冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜   作:えびふぉねら

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8話 真紅の瞳

 巻物が時折、淡い光を放ちながら形を変えていく。その小さな変化は、まるで道標のように三人を導いていた。

 

 セラ、アルズ、ナディアの三人は、手にした巻物を頼りに旅を続けていた。旅路の空気には絶えず新しい土地の匂いが混じり、街道の先にはまだ見ぬ人々の暮らしと謎が待っている。

 だが同時に、巻物に秘められた大いなる真実へと近づくにつれ、三人の心には言葉にできぬ緊張も積み重なっていった。

 

 ある日、夕暮れに近い赤い空を見上げながら、アルズがふと足を止めた。彼の瞳には、懐かしさと僅かな迷いが宿っていた。

 

「セラ様、一度……オレたちの故郷に戻りませんか?」

 

 不意の言葉に、セラは瞬きをした。ナディアも驚いたように兄を見つめる。

 

 そこは「粛清の青き炎」によって無残に焼かれた街。だが灰の中から再び命が芽吹いたのは、銀灰の守護者シードの力と犠牲があったからこそだった。

 あの地には彼が眠る墓標もあり、そして双子にとっては原点であり、癒えることのない傷跡を抱えた故郷でもある。

 

 巻物を手にしてから、まだ一度も足を向けてはいなかった。

 

 セラはしばし考え込む。胸の奥に父の姿を思い描き、その面影が夕陽に揺れる雲の色と重なる。やがて小さく頷いた。

 

「……そうですね。もしかしたら、何か新しい手がかりが見つかるかもしれません」

 

 その声には、父が遺したものを確かめたいという娘としての想いも込められていた。

 こうして三人は、過去と向き合う旅へと歩を進めることを決めた。

 

 

   * * *

   

   

 やがて、懐かしい街並みが彼らを迎えた。石畳の道には子どもたちの笑い声が響き、かつて焦土だった地は今や豊かな市井へと変わっていた。

 だが、双子の心にはあの日の記憶が蘇り、胸の奥を締めつけるような痛みが広がる。

 

 まず彼らが訪れたのは、街の中心にそびえる教会だった。

 空に伸びる尖塔は白く輝き、その最上部にはラナスの二神像が祀られている。陽光を浴びた像は荘厳でありながらどこか優しさを湛え、街全体を見守っていた。

 

「やっぱりこの像は……立派ですね」

 

 ナディアがそっと呟く。

 

 アルズはその横顔を見つめ、しばらく黙った後に低く言葉を落とした。

 

「でも……同じ場所に立っているのを見ると、どうしても思い出す。あの日のことを」

 

 彼の拳は無意識に震えていた。

 十年前、崩れ落ちる足場の下、二人を庇って命を落とした男。それらは決して薄れることのない刻印だった。

 

 セラは二人の沈んだ心を感じ取り、言葉を探したが、アルズが先に振り返った。表情には哀しみを押し込めたような微笑みが浮かんでいる。

 

「……大丈夫です。行きましょう」

 

 彼はそっと妹の肩に手を置き、歩を促す。ナディアは唇を噛みしめながらも頷いた。

 三人は重い空気を背負いながらも、霊園へと向かっていった。

 

 

   * * *

   

 

 教会裏の霊園は、今も変わらず静謐に包まれていた。小鳥のさえずりが木々の間から聞こえ、花壇には手入れの行き届いた花々が色鮮やかに咲き誇っている。

 石畳の小道に差す光は柔らかく、そこだけ時が穏やかに流れているようだった。

 

 シードの墓標の前にも、小さな花束が供えられていた。新しい花弁が瑞々しく光を反射し、誰かがつい先日訪れたのだと示している。

 

「……誰かが、来ていたのですね」

 

 セラはその光景を見つめながら、そっと呟いた。その声には、父が今も誰かの心に生きていることへの安堵と、深い感謝が混じっていた。

 

 だが次の瞬間、セラの視界に一人の少女の姿が映った。

 墓標の前に佇むその少女は、長い金髪を風に揺らし、真紅の瞳をただまっすぐに墓標へ注いでいた。まるで時間を忘れ、そこに縫い付けられたように立ち尽くしている。

 

 セラは一瞬ためらいを覚えた。だが胸に去来する直感に背中を押され、静かに声をかけた。

 

「あの……父のお知り合いの方でしょうか?」

 

 少女は驚いたように振り返った。真紅の瞳が大きく見開かれ、セラの姿を見つめる。その眼差しには驚愕と、どこか信じられないという色が浮かんでいた。

 

「父……? ということは……あなたが、彼の娘の……女神セラ様?」

 

 セラは小さく息を呑み、そして静かに頷いた。

 その瞬間、少女の表情に安堵が走り、ゆっくりと微笑みが浮かんだ。やがて彼女は深く頭を垂れる。

 

「……そう。やっと……お会いできたのですね。私の名はクレア。銀灰の守護者シード様に、命を救われた者です」

 

 その言葉は、墓標の上に吹き抜ける風と共に、静かに三人の胸に沁み渡っていった。

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