冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜 作:えびふぉねら
椋実区にそびえる巨大なショッピングモール。休日の人混みが行き交うその場所に、シードとラナスオルの二人の姿があった。
しかし、彼らの間にはどこか重苦しい空気が漂っている。
ラナスオルが、バイト先であるイレブンマートの店長への誕生日プレゼント選びを手伝ってほしいとシードに頼んで連れ出したが、どうにも話が進まない。
ラナスオルは腕を組み、険しい顔で店内を見渡している。
その隣で、黒髪銀眼のシードは無表情に立っていた。
「ふむ……男性へのプレゼントなどしたことがない。君の考えが果たして参考になるのかどうか……おや、あそこにあるのは最新のゲームではないか……?」
彼女の表情が一瞬で緩み、早足でゲーム売り場に向かおうとする。
その瞬間、シードが冷淡な声で釘を刺した。
「先に帰っても構いませんよ。あなたが必要なものを正しく選べるとは思っていません」
ぴき!
ラナスオルのこめかみに青筋が浮かぶ音が聞こえた気がした。
彼の不躾な言葉を受けて、ラナスオルの眉間には深いしわが寄る。
「ほう、女神である私を見くびっているのかな? 死霊術師シード」
だが、シードは挑発に乗ることもなく、平然とした表情を崩さない。
「誘惑に負けて無関係なものを衝動買いすると言っているのです。違いますか?」
「……っ!」
図星だった。
ラナスオルは瞬時にシードの胸ぐらを掴み、顔をぐっと近づけた。
長い白い髪がふわりと舞い、周囲の人々の視線が一斉に集まる。
「女心を理解していないのか、君は?」
胸ぐらを掴む右手から破壊の力が漏れ出す。
「神の思考など理解できるはずもありません」
シードはまるで機械のように冷静な声で返す。
彼女の鋭い睥睨をその身に受けた彼は軽くため息をついた。
(ラナスの女神が、なぜ人間の感情にここまで振り回されるのか……まったく理解できない)
だが、彼は僅かに口元を緩める。
――この無意味なやり取りが、奇妙に心地いいと思ってしまう自分に気づきながら。
その場の空気は張り詰め、周囲の人々はひそひそと囁き始める。
すると、焦ったようにモールの警備員が駆け寄ってきて、慌てた様子で二人を制止する。
「お客さん! ここで夫婦喧嘩はやめてください!」
「夫婦などではないッ!」「夫婦などではありません」
二人は不服そうに、しかし完璧に息を合わせて言い返した。
警備員は彼らの見事なハーモニーに一瞬目を丸くしたが、すぐにため息をついてその場を去っていった。
「……とにかく、目的を忘れないでください」
シードが胸ぐらを掴む手をそっと外し、スーツの乱れを直す。
ラナスオルは険しい表情のまま、しぶしぶ右手を引っ込めた。
その右手からは破壊の力が依然として漏れ出し、僅かに震えている。
「……仕方ない、君の助言を少しは聞いてやる。ただし、次に失礼なことを言えば許さないからな!」
「はぁ……わかりました」
そう呆れた矢先――
案の定、ラナスオルの視線はゲームコーナーや漫画、お菓子売り場に吸い寄せられ、そのたびに彼女の財布が容赦なく軽くなっていく。
「このクレーンゲームというものはだな、金を投入すればするほどアームが強くなって……」
「三千円使って、景品ゼロですね」
シードの冷たい声が突き刺さるが、ラナスオルは諦める様子もなく、むしろ闘志を燃やして硬貨を取り出す。
「あと一回! あと一回で取れる気がするのだ!」
「その『あと一回』、もう十回以上聞きましたが?」
「うぐっ……!」
さらに、書店では「びーえる」と書かれたコーナーに張り付き、ほんのり頬を赤くしながら本を抱え込んでいる。
「ほう! フェイオル本か。私はオルフェイ派だが、このカップリングもなかなか……」
「それは本当に店長へのプレゼントですか?」
「これは私へのプレゼントだ!」
お菓子売り場では子供たちに混ざって目を輝かせながら、駄菓子を片っ端からカゴに投げ込む始末。
「見たまえシード! この『うめぇ棒』というお菓子。十個でたった百円なのだ! 君は何味が好きかね? 私のおすすめは……」
「そのうめぇ棒、もう三十個カゴに入っています……」
最終的に、両手いっぱいの戦利品(と散財の結果)を抱えたラナスオルと、それを横目に深いため息をつくシードの姿があった。
「……いい加減にしてください、ラナスオル」
買い物が終わるまで、彼らの言い争いは絶えなかったという。
だが、モールを出たラナスオルは無邪気な顔でにっこり微笑む。
「今日は楽しかった。付き合ってくれて感謝するぞ、シード」
「はぁ。そう、ですか……」
本来の目的――彼らがプレゼントとして選んだのは、上質なペンとノートのセットだった。ラナスオルはそのシンプルさに納得していなかったが、シードの冷静な提案には逆らえなかったのだ。
後日、そのプレゼントを受け取った店長は大喜びし、「こんなセンスの良いものを選べるとは、さすがラナスオル君だ」と感動していた。
ラナスオルはその言葉を聞き、少しだけ得意げに鼻を鳴らした。