冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜 作:えびふぉねら
光が収まると、ナディアのエメラルドグリーンの瞳がゆっくりと開かれた。彼女はアルズの腕の中で目をぱちぱちと瞬かせ、戸惑った様子で辺りを見回す。
「……あれ、みなさん……それに、ラナスオル様? 私は……どうしていたんですか?」
その澄んだ声が響いた瞬間、アルズは言葉を詰まらせ、目を大きく見開いた。
彼は我を忘れたかの如く、力強く彼女を抱きしめていた。
「ナディア……! よかった……本当にっ……よかった!」
溢れる涙が彼の頬を伝い、言葉が途切れ途切れになる。
その腕の中でナディアが温もりを持っていることが、彼はただただ信じられなかった。
「……ナディア!!」
セラも駆け寄り、アルズと共に彼女を抱きしめ背中を震わせる。銀色の目には、安堵と喜びの涙が浮かんでいた。
「あ、あの……ちょっと……! そんなに一度に抱きつかれると、息が苦しいんですけど……」
ナディアは困惑し、二人のあまりの勢いに眉をひそめて微笑む。
少し離れた場所でその様子を見守っていたラナスオルは、静かに空を見上げた。
「ふふ……これで良かったんだろう、シード……」
そう呟いた彼女の目には、涙がわずかに滲んでいた。夜明けの光のような柔らかな笑みを湛え、彼女はそっと胸に手を当てる。
シードの魂の気配は、もはやどこにも感じられなかった。
しかし、彼の存在は形ではなくとも、確かにこの世界に刻まれている。
その想いは消えはしないのだと、ラナスオルには分かっていた。
歓喜の中、セラはふとグレナシアが変化した真紅の薔薇に目を向けた。彼女はゆっくりとその前に跪き、両手を広げる。
セラの身体から銀色の創造の光が流れ出した。
優しく、温かく、大地に染み渡るように、生命の輝きが薔薇を包み込んだ。
その周囲に、色とりどりの小さな花々が次々と咲き乱れていく。
荒れ果てていた大地が緑に覆われ、生命の息吹が戻る。精霊たちの囁きが風に乗り、静かに響き始めた。
「セラ……また一段と成長したな」
ラナスオルがセラに近づき、その小さな肩を抱きしめる。
「私は……まだまだ、です」
セラは母の腕の中で、震える声を絞り出すように答えた。銀色の瞳に涙が光り、空へと吸い込まれていくように消えていった。
* * *
その日、セラたちの旅は終わった。果ての大地に平和が戻り、神喰らいの神との決着がついたことで、ラナスにはまた新たな歴史が刻まれた。
ラナスオルはアルズとナディアを居城に招き、セラと共に新しい時を迎えた。
彼らはこれまでの旅の思い出を振り返り、失ったものへの祈りを捧げた。
セラたちの旅が神話となり、銀灰の守護者の物語が人々に語り継がれる日々が始まった。
ラナスの大地は緑と花々で満たされ、人々の笑顔が戻る。
そしてセラは、精霊たちと共に花を咲かせながら、世界を守り続ける――
それでも、彼女の胸の中には、いつまでも父シードの存在が輝いていた。
「ありがとう……お父様……私は、これからも守り続けます……あなたが遺したこの世界を」
その言葉が風に乗り、広大なラナスの空に溶けていく。
天から吹き降りる優しい風が、まるでシードの愛情そのもののように、彼女の頬をそっと撫でた。