冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜   作:えびふぉねら

176 / 181
24話 創造の光

 セラは、父シードから名を呼ばれた瞬間、胸が高鳴るのを感じていた。

 初めて交わる父の銀色の瞳を見つめ、彼女は少し緊張した面持ちで口を開いた。

 

「お父様……」

 

 セラに向けられていたのは、冷酷な神の眼差しではなかった。

 長い時を超えてようやく辿り着いた、父と娘としての出会い。

 シードはセラの言葉に微かに微笑み、静かに語り始めた。

 

「君が母親似で良かった。まるで彼女がこの場にいるかのようだ」

 

 その言葉には、懐かしさと哀愁が滲んでいた。セラは胸の奥が温かくなるのを感じる。

 

 もっと話したい。

 もっと父のことを知りたい。

 ずっと触れることのなかった家族の記憶を、たくさん紡ぎたい。

 

 しかしその時、グレナシアの苦しげな声が空気を引き裂くように響いた。

 

「ぐあああ……まだだ……終わらぬ……終わらせぬ!」

 

 燃え尽きかけていた彼女が、最後の力を振り絞り、全身から漆黒の炎を放った。その炎は荒廃した大地を焦がし、荒れ狂う神喰らいの力がセラたちに再び襲いかかる。

 

 セラは咄嗟に創造の力を展開しようとするが、シードが一歩前へ出る。

 そして、彼女に告げた。

 

「……僕の役目はここまでだ」

 

 セラが驚いたように父を見上げる。

 シードは、まっすぐに彼女を見つめ返しながら微笑んだ。

 

「セラ、君にならできるだろう」

 

 そう言うと、彼はセラの手を取った。

 

 温もりのない、魂だけのその手は冷たかった。

 しかし、そこには圧倒的な魔力の奔流が宿っていた。

 それがセラへと流れ込むように伝わる。

 

「はい、お父様……!」

 

 セラは初めて触れた父の手をぎゅっと握り返した。彼女の銀色の瞳に力強い決意が宿った。

 次の瞬間、セラの身体から眩い銀色の光が放たれ、荒廃した大地を包みこんでいく。

 

「あぁぁ……! この力は……! あっだがい……!」

 

 グレナシアの絶叫が響く。

 彼女は自らに降り注ぐ光を見上げた。身体から漆黒の炎が掻き消え、その巨躯が崩れ始めた。

 しかし、その表情に苦痛はない。恍惚とした笑みを浮かべながら、ゆっくりと光に溶けていく。

 

 すべてを優しく抱擁するような、暖かな女神の創造の力が満ちていく。

 

「あっ……はは……は……」

 

 グレナシアの声からは、咽ぶ痛みはもう消えていた。光は禍々しい神喰らいの魂を浄化する。

 

 やがて、その場には――

 一輪の真紅の薔薇だけが、静かに風に揺れていた。

 

「これが……セラ様の力……!」

 

 アルズは目を細めながら、眩い光景を見守っていた。その声には驚きと感動が入り混じり、瞳は爛々と輝く。

 

 ――すべてが終わった。

 沈黙が満ちる果ての大地で、シードはゆっくりとセラの頭に手を置き、そっと撫でる。

 

「よくやった……ありがとう」

 

 その瞬間、セラの目から涙が零れた。

 溢れ出る感情が、堰を切ったように流れ出す。

 

「お父様ぁっ!!」

 

 セラは叫び、シードに抱きついた。

 彼は娘を抱き止め、その指先で彼女の白く長い髪を梳くように撫で続けた。

 

 ずっと甘えたかった、ずっと褒められたかった――その思いが、今、初めて叶った。

 

 父の身体は冷たいままだった。

 それでも、彼の存在は確かにそこにあった。

 彼女は冷たい魂だけの父の身体に顔を埋め、ただ泣き続けた。

 

「セラ様……」

 

 アルズは、その姿を見つめながら、目頭を熱くする。

 頬を伝う涙を拭おうともせず、彼はただ、二人の再会を見守っていた。

 

 するとその時、結界が消えて晴れ渡った空に光が差し、一人の女性が宙から舞い降りた。

 

「お母様……?」

 

 セラが涙声で呟いたその先には、美しい長い白髪をたなびかせた女神の姿があった。

 その紫色の瞳がセラとシードを捉えた瞬間、驚きと困惑に揺れる。

 

「胸騒ぎを感じて来てみれば……セラ……それに……シード……? 私はまた夢を見ているのか?」

 

 ラナスオルはその場に降り立つと、震える声でつぶやいた。

 そして、失ったはず愛する者の姿を、焼き付けるように見据えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。