冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜   作:えびふぉねら

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34話 光の中の闇

 二人は公園の奥へと歩いていく。半年前、彼らがこの世界で初めて出会った場所へ向かっていた。

 

 次第に人気はなくなり、街灯の光も遠ざかっていく。

 視界には生い茂る木々が広がり始め、風に吹かれる葉擦れの音が心寂しい余韻を残していった。

 

「懐かしいな」

 

 ラナスオルは無意識に足を止め、辺りを見回した。

 子供たちの笑い声も、行き交う人々の気配もなく、ただ二人だけの静寂がそこにあった。

 

「あの時君が戦いを止めてくれなかったら、きっと騒ぎになっていただろう」

 

 ラナスオルが自嘲気味に呟くと、シードは僅かに思いを馳せるような表情を浮かべ「ええ、そうですね」と短く返した。

 

 二人はさらに進み、目的の場所で足を止める。

 

「確か、ここから海が見えるとか言っていたな」

 

 ラナスオルは、初対面のあの日に現れた少女の言葉を思い出しながら、茂みの中へ足を踏み入れた。

 

 膝下ほどの高さの草を分けながら、緩やかな坂を進んでいく。

 小高い丘を登ると、眼下に広がる街の景色が次第にその全貌を現した。

 

 椋実区の街並みが徐々に灯りを点し始め、その向こうに沈みゆく陽を映す穏やかな海が広がっていた。

 

 ラナスオルは目を閉じ、冷たい空気を吸いこんだ。

 

「見たまえ、シード。なかなかの絶景だぞ」

 

 ラナスオルは微笑みながら彼の手を引く。

 その手のはいつもより僅かに冷たかったが、彼女にとっては不思議と心地よい温もりを感じるようだった。

 

 シードは一瞬だけ戸惑ったように足を止めたが、抵抗することなく彼女に導かれた。

 そして丘の頂上、視界いっぱいに広がる景色に視線を向けた。

 

「確かに、良い眺めですね。この街の灯りと海の光景が重なり合い、穏やかで美しい……」

 

 彼の銀髪は、オレンジ色の夕陽に照らされ、淡く、儚げに輝いて見えた。

 その横顔に垣間見えるのは、冷たい瞳の奥に隠された孤独と虚無、消えることのない、彼の抱える闇。

 

 ラナスオルは彼をちらりと見やり、ふと呟く。

 

「この世界の人々は、自分たちの手で築き上げた光を、誰にも侵されることなく保っている……この平和は、きっと永遠に続くのだろう」

 

 彼女の声には、羨望とも憧れともつかない複雑な感情が滲んでいた。

 

 己の手でシードを斃し、ラナスの世界を救わねばならなかった――ラナスオルに刻みつけられた唯一の記憶が蘇る。

 

 それは己の使命に従い、冷徹に貫いた選択だった。

 

 あの世界では決して手に入らなかった平和が、ここには確かに存在していた。

 それはあまりにも眩しく、手を伸ばせば届きそうな――儚い幻の光。

 

 シードは何も言わず、その言葉を受け入れるように静かに景色を見つめていた。

 

 二人は丘の上に腰を下ろし、言葉を交わすことなく、陽が落ち切るまでその光景を眺めていた。

 

 

   * * *

 

 

「そろそろ行こうか」

 

 ラナスオルが立ち上がろうと地面に手をついたその時、不意にシードの身体が傾ぎ、彼女の肩にもたれかかった。

 

 彼女はその重みに一瞬心臓が跳ね上がり、息が詰まった。

 

「……シード?」

 

 驚いた彼女は咄嗟に彼を抱き起こす。

 ぐったりとした彼の意識は混濁し、苦しげな浅い呼吸を繰り返していた。

 

「まさか……ラナスの病が……! くっ、こんな時に……!?」

 

 紫色の瞳が揺れ、血の気が引いていく。

 彼女は焦燥に駆られながらも、彼をしっかりと支える。

 

「……大丈夫か!?」

 

 呼びかけに応じない。微かに眉を寄せるだけで、意識が戻る気配はない。

 

(おかしいとは思っていた……今日一日、少し様子が違っていた……)

 

 小さな違和感は確かにあった。

 それを問いたださなかった自分の鈍さが、今になって彼をこんな状態にしている。

 

 彼の浅い呼吸と力の抜けた身体を感じながら、彼女の脳裏に「死」の影がよぎった。

 

 女神として、ラナスの世界を守るために彼を殺した、あの瞬間。

 あの時と同じように、また自分の手の中で彼が命を落とすのか?

 

 だが、ラナスオルはその影を全力で振り払った。

 

「君を……こんな場所で死なせるものか……!」

 

 彼女はシードを抱き寄せた。

 この腕から二度と離すまい――そう、強く誓いながら。

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