冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜 作:えびふぉねら
翌朝。ラナスオルの部屋にはシードが招かれていた。
「ふん、これを見たまえ」
ラナスオルの得意げな声とともに、テーブルの上に木製の長方形の物体が二つ並べられた。
それは彼女が一晩かけて作り上げた、スマホを模倣したアイテムだった。
そのスマホは、ラナスの魔法機械と呼ばれるような、どこか幻想的かつ魔法的な雰囲気を漂わせていた。
表面には独特な魔方陣が刻み込まれている。画面には魔力によって色とりどりの光が脈動し、まるで生き物のような不思議な動きを見せていた。
「完全な再現とはいかなかったが、君の言った通り魔力を媒体にして通信が行えるし、この世界のネットワークとやらに接続することも可能だ」
ラナスオルは、少し誇らしげにその成果を示しながら続ける。
「『LINNET』とかいう、個人間の連絡用アプリケーションも模倣した。どうだ、少しは私を見直したか?」
彼女の声には、創造の力を司る女神としての矜持が響く。
シードは無言でその一つを手に取ると、興味深げに観察し始めた。
「なるほど……そこまで機転を効かせるとは、さすがは創造の力を司る神といったところでしょう」
彼はスマホを手の上に浮かべながら微かに微笑むが、その冷淡な口調は微塵も崩さなかった。
褒めているはずの言葉だが、ラナスオルの胸にはどこか釈然としないものが残る。
「私たちがよく知るラナスの魔法機械のように、魔力を通信の媒体として利用しているから、この世界の電力網に依存する必要はない。ただし……長時間の使用には注意が必要だ」
ラナスオルは淡々と説明を続けた。
シードは模倣されたスマホを操作し、画面に映し出された「LINNET」のインターフェースを表示させた。
ラナスオルは腕を組み、シードの横顔をちらりと見やる。
彼の指先は迷いなくスマホをものにしていた。
(この男は……私がいなくても何もかも自分で解決してしまうのではないか……?)
そんな考えが胸を刺し、妙な苛立ちが広がった。
「不完全とは言え、このようなものを一夜で生み出せるのは驚嘆に値します。あなたの創造の力は、確かに僕の魔術とは異なる次元にある」
彼の声音には、言葉の内容とは裏腹に賞賛の意図など微塵も感じられない。
それをわかってか、ラナスオルはふっと鼻を鳴らして言い返す。
「……ふん。これで、君の奇妙な魔術に頼らずとも、目立たずに情報が集められるだろう」
彼女はもう一つのスマホを手に取り、大事そうに懐へ仕舞い込む。そして新たな覚悟を秘めたような表情を浮かべた。
「早速出かけるつもりですか?」
シードが問うと、ラナスオルは短く答えた。
「ああ、少しやることがある」
その言葉には、昨日までにはなかった確固たる決意が感じられる。
彼女は振り返ることなく部屋を出ると、真新しいスマホを懐に忍ばせたまま街へ躍り出た。
「私は私のやり方でいく……」
ラナスオルは胸の内に僅かな苛立ちを覚えていた。
神である自分が、敵であるはずの男の魔術に助けられる状況――それは、彼女のプライドが許さなかった。
「私は女神だ。自らの手で、使命を果たすべきなのだ」
彼女は静かに拳を握りしめた。
風が彼女の長い白髪を揺らし、朝日に染まる街の喧騒の中へとその姿は消えていった。