冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜   作:えびふぉねら

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18話 モールでの攻防

 椋実区にそびえる巨大なショッピングモール。休日の人混みが行き交うその場所に、シードとラナスオルの二人の姿があった。

 

 しかし、彼らの間にはどこか重苦しい空気が漂っている。

 

 ラナスオルが、バイト先であるイレブンマートの店長への誕生日プレゼント選びを手伝ってほしいとシードに頼んで連れ出したが、どうにも話が進まない。

 

 ラナスオルは腕を組み、険しい顔で店内を見渡している。

 その隣で、黒髪銀眼のシードは無表情に立っていた。

 

「ふむ……男性へのプレゼントなどしたことがない。君の考えが果たして参考になるのかどうか……おや、あそこにあるのは最新のゲームではないか……?」

 

 彼女の表情が一瞬で緩み、早足でゲーム売り場に向かおうとする。

 その瞬間、シードが冷淡な声で釘を刺した。

 

「先に帰っても構いませんよ。あなたが必要なものを正しく選べるとは思っていません」

 

 ぴき!

 

 ラナスオルのこめかみに青筋が浮かぶ音が聞こえた気がした。

 彼の不躾な言葉を受けて、ラナスオルの眉間には深いしわが寄る。

 

「ほう、女神である私を見くびっているのかな? 死霊術師シード」

 

 だが、シードは挑発に乗ることもなく、平然とした表情を崩さない。

 

「誘惑に負けて無関係なものを衝動買いすると言っているのです。違いますか?」

 

「……っ!」

 

 図星だった。

 

 ラナスオルは瞬時にシードの胸ぐらを掴み、顔をぐっと近づけた。

 長い白い髪がふわりと舞い、周囲の人々の視線が一斉に集まる。

  

「女心を理解していないのか、君は?」

 

 胸ぐらを掴む右手から破壊の力が漏れ出す。

 

「神の思考など理解できるはずもありません」

 

 シードはまるで機械のように冷静な声で返す。

 彼女の鋭い睥睨をその身に受けた彼は軽くため息をついた。

 

(ラナスの女神が、なぜ人間の感情にここまで振り回されるのか……まったく理解できない)

 

 だが、彼は僅かに口元を緩める。

 ――この無意味なやり取りが、奇妙に心地いいと思ってしまう自分に気づきながら。

 

 その場の空気は張り詰め、周囲の人々はひそひそと囁き始める。

 すると、焦ったようにモールの警備員が駆け寄ってきて、慌てた様子で二人を制止する。

 

「お客さん! ここで夫婦喧嘩はやめてください!」

 

「夫婦などではないッ!」「夫婦などではありません」

 

 二人は不服そうに、しかし完璧に息を合わせて言い返した。

 

 警備員は彼らの見事なハーモニーに一瞬目を丸くしたが、すぐにため息をついてその場を去っていった。

 

「……とにかく、目的を忘れないでください」

 

 シードが胸ぐらを掴む手をそっと外し、スーツの乱れを直す。

 

 ラナスオルは険しい表情のまま、しぶしぶ右手を引っ込めた。

 その右手からは破壊の力が依然として漏れ出し、僅かに震えている。

 

「……仕方ない、君の助言を少しは聞いてやる。ただし、次に失礼なことを言えば許さないからな!」

 

「はぁ……わかりました」

 

 そう呆れた矢先――

 

 案の定、ラナスオルの視線はゲームコーナーや漫画、お菓子売り場に吸い寄せられ、そのたびに彼女の財布が容赦なく軽くなっていく。

 

「このクレーンゲームというものはだな、金を投入すればするほどアームが強くなって……」

 

「三千円使って、景品ゼロですね」

 

 シードの冷たい声が突き刺さるが、ラナスオルは諦める様子もなく、むしろ闘志を燃やして硬貨を取り出す。

 

「あと一回! あと一回で取れる気がするのだ!」

 

「その『あと一回』、もう十回以上聞きましたが?」

 

「うぐっ……!」

 

 さらに、書店では「びーえる」と書かれたコーナーに張り付き、ほんのり頬を赤くしながら本を抱え込んでいる。

  

「ほう! フェイオル本か。私はオルフェイ派だが、このカップリングもなかなか……」

 

「それは本当に店長へのプレゼントですか?」

 

「これは私へのプレゼントだ!」

 

 お菓子売り場では子供たちに混ざって目を輝かせながら、駄菓子を片っ端からカゴに投げ込む始末。

 

「見たまえシード! この『うめぇ棒』というお菓子。十個でたった百円なのだ! 君は何味が好きかね? 私のおすすめは……」

 

「そのうめぇ棒、もう三十個カゴに入っています……」

 

 最終的に、両手いっぱいの戦利品(と散財の結果)を抱えたラナスオルと、それを横目に深いため息をつくシードの姿があった。

 

「……いい加減にしてください、ラナスオル」

 

 買い物が終わるまで、彼らの言い争いは絶えなかったという。

 

 だが、モールを出たラナスオルは無邪気な顔でにっこり微笑む。

 

「今日は楽しかった。付き合ってくれて感謝するぞ、シード」

 

「はぁ。そう、ですか……」

 

 本来の目的――彼らがプレゼントとして選んだのは、上質なペンとノートのセットだった。ラナスオルはそのシンプルさに納得していなかったが、シードの冷静な提案には逆らえなかったのだ。

 

 後日、そのプレゼントを受け取った店長は大喜びし、「こんなセンスの良いものを選べるとは、さすがラナスオル君だ」と感動していた。

 ラナスオルはその言葉を聞き、少しだけ得意げに鼻を鳴らした。

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