冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜 作:えびふぉねら
夜の静寂が宿を包む中、セラはランプのかすかな光を頼りに、預言者ロヴェロから受け取った巻物を広げていた。
古びた紙には複雑な文様と断片的な文字が描かれていた。それらはまるで呪文のようにも見えたが、セラにはその意味がわからなかった。
セラは静かに呟きながら、指先で巻物の縁をなぞった。
自分の父、シードが背負った罪。その真実に迫るため、この巻物が鍵になることは間違いないと感じていた。
その時ふと、ベッドから小さな声が聞こえた。
「セラ様……?」
振り返ると、ナディアが目をこすりながら起き上がっていた。
眠そうな顔をしているものの、その表情には不安の色が滲んでいる。
「ナディア。眠れないのですか?」
セラは優しい声で問いかけ、椅子から立ち上がった。
ナディアは少し間を置いてから、弱々しく答える。
「はい……あの時の夢を見てしまって……」
セラはナディアの横に腰掛け、そっと肩を抱き寄せた。
「大丈夫、私はここにいます。怖い夢なんて、きっと追い払います」
しかし、ナディアの声は震えていた。
「……私たちがもっと気をつけていれば……シード様は……」
その言葉に、セラの胸が痛んだ。
ナディアのエメラルドグリーンの瞳から大粒の涙がこぼれ、頬を伝っていく。
「……あのお方は……私たちを庇うために命を……」
ナディアの震える肩をセラは抱きしめ、彼女の背中を優しく撫でた。
「ナディア……」
セラは目を閉じ、彼女の痛みを深く受け止める。
ナディアの言葉に、セラの心にも複雑な思いが広がった。
シードが命を落としたのは、アルズとナディアという無垢な存在を守るためだった。しかし、かつて彼らの両親を奪ったという事実が、セラの心に「罪」という重い言葉を刻んでいた。
「セラ様……私は……」
ナディアは涙を流しながら言葉を続けた。
「私……何度もシード様を責めるような夢を見てしまうんです……あのお方が私たちを守ってくれたのに……私なんて……庇ってもらう価値なんてないのに……」
その言葉に、セラはきっぱりと答えた。
「そんなことはありません」
ナディアの顔を正面から見つめ、強い声で続ける。
「ナディア。私の父……シードは、あなたを守りたかったのです。あなたを守ったのは、それだけの価値があなたにあったからです。父はそれを疑ったことなんて一度もないでしょう」
ナディアは目を大きく見開き、セラを見つめた。
セラの言葉には、父を想う強い信念が宿っていた。
「私の父は確かに多くの命を奪いました。それがどれほど重い罪であったとしても……父の心の中には、いつも守るべきものへの愛がありました。私はそれを信じています。ナディア、あなたも信じてください」
ナディアの涙が再び流れたものの、その瞳には確かな光が宿り始めていた。
「……ありがとうございます……セラ様……」
ナディアはセラの腕の中で小さく頷き、ついにはそのまま眠りに落ちた。
セラはそっと彼女を寝かせると、再びテーブルに戻り、巻物を手に取った。
ランプの灯りが照らす文字を見つめながら、彼女は心の中で誓う。
「お父様……私は必ず、あなたの真実を見つけ出してみせます。そして、この世界に……あなたが守ろうとした全てに、光を灯してみせます」
その瞬間、巻物の文字がほのかに光を帯びたように見えた。
夜は更けていく。
しかし、セラの銀色の瞳には、揺るぎない意志が宿っていた。