冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜   作:えびふぉねら

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20話 祭り【後編】

 椋実区の夏祭り。賑やかな通りの一角に並ぶ屋台の中で、一軒の射的屋が異様な熱気に包まれていた。

 

「綺麗なお姉ちゃん、一回千円だよ……まいどありぃ」

 

 射的屋の店員の男はいかにも怪しげな風貌で、胡散臭さ満点の笑みを浮かべながらラナスオルに銃を手渡している。

 男には、目の前の美しい女性がまさか女神だとは知る由もないだろう。

 

 ラナスオルは興味津々にその銃を手に取り、指先で撫でた後に試すように軽く振ってみせた。

 

「これが銃か……ふむ、意外と軽いな」

 

 ラナスの世界にはなかったもののようだが、この射的銃はただの遊び道具だ。

 それでも、彼女にとっては未知の道具を手にすること自体がすでに遊びなのだ。

 

 ラナスオルの無邪気な反応を、シードは少し離れた場所から冷ややかな視線で観察していた。その銀色の瞳は射的屋の店員にも向けられる。

 

「よし、狙いはあのニソテンドースイッチツーだ!」

 

 ラナスオルは声高々と宣言し、銃口を向けて構えを取る。

 最新のゲーム機。祭りの景品とは思えないほど豪華で、周囲の子供たちが羨望の眼差しを向けている。

 

 ラナスオルは狙いを定め、ゆっくりと引き金を引いた。

 

 ぱしんっ!

 

 弾は見事に景品を直撃した――はずだった。

 

 しかし、ゲーム機はびくともせず、弾は不自然な程勢いよく跳ね返る。

 観戦する子供達も「やっぱりダメかぁ」と残念そうにざわつく。

 

「へっへ、惜しかったね〜」

 

 店員の男は手を擦り合わせながら不気味な笑みを浮かべている。

 この射的屋が「そういう店」だということは、見ていれば誰でもわかるだろう。

 

 ラナスオルはむすっとした表情で千円札を再び差し出し、もう一度ゲーム機に狙いを定める。しかし、結果は同じだった。

 

「ラナスオル、この店は……」

 

 シードが口を開きかけたが、ラナスオルはそれを遮るように言った。

 

「心配はいらない。次で倒す。三千円でゲーム機ゲットなら、爆アドだ」

 

「爆アド……?」

 

 女神の口から出るとは思えないスラングに、シードはやや面食らったかのような表情を見せた。

 しかし、彼はすぐにため息をつき、小声で呟く。

 

「あなたの性格では、倒れるまで際限なく挑み続けるでしょう……」

 

 そんな指摘もよそに、ラナスオルは再び銃を構えていた。

 

 がたん!!

 

「はぁ!? おぉい、嘘だろぉ……!!」

 

 景品棚から鳴り響く大きな音。驚愕の声を上げる店員。

 わぁっと湧き上がる子供達。

 

 店員の目の前で「ニソテンドースイッチツー」が見事に棚から転がり落ちていた。

 

 ラナスオルは銃口にふっと息を吹きかけ、ドヤ顔で微笑む。

 

「ふふふ……クリティカルヒットだ」

 

 シードはその様子を眺めながら、ラナスオルの右手が発砲の際に微かに光ったのを見逃さなかった。

 

 彼女の破壊の力「セヴァスト」が、どうやら少しばかり手伝っていたようだ。

 

「……なるほど。そういうことですか」

 

 少しだけ肩を落とし、再びため息をつく彼の横顔は呆れ半分、しかしどこか安心したようにも見えた。

 

 ラナスオルはさらに続けて挑戦した。

 次のターゲットは、品薄でプレミア価格がついている「マルタモンカードゲーム」のブースターボックス。

 

 ぱしん!

 

 またもや一発で景品が棚から崩れ落ちた。

 

「んなバカな、ありえねえ……」

 

 店員は呆然と口を開けたまま動けない。それでも、ラナスオルの快進撃は止まらなかった。

 

 それからのラナスオルは、完全無双モードに突入した。

 ぬいぐるみ、おもちゃ、アクセサリー、フィギュア――次々と景品を射抜き、一発で片付けていく。

 

 周囲の子どもたちは完全に彼女のファンと化し、歓声を上げながら応援していた。

 

 棚はほぼ空っぽになり、残りの景品が一つとなったその時――店員はついにキレた。

 

「テメェ、いい加減にしやがれ!!」

 

 顔を真っ赤にして拳を振り上げ、そのままラナスオルに殴りかかろうとする。

 

 しかし――その腕は空中でぴたりと止められた。

 

「……何か問題でも?」

 

 シードの手が、店員の男の拳を無表情のまま掴んでいた。

 

「ひ、ひぃ……」

 

 殺気の込められた冷徹な眼差しに射抜かれ、男は歯の根が合わなくなるほど震え出す。

  

「こいつの目……ぜってぇ何人かヤッてやがる……」

 

 男がぼそっと呟いた言葉を聞き取ることはできなかったが、その後の行動は明確だった。

 

「も、もう景品は全部やるから……勘弁してくれェ!」

 

 店員が袋に景品を詰め込み、震える手で二人に差し出すと、シードは何も言わずそれを受け取り、ラナスオルと共にその場を立ち去った。

 

 

   * * *

 

 

「ふふふ、大漁大漁」

 

 夜風が二人の髪を揺らし、花火が空に咲いている。

 

 ラナスオルは心底楽しそうに笑いながら、袋いっぱいの景品を両手にぶら下げ、シードの少し前を歩いている。

 

 彼女は祭り会場すべての射的屋を回り、景品を全滅させていた。

 その横暴っぷりはまさに「現代の破壊の女神」と呼んでも差し支えないだろう。

 

「あなたの欲には呆れますね」

 

 シードはため息をつきながら、微かに表情を緩める。

 

「……ですが、これも女神の天罰がくだったと思えば、愉快な出来事だったと言うべきでしょう」

 

「天罰というのは言い得て妙だね。あの射的屋は少々不正が過ぎたようだから、少しばかり『修正』を施させてもらっただけさ」

 

 ラナスオルは自信満々に微笑んだ。

 

「あなたなら景品ごと破壊してしまうと思いましたが。随分と器用になったものですね」

 

「ふふ、なんとでも言いたまえ。今日の私は気分がいい」

 

 花火の音が空に響く夏の夜。祭りの喧騒を背にしながら帰路についた。

 袋に詰まった景品と共に、どこか満たされた表情を浮かべて――。

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