冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜 作:えびふぉねら
漆黒の炎を纏ったクレアが、狂気の笑みを浮かべながらセラに迫る。その瞳は真紅に輝き、憎悪と欲望が渦巻いている。
「あなたは……仲間だったはずです……!」
セラの銀色の瞳が揺れる。声は細く震え、心の奥底から裏切られた痛みが滲んでいた。
「旅の中で、あなたの力に何度も助けられました。それなのに……」
セラは咄嗟に創造の魔術を発動し、無数の白い花の壁を創り出し、クレアの攻撃を防ぐ。
しかし、クレアの放つ漆黒の炎は壁を次々と焼き払い、灰へと変えていく。
「仲間?」
クレアは可笑しそうに嘲笑うと、炎をさらに激しく燃え上がらせた。
「あっはは! バッカみたい。そんなの演技に決まってるじゃない。エサのくせに余を仲間だなんて。とんだ平和ボケの神ね!」
花の壁が崩れ落ち、セラは思わず一歩後退した。信じたものに裏切られた衝撃が彼女の足元を揺らしていた。
「そんな……では、あなたは……」
セラは認めたくなかった。しかし、目の前の現実を受け入れざるを得なかった。
「そうよ」
瞳に狂気を宿らせ、クレアの笑みがさらに歪む。
「余は暴食の女神グレナシア。あの本に記されていた『大いなる災厄』――あなたの父親、シードの魔力を喰らったのがこの余よ!」
悦に入ったような彼女の言葉が、セラの心を鋭く抉る。
「グレナシア……」
セラは声を震わせながら、彼女の本当の名を呟いた。
「そう、異形の神シード……」
クレア――否、グレナシアは愉悦に満ちた声で続ける。
「あの時の味は、忘れられないわ。彼の魂を少しでも喰らえたことは最高の歓びだった!」
漆黒の炎がさらに勢いを増し、セラの花の防御を次々と飲み込んでいく。
「お父様とお母様が、あなたを滅ぼしたはず……!」
炎が広がり、激しい熱に気圧されそうになる。それでもセラは必死に叫び、花を生み出し続けた。
「確かに、あの時、余は滅びたわ」
グレナシアは漆黒の炎をさらに燃え上がらせながら、冷酷な声で続ける。
「喰らった魔力が体内で暴走して余は死んだ。けれど……魂は滅びなかった。異形の神の魂が、余に一度限りの不死を与えた!」
「どういうことですか……」
セラの声は次第に弱まり、彼女を守る花も力を失い始めていた。熱に晒されたせいか、花を生み出す指先にぴりぴりとした痛みが滲み始める。
「余に飲み込まれた時、あなたの父は生きることを諦めようとした。一瞬だけど、死を受け入れ余と一つになろうとした。その時、魂が溶けてわずかな断片ではあるけれど、余は彼の魂を喰らうことができた」
「嘘です……お父様が戦いを諦めるなど……!」
セラの否定の叫びに、グレナシアは冷たく笑いながら言葉を重ねる。
「旅の中で見てきたでしょう? 『死と恐怖の神』として生きた彼の姿を。その道を選ばざるを得なかった彼の葛藤と罪悪感を!」
その言葉が、セラの心を刺すように響く。父の残した痕跡――それらがすべて彼の苦しみを物語っていると、彼女は薄々気づいていた。
「くっ……!」
漆黒の炎がついにセラの防御を突破し、その熱が彼女の肌を焼き始める。セラは痛みに耐えながら、今にも膝をつきそうになった。