冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜   作:えびふぉねら

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21話 弁護士と裏社会

 椋実区の夜の繁華街。黒髪にスーツ姿のシードが、一人静かに歩いている。

 昼間の喧騒が収まり、街に漂う空気はどこか湿り気を帯びていた。

 

 遅い時間になるにつれ、この街は表の顔とは異なる影の世界が支配し始める。

 彼の背後には、不穏な視線が絡み付くように張り付いていた。

 

 足音が徐々に増え、彼の後をつけていた男たちが間合いを詰める。

 

 シードは歩調を崩さなかったが、目を伏せ声にならないため息をついた。

 

(またか……)

 

 人間はどこまでも同じだ。

 無知で傲慢。すぐに力にものを言わせようとする。

 ラナスでも、日本でもその本質は変わらない。

 

 そして彼は、そんな者たちを幾度となく踏み潰してきた。

 

 やがて一人の男がシードの前に立ち塞がり、彼を睨みつけながら怒鳴り声を上げた。

 

「てめえ、スカウトマンだろ! このシマで勝手に営業してんじゃねえ!」

 

 路地裏から現れた男たちは、いかにもこの街の影を象徴するような雰囲気を纏っていた。

 酒と煙草の臭いを漂わせ、手入れの行き届いていないスーツを羽織っている。

 

 彼らはこのエリアを仕切る暴力団の末端に過ぎないが、それでも縄張りを守ることに必死だった。

 

 突然の言いがかりに、シードは冷ややかな視線を返した。

 

「……スカウトマン? 言葉の意味は理解していますが、僕はあなた方のような無関係な人間に絡まれる覚えはありません」

 

 その冷淡な態度に業を煮やしたのか、別の男が拳を振り上げ、荒々しく詰め寄る。

 

「てめえ、ナメてんのか! スカウトなんざ路地裏にぶちこんでやる!」

 

 じっとりとした殺気が周囲に立ち込めた。

 シードは淡々と呟く。

 

「話の通じない相手というのは、どこにでもいるものですね」

 

 異様な雰囲気に気づく人々が足を止め始めるのを確認し、彼はさりげなく指先を動かした。

 冷たい風がその場を包み込み、人々の視界から遮断するように結界が張られた。

 

「さて、これで邪魔が入ることはない。あなた方に礼儀というものを少し教えるとしましょう」

 

 シードが軽く指を鳴らすと、無数の亡霊の残滓が空気中に溶け込み、異質な霊気が辺りを覆い尽くした。

 足元が凍え、男たちは唇を紫色に染めながら身をすくませる。

 

「な……なんだ、これ……身体が……!」

 

「寒い……動けねえ……」

 

 彼の魔法によって男たちが一人、また一人と地面に崩れ落ちていく。

 しかし、その中でただ一人、肩で風を切るように歩み寄る男がいた。

 

「おいおい……あんた、ただのスカウトじゃねえな」

 

 大柄なその男は、シードの銀色の瞳をじっと見据えながら不敵な笑みを浮かべる。

 

「その感情の死んだ目……どっかの組のヤツかと思ったが、まさかフリーの人間とはな」

 

 彼の胸元に弁護士記章が光っているのに気づいた男は、さらに口角を上げた。

 

「弁護士……? ほう、昼間は正義の味方ってわけか。だがその目……あんたはどう見ても『こっち側』の人間じゃねえか。なあ、俺たちの組の顧問弁護士にならねえか? いや、あんたほどの手練れなら、若頭にだってすぐなれるぜ」

 

 彼の言葉に、シードはほんの一瞬だけ興味を示した。

 

「裏社会……ですか」

 

 脳裏を掠めるのは、恐怖でラナスを支配した死霊術師としての自分。

 そしてここでもまた、力と恐怖だけで成り立つ縮図が存在している。

 

(……つくづく、人間とは愚かだ)

 

 この男たちと共に行動する未来など、彼には到底受け入れられなかった。

 

「残念ですが、僕の力を反社会的勢力のために割くつもりはありません」

 

 そう言い捨てて立ち去ろうとするシードの肩を、男ががっしりと掴んだ。

 

 指先には力が込められ、骨が軋むほどの強い握力だった。

 怒りと殺気が剥き出しになっているのがわかる。

 

「おい、待てよ……逃げられると思うなよ」

 

 男が低い声でそう言った瞬間、シードは動きを止め振り返った。

 そして鋭い銀色の瞳を男に向ける。

 

 その冷酷無比な視線に一瞬、男はたじろぎ、指先が僅かに震えた。

 しかし――それでも男は後退らなかった。

 

「……話が通じないのなら、少しだけ遊んであげましょうか」

 

 シードが冷淡にそう告げた瞬間だった。

 

「クソがッ!!」

 

 男は懐に素早く手を突っ込み、黒光りする拳銃を引き抜く。

 銃口が微かに揺れながらも、シードの胸元を正確に捉えていた。

 

 カチリと金属音が耳に届く刹那、男が叫ぶ。

 

「死ねぇッーー!!!」

 

 引き金にかけられた指が、今まさに動こうとした瞬間――。

 

 パキンッ!!

 

 銃の表面から瞬く間に霜が広がり、男の指に絡みついた。

 凍結する金属が軋む音が響くと、男は悲鳴を上げる間もなく手ごと拳銃を凍りつかせた。

 

「ひィィっ……!?」

 

 男の手首から腕へと、喰らいつくように氷が侵食していく。

 その場に崩れ落ち、痺れる腕の痛みに顔を歪ませる。

 銃を手放そうともがくが、指は氷に縛られたまま硬直し、どうすることもできない。

 

 シードは動じることなく、男の震える顔を無表情で見下ろした。

 

「僕の前で銃とは。無粋ですね」

 

 シードが指先を弾くように鳴らすと、男の握っていた拳銃は粉々に砕け散った。

 氷の破片が音もなく散る中、シードは興味を失ったように背を向け、結界を解除し歩を進める。

 

「これでも生かしておいてあげたのですから……感謝してください」

 

 銀色の瞳に射抜かれた男たちは凍えた身体を引きずり、崩れ落ちていた。

 シードの声が届いたかも定かではない。

 恐怖に染まった瞳だけが、去っていく彼の背中を呆然と見つめていた。

 

 冷たい夜風が黒髪を揺らす中、一人の弁護士が繁華街の暗闇の先へと消えていった。

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