冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜 作:えびふぉねら
「あっはははは! 今一度その魔力を喰らってくれる!!」
咆哮とともに、グレナシアの巨体が弾丸のようにシードへと襲いかかった。漆黒の炎が荒れ狂い、大地に焦げ目を刻んでいく。
彼女の真紅の瞳が血のように輝き、にたりと牙を剥いた。獲物を狩る猛獣そのものの俊敏な動き――その勢いのまま、シードへと迫る。
だが、彼は動かなかった。ただ淡々と彼女を見つめ、佇んでいる。
「おとなしく喰らわれる気になったか……!?」
グレナシアの厚く長い舌が燃え盛る黒き炎を纏い、瞬く間にシードを絡め取った。その締めつけは岩すら砕くほどの圧力を持ち、彼の魔力を吸い上げようとする。
しかし、次の瞬間。
「あぁっ……あづい……!?!」
グレナシアの舌が焼け爛れ、肉の焦げる匂いが辺りに漂う。燻る煙の中で、彼女は血走った目を見開き驚愕の表情を浮かべた。
「な、な……なにをじだぁぁぁっ!!!」
もがく彼女の舌は、シードの身体に焼き付いて剥がれない。肉が炭化し、焦げた裂け目から青白い炎が吹き出す。
シードは冷たい瞳で彼女を見上げ、ゆっくりと右手を掲げた。掌には燃え盛る青白い炎――だが、その炎はまるで意思を持つかのように揺らぎ、グレナシアの赤い瞳に映り込む。
「僕の魔力が欲しいのか」
その言葉は冷たく鋭い氷のようだった。
シードは無表情のまま、炎を指先で弾くようにグレナシアの口内に放つ。
「存分に味わうといい――」
炎が逆巻き、一瞬にしてグレナシアの内部を灼熱の地獄へと変えた。彼女は炎を飲み込もうとするが、それは彼女の体内を無慈悲に焼き尽くしていく。
「あづい……なぜだ……喰え……ない……やめろぉぉぉぉ……!!!」
青白い炎と赤黒い炎が交わる中、グレナシアの全身が痙攣し、焼けただれた肉片が飛び散る。飲み込もうとした魔力が体内で暴れ、彼女は苦痛にのたうった。
喉の奥から噴き出した炎が腹部へと伝播し、皮膚の表面を内側から焼き爛れさせる。巨躯が膨れ上がり、ついにはひび割れのような裂傷が走った。
数多の神々の骸を喰らい、強靭な肉体を得たはずの彼女でさえ、異形の神の前では無力に等しかった。
「これが……お父様の力……」
セラは息を呑み、その光景を見つめていた。
父シードが放つ圧倒的な異形の力ーー青白い炎は美しさと恐怖を体現し、目を背けることすらできない。
「バカな……貴様の魂の断片は余の中にある……今の貴様は不完全なはずなのに……なぜ……最強である余の力が……ぐぼぉあぁぁぁぁ!!!」
恐怖と苦痛に染まったグレナシアの咆哮が響き渡る。
焼け焦げた舌がシードの身体から離れると、燃えたぎる全身を激しく震わせ、彼女はなおも襲いかかった。
「ぐちゃぐちゃに……潰れろぉぉぉっっ!!!」
のしかかろうとするグレナシアの巨躯を、シードは宙へ舞い難なく躱す。そして彼女へ向けて、空中を指でなぞるように魔力を奔らせた。
彼が死霊術で召喚した無数の亡霊たちが波のように襲いかかり、グレナシアの四肢を絡め取る。
彼が指を鳴らすと同時に亡霊が青白い業火に包まれ、耳をつんざく絶叫と焦熱がグレナシアを突き抜けた。
「ぐふうっ……」
彼の容赦ない攻撃に耐えきれず、ついに巨体が地に沈む。
全身が小刻みに痙攣する中で、彼女の尻尾がゆっくりと振り上げられた。
最後のあがきのようにシードに向かって尻尾を振り下ろそうとする。
しかし――
「遅い」
シードは寸分の狂いもなく、後方へ身を翻した。
その刹那、閃光が走る。
ズシンッ……。
地を揺らし、尻尾が地面に落ちる音が響いた。断面から黒い血が吹き出し、燻ったような黒煙を上げる。
振り返ったグレナシアの瞳に映ったのは、剣を構えるアルズの姿だった。
「やっと一発入れてやったぜ……ナディア……」
アルズの声は震えながらも力強かった。彼の剣には、聖なる力が煌めいている。
ナディアが残した剣の輝きが、グレナシアの絶望を映し出していた。
切り落とされた尻尾が燃え尽き、灰と化していく。もはや「神喰らいの神」に抗う術は残されていなかった。