冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜 作:えびふぉねら
夏の陽射しが降り注ぐ椋実区の商店街では、年に一度の「夢来見祭り」が賑やかに開催されていた。
色とりどりの提灯が並ぶアーケード街。屋台から立ち上る香ばしい煙。
遠くからは神輿を担ぐ威勢の良い声と、独特なリズムを刻む太鼓の音が耳を打つように響いてくる。
ラナスオルとシードは、情報収集という名目のもとで椋実公園で待ち合わせをしていた。
しかし、その目的を忘れてしまいそうなほど、ラナスオルの心には特別な高揚感が漂っていた。
公園中央の木の下で待っていたラナスオルは、シードの姿を見つけると穏やかな表情で軽く手を挙げた。
「時間通りだな」
少しそっけない口調だったが、その表情には今日の予定を楽しみにしていた様子が隠しきれていなかった。
彼女は白いワンピースに麦わら帽子を合わせ、長い白髪をポニーテールにまとめている。頬にはほんのりと薄紅が差していて、心なしかメイクにも気合が入っているようだ。
夏の光を浴びたその姿は、まさに神話から抜け出した女神そのものだったが、これは幻術ではなく、彼女自身が選んだ装いだ。
一方のシードは黒のカジュアルジャケットにスリムパンツを合わせ、髪も普段の銀灰色に戻している。
いつも冷静で威厳を漂わせる彼が見せる、ラフで整った雰囲気はどこか新鮮だった。
彼の視線に気づき、ラナスオルは僅かに頬を染めながら視線をそらした。
「じろじろ見ないでもらおうか……」
もじもじと恥じらいながら、麦わら帽子のつばを指で摘み顔を隠すような仕草を見せる。
「その装い……神としてのあなたではなく、一人の女性としての柔らかさが感じられる。そう思っただけです」
シードの淡々とした感想に、ラナスオルは一瞬だけ言葉を詰まらせ、帽子を深く被り直す。
「そ、そうか。君の方も……まぁ、似合っているじゃないか」
頬を赤らめながら、小声でそう言うのがやっとだった。
* * *
二人はアーケードに立ち並ぶ屋台へと繰り出した。
今日は特別に人通りが多く、祭りの明かりや香りが賑やかさをさらに引き立てている。
「では、早速出店を回ろうか!」
ラナスオルが声を弾ませると、シードは軽く肩をすくめた。
「ええ、付き合いましょう」
彼女がバイト先でもらってきた屋台無料クーポンを片手に、二人は焼きそばやたこ焼き、かき氷などを堪能する。
食べ物の他には、スーパーボールすくい、金魚すくい、くじびきなど――出店をひとつひとつ回り、まるで人間のように楽しむラナスオルの表情はいっそう輝いて見えた。
「ここだけ見ていると、ラナスの伝統行事と大差はないようですね」
わたあめを頬張るラナスオルを横目に、シードが懐かしむように呟いた。
ラナスの世界でも祭りのような行事はあったが、彼がそれを誰かと楽しむことなど一度もなかった。
彼女は屋台に夢中で、彼の声も人混みに掻き消されていく。
そんな中、ふとラナスオルが少し離れた場所に目を向けた。
「おや、あの店は何かね?」
彼女が指差した先には、小さな棚におもちゃやカードゲーム、ゲーム機が並べられた射的屋があった。
ちょうど一人の子供が鉄砲を手に弾を打ち出していたが、見事に弾かれて肩を落として帰っていく。
「あれは射的屋です。鉄砲で商品を狙い、弾を当てて倒せば景品を獲得できる遊びですが……」
「なんだ、簡単じゃないか。あれで遊んでみよう」
シードの言葉が終わらないうちに、ラナスオルはいたずらっぽい笑みを浮かべて射的屋へ向かっていった。