冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜 作:えびふぉねら
四人の間に漂う空気は平穏に満ちながらも、どこか名残惜しさを醸し出している。
居城の広間に並び立つ三人を見つめながら、ラナスオルは静かに口を開いた。
「本当に……行くのか」
彼女の声音には、微かに寂しさが滲んでいる。
「君たちはもはや家族のようなものだ。ずっとここにいてくれていいのだぞ?」
それは、彼女なりの引き止めだったのかもしれない。
しかし、セラは真っ直ぐに母を見つめ、確かな決意を瞳に宿していた。
旅を終えたばかりのセラ、アルズ、ナディア――彼らは再び新たな旅路へと歩み出そうとしていた。
「はい、お母様。私たち三人で話し合って決めたのです」
セラがそう答えると、ナディアが一歩前に出て、深々とこうべを垂れた。
「私は二度もシード様に救われました。その恩を返すため、生涯をかけてセラ様のお役に立つと誓います」
妹に続くようにアルズが拳を握りしめ、力強い声で宣言する。
「それに、あの巻物みたいなお宝が神界にまだ眠ってるかもしれないんです。同じようなものが見つかれば、今度こそシード様を取り戻せるかもしれない……いや、きっと取り戻してみせます!」
夫の名を耳にしたラナスオルは、目を伏せて小さく息をつく。まるで心の中で彼の名を反芻するように。
そして穏やかに微笑み、彼らの決意を受け止めるように頷いた。
「まあ、神界はグレナシアが暴れた後で、当分はもぬけの殻のようだし、特に危険はなさそうだ。……だが、私はその間にラナスを守らなければならなくなる。セラに任せておけば少しは楽できるかと思ったのだが……」
ラナスオルのおどけた調子に、セラは思わず頬を膨らませる。
「もう……お母様!」
その反応にラナスオルはくすりと笑った。
「まあ、いいだろう。かわいい子には旅をさせよ、というからな。この世界のことは私に任せて行ってきたまえ」
彼女は一人一人に優しく目線を合わせ、三人の旅を受け入れるように告げた。
しかし、その紫色の瞳がどこか懐かしむような光を湛え、言葉を付け加える。
「ただ、『奇跡』の巻物が見つかったとしても、あの男を引き戻すのはそう簡単ではないぞ。屁理屈を並べて、君たちの要求を跳ね除ける姿が目に浮かぶ」
その冗談めかした言葉に、セラは思わず微笑んだ。
「ふふ、そうですね。その時は、私もお母様のように叱りつけます」
「わがままな女神」に似た、少しだけいたずらな表情。
それを微笑ましげに見つめたラナスオルは嬉しそうに頷くと、三人を見送りながら優しく手を振った。
「行ってきます、お母様!」
「行ってきます、ラナスオル様!」
三人の若い背中が次第に小さくなっていき、やがて居城に静寂が戻った。
* * *
ラナスオルは窓辺に立ち、遠ざかる彼女らの姿を見送った後、広がるラナスの青空を見上げて呟く。
「シード……娘は立派に成長したろう? 君が心配する必要なんて何もないさ」
風が彼女の白い髪を撫でるように揺らした。
それはまるで、遠くにいる誰かの手が、そっと触れてきたような感触だった。
彼女は瞳を閉じる。
「君とは、夢の中で会えればそれだけで充分だ。けれど……」
ラナスオルはゆっくりと創造の左手フェルジアを掲げ、穏やかに魔力を込めた。
光が手のひらから放たれ、風に乗って無数の小さな白い花となり、空に舞い上がる。
「家族……そんな夢をもう一度見るのも悪くないだろう?」
ラナスオルは微笑み、舞い上がる花々を見送った。それはどこまでも続く空に向けて祈りを捧げているかのようだった。
花びらは風に乗り、青く果てしない空の彼方へと消えていった。