冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜 作:えびふぉねら
セラは、ひとり街外れの小川のほとりを訪れていた。
清らかな水が静かに流れるその場所は、周囲を色とりどりの草花が囲み、まるで異世界のように静寂と穏やかさに包まれていた。
川面に映る自分の姿を見つめながら、セラはそっと呟いた。
「お父様……私は、あなたが正しかったと信じています……けれど……」
父シードの痕跡を追う旅を続ける中で、彼女はたびたび人々の口から「死と恐怖の神」としての父の姿を聞かされた。
それは冷酷な殺戮者、容赦なく粛清を行った異形の神――そんな言葉が繰り返されるたび、彼女の心には重い影が落ちた。
「私は……異形の神……冷酷な殺戮者の娘……」
セラは銀色の瞳を曇らせながら、震える手をじっと見つめた。
彼女の力は創造と癒し――父の力とは対極のもの。しかし、その血が自分の中に流れている事実を否定することはできない。
不安と疑念が彼女の胸を締めつける。
その時、不意に小川の水面がぱしゃりと弾けた。
セラは顔を上げる。そこには、まるで水の精霊が彼女に応えるかのように、光の粒が揺らめき、川面で踊っていた。
「……私は、一体何を考えているのでしょう」
セラはかぶりを振り、暗い思考を振り払った。そして、ふっと目を閉じる。
彼女の脳裏には、これまでの旅路で出会った仲間たちの姿が浮かぶ。
「アルズ……ナディア……」
彼女の顔に自然と微笑みが広がる。
「あなたたちがいなければ、私の旅は孤独で、とうに心が折れていました。本当にありがとう……」
幼い頃から母ラナスオルに大切に育てられてきたセラにとって、他者と支え合うという経験は新鮮だった。アルズとナディアは、そんな彼女に寄り添い、心からの友情を注いでくれた。
さらに最近加わったクレアの存在も、彼女にとって欠かせないものとなりつつある。
セラは、小柄なクレアが漆黒の魔法を操り、仲間を守る姿を思い浮かべる。時折、空腹を訴えて不満を漏らす彼女の無邪気さを思うと、思わず口元が緩んだ。
セラは背負っていた巻物を取り出し、陽光に透かしながら広げた。
そこには、かつて途切れ途切れだった不思議な紋様と呪文が、今や巻物全体にほぼ行き渡っていた。
「あと少し……」
巻物に秘められた謎の答えが近づいている。
その確信が彼女の胸を高鳴らせる一方で、どこか不安も感じていた。
「これを解き明かせば、お父様の真実がすべてわかる……でも、その先に待っているのは……」
真実を知りたいという想いと、それを知ることで何かが変わってしまうのではないかという恐れが、彼女の胸をざわつかせた。
「……迷うわけにはいきません」
セラは自分にそう言い聞かせると、巻物を丁寧にしまい、川辺で一呼吸ついた。
「私は、進むしかない。お父様が守ったラナスの世界を、今度は私が守ります……」
彼女の銀色の瞳が決意を宿し、小川のせせらぎに背を向けて仲間たちのもとへと戻った。
待っているのは、これまで以上に困難な旅路――それでもセラの歩みは、もはや迷いなく前を向いていた。