冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜 作:えびふぉねら
セラは目を閉じ、震える指先で巻物の紋様をなぞり始める。
――本当に、これでいいのだろうか?
胸を焦がす迷いを振り払うように、凛とした声で呪文を紡いでいく。
巻物から放たれる金色の光が、彼女の身体から流れ出る銀色の創造の力と絡み合い、やがて大地をも覆い尽くすような眩い輝きに満ち溢れていった。
「あっははは……それでいい……!」
グレナシアは満足げに頷き、その行為を嘲笑いながら見守っていた。
光が一層強く輝く中、空気が重く張り詰めるような感覚が広がる。
荒廃した大地を覆う静寂の中で、アルズは光に紛れながら慎重にグレナシアから距離を取った。
セラの胸には焦燥と葛藤が渦巻いていた。父を呼び戻して、本当にこの状況を打開できるのか。
ナディアを守れなかった無力さ、今は父の力を借りなければ戦えない弱さ――そのすべてが、鋭い刃のように彼女を責め立てていた。
やがて、淡い光芒の中から現れ出でる輪郭。それが黒衣を纏った若い男の姿を形取っていく。
銀色の髪、冷たい銀色の瞳――それはセラがラナス各地で目にした像と寸分違わぬ姿だった。
だが、その身体は実体を持たず、漂うように浮かぶ魂でありながら、異形としての存在感が周囲を圧倒していた。
「シード様……」
アルズがその荘厳な姿に釘付けとなり、呆然と立ち尽くす。
かつて自分たちを命がけで救った男――普通の人間のようだった彼が、今は神々しくも禍々しい力を纏った存在となってそこにいた。
「お父様……」
セラは声を震わせながら手を伸ばした。
しかし、シードは彼女には目もくれず、冷徹な銀灰の瞳でグレナシアをじっと見据えていた。その視線には微塵の感情もない。
「また会えて嬉しいぞ、異形の神……」
グレナシアの低く静かな声が響く。
「あの時はよくも余を謀ってくれたな」
彼女の真紅の瞳が妖しく輝き、こびりつくような視線がシードを捉える。
巨体が揺れ、口元から唾液を滴らせながら、不敵な笑みを貼り付けていた。
「貴様を仕留め損ねたのは、唯一の失策だったわ」
グレナシアは苛立ちを滲ませ、獣のように低く唸る。
「この十年、余は失われた肉体を少しずつ取り戻してきた。だが、覚悟しておけ。禁足地で貴様が葬った神々の骸を喰らった余に、もはや敵など存在しない!」
怒号のような声とともに、地面が震えた。
グレナシアの放つ漆黒の炎が、周囲を蝕むように広がっていく。
シードは一言も返さないまま、右手をゆっくりと持ち上げた。その手に異形の力が集まり始める。
青白い魔力が横溢し、空気は冷たく張り詰めていく。
荒廃した大地は、降り注ぐ重圧に耐え切れず振動し始めた。
死と恐怖の神――
セラの胸に、その称号が重く響いた。
「お父様……!」
セラは再び手を伸ばすが、シードは背を向けたまま、振り返ることはなかった。
「そこで見ているがいい。死と恐怖の神と呼ばれた異形の力を」
その声に、父としての温もりは欠片もない。
銀灰の瞳は冷酷に、そして圧倒的な殺意に満ちていた。