冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜 作:えびふぉねら
セラたちは再びラナスの大国にある壮大な図書館を訪れていた。
彼らの目当ては、預言者ロヴェロが語った「真実」への手がかり――ラナスの歴史を記し続けている神話の書物だった。
かつてセラがその書を開いた時、彼女は「死と恐怖の神」の章に記された残酷な描写に目を背け、最後のページを開かずに終わった。
しかし、巻物の謎を解き明かすためには真実と向き合わなければならないと決意した今、彼女は再びその書物の前に立っていた。
銀色の瞳に覚悟を宿しながら、セラは静かにその重いページをめくる。
粛清の青き炎が街々を滅ぼし、無数の神と人の子を焼き尽くし、罪なき人々の命さえも巻き込んだ――その一節を再び目にした時、セラの手が思わず止まった。
深呼吸をしてからさらにページをめくると、次に現れたのは「果ての大地」で繰り広げられた壮絶な最終戦の記録だった。
「死と恐怖の神は、果ての大地にて『神を喰らう者』と対峙した。
それは神界の禁忌であり、大いなる災厄として神々にさえ恐れられた存在。
災厄は死の神を飲み込み、その魔力を啜り尽くそうとしたが――」
セラの目が挿絵に吸い寄せられるように止まった。
そこには、巨大な獣のような姿をした「神を喰らう者」が描かれていた。異形の顎でシードを咥え、血を滴らせる彼を締め上げている。
その隣には――女神ラナスオルの姿があった。
拳を振り上げ、全力で災厄に立ち向かう彼女の表情には、苦痛と決意が交錯している。
「災厄を滅ぼしたのは、死の神と創造の女神の力。だが、その代償はあまりにも大きかった。死の神は災厄により魔力の大半を奪われ、不死の力を失った――」
「……そんな……」
セラの手が震え、目が潤んだ。
この戦いの記録は、母ラナスオルからも語られたことがなかった。父が異形の神として戦い続けた理由、その最期――それらが少しずつ繋がり始める。
「セラ様……顔色が……」
隣で様子を見守っていたアルズが心配そうに声をかけた。
「一度宿に戻りましょう」とナディアがそっと続ける。
セラはしばらく本のページに目を落としていたが、やがて静かに頷き、書物を棚に戻した。
「……そうですね。少しだけ、休みましょう」
三人が図書館を後にする中、クレアはその場に残り、じっと彼らの後ろ姿を見つめていた。
「大いなる災厄……かぁ」
彼女の真紅の瞳が、一瞬、不穏な光を帯びた。そして、口元に不敵な笑みを浮かべながら、小さく呟いた。
「あっはは……もうお腹ぺこぺこ」
その声は三人に届くことはなかった。
* * *
その夜、セラはベッドに横になりながらも眠れなかった。
父シードが対峙した「神を喰らう者」――その災厄がもたらした絶望と、父が支払った代償。その全貌を知るための旅路は、最終局面を迎えつつあった。
一方、同じ夜。
図書館の片隅で、一人残ったクレアが、誰にも見せない表情で書物を読み続けていた。
その真紅の瞳には、何かを計画しているような鋭い輝きが宿っていた――それは、セラたちがまだ知らない新たな波乱の始まりを告げていたのだった。