冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜 作:えびふぉねら
セラは、父シードから名を呼ばれた瞬間、胸が高鳴るのを感じていた。
初めて交わる父の銀色の瞳を見つめ、彼女は少し緊張した面持ちで口を開いた。
「お父様……」
セラに向けられていたのは、冷酷な神の眼差しではなかった。
長い時を超えてようやく辿り着いた、父と娘としての出会い。
シードはセラの言葉に微かに微笑み、静かに語り始めた。
「君が母親似で良かった。まるで彼女がこの場にいるかのようだ」
その言葉には、懐かしさと哀愁が滲んでいた。セラは胸の奥が温かくなるのを感じる。
もっと話したい。
もっと父のことを知りたい。
ずっと触れることのなかった家族の記憶を、たくさん紡ぎたい。
しかしその時、グレナシアの苦しげな声が空気を引き裂くように響いた。
「ぐあああ……まだだ……終わらぬ……終わらせぬ!」
燃え尽きかけていた彼女が、最後の力を振り絞り、全身から漆黒の炎を放った。その炎は荒廃した大地を焦がし、荒れ狂う神喰らいの力がセラたちに再び襲いかかる。
セラは咄嗟に創造の力を展開しようとするが、シードが一歩前へ出る。
そして、彼女に告げた。
「……僕の役目はここまでだ」
セラが驚いたように父を見上げる。
シードは、まっすぐに彼女を見つめ返しながら微笑んだ。
「セラ、君にならできるだろう」
そう言うと、彼はセラの手を取った。
温もりのない、魂だけのその手は冷たかった。
しかし、そこには圧倒的な魔力の奔流が宿っていた。
それがセラへと流れ込むように伝わる。
「はい、お父様……!」
セラは初めて触れた父の手をぎゅっと握り返した。彼女の銀色の瞳に力強い決意が宿った。
次の瞬間、セラの身体から眩い銀色の光が放たれ、荒廃した大地を包みこんでいく。
「あぁぁ……! この力は……! あっだがい……!」
グレナシアの絶叫が響く。
彼女は自らに降り注ぐ光を見上げた。身体から漆黒の炎が掻き消え、その巨躯が崩れ始めた。
しかし、その表情に苦痛はない。恍惚とした笑みを浮かべながら、ゆっくりと光に溶けていく。
すべてを優しく抱擁するような、暖かな女神の創造の力が満ちていく。
「あっ……はは……は……」
グレナシアの声からは、咽ぶ痛みはもう消えていた。光は禍々しい神喰らいの魂を浄化する。
やがて、その場には――
一輪の真紅の薔薇だけが、静かに風に揺れていた。
「これが……セラ様の力……!」
アルズは目を細めながら、眩い光景を見守っていた。その声には驚きと感動が入り混じり、瞳は爛々と輝く。
――すべてが終わった。
沈黙が満ちる果ての大地で、シードはゆっくりとセラの頭に手を置き、そっと撫でる。
「よくやった……ありがとう」
その瞬間、セラの目から涙が零れた。
溢れ出る感情が、堰を切ったように流れ出す。
「お父様ぁっ!!」
セラは叫び、シードに抱きついた。
彼は娘を抱き止め、その指先で彼女の白く長い髪を梳くように撫で続けた。
ずっと甘えたかった、ずっと褒められたかった――その思いが、今、初めて叶った。
父の身体は冷たいままだった。
それでも、彼の存在は確かにそこにあった。
彼女は冷たい魂だけの父の身体に顔を埋め、ただ泣き続けた。
「セラ様……」
アルズは、その姿を見つめながら、目頭を熱くする。
頬を伝う涙を拭おうともせず、彼はただ、二人の再会を見守っていた。
するとその時、結界が消えて晴れ渡った空に光が差し、一人の女性が宙から舞い降りた。
「お母様……?」
セラが涙声で呟いたその先には、美しい長い白髪をたなびかせた女神の姿があった。
その紫色の瞳がセラとシードを捉えた瞬間、驚きと困惑に揺れる。
「胸騒ぎを感じて来てみれば……セラ……それに……シード……? 私はまた夢を見ているのか?」
ラナスオルはその場に降り立つと、震える声でつぶやいた。
そして、失ったはず愛する者の姿を、焼き付けるように見据えた。