冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜   作:えびふぉねら

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127話 冷酷なる異形

 荒れ果てた街に、呪いのような絶叫が充満していた。

 シードは戦場の中心に立ち、冷徹な銀色の瞳を光らせながら「神と人の子」たちの攻撃を次々と封じ込めていく。

 

 しかし、敵は絶え間なく押し寄せてくる。

 ただの人間とは思えぬ程の執念。

 

 異質な魔力の流れを感じ取りながら、シードは冷静に分析する。

 だが、考察を深める暇もなく――

 

「……っ!」

 

 突如、閃光のような一撃がシードの防御をすり抜け、鋭い痛みが彼の腕を貫いた。

 鋭利な爪が黒衣と肉を裂き、鮮血が弧を描くように迸った。

 

(速い……この一撃、確かに人間のものではない)

 

 シードは動じることなく、自らの傷を見つめた。

 すぐに修復を行おうと意識を向けるが、血が塊のようにどろりと滴り落ちる。

 

(まさか……これは、神殺しの剣に近いものか……?)

 

 魔力が弾かれ、傷は閉じるどころか悪化していく。

 傷口の周囲がじわじわと灼かれるような熱を帯び、まるで呪いが絡みついているかのように黒く滲んでいく。

 

(……忌々しい)

 

 違和感と殺意が胸の奥でざらりと蠢いた。

 

「そうか。彼らは『神』の力を宿しているのか」

 

 呟くように落ちた声は冷静そのものだったが、その奥に微かな苛立ちが見え隠れしていた。

 

 彼らの力は人間の枠を遥かに超えていた。

 肉体は人のまま、しかしその血には神の力が刻まれている。

 

 シードの負傷を目にした死客たちは歓喜の表情を浮かべ、高らかに嘲笑った。

 

「どうした、異形の神よ!」

 

「力を振るえば全て一掃できるだろう? 死を与えられぬ『死と恐怖の神』など、ただの人も同然!」

 

 シードは敵の嘲笑を受けながら、静かに息を吐いた。

 

「……」

 

 ほんの刹那、指先が震える。

 

 ――迷い。

 

 その時、一柱を拘束していた鎖の魔力が僅かに緩んだ。

 それを、死客たちは見逃さなかった。

 

「死ねぇっ!!」

 

 恨みを孕んだ叫びとともに一柱が鎖を断ち切り、疾風の如くシードへ迫る。

 白い衣から溢れ出す憎悪、燃えるような眼光、歪みきった表情。

 そのすべてが、目の前の異形の神へと注がれる。

 

 ――しかし。

 

「愚かな」

 

 冷たい一声が、戦場の空気を凍りつかせた。

 

 空気が振動し、シードの周囲に青白い魔力が膨れ上がる。

 その魔力はまるで生き物のようにうねりながら死客を飲み込み、死の炎を伴って激しく燃え盛った。

 

「ぎぁあああああっ……!!!」

 

 断末魔の叫びが戦場にこだまする。

 死客の身体が業火に包まれ、肉が焼け焦げ、骨さえも焼き尽くした。

 

 しかし、それすらも一瞬だった。

 やがて声は途切れ、死客は音もなく崩れ落ちた。

 

 炎が消えた後、残されたのはただの炭の塊のような無残な骸だけだった。

 シードは足元の灰を一瞥し、残る二柱の死客に冷酷な視線を向けた。 

 

「そんなに見たければ教えてやろう」

 

 彼の声には、怒りも嘲笑もない。

 蒼く揺らめく死の影を纏う、異形の神の断罪の声。

 

「『死と恐怖の神』の姿を焼き付けておくがいい」

 

 シードが手を掲げる。

 

 静かな青白い炎が戦場全体に広がり始めた。

 それは――「死と恐怖の神」が、その本性をさらけ出す瞬間だった。

 

 周囲にいた神と人の子たちが怯え、後ずさる。

 しかし、神の粛清から逃れられる者など誰一人いない。

 蒼炎はまるで意思を持っているかのように蠢き、逃げ惑う敵を建物ごと次々と飲み込んでいく。

 

 ――もはや誰も抗うことはできない。

 彼の前ではすべてが無力だった。

 

 炎に触れた者たちは一瞬のうちに燃え上がり、絶叫を上げながら灰となって崩れて去っていった。

 焦げた肉の匂いと、瓦礫にこびりつく焼けただれた血が街を染め上げていく。

 

 逃げる者も、抗う者も、すべて等しく燃え尽きていった。

 

 シードは戦場に佇みながら、その惨状と耳にこびりつくような絶叫をただ無感情に受け止めていた。

 

 残された二柱の死客は息を呑み、地獄を前に硬直した。

 炎に包まれながら、彼らは震える唇で言葉を紡ぐ。

 

「こ……これが、ラナスの……死と……恐怖のか……み……」

 

 死を振り撒く異形の存在を目に焼き付けながら、死客の二柱の神は崩れ落ちた。

 

 だが、焼け落ちた神々の骸と血にまみれた瓦礫を踏み荒らしながらなおも「神と人の子」たちは押し寄せて来る。

 

「結局、こうすることしかできないのか……」

 

 燻る炎と死臭漂う中で、彼は誰に問うでもなく呟いた。

 

 ――しかし、答えなど最初から分かっていた。

 

 理想や情を捨て去れば、これが唯一の「正解」だ。

 手を汚すのは自分だけでいい。

 

 だが、それが本当に正しいのかは誰にも分からなかった。

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