冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜   作:えびふぉねら

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14話 図書館の探索

 穏やかな日常が続いていた。

 

 ラナスオルが働くコンビニ「イレブンマート」は、彼女の接客の良さや愛嬌のある笑顔のおかげで大評判となり、ついには彼女をイメージしたオリジナル商品「ラナちき」まで登場するほどだった。

 一方、シードも無敗の弁護士として名を馳せ「闇の法廷バトラー」という異名がネットを賑わせる存在に。

 

 二人はいつの間にか、この日本の世界に緩やかに馴染んでいった。かつての激しい戦いの記憶すら、互いに薄れつつあるかのように。

 

 

   * * *

 

 

 そんなある日の午後。

 

 情報収集が行き詰まりを見せた二人は、趣向を変えて街の図書館を訪れていた。

 

 静謐に包まれる図書館の中、木製の本棚が整然と並び、暖かな照明が柔らかく床を照らしている。

 隅のテーブルでは学生らしき若者が本を読み、遠くからページをめくる微かな音が響いてくる。

 

 ラナスオルはそんな空間を歩きながら、目を輝かせて本棚を巡っていた。

 時折「おおっ」と小さく声を漏らしながら本を引き抜いてはパラパラとめくっている。

 

「シード、これを見たまえ」

 

 ラナスオルは派手なイラストが描かれた小さな書籍を手にして、シードに歩み寄った。

 

「『わがまま女神と冷酷死霊術師のはちゃめちゃ異世界転移〜喧嘩してたら対消滅して二人とも同じ世界に転移したので、今度は仲良く世界を蹂躙してやろうと思います〜』というラノベだ。なんだか私たちに似ていないか?」

 

 彼女は目尻を下げて微笑み、からかうように続ける。

 

「まあ、私はわがままではないし、この世界を蹂躙しようなどとは考えていないが。君の方はぴったりそのままじゃないか」

 

 そう言いながら、ラナスオルはふと胸の内にある小さな引っかかりを感じていた。

 彼女がかつて女神として追い詰めた男と今、穏やかに話している自分。

 それをわがままと表現されるのが少し気に障るのは、自分の中に何かが変わりつつある証なのかもしれない、と。 

 

 シードはラノベの表紙をちらりと一瞥した後、冷静かつ冷淡な口調で答えた。

 

「……なるほど、こうした娯楽作品に登場するキャラクターの一人に例えられるとは、光栄と言うべきでしょうか」

 

 そして、手にしていた本を閉じ、ラナスオルに視線を向ける。

 

「しかし、その『冷酷死霊術師』という設定は誇張が過ぎます。そして『世界を蹂躙』という部分については……」

 

「おいおい、これはただのフィクションだぞ」

 

 ラナスオルは呆れたように口を挟む。

 

「その物語がフィクションであることは僕も理解しています。問題は、その『わがままではない』あなたが、どうしてこうした内容に過剰に反応しているのかという点です。自分の描写が納得いかないとでも?」

 

 彼の理詰めに、ラナスオルは観念したように肩をすくめた。

 

「わかった、わかった。私がわがままじゃないと言ったことがそんなに気に障ったか。まったく、君は面倒な男だ」

 

 そう言って彼女は手をひらひらと振ってみせた。

 

 シードは静かに本を棚に戻しながら、再びラナスオルに視線を向けた。

 

「……あなたがわがままかどうかなど、僕にとってはどうでもいいことです。ただ、あなたがそのような言葉を使うのが少し珍しかっただけのこと」

 

 その言葉に、ラナスオルは少しだけ目を丸くした。

 

 シードは気にする様子もなく次の棚に歩み寄り、本を眺めながら続ける。

 

「ところで、この図書館には意外と興味深い本が多い。あなたが手に取ったラノベも、ある意味ではこの世界の文化を反映していますし、参考になることもあるかもしれません。あなたが興味を持つのなら、僕もそれなりに付き合いましょう」

 

「そうか、ならば『びーえる』なんてどうだ?」

 

 ラナスオルは冗談めかして言ったが、その目にはどこかいたずらっぽい光が宿っている。

 

「私はよくスマホで漫画を読むのだが、『びーえる』なるジャンルを知り、人間の嗜好の奥深さに触れることができたのだ」

 

 シードは一瞬驚いたように眉を動かしたが、すぐに視線を棚に戻し、淡々と答えた。

 

「……人間の嗜好は多様で、時に理解しがたいほどの幅を持つ。あなたがそれに興味を見出すのは悪くないことです。僕としては、あなたが新しい価値観に触れて楽しんでいるなら、それで十分かと」

 

 彼の期待外れな反応に、ラナスオルは少し肩をすくめ、「そうか」とだけ告げて別の本棚へと向かった。

 

(もっと面白い反応を期待していたのに……この男は真面目すぎるのだ)

 

 手にしたラノベをきゅっと握り締め、心の中で不満げに呟いた。

 

 シードは彼女の背中を見つめながら、小さく微笑む。

 

「彼女が『びーえる』を語るとは……女神の威厳とやらは、一体どこに行ったのやら」

 

 そう呟くと、再び棚に目を向け、興味深げに本の背表紙を手でなぞり始めた。

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