冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜   作:えびふぉねら

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40話 名を継ぐ少女

 シードの放った創造の力によって、日本の世界は一つの次元として再構築された。

 

 「無」から生まれ「幻」としてしか存在しなかったその世界は、今や確かに現実のものとなっている。

 

 彼の銀色の瞳が見渡す限り、陽が上り、時が流れ、偽りならざる生命が息づく。

 ここはもはや虚無の狭間に漂う夢ではない。

 

 それは同時に、彼自身が「無」を超越し、一柱の神として確立されたことを意味していた。

 

 神は世界を創り、守り、君臨する存在。

 しかし、彼にとってそれはただの「結果」に過ぎなかった。

 

 

   * * *

 

 

 それから、数年後――。

 

 公園に佇むシードの前に一人の少女が現れた。

 

 石膏像と見まごう程の白い肌、陽光に透ける美しく長い白髪、そして神々しく輝く紫色の瞳を持つ少女。

 彼女の姿には、かつて彼が知る、そして決して忘れることのないもの――「ラナスオル」の面影がはっきりと浮かんでいた。

 

 だが、目の前の少女は確かに「別の存在」だった。

 

「お兄ちゃんがシードさん?」

 

 澄んだ声が一陣の風のように響いた。

 少女の純粋な問いかけに、彼は銀色の瞳を細める。

 

「ずっと探してた」

 

 そう言うと、少女は一歩、また一歩と彼に近づいた。

 

「私、パパもママもいないの。でも、頭の中で、銀色の髪と目のお兄ちゃんのことを考えてた。やっと会えた。嬉しい」

 

 次の瞬間、少女は彼の足元にしがみついた。小さな両腕がためらいもなく彼を包み込む。

 

 彼は一瞬身じろぎするものの、彼女を突き放そうとは思わなかった。

 だが、応えることもせず、銀色の瞳で静かに問いかける。

 

「……どうやら君は、僕の名前を知っているようですね。そして、どうしてか僕の姿を探していたらしい」

 

 冷静な口調で語りかけながらも、心の奥にかすかなざわめきが生じているのを感じた。しかし、それを表に出すことはしない。

 

(あまりにも「彼女」に似すぎている……)

 

 彼女は、シードが無意識のうちに生み出した被造物なのだろうか。

 

 彼は少女の姿を静かに見下ろし、その紫の瞳に宿る懐かしさに一瞬だけ表情を曇らせた。

 だが、すぐに冷静さを取り戻し、淡々とした声で話し始める。

 

「僕は君に会った覚えがない。父親も母親もいないと言ったが……君が何者なのか、どうして僕を知っているのか――そこから説明してもらえますか?」

 

 少女は彼の問いかけに応じるように、紫の瞳をまっすぐに向けた。

 すると途端に瞳は泳ぎ出し、途切れ途切れに答えようとする。

 

「私……私の名前は、ら、な……ラナス……オル……?」

 

 その名を耳にした瞬間、シードの息が一瞬だけ止まる。

 

 ――彼の胸の奥に眠っていた記憶の扉が、少女の声によって開かれたような気がした。

 

「……ラナスオル、か」

 

 そう溢したシードの声は冷たく、どこか重々しかった。

 

「君がその名前を口にする理由はわからないが……それはかつて僕が決して忘れられない存在のものだ。そして君がどうして僕の名と姿を覚えているのか――それがただの偶然とは思えない」

 

 ラナスオル――それは、彼にとってあまりにも重い名だった。

 しかし、目の前の少女はそんなことなど知るはずもなく、無垢な瞳で彼を見上げている。

 

 やがて、あどけない声音で彼女は答えた。

 

「私は、気がついたらここにいたの。クリスマスの夜、ひとりぼっちでここにいたの。他になんにも思い出せない。でも、シードさん、あなたの姿と名前だけ、頭の中にあったの」

 

 彼女の小さな指が、ぎゅっとシードの黒衣の裾を握る。

 少女はふわりと香る香水の匂いに顔を埋めながら、彼の足元に抱きついたまま呟いた。

 

「この香り……なんだか懐かしい。なんでだろう? ねえ、もしかしてあなたは私のパパなの?」

 

 シードは黙ったまま少女を見下ろす。

 その瞳の奥で揺らめく何かが、少女の姿と重なろうとしていた。

 

 やがて彼はゆっくりと膝を折り、少女の目線に合わせた。

 

「……僕が君の父親かどうか、それは現時点では答えられない」

 

 淡々とした声音の中に、微かな探究心がざわめく。

 

「だが、もし君が『ラナスオル』という名を受け継ぐ存在であるのなら、君の記憶と存在の真実には、僕が向き合う必要があるのだろう」

 

 彼は一瞬視線を逸らし、天を仰ぐように目を閉じた。

 記憶の奥に、幻のラナスオルとの短い時間が蘇る。

 

 ――彼を救い、人として愛し、消え去った女神の幻。

 その面影を持つ少女が、今ここにいる。

 

「……少女よ」

 

 シードは彼女の頭にそっと手を置き、低い声で続ける。

 

「君の存在は、君自身も知らないほどの意味を持っているのかもしれない。そして僕が君に何を返せるのかは、これから問わなければならないだろう」

 

 少女は彼の言葉を聞きながら、不安げにまばたきした。

 

「……だがまずは、その曖昧な記憶を取り戻すことから始めよう。君がどうしてここに現れ、僕を探し当てたのか――それがわかるまでは、僕が君を見捨てることはない」

 

 そう言いながら、彼は魔術で少女の記憶を探ろうとする。

 

 しかし――

 

 彼女の過去は、降り積もった雪のように空白で覆い尽くされていた。

 

 彼の銀色の瞳は、目の前の小さな存在を捉えながら微かに揺れていた。

 それは、かつて自身が見つけられなかった「答え」を探すための、新たな旅路の始まりだった。

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