冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜 作:えびふぉねら
セラの身体から放たれる銀色の光が空間を満たし、幾重にも連なる花の鎖が暴食の女神グレナシアを絡め取っていた。
その光は強烈で、美しいほどの輝きを放ちながらも、彼女の心には大きな影を落としていた。
「アルズ、ナディア……彼女はもうクレアではありません。暴食の女神グレナシア……お父様から神の魔力を奪った……私たちの敵です」
セラは震える声を押し殺し二人に告げた。その言葉には、決意と悲しみが絡み合っている。
「こいつのせいで……シード様が魔力を……!」
「アルズお兄ちゃん……!」
アルズの瞳には怒りの炎が宿り、刃の切先がグレナシアへ向けられた。刀身には、ナディアの聖なる力がさらに注ぎ込まれ、煌々と光が揺らめく。
「行くぞ!」
アルズが渾身の力で剣を振り上げる。空中でナディアの込めた神聖な光の粒子が踊り、美しい弧を描いた。
白刃は真っ直ぐにグレナシアの首目掛けて振り下ろされる。
「……っ!」
だが、その刃がグレナシアの首に触れた瞬間、それ以上食い込ませることができなかった。
敵とはいえ、相手は自分より年下の子供。彼の純粋な心が、その一線を越えることを拒んでいたのだ。
「ふふ、甘いわねぇ、あなたたちは」
グレナシアは捕らえられたまま勝ち誇った笑みを浮かべる。その笑顔には、冷酷な余裕があった。
「死と恐怖の神シードは、躊躇いなく命を奪ったわ。こんなふうにね」
その瞬間、グレナシアの真紅の瞳が怪しく輝き、閃光が走った。
それは赤い刃のように鋭く、音すら追いつかない速さで、ナディアの胸を貫いた。
「えっ……」
ほんの一瞬、彼女の表情に浮かんだのは驚愕だった。痛みを理解するよりも先に、彼女の体が力なく崩れ落ちる。
時間が、止まった。
セラも、アルズも、その光景をただ呆然と見つめていた。
流れ出る血が大地を汚す。
ナディアの白い衣が、鮮やかな紅に染まっていく。
「ナディア……? ナディアぁぁぁっっ!!!」
次の瞬間、アルズは剣を放り出し、弾かれたように駆け寄った。
倒れたナディアを抱き抱え、悲痛な叫びを上げる彼の顔は、焦りと絶望で塗り潰される。
「ナディア! しっかりして!」
セラも涙を流しながらナディアへと駆け寄ろうとする。
だが、足が動かない。心が追いつかない。ほんの数秒前まで、ナディアはそこに立っていたはずなのに。
「その女の神聖魔術は厄介だったから、先に潰させてもらったわ」
グレナシアは動きを封じられたまま、冷酷に嘲笑う。
「あっはは! あなたの父が命を賭けて救ったのに、こうもあっさり死んじゃうんだもの。とても神の命とは釣り合わないわ。愚かよね、あっははは!」
「……っ!!!」
セラは怒りを露わに、創造の魔力をさらに増幅させた。花の鎖は再び力を取り戻し、グレナシアを締め付ける。
しかし、セラの傷ついた心はその鎖に僅かな綻びを生む。漆黒の炎は容赦なく吹き出し、彼女の行手を阻んだ。
「ナディア! ナディア!!」
まだ、助けられる――セラは治療の魔術を施そうと必死に手を伸ばした。だが、その手は震え、焦りが彼女の魔力の流れを乱していた。
「セラ様……ナディアは……もう……」
アルズの掠れた声が彼女の耳に届く。彼の腕の中で、ナディアの身体は次第に冷たくなっていく。
「いや……ナディア……逝かないで……!」
炎が揺らぐ視界の中、セラは絶望に染まった瞳でナディアに手を伸ばした。だが、その声も手も、もう彼女には届かない。喉は嗚咽を鳴らし、彼女の中で何かが崩れ去っていくようだった。
グレナシアの嘲笑が響く中、セラの心には、これまでにない深い闇が広がっていった。彼女の希望の光は、その場に崩れ落ちるようにして、儚く消えかけていた。