冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜   作:えびふぉねら

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3話 村

 セラ、アルズ、ナディアの三人は、緑豊かな農村へと足を運んでいた。

 澄んだ青空の下、麦畑が風に揺れ、水車が回る小川のせせらぎに耳を傾ける。

 村人たちの穏やかな営みが広がるこの地は、平和そのものだった。

 

 アルズは目を細め、遠くの丘を見つめた。ナディアはそっとセラの肩に手を置き微笑む。

 セラの白銀の瞳には、旅路で見てきた景色と、自分の役割を重ねるような深い感慨が滲んでいた。

 

 村の中央広場には、一対のラナスの二神像が立ち、その周囲を色とりどりの花々が取り囲んでいる。

 村人たちが手を合わせ、静かに祈りを捧げる様子を見つめながら、セラはそっと目を細めた。

 

「なんて平和な場所でしょう……」

 

 彼女の小さな呟きに、アルズとナディアが嬉しそうに頷いた。

 

「ええ、本当に……」

 

 

   * * *

   

 

 しばらく広場の景色を楽しんだ後、三人は道沿いで目についた料理店に立ち寄ることにした。

 木組みの壁にぶら下がるランプが、薪火の香りに包まれた店内を照らす。ふと他の客のテーブルを見やると、煮込み料理の湯気が立ち、旅の疲れを溶かすようにほっと心まで温まる雰囲気に満ちている。

 

「さあ、ごはんにしましょう」

 

 セラが促すと、アルズの目がぱっと輝いた。

 

「この匂い……ここはきっとうまいぞ!」

 

 ナディアは頬に笑いじわを浮かべながらも、目を細めてメニューを眺めていた。

 

 

   * * *

 

 

 ほどなくして、三人のテーブルには湯気立つチキンライスやコーンスープ、香ばしく焼き上げられたパンが並んだ。

 セラにとっては庶民的で素朴なメニューだが、それでも、みんなで囲む食事は特別なご馳走に映った。

 アルズは我慢できずにパクつき「うまい! おかわりだ!」と元気いっぱいに宣言。 

 ナディアは呆れたように頬を膨らませる。

 

「もう、食べ過ぎだよアルズお兄ちゃん!」

 

 しかしアルズは気にする様子もなく、肩をすくめながら答えた。

 

「オレたちは十六歳だぞ、まだまだ食べ盛りだ。しっかり食べて、セラ様をお守りするんだ!」

 

 その言葉に、ナディアは小さくため息をつく。視線をメニューに戻して、恥ずかしげな小さな声で注文を告げた。

 

「じ、じゃあ私も……アップルパイ……」

 

 セラは二人のやり取りを微笑みながら見守っていたが、優しい声でこう言った。

 

「遠慮しなくていいんですよ。しっかり食べてくださいね」

 

 そんなやり取りをしていると、料理を運んできた女将が、にこやかに声をかけてきた。

 

「あんたたち、見ない顔だねえ。旅人かい?」

 

 セラは微笑みを浮かべながら頷く。

 

「はい。ここはのどかで、ご飯もおいしくて……本当に素敵な村です」

 

 その言葉に女将は得意げに大きく笑い、嬉しそうに語り始めた。

 

「はっはっは! そうだろう。この村がこんなに豊かになったのは、銀灰の守護者シード様のおかげさね。昔、ここは荒れ果てた土地だったけど、あの方が大地を整えてくれてから、こんな緑豊かな村になったのさ。ずいぶん昔のことだけどね、みんな感謝を忘れちゃいないんだよ」

 

 その言葉を聞いたセラの銀色の瞳が、微かに揺れる。

 

「お父様が……」

 

 彼女は、聞こえるか聞こえないかというほどの小さな声で呟いた。

 運んでもらったスープのぬくもりが胸に沁みる。それは、父の遺産が今もこうして確かな形で、村人たちの暮らしに息づいていることの証だった。

 アルズもナディアもそっと視線を合わせ、頷いていた。

 

「なんでも、あたしのひいひい婆ちゃんだっかな、村でシード様に会って話をしたって言うんだよ。本当かねぇ? ……はははは、まあとにかく、ゆっくりしておいき!」

 

 豪快に笑いながら去っていく女将の背を、セラはじっと見つめていた。

 

 

   * * *

   

 

 料理店を後にした三人は、再び広場へ向かった。

 夕暮れの光が二神像を黄金色に染め上げ、像の周囲に飾られた花々が輝いている。

 

 セラは像を見上げ、静かに語りかけた。

 

「お父様……これが、あなたが遺した世界……」

 

 彼女はそっと手を掲げ、淡い光を散らすように魔力を解き放つ。

 すると、二神像の足元に、小さな白い花が次々と咲き乱れた。

 天と地を結ぶように、優雅に花びらが舞う。

 

 父が遺したこの村の祈りと笑顔を、セラはしっかりと胸にきざみこむ。

 そしてそれは、これからも永く紡がれていくのだろう。彼の名とともに。

 

 三人は夕暮れの道を歩き続けた。

 その背後には、白い花々と祈りを宿す二神像が、優しく見送るように佇んでいた。

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