俺はちょっと悩んでいる。
三連覇狙ってみるのも面白そうかなとか思ってしまって。
でもまあ、後進に後を譲るのも重要だから本当に悩みどころなのだ。
そののち、出産とある程度の年齢までの育児を終えて復帰した光ちゃんとアイスダンスでオリンピックを目指すことになるのだがそれは別の話である。
なんでそんなことになったかって?
最初は光ちゃんの提案で光ちゃんが復帰した後に普通に二人でアイスダンスをってだけの話だったんだけど。
いのりちゃんから猛抗議が入ったんだ。
「理凰君と光ちゃんに組まれたら、私、勝てる自信ゼロなんだけど!?」
と。
いのりちゃん的に司先生関係でアイスダンスにはそれなり以上の思い入れがあるので、俺と光ちゃんが挑戦するなら自分が挑戦しない選択肢はないらしい。
それで、それならと光ちゃんが提案したのだ。
「じゃあ、先にいのりちゃんが理凰と組んで滑る? 直接は戦えないけど。その、私は理凰との子供が欲しいし、そのあとの子育てもあるから、すぐにはアイスダンスは出来ないから」
うん、そろそろお分かりかな?
いのりちゃんはああいう子だから、やるとなったら金メダルしか目指さないじゃん?
とっちゃったよね、オリンピック金メダル。
そうすると光ちゃんにも火が付いてしまうわけで。
アイスダンスは比較的に競技年齢高めだから、十分狙える年齢だし。
まあ、そんなわけである。
そうして俺たちの人生は続いていく。
あの夜の約束を超えて。
その先でもずっと一緒に寄り添って、微笑み合って。
もうとっくに偽物なんかじゃない、鴗鳥理凰として。
光ちゃんと一緒に、そしてこれから生まれてくるであろう子供たちとも一緒に。
うん、一人じゃすみそうにないよね。
むしろ、どんとこいだけど。
今日も俺は光ちゃんと笑顔を交わす。
きっと、明日も明後日も、いつか死が二人を分かつまで。
色んな人達に囲まれながら、俺たちは二人で手をつないで歩いていくだろう。
偽理凰君の奮闘記、これにて完結です。
完結までお付き合いいただき本当にありがとうございました。
感想、評価、お気に入り登録、本当にありがとうございます。
とっても励みになっていました。
この更新速度で続けられたのは、ひとえに皆様の応援のおかげです。
そして誤字報告。
凄く助かりました。
かなり気を付けてはいるんですが、なかなかどうしてもゼロには出来ないので。
今後の話ですが本編はこれでおしまいですが、原作が進んだ時、またこの作品を書き始めた時のような熱が生まれれば、ジュニア編やシニア編を書くこともあるかもしれません。
原作は月刊誌に連載なので、これについてはあったとしても、ちょっとというか大分先の話になってしまいそうですけど。
もしもその時が来たら、またお付き合いいただければと思います。
そうそう、原作もこの作品とはテイストが大きく違いますがとても素敵な作品なので、もしまだ読んでいない人がいたら、是非!
ほんとに是非!
読んでみてください!
本当にめっちゃ面白い作品なので!
あと、今後の予定などのより詳しい話なんかは活動報告に掲載予定です。
興味を持ってくれた方はそちらもご覧ください。